朱い道化と深窓の令嬢

皐月

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「私リリー。同室だから案内とかするように頼まれてるの」
「助かります」

リリーに連れられ使用人部屋に向かう。
彼女は平民出身。4人兄妹の長子で出稼ぎのためメイドになったのだと語る。
くすんだボブの金髪と茶色の瞳、明るくて楽観的、お喋り、少しドジ。
良くも悪くも定型的な平民。どこにでもいるような少女。

(でも貴族よりもずっといい)

彼らは小さな幸せを嚙み締められる。
あたたかい確かな血縁が、地縁が、ある。
貴族の血だけを重視する冷たい血縁じゃなくて。

『メアリー!』

あ  れ  ?

「メリー?聞いてる?」

ハッと気が付くとリリーが振り返り不満そうな顔で問いかけてきていた。

「ごめんなさい。何の話でしたっけ?」
「もー!メイド長とか執事長ならともかく私には敬語いらないって話だよ!」

ぷんぷんという擬音が聴こえそうなくらいには頬を膨らませていた。
可愛いが一応従っておこう。

「わかったわ。よろしく、リリー」
「うん!あ、ここね!」

彼女はドアを開け私を招き入れる。
中にはベッドと棚が3つずつ。
そのうち2組にはすでに私物が収納されている。

「ねぇメリー、あなたはもう禁止事項聞いてる?」
「禁止事項?」

私が残りの空いている棚にトランクを置いているとリリーはそんなことを言い出した。

「その様子だと聞いてないみたいだから教えとくね。
まず一つ、長子様について話さないこと。奥様とグレース様の前では特にね」
「長子様?それってシ…」
「ダメ!」「ムグッ」

口を塞がれた。そんなにダメなことなのか。名前すらもダメ、だから長子様と呼ぶと。
私の記憶通りだと当代エスターヴ子爵家長子は、シュミル=エスターヴ子爵令嬢。
《紋なし》の化け物令嬢と呼ばれる彼女は何をしたのだろう。

それとも、、だろうか。

リリーは声を潜めて話し出した。

「ここなら大丈夫だとは思うけど、日常会話に出てこないように気を付けて」
「見つかったら折檻されちゃうものね。そういえばあの子、どうなったのかしら」「わ!」

知らない声が唐突に響く。振り返ると黒髪ロングの少女が入り口に立っている。

「なんだイナかぁ。びっくりしたぁ」
「初めまして新人さん。同室のイナ=セイルよ。男爵令嬢でもあるわ」
「改めましてメリー=カラットと申します」
「ええ、よろしくね、メリーさん。ところでカラット子爵なんて聞いたことないのだけれど」

セイル男爵家と言えば建国当時からある家だ。元は伯爵家だったが数代前に令嬢が失態を犯し、降爵処分になった。
歴史ある家で男爵まで墜ちたとはいえ、行き届いた教育が成されている。きっと先祖を反面教師にして教養を重視しているのだろう。

「お恥ずかしながら我が家は経営に必死で社交界にも滅多に出ておりませんの」
「へぇ、そうなの。あぁそうだ。私も敬語無しでいいわ。今は使用人ですもの」

セイル家が伯爵位のままであったならきっと引く手数多だろう。彼女自身教養がしっかりしていて美人だ。だが傷の付いた男爵家。そこが一つ懸念となってしまうから。

(この人は貴族でも、驕らないから好感が持てる)

リリーとの様子をみると平民でも嫌悪がないことが見てとれる。

(貴族もこんな人ばかりならいいのに)
そうしたら憎む必要は無い。
あんなことが起きることもない。



違和感が、拭えない。

『忘れるな』

誰かがそう呟く。

『忘れるな』
『忘れるな』
『忘れるな』

刻みつけるように、何度も。
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