家族で異世界冒険譚(ターン)!第1部 〜永井家異世界右往左往〜再構成改定版

武者小路参丸

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第2話 ギルド登録と虹色の水晶

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目の前の生き物の確認の為にチラ見していたスマホから目を上げ、ミサオは生き物・・(闇憑き)となったホーンラビットをしっかりと見据えた。

敵の動きを警戒しながらも、ミサオは静かに空手の構えを取る。

三戦立ち。そして廻し受けの型。

別に級や段を取ったわけではない。

柔道は中学時代、剣道は少年院時代、空手は社会人になってから道場に通った。

理由はただ一つ。

(理不尽に潰されないように!)

もともと争い事は嫌いだった。

家庭内暴力を振るう父親を見て育ったミサオは、無力だった自分を悔やみ、強くなることを選んだ。

中学時代、目立つ私服で先輩に絡まれ、暴力を受け、そして悟った。

(世の中には、理屈や道理が通らないことがある。)

だから、柔道を、空手を、剣道を身に着けた。

まぁ
ストリートファイトで使えるレベルだったが。

今、その経験が異世界で生きるとは、思ってもみなかった。

廻し受けの型を行いながら、ミサオは深く息を吸い込み、そして吐き出す。

「コォーッ、コッ!」

心が落ち着き、研ぎ澄まされる。

世界が静かになったかのようだった。

体制を左半身(ひだりはんみ)にして、腰を軽く落とし、右・左とすり足で動くミサオ。

刹那。

ホーンラビットの姿がブレる。

(来る!)

ミサオは直感で反応した。

右側面から跳びかかってきた瞬間・・・。

「セイッ!」

右中段、正拳突き!

(ズドンッ!)

ウサギモドキの側頭部を正確に捉える。

生き物はそのまま吹き飛び、地面に倒れ込んだ。

ミサオは、正拳を突き出したまま固まっている。

(・・・え?勝った?)

呆然としながらも、確かな手応えを感じる。

異世界での、初めての勝利のあっけなさ。

静かに。

しかし確実に、ミサオの物語は動き出していた。

(・・・と、取り敢えず初仕事、完了って事で!)

結末に焦りながらもミサオは、地面に倒れたホーンラビットの亡き骸を抱え上げる。

(こいつの亡き骸も持って、いよいよア・ソ・コに行くか!)

そう。

次の目的地は冒険者ギルド。

異世界で身元も不明な人間が唯一稼ぐ手段。

冒険者として、正式にギルド登録をする為に。

ミサオは気合を入れ直し、担いだ亡き骸の重みを感じながら、歩き出した。

そこから一番近い町・・・テリオスまで、およそ二時間。

ホーンラビットとの一戦、さらに亡き骸を担いでの移動。

「・・・おっさんにいきなり激しい運動は・・・翌々日の筋肉痛が非常に・・・怖い。」

ゆっくりとしたペースで途中休みながらも、何とか目的地である町、テリオスへたどり着いたミサオ。

周囲を石壁で囲まれたその町は、ぱっと見で◯京ドーム10個分ほどに感じる広さだった。

(思ったよりも広いな・・・ま、村じゃねぇもんな。)

周りを見渡すと、人々が並んでいる場所が目に入る。

「はいはい。異世界あるある。怪しいヤツチェックね!」

並ぶ列の一番後ろにミサオも大人しく並ぶ。

意外とスムーズに人の列は進み、ミサオの番となる。

「待て貴様!身分の証(あかし)は持っているのか!」

門番の鋭い声。

これまた異世界あるあるの展開である。

(コレコレっ!絶対この展開来ると思ってたけど、やっぱ小説と実際じゃ迫力違うよなぁ!経費で預かってたこっちの世界の通貨使う場面早速来たよ~!このパチスロのメダルみたいなヤツ!)

「すんません。ちょっとここから遠い、東の方からえっちらおっちら歩いてきたもんで・・・。金は持ってるんですけど、身分を証明・・・あ、あれ?確かこの辺に。」

ありもしない証明を探すフリをするミサオ。

「持ってないものは、外の受付で、50ロム払って仮滞在証を作って貰え!まだ後ろが詰まってる!早くしろ!」

言われるがままに説明を聞きながら、ミサオは慌てて言葉を返す。

「あ、あの、自分、冒険者登録に来たんですが、どこに向かえば?」

本当はアプリで検索すればわかるのかも知れないが、下手な動きよりもミサオは目をつけられずに動こうと考えていた。

右側の門番に話しかけていると、左側の門番がミサオの肩に担いでいるモノに気付いた。

「き、貴様! その肩に担いでいる魔物は何だ!」

(え?何かマズった?勝手に狩ったらいけないルールとか?あ、まだ冒険者じゃないからダメとか?)

ミサオは挙動不審な笑顔でホーンラビットを地面に下ろし、揉み手しながら答える。

「いや、この魔物がですね?攻撃しようとしてきたんで、逃げ切れないと思ってしょうがなく、こう、なんか、拳で、ズドン!・・・みたいな?あは、あはは・・・。」

(嘘臭ぇ!自分でもわかる!これ現代の警察なら余計に調べられるパターン!)

内心冷や汗だらだらのミサオ。

門番二人は、ミサオに聞こえないように小声で話し始める。

「おい、アレって・・・?」

「だよな? あれ、こいつ一人でやったのか?」

「分からん! が、ギルドに登録したいって言ってたろ?なら、さっさとギルドに送り込め!アッチの奴らの方が詳しい!」

ゴニョゴニョと相談を終えた門番たちは、ミサオに告げた。

「あ~、取り敢えず受付で金払って仮滞在証もらって、すぐギルドに向かえ。

ギルドはこの門からまっすぐ行って突き当たりのデカい建物だ。登録すれば身分証持ちになって、今後はいちいち金も払わずにすむからな。

とにかく!何しろ早い方がいい。後ろの列のヤツらもしびれ切らしてるから!早く早く!」

急に急かされたミサオは、慌てて仮滞在証を作り、ウサギモドキの亡き骸を抱えたまま、ギルドへと向かうのであった。

言われた通りに進むミサオ。

建物は木で出来た物と石材で出来た物が混在している。

ミサオが頭の中で描いていたよく言う中世ヨーロッパ風の作り。

石畳をテクテク歩くと、中々大きな建物の前にたどり着く。

「ぐふ、ぐふふ・・・ギルド、キタ~ッ!」

ミサオは、異世界あるあるテンプレ展開にテンションが上がっていた。

目の前に広がるのは白い洋館。

入り口には、赤地にクロスした剣、その中央には牙を剥くオオカミを描いた紋章。

研修動画で見たギルドマークと、まったく同じだった。

ちなみに、大声で叫んでいるミサオは、現代では五十を過ぎたおっさんである。

現代世界よりも成人年齢が早い異世界。

見る人が見ればかなり痛々しい姿に見えるだろう。

ワクワクを抑えながらもミサオは、閉じられた両開きのドアを押し開けた。

中は広い空間。

正面奥にはカウンター、その左右には奥へ続く通路。

右手には掲示板、左手にはこれまた定番の酒場スペース。

時間帯のせいか、そこまで混雑はしていなかった。

(これはチャ~ンス!)

ミサオは意気揚々とカウンターに向かう。

カウンターは三か所に分かれていたが、両隣の受付が職員不在だった為、迷わず真ん中に立った。

受付にいたのは、セミロングの茶髪の女性。

西洋系の美しい顔立ちをしている。

だがミサオにとって、女性に色恋の感情はない。

今もなお、毎日のように。

「マミたん、今日も可愛いよね!」

と、妻に愛を伝え続ける男である。

はたから見たら、単なる痛い男なのだが、ミサオ自身にはちゃんとした理由と信念がある。

胃ガンの外科手術を経験し、その手術の前に一度はステージ3の宣告を受けたおかげで、真剣に死を見つめた事。

(感謝は口に出して言う。好きなら好きと毎日でも伝えよう。後悔しない様に。)

それからのミサオのモットーである。

そんなミサオに受付の女性が微笑みながら声をかけた。

「はい!テリオス冒険者ギルド受付です!依頼ですか? 達成報告ですか? それとも獲物や薬草の買い取りですか?」

ミサオは少し慌てながら答える。

「いや、あの、冒険者登録をしたいんですが・・・。」

「あ、はい!登録は14歳以上でしたら誰でも受け付けておりますが・・・その肩に担いでいる魔物は?」

女性は訝しげ(いぶかしげ)にミサオの担いでいる亡骸を覗き込む。

ミサオはまたもや内心冷や汗だらだら。

「いや、あの、ここに来る途中の森で、気づいたら近くにいて、向かってきたので・・・これはヤバい!って、思わず正拳突きで、こう、ドカンと・・・。あ、あの、不可抗力ですから!緊急避難!推定無罪!」

しどろもどろのミサオ。

受付の女性は少し戸惑った表情を浮かべると、

「少々お待ちください!」

そう言い残し、右側の通路へと小走りで奥へ消えていった。

(え、なんかまたヤバいことになってる?めんどくさいのやだよ俺。)

ミサオは、担いだ亡骸を抱えたまま、ひとりカウンター前に取り残されていた。

しばらくして、受付の女性が戻って来る。

その隣には、もう一人、落ち着いた雰囲気の女性が付き添っていた。

「お待たせしました。冒険者登録の件ですが、どうも特殊な事案になりそうですので、上司に立ち会いをお願いして参りました」

(これで登録出来なかったらマズいじゃん!余計な事しないで、逃げれば良かったのか?んな事言っても、普通逃げられないじゃんか、向こうの闇憑きの方が足早そうだし・・・。)

内心ブルブルのミサオだったが、そこは年の功、顔には出さずに静かに頷いた。

「それでは、こちらの用紙に名前と年齢、得意な戦闘スタイルを書き入れ、終わったら、こちらの水晶に手をかざして下さい。」

女性が差し出したのは、羊皮紙のような紙と、透明な水晶玉だった。

ちなみに、今ミサオが普通に会話出来ているのは、魔法などのの効果ではない。

初仕事前に例の課長さんへ連絡したところ、また白い空間に呼び出され、 現地通貨を渡されたのと共に、霊的なナノマシン(?)を身体に埋め込まれている。

脳の使われていない部分を開発・拡張し、言語能力と文字理解力を底上げしたらしい。

ミサオは、「まあそんなもんか?」と納得している。

研修動画で言語と文字も履修済み。

(嘘書いてもしょうがないしな・・・。)

羊皮紙に丁寧に記入していく。

名前――ナガイ・ミサオ。

年齢――54歳。

戦闘スタイル――空手・剣道・柔道。

記入を終えると、受付の女性が確認して声をかけた。

「ナガイ・ミサオ。これは、名前がナガイでよろしいですか?」

(来た来た、昔の海外あるある!)

「いえ、私の生まれた場所では、ファミリーネームが先、ファーストネームが後にきます。だから、名前はミサオです」

「わかりました。次に、年齢ですが・・・エルフの血か何か、受け継いでます?」

(は? 俺ってそんなにイケメン?いや異世界の美的基準もわからんし。)

「いいえ!」

キッパリ否定するミサオ。

上司らしき女性は少し不思議そうな顔をしたが、受付の女性は興味深そうにメモを取りながら続けた。

「最後に、戦闘スタイルについてですが・・・。カラーテ? ケンド? ジャ?ジョ?ジュ、ジュドー? どのようなものなのでしょうか?」

ミサオは丁寧に説明する。

「これは私の生まれた場所の格闘術であり、

空手は打撃や蹴り技に、柔道は組み技や関節技、絞め技に特化しています。

剣道は、こちらで言う剣とは異なる、刀(かたな)と呼ばれる武器を用いた戦闘術です」

受付の女性は興味深そうにメモを取りながら頷いていた。

そばの女性も少し驚いた顔である。

受付の女性とのやり取りが一段落したところで、 後ろに控えていた上司らしき女性が、ミサオに話しかけた。

「お見受けしたところ、それなりに鍛えたご様子ですね。

・・・ファミリーネームをお持ちということは、どちらかの国の貴族や王族階級でいらっしゃいますか?」

気を使って確認してくれている素振りの女性上司。

「あ、失礼しました!冒険者になる理由は人それぞれ、いらぬ詮索をしてしまいましたね。

それでは、こちらの水晶に、右手をかざしていただけますか?」

ミサオは素直に頷き、躊躇なく右手をかざした。

その瞬間。

「色は赤ですね。・・・って、青、黄色、緑・・・何で何色も現れてるのっ? こ、これって、虹っ?」

水晶玉に浮かび上がったのは、こちらの世界の一般冒険者が纏う魔力の色・・・通常の単色ではなく、複数の光。

虹色だった。

受付の女性も、上司も、まばらにいた他の冒険者たちも、 全員が目を真ん丸にして、口をぽかんと開けていた。

(え、なにこれ?そんなにヤバい?そりゃ、労働災害怖いし、課長さんには念押ししたよ?本業に響かなくて、万が一にも怪我とか無い様に手段講じてくれって契約に入れて貰ったよ?でも、この様子だと、やらかし案件じゃねぇの?)

困ったミサオは、モジモジと居心地悪そうに立ち尽くすしかなかった。

そんなミサオの前で、上司はバンと手を叩き、

「と、とにかく!

魔力も一定以上ある事は確認しましたので、さっさと登録してあげてください!

メリッサ、登録が済み次第、ミサオさんを私の執務室へ!」

命令を飛ばし、早足で奥の通路へと消えていった。

(あ、この受付の子、メリッサって名前なんだ!名札とか無いからなぁ。うん。この西洋風の顔立ちに、似合ってる!)

ようやく受付女性の名前を知ったミサオ。

改めて状況を理解しつつ、ミサオは登録手続きを受けた。

「それでは、ミサオさん、冒険者登録完了です。

本来なら初級冒険者としてFランクスタートとなるのですが・・・今回は、上司・・・いえ、ギルドマスターから直接お話があるようなので、私と一緒に執務室へ同行をお願いできますか?」

ここで初めて「ギルドマスター」という呼称も判明する。

「わかりました」

ミサオは表面上は平静を保ったまま、内心ガクブル状態で頷いた。

(ギルマス?普通スキンヘッドかゴツい系の、元々冒険者で現役時代伝説残しましたとかじゃないのかよ?)

こうして、ミサオは受付嬢のメリッサに案内され、 ギルドマスターの待つ執務室へと向かう事となる。

受付カウンターの右通路。一番奥の突き当たりにある重厚なドアを、受付のメリッサがノックした。

「どうぞ。」

中から先ほどの女性の声が聞こえ、メリッサがドアを開ける。

ミサオは一礼するメリッサに誘われ、中へと入った。

華美ではないが重厚な机、その向こうに座るメリッサの上司・・・いや、ギルドマスター。

「どうぞ、おかけください。それと、その魔物も、テーブルの上にそのまま載せてください。」

フカフカとしたソファに腰掛けながら、抱えていたウサギモドキ――ホーンラビットの亡骸をテーブルに置く。

その手足はテーブルから少し垂れ下がった。

「やはり、闇憑きのホーンラビットですね。これを素手で?」

訝しげにギルドマスターが尋ねる。

ミサオは困った顔で答えた。

「はぁ。た、たまたま、運が良かったんですよね。そう、きっとそうですよ!」

「闇憑きの魔物と相対して、たまたま運良く倒す・・・そんな話、私は聞いたことがありません。

また、単独、しかも素手での討伐など、ギルド記録にも存在しません。」

(チート。小説だとスカッと読めてたけど、自分がリアルでなってみると、結構焦るよ?)

誤魔化すのに一苦労のミサオを目の前にして、
静かに、しかし毅然と語るギルドマスター。

「それと、水晶での魔力確認。

三色以上の色が発現した例も、記録には一切ありません。」

(あ、3色までなら居たんだ・・・。課長さん、どうもやり過ぎっぽいぞ?)

ミサオは内心でツッコミを入れながらも、聞き入る。

「ちなみに、冒険者活動に何か支障が出たりしますか? それが一番大事なところなんですが・・・。」

皺を寄せた表情のギルド・マスターに恐る恐る確認するミサオ。

副業である害獣駆除のためにも、冒険者登録はどうしても死守したい。収入はインセンティブなのだから。

「冒険者になる事自体は問題ありません。

むしろ問題は、ミサオさんのランク設定にあります。

通常、冒険者は初級Fランクからスタートします。

このホーンラビット、通常の個体でもFランク三人か、Eランク上位者一人で討伐するレベルです。

闇憑き個体となると、最低でもCランク三人、上位者なら二人必要です。」

(ウサギの見た目だから、イケると思った自分の浅はかさ。うん。課長さん、やっちまったね!)

引きつった笑みのミサオ。

ギルドマスターは真剣な表情で告げた。

「よって、私の権限で、ミサオさんを初期Cランク登録とさせていただきます。」

ミサオの瞳が輝いた。

「いいんですか?

ありがたいですが・・・何か縛りとかありますか?」

すぐさま確認するミサオ。

(美味しい話には裏がある。用心しないとな!)

「いえ。

むしろFランクのままだと、闇憑き討伐依頼を受けられません。

ただ、実力証明のため、適当な依頼を一件こなしていただきます。

その際、そこそこの冒険者を見聞役として同行させますが、ご了承ください」

ミサオは力強く頷いた。

「やります! すぐにでもやらせてください! あ、やっぱ・・・。」

ギルドマスターが身を乗り出して聞き返す。

「やっぱ?」

「女房と子供が待ってるんで、今日のところは登録だけで。

あ、あと、このホーンラビットって、買い取ってもらえるんですか?」

苦笑いのギルドマスター。

「買い取りではなく、討伐依頼達成報酬ですね。

メリッサ、闇憑きホーンラビット、綺麗な亡骸です。

町・・・いえ、国の研究対象にもなるかもしれません。査定、任せました。」

査定はすぐに完了し、

ミサオには50枚のルム金貨・・・日本円換算で約50万円が支払われた。

税金もなしのホクホク収入。

(いきなり一撃50万!ピンハネ無し!A5の牛肉行っちゃう?家の車いじっちゃう?ウサギ様々!)

ミサオは手にした金貨に、これからの副業への夢を感じた。

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