さらうぞコラ!ヤクザの息子、異世界で魔法とギルドを創る

武者小路参丸

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第10話 異世界の領主──魔法の証明と、新たな道

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ゲンゴロウが広い屋敷の中を静かに先導する。大きく重厚そうな入り口のドアを開けると、二階か下へと伸びる、正面左右からの2つの対称となる半円形の階段。ふかふかの絨毯が敷き詰められているが、決して派手でもない。シックとでも言うのか。

階段手前は、左右にドア。外から見ただけでも、そのドアの奥が長く伸びてる様子が想像出来る。階段と階段の奥。そこにもドアがある。家宰のゲンゴロウがその正面のドアを開ける。

「この奥に、当家の主がお待ちです。」

無言でうなずき、ゲンゴロウの後へと続く3人。

(・・・左右にまだ部屋あんじゃん!・・・ある所にはあんだな、銭は。)

現代世界でも目にしたことのない本物の豪邸。

ミサオも思わずまばたきしてしまう。

気付くとまた、趣(おもむ)きあるドアの前。

(・・・トントン・・・)

「御館様。お客様をお連れ致しました。」

「・・・入って貰え。」

恭しくドアを開け、中へといざなうゲンゴロウ。

「・・・セイジ。イチロー。久しいな。火急の用向きと聞いたが・・・そちらの御人か?とりあえず座ってくれ。」

これまた重厚な机と綺麗な細工のされた椅子に座る紳士が、3人にソファーを勧める。

歳の頃は40代。鼻の下は立派なカイゼル髭。やはり顔は純日本人。明治維新の頃の偉人風とでも言えば分かりやすい。

「領主様。お忙しい中、わざわざ・・・。」

「・・・よい。わかった上で来ているのなら、それは大事な用件だと言う事。セイジ程の衛兵が道理を違える訳もなかろう。」

セイジの言葉を遮り、言葉を重ねる領主ヨコースカ。

「・・・ゲンゴロウ!こちらに茶を持て。改めて名乗ろう。我はこの領を預かるクニチカ・ヨコースカ。伯爵の位である。・・・さて、では用件、うけたまわる。」

執務用の机から離れず、話を聞こうとする領主。

「・・・はい。実はこちらの男。名はミサオと申す者にございますが、見ての通りの異様な風体。訳あって我等と知己を得て、私の独断を持って衛兵へと推薦しようと考えておりましたが・・・その、何と言いますやら・・・。」

肝心な所で上手い言葉が出て来ないセイジ。

「・・・ん?落としのセイジにも、口ごもるなどという事があるのか。これは珍しい事もあるよのう。ふは・・・ふはははっ!」

余程セイジの態度が珍しいらしい。

「・・・イチロー!貴様からもご領主様にお伝えせよ!」

「・・・え?俺?いや私ですか?そんなセイさん・・・」

自分に飛び火し、焦るイチロー。

「・・・ご領主様!あの、この怪しい男なんですが・・・見た目怪しいんですがね?その・・・普通じゃないと言いますか、見た事ないと言いますか、え~と、そう!こいつ、魔法使いなんすよ!」

(・・・コイツバカじゃん!説明の仕方あんだろが!)

ミサオが内心激怒する。物事には順序と言う物がある。

「・・・今、何と?・・・我には魔法と聞こえたのだが、確かか?我に見せられる物なのか?」

(・・・いや、話進む進む!何故?)

逆にミサオが焦る。

「・・・私達2人も、昨日いきなり見せられた口でして・・・。魔法を見る前に衛兵への職を勧めていたものの、此奴の魔法なるものを目にし、本日もいくつかその力を体験し、そのまま上司に会わせるのもいかがなものかと思案の上、失礼ながらもご領主様への面会をお願いした次第にございます。」

頭を下げるセイジ。

「・・・我もその話には興味はあるな。・・・さて、ここからは実際に見せて貰えるかの?その魔法とやらを。」

その言葉を皮切りに、ミサオは幾つもの魔法を行う。火やら水やら、短距離転移やら、浮遊やら。まだまだ本人も気づいてないものもあるだろうが、とにかく色々。

「・・・ミサオよ。お主・・・衛兵には向かん。いや、その力の有意義な使い方は、衛兵では生かし切れぬ。我に少し考えさせてくれぬか?決して悪いようにはせぬ。どうだ?」

ヨコースカ伯爵の提案。衛兵への就職はどうやら無くなりそうだが、何か考えてくれるらしい。

「・・・ワシもお前の話を聞くに、その力を衛兵だけに使うとなると、色々問題があると考える。逆に人前で使わぬとなると宝の持ち腐れ・・・。ご領主様に任せてみても良いと思うがな。少なくとも、ご領主様は誠実だ。」

セイジが太鼓判を押す。

「・・・俺みたいなもんの話も聞いてくれるお方だぞ?三下役人の話聞く領主なんて中々居ない。少なくとも周りじゃ聞いたこたぁない。」

イチローも胸を張る。

「・・・セイジさん達にも言ったんですが、こんな得体の知れない男にそこまで言って、手の平返されたらどうするんですか?」

思った事をそのまま口にするミサオ。

「・・・悪巧みする輩なら、そんな事は最初から聞かん。我は、セイジもイチローも信頼しておる。その2人が言うておるのだ。しかもお主は手の内をさらした。ならばそれに応えるのが貴族の務め。心意気じゃな。」

「・・・ご領主・・・わかりました。私はこの世界の・・・いや、この国の作法も何も知りません。それでもよろしければ、雇って下さい。」

ミサオがその場で頭を下げる。

「・・・承(うけたまわ)った。それでは明日・・・13と半の刻頃に、屋敷に来れば良い。門衛とゲンゴロウにも話は通しておこう。」

「・・・わかりました。お世話になります。仕事内容も明日説明と言う事で構いませんか?」

「・・・お主が来るまでに決めておこう。給金などもな。これで話は終わりじゃが、他に何かあるか?」

ヨコースカ伯爵からの確認。

「・・・私はありません。セイジさんやイチローさんは?」

2人も首を無言で横に振る。

「・・・では、お忙しい所、本当にありがとうございます。」

「・・・構わぬ。では今家令を・・・。」

言いかけるヨコースカ伯爵。

「・・・それには及びません。セイジさん、イチローさん。はい、手を前に出して。」

素直に右手を出すセイジとイチロー。

「・・・では、お騒がせしました。明日またお伺いします。失礼します。」

言葉と共に2人の手を握り消えるミサオ。

テーブルには冷たくなったカップが残るのみ。

「・・・すぐにあの能力を表に出すのは危険か。少しずつ。人の為になる様に。中々難儀な事よのう・・・。」

苦笑しながらも、これからの事をあれこれ想像する事にふける、領主であった。

ーーーーーーーーーーーー

あとがき

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

第10話では、ついに領主ヨコースカ伯爵とミサオが対面し、魔法の実演を通して認められる展開となりました。
衛兵という選択肢は消えましたが、伯爵の言葉通り「より相応しい道」が用意される予感が漂います。
セイジとイチローの信頼も心強く、ミサオにとって新しい未来への一歩が始まる回でした。

次回、伯爵が用意する役割とは──?
引き続きお楽しみに!

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