家族で異世界冒険譚(ターン)!第1部 〜永井家異世界右往左往〜再構成改定版

武者小路参丸

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第1話 異世界からのメール

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「・・・はぁ、今日も乗客ゼロかぁ」


永井ミサオは、車のハンドルに手を置いたまま深いため息をついた。


梅雨の合間の晴れ間だというのに、都内のタクシー乗り場は閑散としている。

50代も半ばに差し掛かったミサオにとって、タクシードライバーという仕事は、数少ない「自由と現金」が両立できる職だったが・・・最近はそれも厳しい。


「副業でも探すか・・・。」


休憩中にスマホを取り出し、いくつかの求人アプリや掲示板を覗いていたその時。見慣れないメールが一通届いていることに気づいた。


件名:【急募】異種害獣駆除スタッフ募集! 

差出人

カ=チオ

本文

◇私の世界に増加している(人成らざる物)を処理できる方、求む!やる気重視!学歴・経験不問!」◇

仕事内容

◇害獣駆除◇

(人に喜ばれるお仕事です!やりがいがあります!)

給与

◇完全インセンティブ◇

(難しい事はありません!私が懇切丁寧に段取りしますので、初日からお財布ホクホク!)

休日・福利厚生

◇法定休日に準じます。日帰り出張等ありますが、そのまま現地にてプライベート宿泊等可能・プライベート旅行推奨◇


「なんだこりゃ……詐欺か?やる気重視ってのがブラック臭するんだよなぁ・・・。んで、私推しなのなんで?それに会社名とかは?メール本文作った人間、見直しとかしないのかよ!突っ込み所満載だなぁおい!だらしないのか何なのか・・・。でも、普通のオファーよりは気になるわな。敢えてやってるんなら面白いけど。」


ミサオは元ヤン時代の勘で何かを察知し、メールに返信した。

(まぁまぁ、俺も色々経験してるおっさんの自覚ありますし。ヤバいと思ったら断りゃいいべ。下手にかまして来たら、そんときゃモノホンの不良の恐怖、教えてやりゃあいい。)

ため息をつき、車のシートに寄りかかったその瞬間。

まばゆい光に包まれ・・・いきなり白く広い空間に車が停まっていた。


キョロキョロしながら車から降りて、今起きてる事を理解しようとあたふたするミサオ。

前触れも無く、いきなり車の横で呆然と立ち尽くすミサオに後ろから声がかかる。


「初めまして! ミサオさんでよろしかったですよね! いきなりすみません!こっちの世界の現実社会みたいな手順踏めれば良かったんですけど、こちらも人材不足が深刻でして・・・。あ、向こうの世界では私、カ=チオと呼ばれております!」


「か・・・課長さん?向こう?は?え?」


ミサオは言われた言葉の意味が理解出来ない。

「いやぁ、興味を持って頂いて助かりました!こっちの世界、私の管轄じゃあないもんで。強制的にどうこうとか出来ないんですよ!

一応、何人かの(適性)ありそうな方にお声掛け差し上げたんですが・・・ご連絡頂いたのはミサオさんが始めてなんですよ!」

ミサオの前に立つ男(?)が、ミサオの困惑も気にせずぶっちゃけて話を進める。

「あの、良く分かんないんですけどこの状況!マジック?ドッキリ?無駄に大がかりなこのセット!俺みたいな素人に何やらせようとしてんですか!」

ミサオは少し気色ばんで怒鳴る。

「ほうほうほう。理性で反応してきましたかなるほど。

この状況を一般常識の枠で処理しようと必死になられてると。

・・・向こうでは御業(みわざ)だ祝福だとすんなり受け入れて貰えたのに・・・やはり他の管轄の人間は違うんですね・・・。」

カ=チオと名乗った人物(?)は、ブツブツと一人話す。

「どう説明すれば分かりやすいのだろう・・・。あ、あなたでもすぐに理解出来ますよこれなら!」

一人で頷くカ=チオに食い気味にミサオが突っ込む。

「納得いく説明して下さいよ!あなた、1人の世界に入って俺置いてけぼりじゃないっスか!だ、大体こんなおっさん捕まえて、そちらになんのメリットあんスか!」

「あなた・・・暇な時、書物を読まれていますよね?」

「そ、それが何か?」

「その書物の中に・・・異世界ファンタジーと呼ばれる物があり、あなたは最近好んで読まれている様だとか。」

ミサオは羞恥に包まれる。

「そ、それの何がいけないと?いいじゃないですか!ハッピーエンドで複雑な構成の物語は精神的に疲れるんです!歳なんだから・・・って、それ何の関係あんスか!」

誤魔化すミサオにニヤリとするカ=チオ。

「それならすぐですよ、今の状況理解する事なんて。・・・異世界テンプレですよ。転移前の。あるある・・・でしたっけ?こっちの表現で。」

カ=チオの言葉にハッとするミサオ。

そして、辛そうな表情へと変わる。

「俺・・・死んだんですか?奥さんとワンコ食わしてかなきゃならないんスよ。だから事故にも人一倍気をつけてました。それなのに・・・。」

「いや、死んでませんし、殺してませんし、無理やりどうこうするつもりありませんし!そんな無理筋通したら、こっちの観察者に何言われ・・・ゲフンゲフン。」

「んじゃ、断る事も可能なんですか?帰れるんですか?」

「嬉しそうな顔するのは結構なんですが、ミサオさん。あなた・・・お金必要なんですよね?スキマ時間の仕事探してたんですよね?」

覗き込むような形で問うカ=チオ。

「・・・そりゃ、生きてくためには働かないとダメなんスけど。」

「はい決定!採用!」

笑顔でミサオに言うカ=チオ。

「あの?決定?履歴書も持ってきて無いのに?か、課長さんでしたっけ?」

「はい、カ=チオです!あ、あなたの事は全て把握済みですよ!優しく温和な顔してるのに、昔はブイブイ裏の世界でヤンチャしてたとか、大人の階段いつ登ったとか、奥さんのどこが好きだとか・・・。」

「わ~っ!わっわっやめてっ!悪い事してないけどごめんなさい!人のプライベート言いふらさないで・・・。」

よくわからないが、ミサオはカ=チオの提案に同意を示す。

ただ、譲れない物もある。

カ=チオが言う仕事内容は害獣駆除。

場所は・・・異世界。

まずはその説明だけだったが、受け入れる代わりとしてミサオは冷静に条件を交渉し、スマホにインストールしてもらう異世界チート用チートアプリなる物や、異世界通貨と現代世界通貨の専用ATM換金システムまで導入される展開に。


「いきなりチート出たよ!」

「契約は対等に!働く方の環境は大事ですから!」

「・・・理解ある上司いる会社って伸びるよね~。」

そして面接(?)の最後。


「本業の隔日勤務の合間でも良ければ契約で構いません!」


毅然と告げるミサオに対し、課長さんも優しく微笑む。

改めて見ると、中性的な顔立ちの中にも気品が感じられる。

西洋的な作りの顔。

服装も改めて見ると・・・真っ白のワンピースの様な、両手を広げたら・・・。

「私のな~かでおねむりな~さ~い・・・」

などと歌い出しそうな薄い白い服。


「それでは、スマホのアプリ、試してみてください!」

「はぁ。それじゃ、今日はこれで失礼します。」

頭をカ=チオ・・・ミサオは課長だと思っているがそちらに下げ、タクシーの運転席に座る。


カ=チオに言われた操作通り、インストールされた見慣れないアプリをタップする。

(軽く1回タップならあなたの考えた場所に転移します。転移自体は、アバウトな想像なら近くて危険でない場所に補正かけますので!その他の機能使う時は、長押しして下さい!)

白い空間がふっと揺れた。


次の瞬間、ミサオの視界に飛び込んできたのは・・・。

神奈川県横須賀市、ドブ板通り近くの駅前タクシー乗り場だった。

ほんの数十分前までいた真っ白な異世界空間とはあまりに違う、現実の匂いが漂っている。


ハンドルを握りながら、ミサオはある事実に気付く。


「・・・まだ売り上げ、無いじゃんか!」


異世界転移、スマホチート、副業契約・・・そんな大冒険を経ても、現実の売り上げはゼロだった。


ため息をつきながら、ミサオは勤務を終え、自宅へと向かう。


午前3時、自家用の軽自動車を自宅前に停める。


ここは、駐車スペース付きの4K賃貸住宅。

家賃7万円と比較的安く済んでいるのは、人口流出が進む横須賀市ならではだった。


玄関に向かう途中、家の中から聞こえてくる元気な声。


「だから、クミコちゃん起きちゃうって言ってるのに・・・。」


ミサオは苦笑しながら鍵を開けると、そこには尻尾を振って待つ茶色のトイプードルのコジ丸・・・家族での愛称ジョロの姿があった。


「ジョロ、パピが帰ってきたよ~! いつもありがとね~!」


ミサオは満面の笑みでコジ丸を抱き上げる。

永井家にとって、コジ丸はペットではない。我が子そのものだ。今まで看取って来た、今は亡き愛犬たち同様に。



だがその幸せなひとときも、すぐに冷や水を浴びせられる。


「今何時だと思ってるの!」


仁王立ちする妻・クミコが、雷を落とす。


(・・・ジョロだけ、いっつもお咎め無しなのは理不尽だよなぁ。可愛いけど。)


肩をすくめながらミサオはコジ丸にハーネスとリードを付け、日課の朝の散歩に出る。


横須賀の坂道を、眠気まなこで歩く。

疲れた身体に坂は堪えるが、コジ丸のためなら頑張れる。


そんな中、ふとスマホを取り出してみると・・・。

画面には、あの異世界用チートアプリ(イセ・ゲート)がしっかりインストールされていた。


(どう説明すりゃいいんだろう?)


ため息混じりにスマホをしまった瞬間、コジ丸にぐいっと引っ張られる。


振り向くと、切なげな目で踏ん張るコジ丸。

汚物入れの袋とお尻を拭く濡れティッシュが間に合わなかった。


「そっか・・・わかんないもんね、ジョロは。」


泣きそうになりながら、ミサオは念入りに大きい方のトイレの処理作業を行う。


帰宅後。


ミサオは意を決して、コジ丸の鳴き声に叩き起こされて少し不機嫌な顔の妻、クミコに話を切り出す。


「・・・あのさ。ちょっと、副業、決まったんだ。」


「副業?」


「うん、休みの日に3時間くらい。

害虫駆除みたいな、アルバイト程度のやつ・・・。」


クミコはジトっとした目でミサオを見るが、ミサオはジョロをなでながら笑ってごまかす。


(・・・間違ってない。害虫じゃないけど、害獣駆除だし!)


こうして、永井ミサオの異世界副業ライフは、静かに始まろうとしていた。

そして面接から2日後。

やっと来た、ミサオが待ちに待った三連休。


さすがに仕事明けは時差ボケ調整が必要で、ぐっすり寝倒したミサオ。 

2日目の朝、時計を見るとちょうど午前10時を回っていた。


「じゃ、マミちゃん、行ってくるよ~! 

ジョロもマミお願いね~! 

パピも夕方には余裕で戻ると思うから、帰りに買い物あるか電話入れるね~!」


まだ疑わしげな視線を向けるクミコと、寂しそうに見上げるコジ丸。 

二人を残して、ミサオは軽自動車に乗り込んだ。


「さて、行きますか!」


タクシードライバーになる前、配送業をしていた頃の古い作業着に袖を通し、向かうは横須賀市平成町あたりにある大型商業施設。


(転移後、現実世界の時間が止まるって言ってたよな課長さん。なら、買い物して車を出せば駐車料金もタダ、一石二鳥だな!)


ミサオは自宅から20分程の距離の複合大型商業施設の駐車場に車を停め、施設の中へ。 

人目を気にしながら、そっとトイレに滑り込む。


(さて、ここなら大丈夫だろ。)

おもむろにズボンのポケットからスマホを取り出し、異世界用チートアプリ(イセ・ゲート)を軽くワンタップ。


「ポチッとなっと!」


タップした瞬間、ミサオの視界はまばゆい光に包まれた。


気が付くと、ミサオは森の中に立っていた。


「あ~っ、やっぱり森からですか、そうだよね、ですよね~!」


異世界系お決まりの展開。 

森の中の、少し開けた場所。太陽の光が木漏れ日になって差し込んでいる。


思わず両手を広げて叫んだ。


「異世界、キタ~!小説じゃわからない木々の匂い!木漏れ日の暖かさ!リアルリアル!」


すぐに周囲を警戒するが、今のところ危険な存在はいなかった。


ホッと一息つき、ミサオはまずスマホを取り出し、イセ・ゲートアプリを長押しし、色々な項目の中からマップを起動。 

ざっくりとした地形と、いくつかの村や町の位置を確認できた。


「まぁ、先ずは何事も体験しなきゃね!」


スマホのマップを頼りに、ミサオは自分の足で町へ向かうことにした。



森の中を進みながら、ふと目を引く高い植物を見つける。


ひまわりのようだが、背丈は倍以上。 

ミサオはスマホのカメラを起動。異世界用AI検索にかけた。


> 【ライオットの花】 

> 花びら・種子共にポーション材料。 

> そのまま食しても効果は減少するが、魔力回復に役立つ。


「は~いはい流石異世界!ポーション、魔力、あるあるキタ~!!」


年甲斐もなく、大声を上げてしまったミサオ。


その時だった。


(ガサガサッ・・・。)


後方から、何かの気配。


振り返ると、そこにはウサギに似た生き物がいた。 

だが、それはただのウサギではない。


座った状態でミサオの腰まである巨大な体躯。 

一本のねじれたツノ。 

そして、赤く輝く、攻撃的な二つの眼。


「・・・コイツって、今回の休みの間に予習動画で見た、闇憑きの眼、だよな?」


アプリ内で何度も視聴した研修動画が脳裏に蘇る。


ミサオの予想通り、これが害獣・・・モンスターや動物が変異した化け物。

(闇憑き)である。


「・・・まだア・ソ・コに行ってないけど、初仕事に・・・なるんですかねぇ。」


ミサオは軽く息を吐き、慎重に一歩、前へ踏み出した。


永井ミサオの異世界での初仕事が始まろうとしている。
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