シャドラ ~Shadow in the light~

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第1章:Blue Blood Panic

12.ブレークタイム

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≪前回のあらすじ≫

荒れ狂うガスパロを宣言どおり一撃で撃破したリュウガ。
追い込まれたガスパロは自爆し逃亡する。
深夜、シェリルとサクラの気づかいのこもった料理が疲れた体に染み渡る。
珍しくしんみりするカイルとリュウガ。
事件解決に向けて決意を新たにする。
BLITZでのシェリルの扱いが心配で様子を見に来たアドルフ。
手土産の高級茶葉にサクラはご機嫌。
カイルとリュウガは帰ろうとするアドルフを攫って店を飛び出した。

================================================================


 その後、両名が情報収集を終え、BLITZ(ブリッツ)へ戻ったときには既に深夜を回っていた。

 サクラとシェリルはもう眠ってしまったようだ。
 カウンターの上には、「お二人の帰りが遅いので先に休ませてもらいます。あまり無理はなさらないでください」と書置き付きの夕飯が置いてあった。

 「本当に、お前に似合わんいい妹だな」

 「ほんとにねぇ、誰に似たんだか」

 夜も遅いが、せっかくなので夕食を食べてから寝ようとした二人であるが、皿を手にしてあることに気がついた。

 サクラの料理の腕はかなりのものである。
 しかし、今晩の料理は美味しそうなのだがよく見ると普段見られないところどころ歪な形の具材や多少の焦げが見られる。

 「シェリルか」

 「きっと何かさせて欲しいって無理にサクラを手伝ったんだろうねぇ」

 訳あってこんなところに身を置いているが、シェリルは貴族である。
 これまで料理などしたことがない、そしてこれからもする必要がない。
 そんな身分でありながらも彼女は他人のために行動できる人間なのである。

 「なんとかしてあげたいなぁ」

 「あぁ、そうだな」

 2階で眠る妹達を起こさぬ様、黙々と食事をする内に静かに夜は更けていった。

~~~~~~~~~~~~~~~~

 「二人とも!あの後一体どこに行ってたんですか!!」

 時刻は既に昼過ぎ。

 どうやら昨晩は夜更かしをしすぎたようである。
 男達がのそのそと起き出してきた頃には、昼食を済ませたサクラとシェリルがせっせと店内の掃除をしている最中であった。

 「おはようございます。昨日は先に寝てしまってスミマセン。すぐに帰ってくると仰ってたので、サクラちゃんと待っていたのですが・・・」

 「いやぁ、昨日はあの後色々あってさぁ。あ、でもサボってたわけじゃないよ!」

 何故か得意げなカイル。
 アピールポイントのハードルが非常に低い。

 「・・・兄さん達の普段の行動を見ていると、とても信用できないんですが?」

 「おいおいサクラ、兄の言うことは素直にきくもんだよ」

 「それならお二人は普段からもっと信用される様な行動をとってください!」

 「ふん、日ごろの行いが悪いからだ」

 「リューちゃんさ、君も言われてるんだよ」

 カイルが自分の分の昼食を皿によそっていると、店の扉が勢いよく開かれた。

 「数日ぶりだな、ブルーフォード。」

 「あらま、アー君いらっしゃい。どうしたんですか?こんな時間に。あぁ、分かった。サボりでしょ」

 「公務がてらシェリル様のご様子を見に来たのだ。っておい、貴様ぁ!!シェリル様に一体何をさせとるかぁっ!!」

 そういえばシェリルはサクラを手伝って掃除してたっけ。
 頭に巻いた三角巾が意外と似合っているなぁ。

 「シェリル様、そのようなことはここにいる下働きをするか、今すぐ死ぬかしか能がない連中にでもやらせておけばよいのです」

 「おい、アドルフ。こいつ(カイル)と一緒にするんじゃねぇ」

 「ええい、うるさい!そんなことはどうでもいい。貴様ら、今すぐシェリル様と代われ!」

 そんなこんなでカイルとリュウガが三角巾とエプロンをつけて店内の掃除をすることになった。

 サクラとシェリル、それにアドルフの三人は、お客様用ソファーでアドルフが土産に持ってきた茶葉を使った紅茶を飲みながらゆっくり話をしている。

 カイルは気ままで適当な性格の反面、もともと家事など細々した仕事が好きであるため、思いのほか楽しそうに掃除をしている。
 一方、リュウガは親の仇の様な視線をモップに注ぎながら、床板を削りとらんばかりの勢いでひたすらに床を擦っていた。

 「ブルーフォード、お前掃除が得意なのか」

 「えぇ、こういう家庭的な作業は結構好きですよ。ほら、リューガもあんなに楽しそうに」

 「・・・いや、私にはとてもそうは見えんのだが」

 「いえいえ、彼もうノリノリですよー」

 いつものごとく自然にリュウガを煽るカイルの様子に、サクラは苦笑い、シェリルはハラハラしている。
 満面の笑顔で適当な事を並べ立てているカイルには、そろそろバケツが飛んできそうだ。

 「とにかくだ。今後必要なことはお前の妹に話しておいた。くれぐれもシェリル様に失礼のないようにな」

 サクラに礼を述べ、ブリッツを出て行こうとするアドルフの前に、三角巾とエプロンを脱ぎ去ったカイルとリュウガが立ちはだかった。

 「ん?なんだ貴様ら、まだ何か用か?」

 「いやぁ、政府高官であらせられるアドルフ様をこのまま一人歩きさせるなんて危険すぎますからね」

 「お得意様へのサービスだ。今から俺たちが安全に送り届けてやるよ」

 「え?ちょっと、兄さん。リュウガさんも・・・」

 「ごめんねサクラ。そういうわけだから後、よろしくー」

 そういってブリッツを飛び出したカイルに続き、リュウガもアドルフを担ぎ上げその後を追っていった。

 「貴様らぁ!!下ろしやがれええぇぇぇっ!!」

 アドルフの断末魔をBGMに、サクラは突然の出来事にぽかんとしているシェリルと共に兄達を見送った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 「それで、そろそろこんなところに連れてこられた理由を説明してもらおうか。私はまだ仕事があると言ったはずだが」

 それからしばらく経った頃、カイルたちはストランドのテーブル席で顔を突き合わせていた。
 ストランドは昼は軽い軽食の取れる喫茶形態で運営されているのだが、リュウガは早速お構い無しにテキーラを注文し、ショットグラスでグイグイあおっている。

 きちんと代金を支払うアドルフが一緒の為か、今日のエミリアはツケだらけの招かれざる客2名に対し嫌みを言うことも凶器を投げつけることもなく、ただ黙々と注文の品を運び店の仕事をこなしている。
 そんな自分たちとアドルフに対する接客レベルの差に心の中で首を傾げつつもカイルは話を切り出した。

 「ちょっと大切な話があってさ。ほら、例の事件の。そうカリカリせず、ゆっくりしていきなよ。どうせ後に仕事があるっていう話は嘘なんだろうし」

 「何故わかった?」

 「簡単さ、昔からアドルフって嘘をつくとき必ずこうやってメガネをいじってるんだよねぇ」

 カイルの指摘に思い当たる節があったのか一瞬ハッとしたような表情になったがすぐに冷静さを取り戻すアドルフ。

 「昔からあんたのそういうところが嫌いだっていってるだろ。いつも適当な態度のくせに、肝心な部分はしっかり握っていて、人を上手くこき使って・・・」

 「まぁ、昔のことはいいじゃない」

 「いいや、よくないっ。いつもそうだ、あんたはすべて見通していても味方にもそれを教えないで慌てているのを見て楽しんでるところがあるからな。おかげで私がいったいどれだけ酷い目にあったことか」

 「それはアドルフを気に入ってるからさ」

 そんな昔語りをしているところにふらりとマスターが厨房の奥から顔を出した。

 「おぉ、誰かと思えば珍しい。久しぶりだな。前にカイルがフェンリルを抜けたとき以来か?」

 「あぁ、そうだ。ここに来るとあの時のことを思い出す。だからあまり来たくなかったんだが」

 「確かに、お前はあの時「マスター!!カイルが突然隊を抜けちまった。俺はいったいどうしたらいい?」って酔っぱらって散々愚痴ってたもんな」

 「あれあれ?そんなに俺が抜けて寂しかったの?仕方ない、なんなら添い寝でもしてあげようか?」

 「黙れ、クソ野郎。ふざけるな」

 「ハハッ、お前ら立場が変わっても相変わらずだな。それで?わざわざアドルフもいるってことは例の事件の調査に何か進展があったのか?」

 マスターは笑って言った。
 しかし、その声色は真剣である。

 「まぁね、これまでの調査とハプニングから得た仮説なんだけど。概ね間違いないと思う」

 カイルは昨日の出来事、そして自分の仮説を語り始めた。
 それを聞いていた三人の顔が歪む。

 「馬鹿な。まさか本当にそんなことが。確かに、そう考えれば辻褄が合う様に聞こえるが」

 「実は俺のところにもその情報は入っている。いや、しかしいまだに信じられんがな」

 「じゃあそういうことだから急だけど準備よろしく頼むね。アドルフは諸々の手配を、マスターは戦勝会の準備をよろしく。俺たちも予定通り動くから。・・・もう、リューガ何杯飲んだよ、行くよ?」

 まだまだ飲み足りない様子のリュウガを急かし店を後にしようとしたカイルをアドルフが呼び止めた。

 「なぁ、カイル。本当にもう戻ってくるつもりはないのか?もしお前が戻るっていうなら・・・」

 「ごめんね、俺は毎日を出来るだけ楽しく生きるつもりだから。だからさ、もう昔に戻るつもりはないよ」

 「そうか。またお前にとんでもない命令をされるような事にならなくてよかったよ」

 「フゥーッ!相変わらず意地っ張りだねぇー」

 「うるさいクソ野郎。さっさと依頼した仕事を果たせ」

 一見いつもと変わらぬ様子のアドルフだったが、その表情にはほんの少し陰がさしていたようにも見えた。

================================================================
~登場人物紹介~

・カイル・ブルーフォード:廃棄区画にて「なんでも屋 BLITZ」を営む。
             日頃の行いが悪い。ストランドのコーヒーが好き。

・リュウガ・ナギリ(百鬼 龍牙):「なんでも屋 BLITZ」のメンバー。
                  日頃の行いはカイルよりマシ。ハードリカーを好んで飲む。

・サクラ・ブルーフォード:カイルの妹。兄の素行不良に対する説教に最近少し疲れ気味。

・シェリル・ミシュラン:ミシュラン家ご令嬢。実は説教中のサクラのことが少し怖い。

・アドルフ・ヴァルト:貴族官僚。元カイルの部下。BLITZでのシェリルの扱いが心配。
           紅茶にはこだわりがある。なんやかんやカイルの能力をかっている。

・マスター:「ストランド」のマスター。最近実験的に昼の喫茶店営業を開始。

・エミリア:「ストランド」で給仕と掃除係をしている。お客様には完ぺきな接客をこなす。
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