3 / 7
第3話 “暁の矛”と廃村の闇
しおりを挟む
家路につく前に、ミサオは町の外壁を背景に自撮りを試みた。
「せっかくだから、記念に一枚!」
スマホを取り出し、カメラを起動して自撮りモードにする。
その画像を見て違和感を覚える。
(・・・髪の毛、フッサフサで黒いし!
顔の皺も減ってるやん!)
明らかに30代そこそこの、若返った外見になっていた。
そこでギルド受付の確認に考えが及ぶ。
(そうか、メリッサさんが言ってたエルフの血でも引いてるのかって確認入ったのか!
・・・アンチエイジングどころの騒ぎじゃねぇよ全く。
あ!だから体力もあんのか!思ったよりも疲れてないし・・・。)
異世界補正の効果らしい。
驚きつつも、しっかり自撮りを残したミサオ。
そこで又ある事を思い出す。
(待てよ、確か向こうの時間、今止まってるんだよな、だったらそのまま依頼受けてもいいじゃんじゃね?何日こっちで過ごしても向こうは転移直後の時間・・・俺、まだ動けんじゃん!)
結局、町を出る前にもう一度ギルドへ引き返すことにする。
ギルドに戻ると、ギルドマスターであるハイネス(ミサオは戻ってから名前を知った)が出迎えてくれた。
「あら、気が変わったのかしら?ならちょうど良かった!実は、東の廃村近くで、闇憑きらしい魔物の目撃情報が入ったんです!」
ハイネスは資料を広げながら説明する。
「今回は調査、可能なら討伐もお願いします。
但し、目撃された魔物は先ほどのホーンラビットよりも大型と報告されています」
(うん、マジか・・・。)
さすがに不安がよぎるミサオだったが、ギルド側も手は打っていた。
「幸い、先ほど依頼達成報告を上げてきたばかりのCランク冒険者パーティの3人組がいます。
まぁ彼らもソロの実力者達が今回初めて組んだパーティーなんですけどね。
彼らに同行し、仮のパーティとして行動してもらいます。もちろん、メインはミサオさんですけれど。」
(俺、ウサギ一匹やっつけただけのまだアマチュアよ?どんだけ期待されてんのよ・・・。)
仮パーティ―。
取り敢えずお試しで組んでいるメンバー。
メインはミサオではあるが、緊急時にはフォローをしてくれる形となる。
だがあくまで支援と見聞役。
(うーん、サポートありがたいけど、メインって事は・・・俺がやっぱり一番頑張らなきゃだよな。)
「それじゃ、その形でお願いします!」
ミサオは力強く即答した。
「わかりました。すぐに段取りしますので、少しだけお待ち下さい。」
ハイネスは素早くギルド受付に向かって進んでゆく。
ミサオはそれほど待たされる事も無く、受付に呼ばれる。
そこで、男女3人を紹介される。
ミサオに同行するお試し期間の仮のパーティ「暁の矛」のメンバーは、皆個性豊かだった。
ジェイ。
21歳。前衛担当、剣士。
炎系の攻撃魔法も操る、頼れるリーダー。少し長めの髪形で、ミサオが見る限りではアニメの主人公顔。
ドリトス。
26歳。中衛担当、槍使い。
防御系の魔法を併用する、縁の下の力持ち。こちらもいかにもタンク役といった風情である。
サブリナ。
19歳。後衛担当、弓使い。
回復系魔法も扱える、ホンワカ癒し系女子。ただミサオの見る限り、それなりにしなやかな筋肉を持っていそうな感じに思える。
初めて顔を合わせたとき、ミサオは異世界あるあるの、新人に嫌がらせするベテラン冒険者を警戒した。
年齢も若く、それなりの実力を持っている触れ込み。
だが、その予想は嬉しい意味で裏切られる。
全員、思慮深く、言葉遣いも丁寧だった。
現代世界の同年代より、よほど大人びている。
(やっぱ、修羅場をくぐってる人間って器が違うんだなぁ。)
しみじみと思うミサオ。
4人はそれぞれ準備へと動き、ギルド前の馬車へと集合する。
「それじゃあミサオさん。今回は特別にギルドの好意で馬と馬車を貸して貰えましたので、これで廃村に向かいましょう。
大体、夕方には着けると思いますが、魔物は夜になるほど凶暴かつ狡猾になります。
しかも今回目撃された闇憑きも、夜に確認されています。油断しないで下さいね!」
ジェイが真剣な表情で注意を促す。
「・・・そうですね!何分経験不足ですが、よろしくお願いします!」
ミサオは45度のお辞儀をして、御者台に乗るジェイと荷台のドリトス・サブリナと共に後ろに同乗して、馬車で廃村へ向かった。
「・・・ミサオさんて、一応私達と同じC級なんですよね!得意なのは剣ですか?魔法ですか?それとも弓・・・は無いですね。て、言うより武器持ってる様に見えませんが、大丈夫ですか?」
話しかけられたサブリナに心配されるミサオ。
出発の前に必要とされる物を聞いて慌てて町中で買い集めた。
物を入れる肩掛けのバッグ・水筒と水、食料は日持ちのするパンと干し肉・・・味度外視、ミサオも散々物語で見てきているから期待はしていない。
そして武器。
これに関しては、まだ右も左もわからないので、正直どうしていいのかわからない。
ミサオも現代世界で、人目に付かない所で小声で試した。
「ステータス、オープン!」
・・・出現しなくて赤面した事を、ミサオは墓場まで持っていくつもりだった。
自分の能力の特性やレベルがわからない以上、刃物などは怪我する危険がある。
(まぁ、何とかなんべぇ!)
サブリナの質問に、ミサオが答える。
「まだレベルは暫定らしいからこの依頼させられてるんですけど。取り敢えず今回は・・・コイツで。」
右の拳を前に突き出す。
幸いな事に道中、魔物との交戦はなく、無事に目的地の廃村へと到着する。
すぐに3人は散開し、周囲の調査に入った。
廃村の一番奥。
朽ちた大きな住居跡の周囲で、ジェイが大きな足跡を発見する。
ハンドサインで合図を送り合い、3人は馬車の外で待機していたミサオの元に戻る。
「あの廃屋の足跡、間違いなく魔物、グレートノックスが変異した闇憑きの物ですね。
本来なら、罠を仕掛けたり体制を整えて討伐開始となるのですが、 今回は、ミサオさんの能力確認も目的の一つ。
危険は承知の上で、あえて奴が動き出してから行動します!」
ジェイが静かに告げる。
「もちろん、危険になれば私たちも討伐に加勢しますが・・・。
その報告を上げた時点で、ミサオさんのランク評価に影響が出る恐れがありますので、承知しておいて下さい。」
ミサオは静かに頷いた。
「本来はパーティーで当たる対象なんですが・・・ギルマスも敢えてこの形で行えと指示してきました。
だからと言って、決して無謀な事はせず、危険だと思ったら引く事も冒険者としての資質です!
ランクが下がっても、又努力してあげればいいのですから。」
「そうですね。」
ジェイの含蓄ある言葉に素直に答えるミサオ。
勿論ミサオも無理をするつもりは1ミリも無い。愛するクミコとジョロが家で待っているのだから。
馬を改めて村の中の木に繋ぎ、馬車の中から飼い葉を出して、近くの生きていた古井戸から水を汲んて与える。
お試しパーティーの3人とミサオは、早めに手持ちの食料で食事を済ませ、ジェイとミサオ・ドリトスとサブリナの順で交代に身体を休める。
まだ日も落ちていないが、これも夜に備える為。
ミサオも眠れないが目をつぶり、交代で見張りにもつく。
そして・・・。
夜が来た。
馬車の車輪に寄りかかりながら、ミサオは目を閉じて周囲の音に集中していた。
これから荒事があるかも知れないと言う状況の中。
現代日本で多少修羅場をくぐった経験のあるミサオでも、そこまで図太い神経は持っていない。
一方、2交代で短い休憩を終えたお試しパーティー・暁の矛の三人は、廃屋の周辺に散開して、警戒を続けている。
(戦争とも違う。漁師とも違う。冒険者・・・。一つ間違えば死。命のやり取りで稼ぐ。ランク云々じゃ無く、自分の戦闘能力を上げて、より強い魔物を倒し、より多い収入を手にする。
異世界あるあるなら、王政とか貴族社会とかバリバリあんだろうから、下々の人間が這い上がるには、商人か冒険者なんだろうけど。かなりリスキーだよなぁ。)
とりとめも無い事を考えるミサオ。
(こっちの世界に比べりゃ、現代日本なんか、ぬるま湯に感じるトコあんわな。
違う所は色々ある。文明レベルなんかは間違いなく向こうが進んでる。でも、それが幸せかと言うと・・・何とも言えんわなぁ。
少なくとも俺なんかは世間の風は冷たく感じてた口だし。クミコちゃんという最愛の妻と、代々の息子達と家族になれた事だけが救いか・・・。)
苦笑するミサオ。
右手に持っていた何かの生き物の皮で作られた水筒から水を1口飲む。
しばらくして、合図の指笛が聞こえた。
(いよいよか・・・。)
軽くストレッチを済ませたミサオは、ゆっくりと目当ての廃屋へ向かって歩き出す。
「グムォ~ッ!」
現れたのは、牛の頭を持ち、人のような身体つきの魔物。
現代世界の伝説上の生物、ミノタウロス型の闇憑きだった。
本来のグレートノックスは身長2メートル程と事前に聞いている。
力はあるが鈍重で、暁の矛メンバーなら余裕で対処できる相手。
だが、目の前の個体は違う。
身長3メートル以上。
真っ赤な眼。
手には巨大な棍棒らしき武器を携えている。
(さて・・・俺のつたない経験じゃ、剣も槍も役に立たねぇしな。
覚えてる技術、使うしかない。今ん所は。通用する事を期待して・・・。)
ミサオは静かに、廃屋前の地面に右足で一本の横線を引く。
その先の方から、噂のミノタウロス型の闇憑きが、ゆっくりと大きな足音を立てながら真っ直ぐミサオへと距離を詰めて来ている。
その様子を、木々の影に隠れながら暁の矛の3人が見守る。
「ねぇ・・・あれ、何やろうとしてるの?」
右隣のジェイと左隣のドリトスを交互に見ながら疑問を呈するサブリナ。
「距離を測る為の目印・・・にしては、あの場所から距離を取る訳でも無く。魔法・・・使うのか?ドリトス、お前の見立ては?」
ジェイが首をひねりながらドリトスに聞く。
「・・・俺に聞いても・・・わからん。」
本来ならパーティー単位で対峙する相手に、ミサオがどのような戦法を考えているのか、興味津々の3人。
先ほど足で引いた地面の線の手前で、ミサオは直立不動となり深々と一礼。
「お願いします!」
その言葉と動作に他の3人は首を一斉にかしげる。
そして、頭を上げたミサオは、昔の特撮で良くあるカメラワークの様に、ぐるぐると闇憑きの周りを裸足の状態で、少しづつすり足で回り始めた。
「おいさ~っ!」
真剣な表情で気合を入れるミサオ。
闇憑きは、すぐに右手でミサオへ向けて、棍棒を振り下ろす!
「グワァ~オ!」
その右腕をミサオは両手でがっちりと掴み、振り返りながら自らの右肩に抱え込む!
瞬時に腰を深く落とす。
「ヨォ~イショ~ッ!」
掛け声とともに、立ち上がる動作と共に思い切り身体を前傾!
一本背負い!
3メートル以上の巨体を、見事に背中から地面へ叩きつけた。
だが、それで終わりではない。
これぐらいで仕留められるとはミサオも到底思っていない。
倒れた闇憑きの首元にすかさず飛びつき、全体重をかけた締め技に移行する。
身体が大きければ首周りも太い。
が、何とか足を巻き付け、締め上げながらフリーの両手で闇憑きの両腕をさばく。
(ギュ~~~~~ッ。)
力の限り、首を、絞める、絞める、絞める。
(絶対に、逃がさねぇ!)
必死に技を極め続けるミサオ。
暴れていた闇憑きの両腕からの攻撃も次第に少なくなり、ミサオの両足に何度もかけてきた指の力も弱くなる。
それでも締める。締め続けるミサオ。
どれほどの時間が経っただろうか。
肩をポンポンと叩かれ、ミサオはようやく周囲に意識を戻した。
そこには、笑顔のサブリナ。
「終わりましたよ、ミサオさん!」
ミサオの異世界初依頼。
完了の瞬間だった。
「せっかくだから、記念に一枚!」
スマホを取り出し、カメラを起動して自撮りモードにする。
その画像を見て違和感を覚える。
(・・・髪の毛、フッサフサで黒いし!
顔の皺も減ってるやん!)
明らかに30代そこそこの、若返った外見になっていた。
そこでギルド受付の確認に考えが及ぶ。
(そうか、メリッサさんが言ってたエルフの血でも引いてるのかって確認入ったのか!
・・・アンチエイジングどころの騒ぎじゃねぇよ全く。
あ!だから体力もあんのか!思ったよりも疲れてないし・・・。)
異世界補正の効果らしい。
驚きつつも、しっかり自撮りを残したミサオ。
そこで又ある事を思い出す。
(待てよ、確か向こうの時間、今止まってるんだよな、だったらそのまま依頼受けてもいいじゃんじゃね?何日こっちで過ごしても向こうは転移直後の時間・・・俺、まだ動けんじゃん!)
結局、町を出る前にもう一度ギルドへ引き返すことにする。
ギルドに戻ると、ギルドマスターであるハイネス(ミサオは戻ってから名前を知った)が出迎えてくれた。
「あら、気が変わったのかしら?ならちょうど良かった!実は、東の廃村近くで、闇憑きらしい魔物の目撃情報が入ったんです!」
ハイネスは資料を広げながら説明する。
「今回は調査、可能なら討伐もお願いします。
但し、目撃された魔物は先ほどのホーンラビットよりも大型と報告されています」
(うん、マジか・・・。)
さすがに不安がよぎるミサオだったが、ギルド側も手は打っていた。
「幸い、先ほど依頼達成報告を上げてきたばかりのCランク冒険者パーティの3人組がいます。
まぁ彼らもソロの実力者達が今回初めて組んだパーティーなんですけどね。
彼らに同行し、仮のパーティとして行動してもらいます。もちろん、メインはミサオさんですけれど。」
(俺、ウサギ一匹やっつけただけのまだアマチュアよ?どんだけ期待されてんのよ・・・。)
仮パーティ―。
取り敢えずお試しで組んでいるメンバー。
メインはミサオではあるが、緊急時にはフォローをしてくれる形となる。
だがあくまで支援と見聞役。
(うーん、サポートありがたいけど、メインって事は・・・俺がやっぱり一番頑張らなきゃだよな。)
「それじゃ、その形でお願いします!」
ミサオは力強く即答した。
「わかりました。すぐに段取りしますので、少しだけお待ち下さい。」
ハイネスは素早くギルド受付に向かって進んでゆく。
ミサオはそれほど待たされる事も無く、受付に呼ばれる。
そこで、男女3人を紹介される。
ミサオに同行するお試し期間の仮のパーティ「暁の矛」のメンバーは、皆個性豊かだった。
ジェイ。
21歳。前衛担当、剣士。
炎系の攻撃魔法も操る、頼れるリーダー。少し長めの髪形で、ミサオが見る限りではアニメの主人公顔。
ドリトス。
26歳。中衛担当、槍使い。
防御系の魔法を併用する、縁の下の力持ち。こちらもいかにもタンク役といった風情である。
サブリナ。
19歳。後衛担当、弓使い。
回復系魔法も扱える、ホンワカ癒し系女子。ただミサオの見る限り、それなりにしなやかな筋肉を持っていそうな感じに思える。
初めて顔を合わせたとき、ミサオは異世界あるあるの、新人に嫌がらせするベテラン冒険者を警戒した。
年齢も若く、それなりの実力を持っている触れ込み。
だが、その予想は嬉しい意味で裏切られる。
全員、思慮深く、言葉遣いも丁寧だった。
現代世界の同年代より、よほど大人びている。
(やっぱ、修羅場をくぐってる人間って器が違うんだなぁ。)
しみじみと思うミサオ。
4人はそれぞれ準備へと動き、ギルド前の馬車へと集合する。
「それじゃあミサオさん。今回は特別にギルドの好意で馬と馬車を貸して貰えましたので、これで廃村に向かいましょう。
大体、夕方には着けると思いますが、魔物は夜になるほど凶暴かつ狡猾になります。
しかも今回目撃された闇憑きも、夜に確認されています。油断しないで下さいね!」
ジェイが真剣な表情で注意を促す。
「・・・そうですね!何分経験不足ですが、よろしくお願いします!」
ミサオは45度のお辞儀をして、御者台に乗るジェイと荷台のドリトス・サブリナと共に後ろに同乗して、馬車で廃村へ向かった。
「・・・ミサオさんて、一応私達と同じC級なんですよね!得意なのは剣ですか?魔法ですか?それとも弓・・・は無いですね。て、言うより武器持ってる様に見えませんが、大丈夫ですか?」
話しかけられたサブリナに心配されるミサオ。
出発の前に必要とされる物を聞いて慌てて町中で買い集めた。
物を入れる肩掛けのバッグ・水筒と水、食料は日持ちのするパンと干し肉・・・味度外視、ミサオも散々物語で見てきているから期待はしていない。
そして武器。
これに関しては、まだ右も左もわからないので、正直どうしていいのかわからない。
ミサオも現代世界で、人目に付かない所で小声で試した。
「ステータス、オープン!」
・・・出現しなくて赤面した事を、ミサオは墓場まで持っていくつもりだった。
自分の能力の特性やレベルがわからない以上、刃物などは怪我する危険がある。
(まぁ、何とかなんべぇ!)
サブリナの質問に、ミサオが答える。
「まだレベルは暫定らしいからこの依頼させられてるんですけど。取り敢えず今回は・・・コイツで。」
右の拳を前に突き出す。
幸いな事に道中、魔物との交戦はなく、無事に目的地の廃村へと到着する。
すぐに3人は散開し、周囲の調査に入った。
廃村の一番奥。
朽ちた大きな住居跡の周囲で、ジェイが大きな足跡を発見する。
ハンドサインで合図を送り合い、3人は馬車の外で待機していたミサオの元に戻る。
「あの廃屋の足跡、間違いなく魔物、グレートノックスが変異した闇憑きの物ですね。
本来なら、罠を仕掛けたり体制を整えて討伐開始となるのですが、 今回は、ミサオさんの能力確認も目的の一つ。
危険は承知の上で、あえて奴が動き出してから行動します!」
ジェイが静かに告げる。
「もちろん、危険になれば私たちも討伐に加勢しますが・・・。
その報告を上げた時点で、ミサオさんのランク評価に影響が出る恐れがありますので、承知しておいて下さい。」
ミサオは静かに頷いた。
「本来はパーティーで当たる対象なんですが・・・ギルマスも敢えてこの形で行えと指示してきました。
だからと言って、決して無謀な事はせず、危険だと思ったら引く事も冒険者としての資質です!
ランクが下がっても、又努力してあげればいいのですから。」
「そうですね。」
ジェイの含蓄ある言葉に素直に答えるミサオ。
勿論ミサオも無理をするつもりは1ミリも無い。愛するクミコとジョロが家で待っているのだから。
馬を改めて村の中の木に繋ぎ、馬車の中から飼い葉を出して、近くの生きていた古井戸から水を汲んて与える。
お試しパーティーの3人とミサオは、早めに手持ちの食料で食事を済ませ、ジェイとミサオ・ドリトスとサブリナの順で交代に身体を休める。
まだ日も落ちていないが、これも夜に備える為。
ミサオも眠れないが目をつぶり、交代で見張りにもつく。
そして・・・。
夜が来た。
馬車の車輪に寄りかかりながら、ミサオは目を閉じて周囲の音に集中していた。
これから荒事があるかも知れないと言う状況の中。
現代日本で多少修羅場をくぐった経験のあるミサオでも、そこまで図太い神経は持っていない。
一方、2交代で短い休憩を終えたお試しパーティー・暁の矛の三人は、廃屋の周辺に散開して、警戒を続けている。
(戦争とも違う。漁師とも違う。冒険者・・・。一つ間違えば死。命のやり取りで稼ぐ。ランク云々じゃ無く、自分の戦闘能力を上げて、より強い魔物を倒し、より多い収入を手にする。
異世界あるあるなら、王政とか貴族社会とかバリバリあんだろうから、下々の人間が這い上がるには、商人か冒険者なんだろうけど。かなりリスキーだよなぁ。)
とりとめも無い事を考えるミサオ。
(こっちの世界に比べりゃ、現代日本なんか、ぬるま湯に感じるトコあんわな。
違う所は色々ある。文明レベルなんかは間違いなく向こうが進んでる。でも、それが幸せかと言うと・・・何とも言えんわなぁ。
少なくとも俺なんかは世間の風は冷たく感じてた口だし。クミコちゃんという最愛の妻と、代々の息子達と家族になれた事だけが救いか・・・。)
苦笑するミサオ。
右手に持っていた何かの生き物の皮で作られた水筒から水を1口飲む。
しばらくして、合図の指笛が聞こえた。
(いよいよか・・・。)
軽くストレッチを済ませたミサオは、ゆっくりと目当ての廃屋へ向かって歩き出す。
「グムォ~ッ!」
現れたのは、牛の頭を持ち、人のような身体つきの魔物。
現代世界の伝説上の生物、ミノタウロス型の闇憑きだった。
本来のグレートノックスは身長2メートル程と事前に聞いている。
力はあるが鈍重で、暁の矛メンバーなら余裕で対処できる相手。
だが、目の前の個体は違う。
身長3メートル以上。
真っ赤な眼。
手には巨大な棍棒らしき武器を携えている。
(さて・・・俺のつたない経験じゃ、剣も槍も役に立たねぇしな。
覚えてる技術、使うしかない。今ん所は。通用する事を期待して・・・。)
ミサオは静かに、廃屋前の地面に右足で一本の横線を引く。
その先の方から、噂のミノタウロス型の闇憑きが、ゆっくりと大きな足音を立てながら真っ直ぐミサオへと距離を詰めて来ている。
その様子を、木々の影に隠れながら暁の矛の3人が見守る。
「ねぇ・・・あれ、何やろうとしてるの?」
右隣のジェイと左隣のドリトスを交互に見ながら疑問を呈するサブリナ。
「距離を測る為の目印・・・にしては、あの場所から距離を取る訳でも無く。魔法・・・使うのか?ドリトス、お前の見立ては?」
ジェイが首をひねりながらドリトスに聞く。
「・・・俺に聞いても・・・わからん。」
本来ならパーティー単位で対峙する相手に、ミサオがどのような戦法を考えているのか、興味津々の3人。
先ほど足で引いた地面の線の手前で、ミサオは直立不動となり深々と一礼。
「お願いします!」
その言葉と動作に他の3人は首を一斉にかしげる。
そして、頭を上げたミサオは、昔の特撮で良くあるカメラワークの様に、ぐるぐると闇憑きの周りを裸足の状態で、少しづつすり足で回り始めた。
「おいさ~っ!」
真剣な表情で気合を入れるミサオ。
闇憑きは、すぐに右手でミサオへ向けて、棍棒を振り下ろす!
「グワァ~オ!」
その右腕をミサオは両手でがっちりと掴み、振り返りながら自らの右肩に抱え込む!
瞬時に腰を深く落とす。
「ヨォ~イショ~ッ!」
掛け声とともに、立ち上がる動作と共に思い切り身体を前傾!
一本背負い!
3メートル以上の巨体を、見事に背中から地面へ叩きつけた。
だが、それで終わりではない。
これぐらいで仕留められるとはミサオも到底思っていない。
倒れた闇憑きの首元にすかさず飛びつき、全体重をかけた締め技に移行する。
身体が大きければ首周りも太い。
が、何とか足を巻き付け、締め上げながらフリーの両手で闇憑きの両腕をさばく。
(ギュ~~~~~ッ。)
力の限り、首を、絞める、絞める、絞める。
(絶対に、逃がさねぇ!)
必死に技を極め続けるミサオ。
暴れていた闇憑きの両腕からの攻撃も次第に少なくなり、ミサオの両足に何度もかけてきた指の力も弱くなる。
それでも締める。締め続けるミサオ。
どれほどの時間が経っただろうか。
肩をポンポンと叩かれ、ミサオはようやく周囲に意識を戻した。
そこには、笑顔のサブリナ。
「終わりましたよ、ミサオさん!」
ミサオの異世界初依頼。
完了の瞬間だった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる