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1章 黒魔術の勉強不足ですよ?

国難を……

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 あの騒がしい日から一週間。
勉強部門首席のであるため、休日を一日多くいただき、ニースファン王国の中心部の都市、ヴェストリアにある綺麗な農園に来ているのだけれど……。
作物は枯れ果て――土がカラカラ。
噂では聞いていたけれど、酷い有様ね。
 ニースファン王国は近年、雨が少なくなっている。
水道水を使っても、綺麗にする段階までにかなりの魔力が注入していて、使うと作物が爆発したり、作物が空まで伸びたり……。
だから雨水をためて使う。
飲み水はもちろん魔法で作れるけれど――作物には使えない。
 なぜなら、魔法で作り出す水は、あくまで魔力の姿を変化させたものだから。
人間はそう体を進化させて、魔力を養分的な物に変換できるようになっているけども――作物などの短命なものは駄目ね。
生まれてからその体質になるのは、大体15年かかるわ。
そう、王立学園に入学する年くらい。
 まあ、出来る魔術もあるけれど……。
「まあ~。お嬢さん、来てくれたのはありがたいけどねえ――いまは雨が無くてこの有様よぅ……」
農園をみていると、管理者らしきおばあさんに話しかけられた。
土で汚れたゆったりとした白いワイシャツに、紺色のもんぺを着ている。
「でも、いつかはぁ復活させないと、のぉ~」
おばあさんは腰が曲がっていて、白髪もぼさぼさだったけれど――農園を見据えるその琥珀の目は、力が宿っていた。
 それの何に心を打たれたかはわからない。
 おばあさんを見て、私は迷いなく――
「〈インジェクトライフ〉〈コープスローピックグロウフ〉」
黒魔術を使った。
 作物に生命を注入し、急成長させる。
 黒魔術はもともと、個人の欲のために作られた魔術。
強い欲によって魔力の濃度が濃くなり――魔力が姿を変えるどころか実物になったり、効果が表れたりする。
「な、なんじゃ!? 急に作物が成長して、実をつけたではないか!」
おばあさんは興奮したのか、その場でピョンピョン跳ねている。
 そうね、雨も降らせようかしら。
「〈メイクイットレイン〉」
すると、黒い雲が現れ、雨が降り始める。
「おおっ! 雨じゃ! ダンさんダンさん! 雨じゃ!」
おばあさんはそのまま近くの小屋に走って行った。
おっと、雨避けを準備しなければ。
「〈レインアボイデンス〉」
私の周りを透明な壁で取り囲み、雨が入ってこなくする。
 ?
後ろから、ぐちゃぐちゃと濡れた泥を踏む音が――
「――雨を降らせたのは君かな? ちょっと話を聞いてみたいのだけれど、どうかな?」
っ!? この声はっ……。
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