仕事人達のグルメ事情〜新世界食放浪記〜

小倉 悠綺(Yuki Ogura)

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第2話 鉄鋼街のコロッケパン

第2話 鉄鋼街のコロッケパン 08

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「良く教育されてるだろ? 俺は教育が趣味なんでな」
「教育が趣味ねぇ……」

 一体どんな教育をしてんだかと、レンタロウは口には出さず、心の中で留める事にした。

「どうだお前ら、この男をどっかで見た事無いか?」

 ニシキが尋ねると、一人の男性構成員が右手を挙げて一歩前に出てきた。

「私、昨日この男を見かけました。場所はコッパー街です」
「コッパー街か……あそこはゴチャついているし、姿を隠すにはうってつけか。だがしかし――」

 腕組みをし、ニシキは頭を悩ませる。その理由はやはり、ニシキもその顔に何処か見覚えがあるのだが、しかしそれを明確に思い出せず、モヤモヤとしたものが残っていたからだ。

「この男がウチの事務所に来たって憶えがある奴はいないのか?」

 ニシキは尋ねたが返事は返って来ず、前に出てきた構成員の男も首を横に振った。

「そうか……まあひとまず、コッパー街に居るかもしれんという事だ。足が付いて良かったな」
「まあな。ありがとさん、早速当たってみるとするよ。行くぞサヤカ」
「は、はい!」

 レンタロウとサヤカは椅子から立ち上がり、その場を去ろうとしたその時――

「待ちな」

 ニシキは座ったまま、二人を呼び止めた。

「マフィアから情報を仕入れておいてタダで帰ろうなんて、あまりに図々しいと思わねぇか?」
「……なんだ、カネか?」
「ハッ! 俺達に比べたら、アンタが持ってるカネなんて雀の涙程だろ? そんな奴からたかったりするなんてケチな事はしねぇよ」
「チッ……じゃあ何だ?」
「アンタみたいな仕事人に頼む事といったら一つ……依頼だよ。俺からの仕事を一つ受けて貰おう」
「依頼か……」

 普段ならそれくらいならと、直ぐに二つ返事を出す事が出来たのだが、しかし第47基地局の破壊工作の一件もあり、帝国軍から追われるより早くこの街を出たかったレンタロウにとって、この依頼はあまり好ましいものではなかった。

「何だ? 仕事も出来ないってのか?」

 参ったとばかりの態度をしてみせるレンタロウを見て、ニシキは鋭い目つきで睨んできた。

「いや、出来ない訳ではないが……この街にあまり長居出来ないもんでな」
「そいつはどういう事だ?」

 レンタロウはニシキに、第47基地局の破壊工作を行った事を掻い摘んで説明すると、ニシキは「なるほどな」とその理由に納得をしたように思えたのだが――

「フブキさん、それとこれとは別だ。俺達もタダで協力する程、お人好しな集団じゃないんだ」
「……なるほどな」

 そう言われてしまえば、レンタロウも承諾するしかなかった。リターンの無い仕事を引き受けないのは、レンタロウも同じだったからだ。

「分かった。それでアンタが俺達に依頼したい事ってのは何だ?」

 レンタロウが尋ねると、ニシキはフッと鼻で笑った。

「なに、どちらかと言えば情報の交換さ」
「情報の交換?」
「その写真の男の正体、そいつを俺にも報告してくれ」
「えっ……それで良いのか?」

 もっと面倒な仕事を押し付けられると思っていたレンタロウは、思わぬ内容に拍子抜けしてしまった。

「こうしないとどうせアンタは俺に何の情報共有もせずこの街を去っていくだろ? それに俺はどうしてもコイツの顔に見覚えがあるのだが、全く思い出す事が出来ない。これではいつまでもモヤモヤし続ける事になっちまうからな」
「なるほど」

 結構繊細な奴なんだなと、レンタロウは話を聞きながら思った。

「分かった。じゃあ写真の男の正体が分かり次第、アンタに連絡して情報を渡そう。ナノデジのアドレスを教えてくれ」
「これだ」

 ニシキは近距離通信機能を使って自分のアドレスを飛ばし、それを受け取ったレンタロウのナノデジはすぐさまアドレス帳にそのアドレスを登録した。

「よし、行くぞサヤカ」
「ええ」

 レンタロウとサヤカは今度こそニシキの元を後にし、コッパー街を目指して歩き始めたが、その後ろ姿を見て、ニシキはニヤリと一方の口角を上げてみせた。

「コッパー街……まっ、見つかるといいがな」

 ニシキのその呟きはレンタロウとサヤカの元には届かないが、しかしその言葉の意味を二人は、コッパー街に実際到着して思い知る事となった。
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