26 / 36
第2話 鉄鋼街のコロッケパン
第2話 鉄鋼街のコロッケパン 19
しおりを挟む
しかしそんな自信無さげなスジカイを見て、レンタロウはやれやれと首を横に振った。
「お前に自信が無くとも、俺はお前なら出来ると思って金を出そうとしてるんだ。そんな初っ端から弱音を吐かれちゃあ、こっちも出すのを渋るぞ」
「うっ……」
「それに今までは今までじゃねぇか。問題なのはこれからどうするかだ。そのまま過去の失敗に縛られて、宙ぶらりんのままあのきったねぇスラムで一生落ちぶれて生活するか、それか情報屋として、今までの失敗を払拭する程の成功を収めるよう努力するか……あと10秒で答えを出せ」
「じゅ、10秒!?」
「はいいーち、にー、さーん――」
レンタロウは順に数を数え始め、その間スジカイは歯を食いしばって悩みに悩み、気づけばカウントは7秒を超えていた。
「はーち、きゅーう、じゅー……」
「わ、分かりやした! やります! 俺、情報屋をやりますっ!!」
寸前でスジカイは覚悟を決め、飛び込んだ。
「……そうか」
カウントを止めたレンタロウは、僅かに口元に笑みを浮かべてみせた。
「サヤカ、契約書のデータを送ってくれ」
「はい!」
サヤカは二つの契約書データをローカル通信を使ってまずレンタロウに渡し、レンタロウはそのデータに自分の生体データを埋め込む。今やサインや印鑑には何の認証性も無いとされ、その代わりに自分の生体データを書類データに入力する事によって内容を認証したという、以前の認印の役割を生体データが果たしていた。
「よし。じゃあスジカイ、これに生体データを入力してくれ」
「へ、へい」
レンタロウは二つの自らの生体データが埋め込まれた契約書データを、今度はスジカイに渡した。
「最後に一応念押ししておくが、これを認証したらもう元にはほぼ戻れないからな?」
「……心配は要りません。男スジカイ、この先の一生を背負う覚悟はもう出来ておりやす!」
「そうか……ならいい」
そしてスジカイは二つの契約書データに生体データを入力し、一つはレンタロウに戻した。
「それじゃあ早速ほれ、100万リョウだ」
「えっ!? 今から渡すんですかい?」
「いらないのか?」
「いりやすっ!」
「じゃあうだうだ言ってないで、俺の首筋に手を近づけろ」
「へい!」
スジカイは言われるがまま、レンタロウの首元に右手を持って行く。こうする事により、ローカル通信よりも更に範囲を絞る事の出来るダイレクト通信を使う事が可能になる。
このダイレクト通信を使って、レンタロウはスジカイに100万リョウの通貨データを送金した。
「ほ……本当に100万が俺の手元に……生まれて初めてですよこんな大金! これで俺も100万長者ですねいっ!」
「やっすい長者だな。喜ぶのはいいから、さっさと必要な物をその金で買って来い」
「へい! 本当にありがとうございやすフブキの旦那!」
スジカイは腰を九の字に曲げる勢いで頭を下げてから、勢い良く病室を出て行った。
「サヤカ、お前も手伝ってやってくれ。素人なんだから、どうせ何がいるかとか分かっちゃいないだろ」
「分かりました……フフフ」
「何がおかしい?」
「いえ、なんやかんや言ってお金をあげちゃいましたねと思って」
「悪いか?」
「いえいえそんな。むしろフブキさんのそういう所、ワタシは好きですよ?」
サヤカのやんわりとしたその笑顔は、病室の窓から入る光に照らされて神々しく、美しく映り、思わずレンタロウはその姿を見てドキッと胸を弾ませ、刹那視線を反対側の窓の方に移した。
「そういうのはいいから、さっさとスジカイのとこに行ってこい!」
「はいはい、分かりました」
そう言ってサヤカはパイプ椅子から立ち上がり、病室を後にすると、小走りで先に行ってしまったスジカイを追いかけた。
「ったく……俺の周りはホントにどうしようもないバカばっかりだ……」
一人病室に残ったレンタロウは、病室の窓の風景に向かってボソリとそう呟いたのだった。
*
病室で一人になってから間も無く、何もする事が無くなったレンタロウは布団に潜り、眠りについていた。
寝てしばらくは誰も病室を訪れる者はいなかったのだが、丁度一時間経った頃、扉が開いた僅かな音を聞きつけてレンタロウは目を覚ました。
「誰だ?」
起き上がって確認すると、扉の前にいたのは鉄工街の職人で今回の依頼主であるマフだった。
「お前に自信が無くとも、俺はお前なら出来ると思って金を出そうとしてるんだ。そんな初っ端から弱音を吐かれちゃあ、こっちも出すのを渋るぞ」
「うっ……」
「それに今までは今までじゃねぇか。問題なのはこれからどうするかだ。そのまま過去の失敗に縛られて、宙ぶらりんのままあのきったねぇスラムで一生落ちぶれて生活するか、それか情報屋として、今までの失敗を払拭する程の成功を収めるよう努力するか……あと10秒で答えを出せ」
「じゅ、10秒!?」
「はいいーち、にー、さーん――」
レンタロウは順に数を数え始め、その間スジカイは歯を食いしばって悩みに悩み、気づけばカウントは7秒を超えていた。
「はーち、きゅーう、じゅー……」
「わ、分かりやした! やります! 俺、情報屋をやりますっ!!」
寸前でスジカイは覚悟を決め、飛び込んだ。
「……そうか」
カウントを止めたレンタロウは、僅かに口元に笑みを浮かべてみせた。
「サヤカ、契約書のデータを送ってくれ」
「はい!」
サヤカは二つの契約書データをローカル通信を使ってまずレンタロウに渡し、レンタロウはそのデータに自分の生体データを埋め込む。今やサインや印鑑には何の認証性も無いとされ、その代わりに自分の生体データを書類データに入力する事によって内容を認証したという、以前の認印の役割を生体データが果たしていた。
「よし。じゃあスジカイ、これに生体データを入力してくれ」
「へ、へい」
レンタロウは二つの自らの生体データが埋め込まれた契約書データを、今度はスジカイに渡した。
「最後に一応念押ししておくが、これを認証したらもう元にはほぼ戻れないからな?」
「……心配は要りません。男スジカイ、この先の一生を背負う覚悟はもう出来ておりやす!」
「そうか……ならいい」
そしてスジカイは二つの契約書データに生体データを入力し、一つはレンタロウに戻した。
「それじゃあ早速ほれ、100万リョウだ」
「えっ!? 今から渡すんですかい?」
「いらないのか?」
「いりやすっ!」
「じゃあうだうだ言ってないで、俺の首筋に手を近づけろ」
「へい!」
スジカイは言われるがまま、レンタロウの首元に右手を持って行く。こうする事により、ローカル通信よりも更に範囲を絞る事の出来るダイレクト通信を使う事が可能になる。
このダイレクト通信を使って、レンタロウはスジカイに100万リョウの通貨データを送金した。
「ほ……本当に100万が俺の手元に……生まれて初めてですよこんな大金! これで俺も100万長者ですねいっ!」
「やっすい長者だな。喜ぶのはいいから、さっさと必要な物をその金で買って来い」
「へい! 本当にありがとうございやすフブキの旦那!」
スジカイは腰を九の字に曲げる勢いで頭を下げてから、勢い良く病室を出て行った。
「サヤカ、お前も手伝ってやってくれ。素人なんだから、どうせ何がいるかとか分かっちゃいないだろ」
「分かりました……フフフ」
「何がおかしい?」
「いえ、なんやかんや言ってお金をあげちゃいましたねと思って」
「悪いか?」
「いえいえそんな。むしろフブキさんのそういう所、ワタシは好きですよ?」
サヤカのやんわりとしたその笑顔は、病室の窓から入る光に照らされて神々しく、美しく映り、思わずレンタロウはその姿を見てドキッと胸を弾ませ、刹那視線を反対側の窓の方に移した。
「そういうのはいいから、さっさとスジカイのとこに行ってこい!」
「はいはい、分かりました」
そう言ってサヤカはパイプ椅子から立ち上がり、病室を後にすると、小走りで先に行ってしまったスジカイを追いかけた。
「ったく……俺の周りはホントにどうしようもないバカばっかりだ……」
一人病室に残ったレンタロウは、病室の窓の風景に向かってボソリとそう呟いたのだった。
*
病室で一人になってから間も無く、何もする事が無くなったレンタロウは布団に潜り、眠りについていた。
寝てしばらくは誰も病室を訪れる者はいなかったのだが、丁度一時間経った頃、扉が開いた僅かな音を聞きつけてレンタロウは目を覚ました。
「誰だ?」
起き上がって確認すると、扉の前にいたのは鉄工街の職人で今回の依頼主であるマフだった。
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる