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第39話 迷走──止まった心
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(トントン。)
「はぁ~い!」
「邪魔するよ!・・・今日はヤヨイか。・・・どうだ、様子は。」
ドアを開けて中に入って来たセイジ。
ヨコースカ伯爵領、チュウオーの町の、ミサオを始めとした皆の自宅。
「・・・もう1週間経つんだけどねぇ。部屋から出て来ない。トイレ以外は。」
ため息混じりのヤヨイ。
「・・・俺も後から向かった口だが、あの現場は酷かったからな・・・。まして最前線に居たんだ。辛かったろうさ。」
セイジもヒラサキ領の惨状を目にしていた。
そして、傷ついたミサオを移送する役目も行っている。
「身体はもう平気なんだろ?」
「多分。・・・心が参っちゃったんだよね。」
「薬草じゃ、どうにもならんよなぁ。時薬ってやつかな。やはり。」
「そうよねぇ。・・・今のミサオ、言葉も話さない。・・・ずっと何か考えてる様に見える。・・・力になりたいんだけどね。」
寂しそうに笑うヤヨイ。
「クミコは組合か?」
ヤヨイの姿を見て、意識的に話をそらすセイジ。
「え?クミコ?それがね?商会のエチゴさんから呼び出しなのよ。」
少し不安そうなヤヨイ。
「クリスもあのまま皇都に一度戻ったんだろ?なんでも重要な相談あるとかで。何か不穏だな?」
セイジも少し警戒しているらしい。
「そうなのよね・・・。何もなきゃいいんだけど。」
ヤヨイも先の事を思い、渋い顔になる。
同じ頃。皇都の皇城内。
皇タロウの執務室。
「・・・見た事も無い生き物・・・でございますか?」
皇タロウに問うクリス。
「・・・他の領の森に出現した生き物。これが近くの村や町に被害を及ぼしているらしい。顔は牛。だが身体は毛に覆われた人。腰に布を巻き、手には太いこん棒。そんな生き物など、この国では聞いた事も無い!・・・それが家畜や人を襲っておるらしい。」
「それは・・・一体。」
クリスも息を呑む。
「食らっておるらしい。衛兵でも歯が立たぬ。・・・出来ればヨコースカの所のあの配下の者に出張って貰おうかと考えていた次第なのだが・・・。」
苦渋の顔のタロウ。
「・・・まだミサオには時間が必要かと。」
「ヒラサキ領の惨状は我も耳にしておる。だから動けとも我には言えぬ。・・・だが、その不可思議な生き物を何とかせねばならん。・・・クリス。お主と、魔法を使う2人の女性。向かわせる皇命をここで出す。・・・向かってはもらえぬか?3人で。」
命とは言いながらも、表情は懇願に近い。
「・・・皇命とあらば。2人には伯爵様から下知を?」
「もう話は降りてる頃であろう。」
「して、場所の方は?」
「サキタマ州。オーミヤーン伯の領内じゃ。」
「遠いですね。私はこのままこちらで2人を待ち、合流してから向かおうと思います。その間に旅に必要なあれこれを揃えます故。」
「すまぬなクリス。影の役目をあれこれ頼むばかりで。」
「貴方様が母と父を守って下さったから、今の私があるのです。私は皇の影の剣。それで幸せなのです。」
「クリス。本来ならばお主の父は公爵の・・・。」
「父は母と出会えて幸せなのです。爵位よりも。私も両親が笑顔で暮らせればそれで幸せなのですから。」
「・・・わかった。でもクリスよ・・・。命は無駄にするなよ?・・・これは身内としての言葉じゃ。」
「・・・心にしかと刻みつけておきます・・・おじさま。」
城の中での2人の会話は、誰にも知られない。
「ミサオさん。今戻りました。・・・エチゴさんからの要請が入りました。ヨコースカ伯爵よりも上、皇からの命だそうです。私とヤヨイ。皇都でクリスと合流して、3人で少し離れた土地に向かって、不可思議な生き物を狩って欲しいとの事です。・・・ミサオさんはゆっくり養生して下さい。セイジさんとイチローさんが、居ない間、お世話してくれる手筈になってます。・・・少しでも早く戻ります。元気になってれば、笑顔で出迎えて下さいね?」
「・・・。」
ミサオ言葉は無い。
「後で夕食お持ちしますね。」
部屋を出るクミコ。
(俺は・・・なんで生きてる?何故こっちの世界に来た?何故助けられなかった?)
あの少女の言葉がぐるぐると頭の中で回っている。
考える。
考えて考えて・・・疲れて眠る。
言葉も発せず。
ミサオはまだ迷走中である。
ーーーーーーーーーーーー
あとがき
今回は、ヒラサキ領での惨状から立ち直れず、心を閉ざしてしまったミサオの様子を描きました。
身体の傷は癒えても、心の傷は薬草では治らない――それを象徴する回でもあります。
仲間たちはそれぞれ別の任務に向かい、ミサオは一人部屋にこもり続ける。
彼が考え続けるのは「あの時なぜ助けられなかったのか」という一点。
その問いは彼を縛り、答えを見つけられないまま迷走させています。
一方で、皇都では新たな脅威が現れ、クリス・ヤヨイ・クミコの三人が動き出すことに。
物語は、ミサオの停滞と周囲の動きを対比させながら、次なる局面へ進もうとしています。
次回、ミサオが再び歩き出すきっかけが訪れるのか――そこに注目です。
「はぁ~い!」
「邪魔するよ!・・・今日はヤヨイか。・・・どうだ、様子は。」
ドアを開けて中に入って来たセイジ。
ヨコースカ伯爵領、チュウオーの町の、ミサオを始めとした皆の自宅。
「・・・もう1週間経つんだけどねぇ。部屋から出て来ない。トイレ以外は。」
ため息混じりのヤヨイ。
「・・・俺も後から向かった口だが、あの現場は酷かったからな・・・。まして最前線に居たんだ。辛かったろうさ。」
セイジもヒラサキ領の惨状を目にしていた。
そして、傷ついたミサオを移送する役目も行っている。
「身体はもう平気なんだろ?」
「多分。・・・心が参っちゃったんだよね。」
「薬草じゃ、どうにもならんよなぁ。時薬ってやつかな。やはり。」
「そうよねぇ。・・・今のミサオ、言葉も話さない。・・・ずっと何か考えてる様に見える。・・・力になりたいんだけどね。」
寂しそうに笑うヤヨイ。
「クミコは組合か?」
ヤヨイの姿を見て、意識的に話をそらすセイジ。
「え?クミコ?それがね?商会のエチゴさんから呼び出しなのよ。」
少し不安そうなヤヨイ。
「クリスもあのまま皇都に一度戻ったんだろ?なんでも重要な相談あるとかで。何か不穏だな?」
セイジも少し警戒しているらしい。
「そうなのよね・・・。何もなきゃいいんだけど。」
ヤヨイも先の事を思い、渋い顔になる。
同じ頃。皇都の皇城内。
皇タロウの執務室。
「・・・見た事も無い生き物・・・でございますか?」
皇タロウに問うクリス。
「・・・他の領の森に出現した生き物。これが近くの村や町に被害を及ぼしているらしい。顔は牛。だが身体は毛に覆われた人。腰に布を巻き、手には太いこん棒。そんな生き物など、この国では聞いた事も無い!・・・それが家畜や人を襲っておるらしい。」
「それは・・・一体。」
クリスも息を呑む。
「食らっておるらしい。衛兵でも歯が立たぬ。・・・出来ればヨコースカの所のあの配下の者に出張って貰おうかと考えていた次第なのだが・・・。」
苦渋の顔のタロウ。
「・・・まだミサオには時間が必要かと。」
「ヒラサキ領の惨状は我も耳にしておる。だから動けとも我には言えぬ。・・・だが、その不可思議な生き物を何とかせねばならん。・・・クリス。お主と、魔法を使う2人の女性。向かわせる皇命をここで出す。・・・向かってはもらえぬか?3人で。」
命とは言いながらも、表情は懇願に近い。
「・・・皇命とあらば。2人には伯爵様から下知を?」
「もう話は降りてる頃であろう。」
「して、場所の方は?」
「サキタマ州。オーミヤーン伯の領内じゃ。」
「遠いですね。私はこのままこちらで2人を待ち、合流してから向かおうと思います。その間に旅に必要なあれこれを揃えます故。」
「すまぬなクリス。影の役目をあれこれ頼むばかりで。」
「貴方様が母と父を守って下さったから、今の私があるのです。私は皇の影の剣。それで幸せなのです。」
「クリス。本来ならばお主の父は公爵の・・・。」
「父は母と出会えて幸せなのです。爵位よりも。私も両親が笑顔で暮らせればそれで幸せなのですから。」
「・・・わかった。でもクリスよ・・・。命は無駄にするなよ?・・・これは身内としての言葉じゃ。」
「・・・心にしかと刻みつけておきます・・・おじさま。」
城の中での2人の会話は、誰にも知られない。
「ミサオさん。今戻りました。・・・エチゴさんからの要請が入りました。ヨコースカ伯爵よりも上、皇からの命だそうです。私とヤヨイ。皇都でクリスと合流して、3人で少し離れた土地に向かって、不可思議な生き物を狩って欲しいとの事です。・・・ミサオさんはゆっくり養生して下さい。セイジさんとイチローさんが、居ない間、お世話してくれる手筈になってます。・・・少しでも早く戻ります。元気になってれば、笑顔で出迎えて下さいね?」
「・・・。」
ミサオ言葉は無い。
「後で夕食お持ちしますね。」
部屋を出るクミコ。
(俺は・・・なんで生きてる?何故こっちの世界に来た?何故助けられなかった?)
あの少女の言葉がぐるぐると頭の中で回っている。
考える。
考えて考えて・・・疲れて眠る。
言葉も発せず。
ミサオはまだ迷走中である。
ーーーーーーーーーーーー
あとがき
今回は、ヒラサキ領での惨状から立ち直れず、心を閉ざしてしまったミサオの様子を描きました。
身体の傷は癒えても、心の傷は薬草では治らない――それを象徴する回でもあります。
仲間たちはそれぞれ別の任務に向かい、ミサオは一人部屋にこもり続ける。
彼が考え続けるのは「あの時なぜ助けられなかったのか」という一点。
その問いは彼を縛り、答えを見つけられないまま迷走させています。
一方で、皇都では新たな脅威が現れ、クリス・ヤヨイ・クミコの三人が動き出すことに。
物語は、ミサオの停滞と周囲の動きを対比させながら、次なる局面へ進もうとしています。
次回、ミサオが再び歩き出すきっかけが訪れるのか――そこに注目です。
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