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第17話 影犬の咆哮──闇夜に吊された罪
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ミサオが潜んでから約2時間。
店の灯りがふと消える。
(遅ぇよまったく。・・・結局他の客の出入り何て無かったし。そりゃ、あんなヤバそうなとこ、知ってる人間は近寄らねぇか。散々おイタした報いは受けて貰うが・・・お?)
店から先程の輩達が出て来る。
「・・・テメェら、小遣い入ったからと言って、羽目外しすぎて衛兵に持ってかれたりすんなよ!目ぇ付けられてんのはわかってんだろ?」
「わかってますよ!なぁ?」
「アタシ、明日ドレス見たい~!」
「それにしてもあの馬鹿親父、今頃宿でガックリだな?30万も持ち歩いてるヤツなんてそんなに居ねぇぞ?」
「そのおかげで俺達ゃ懐ホクホクよ!みんな!今日は綺麗なお姉ちゃん達はべらせて酒盛りだ!そのまま朝まで・・・グッシッシ!」
(あ~あ。良かったな、チンピラ共。いい思い出来て。・・・今だけの夢、楽しんどけ。後はお仕置き待ってるからよ。)
ミサオは落とし前はキッチリつけるつもりである。
「んじゃ、俺は上に収めてくるから、お前らもこっから早く消えろ!さっきの親父が衛兵やら護衛やら引き連れて戻ってくる事も考えてな。ほら、早く散れ!」
「おいオメェら!兄貴のありがてぇ忠告だ!行くぞ!」
「そうだそうだ!俺なんかもうムラムラしちまってら!」
「アンタは頭ん中、桃色一色かい!ヤダヤダ馬鹿は!」
「うるせいやい!ならお前が付き合えよ!」
「アタシゃ、兄貴一筋!あんたらみたいな馬鹿はお断り!ね?ア~ニキ?」
「・・・後で俺も合流する。そん時ゃ、ゆっくり相手してやるよ。いい子で待っとけよ?」
「いや~ん!早く戻ってね?それじゃ行くよ、バカタレ共!」
「何でお前が仕切ってんだよ?」
ワイワイ夜中に大声をあげながら別れていく輩(やから)達。
(ここでも迷惑野郎のやってるこたぁ変わんねぇな。さぞ美味い酒飲めるだろうよ。末期の酒にならなきゃいいがな・・・。さて、ターゲットは・・・1人ガードにつけてやがるか。そこまで馬鹿じゃねぇ。が、俺には関係ない。んと、浮遊。)
ミサオはその場で中に浮かぶ。
ミサオの存在はとんでもないイレギュラー。
現代世界で知ったファンタジー作品からの流用知識がたまたまハマっただけの事だが、魔法使いなんてこの世界にはこれまで居なかった。
逆にミサオのせいで少しづつ魔法が現実になってきている。
村の人々や同居人などは既に魔法を実際に使えている。
これがどういう未来につながるのか、ミサオも深く考えてはいない。
それはさておき。
ミサオは空中からターゲットの動きを観察し、行方を静かに追う。
(ほぅ・・・。一応尾行を気にしてんじゃん。わざと意味なく曲がって同じ道に出てみたり、Uターンしたりして。やはり機能的に動いてやがんな。ま、空までは想定外だわな。楽でいい。)
男2人は時間をかけて、結局町の中へと戻り、入った建物。
「へ?店の隣?あれだけ歩いて?・・・こりゃ、俺も考えてなかったわ!手間かけてやがんな!盲点だわな!んじゃ、あのチンピラ達もアジト知らんのか・・・。隣だとは思わんな普通。衛兵も目ぇくらまされる訳だ。」
ミサオは裏の領主の組織的な動きに感心する。
「外観の作りからすると・・・商売やってる気配でも無く。家って感じでもねぇな。空き家?そのくらいは衛兵達も調べてんべな。怪しくねぇから放置プレイなんだんべ?なんか裏あんだろ。」
ミサオは輩達が入っていった建物の裏へまわり、静かに着地する。
裏の木戸に耳をつけて物音に注意をはらう。
(・・・下には人の気配は無し。鍵は・・・やっぱかかってやがる。どうすんべ?)
ミサオは侵入方法を考える。
(針金持って来たけど、そう都合よく開けられる訳ねぇよな・・・。俺空き巣とかした事ねぇし。なんかねぇかやり方・・・。ん?ファンタジーの話に出てきたよな?シーフだっけ?宝箱開けたり、罠解除したりするヤツ!あれ、作品で変わるんだよな設定。手先使うなら無理だけど、魔法でいけるなら・・・いけるか?解錠!)
ミサオが心の中で唱える。
(カチャッ。)
「いかん。これはダメ。あまりにチート。どこでも入れんじゃん!・・・針金持って来た俺、バカみてぇじゃんか!・・・ま、結果的にラッキースケベ、いやいやスケベじゃねぇわ。んじゃ、お邪魔しやすよ~。」
見事魔法で鍵を開けたミサオが裏からスルリと建物に忍び込む。
予想通り下には人はいない。
上へと続く階段の方に灯りが漏れている。
(上か・・・。上手く話聞けりゃいいけど。)
ミサオは静かに階段へと向かう。そして階段に足を一歩乗せた時。
(ギイッ。)
「誰だ!」
(ドタドタ・・・。)
(わ!マジ?来ちゃうわ!えと、アレ、隠蔽!)
二階の廊下に立っていたのであろう、店から兄貴と呼ばれた男についていたヤツが、カンテラの様な灯りと短刀の様な物を手にして階段の踊り場まで駆け下りて来る。
「・・・誰か居るのか!出てこい!・・・ねずみ?猫?・・・鍵は閉めてある筈だからな。人間ならわかるか・・・。」
首をひねりながら上へと戻る男。
(・・・っぶね!階段の作り古っ!こりゃ、浮いた方が安全だな?一応顔も布で隠しとく方が万一の時に誤魔化せるか。)
隠蔽。
自らの姿をまわりの風景に同化させる魔法。
ミサオの姿は誰にも見えて居ない。
(・・・ツラの偽装完了!んで浮遊!・・・あれ?さっきみたいに浮かばない?ていうか、狭いとこ上手く移動が・・・音立てたらマズイ。えと、こうか?こうしたら・・・うわ!こうなるか・・・隠蔽解除したら恥ずいぞ?これ人に見られたら絶対恥ずい!・・・カッコ悪い絶対。)
狭いとこでの浮遊。普通に階段を少し浮いて歩ければ良かったのだが、その微調整がミサオにはまだ出来なかった。アレコレやったあげく決まった移動方法。
ヒーローがやってる空飛ぶ姿。
それを低い、かなり低い高さでやっている。平地なら、現代世界の漫画、アラ○ちゃんのスッパ○ンである。
(言ってる場合じゃねぇけど、カッコ悪ぃよ~!目線低いしよ!我慢しろミサオ、階段だけ!今だけ!もう少し・・・ほら平地!お!ドアの前で見張り。やっぱアイツ邪魔だよな・・・。)
ミサオは隠蔽と浮遊の魔法を解かないまま、ドアの前に立つ男のそばへ。呼吸音を聞かれない様に息を止めた状態で男の前へと浮かぶ。
「グッ!・・・。」
突然見えない腕に首元を絞められた男が白目を剥いて意識を失う。倒れ込もうとする男の身体を支え、静かに横たえるミサオ。
(・・・こちとら柔道やってんだ。絞め技くらい出来んだよ。殺さねぇだけマシだと思ってくんな。)
ミサオは部屋のドアに耳をつけて内部をうかがう。
「・・・その様な馬鹿者がおったか。物見遊山で遊びに出て、そなたらみたいな輩に脅かされては、その男も散々じゃのう。」
「へぃ。ケガなどは負わせませんでしたが、さぞ肝が冷えた事でしょう。で、子爵様。例の・・・。」
「わかっておる。貴様らが色々動いてくれておるから、伯爵も頭を悩ませておる。このまま後手に回っておれば、いずれ上の方の耳に入りおろう。そうなれば領地の管理不行き届き。」
「子爵様への陞爵(しょうしゃく)並びに領地の下賜(かし)。その際には我々もおこぼれを・・・。」
「忘れてはおらん。・・伯爵の統治の仕方は甘いと言わざるをえん。民の為とは言いながら、税も法も民に寄り添いすぎておる。我に任せればこの地からより富を生み出せよう。」
「・・・もっと厳しく。そん時ゃ俺らが現場で動きますよ。」
「・・・やり過ぎるなよ?生かさず殺さず。それが統治の秘訣じゃ。殺してしまったら税があがらん。」
「それはごもっとも。せいぜい美味しい汁、吸わせて貰います。」
「互いにな?ハーッハッハッハッハ~!」
(・・・チンピラの集まりどころか子爵?なんだよこれ。ヨコースカさん追い落として、テメェが頭張る絵図描いてんじゃねえか!これデケェ話だぞ?・・・子爵だかなんだか知らねぇが、潰さなきゃダメだわこれ。)
ミサオは浮遊と隠蔽を解いて、部屋のドアを蹴り飛ばして開ける。
(ドガッ!)
「話は聞かせて貰ったわ。裏の領主の親玉さんよ?お前さんの言ってた内容って、それもうクーデターに近いよな?内乱の罪で死罪か?」
「テ、テメェ何者だ!」
店で見た兄貴分が刃物を片手にいきり立つ。
「な、何でこの場に侵入者が。後は付けられておらんと言ったろうが!」
小綺麗な飾りが色々ついた高そうな、いわゆる貴族が着て居そうな服で兄貴分を叱り飛ばす子爵っぽい男。
「いや、確かにつけられちゃおりませんて!・・・俺に恥かかせやがって。死ぬ覚悟は出来てんだろうな?」
威嚇する兄貴分。
「は?死ぬ覚悟?お前その言葉、ブーメランだぞ?」
「ぶうめ?」
兄貴分の顔が一瞬悩む。
「そこじゃねぇ!テメェの言ったセリフそのまま返してやるって事だわ!説明させんな!こっ恥ずかしいわこっちが!」
「意味わからん事ほざきやがって・・・。子爵様。この場が血で汚れますが、何卒・・・。」
「構わぬ!この狼藉者を始末せい!」
「いやいや、何テメェら勝つ気満々でいる訳?廊下のヤツの事とか考えないの?」
「貴様!ヤツの息の根を!」
「殺しちゃいねえよボケ!テメェらみてぇにすぐ殺して解決しねぇんだよ普通は!ま、お前さん達はわからんけどな?」
覆面の見えてる部分。
ミサオの両目が鋭く細くなる。
「死ねや!」
ミサオに兄貴分が突っ込んで来る。
「はい単細胞~。」
ミサオが身体を半身にずらして、兄貴分の刃物を持った手首を手刀で叩き、刃物が落とされる。
「グアッ!・・・クゥ・・・。」
「あれ?おかしいな?どこにも刺さってねぇぞ、なあ?」
あおるミサオ。
「・・・やり過ぎた?そんなに痛い?まさかそんなひ弱だと思わんかった。」
言いたい放題。
ミサオは部屋に乗り込んだ際に、自らに身体強化の魔法をかけている。
その状態での手首への手刀打ち。
男の手首はしっかり骨折している。痛いのも当たり前である。
「お前は邪魔!」
(ドグァッ!)
ミサオが兄貴分を蹴り飛ばし、部屋の隅へとどかす。
「・・・え~っと、子爵さんだっけ?どうすんのこの不始末。」
「き、貴様一体・・・。は、伯爵殿の手の者か?我の計画をどこまで・・・。」
「は?伯爵?知らんがな!チンピラ共が町の人達にとって迷惑だったから喧嘩売りに来たら、アンタがたまたまいやがった。まさかこんな大物絡んでるとは、俺もビックリだわ!」
半分は本心である。
「・・・それだけの度胸があるのなら、ど、どうだ?わ、我の配下とならんか?金ならやろう!我が偉くなれば爵位も考えようぞ!どうだ!悪い話ではなかろ?」
(もっと面白い条件出してみろよまったく。悪役テンプレまんまじゃねぇか!ま、俺もノリでやってる部分あるけどな?)
「クソだなアンタ。俺は権力とかに興味ねぇの!毎日笑って、美味い飯食って気の良い仲間と暮らせれば。ヘコヘコお偉いさんに気ぃ使っての生活なんか、肩凝って死んじまうわ!・・・んでアンタ。ここまでの事やらかしたんだ。覚悟、してるんだよな?当然。」
ミサオがゆっくり子爵と呼ばれた男に近付いてゆく。
「くっ!もはやこれまでか・・・。ならばせめて、せめて貴様の名を教えよ。敵の名すらわからぬままと言うのもモヤモヤする。」
(え?面倒くせぇなぁ・・・。大体貴族でもねぇのに名乗るヤツおらんだろ!)
「・・・げいぬ。」
小さく、少し恥ずかしそうに言うミサオ。
「何?今何と申した?」
「か~げ~い~ぬ!影犬だ!子爵様よ?俺にこっ恥ずかしい名前名乗らせたんだ。おたくも同じ思いしてもらうぜ?な?」
「き、貴様何を考えておる?何を笑っておる?や、やめろ!触るな!脱がそうとするな!やめ、やめろ!やめてくれ~!」
子爵の絶叫。
翌日。
町の中に噂が駆け巡る。
例の問題であったあやしげ亭の隣の建物に2人の男が二階の窓から吊るされていたらしい。2人とも下着姿。1人はズタボロ。もう1人はずっと叫んでいた様子。深夜の騒ぎだったが、大勢の衛兵達によって男2人はそのまま詰所に引っ立てられたらしい。詳しく知る者は居ないが、領主自らが詰所まで出張った姿を見た者がおり、2人が余程大物なのではないかと話が膨らむ。今チュウオーの町で一番ホットな話題。
さてその渦中の謎の男と言えば・・・。
「ミサオ!昨日は遅かったじゃん?仕事、残業かい?」
味噌汁を作るミサオの肩をヤヨイが軽く叩く。
「ふぁ~あ!おはよ。まさか初日から夜ふかしするとは俺も思わんかったわ。眠ぃよまだ。」
「おはようございます。・・・ミサオさん、また朝食作ってる!・・・で、昨日の仕事、大丈夫だったんですか?」
クミコが問いかける。
「ん?あぁ、大した事無く終わったよ。・・・でも報告はしてないんだよな。夜遅かったし。ま、特にデカい内容だとも思えないし。未然に防いだんだから褒めてもらえんでしょ。」
ミサオの計算は甘い。
いつもの皆での朝食の後には、しっかり町でお小言が待ち構えている。
ミサオは寝不足のまま、いつもの通りの食事を取る。
自らの行動がとんでもない事だという自覚もないままに。
ーーーーーーーーーーーー
あとがき
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
第17話では、ミサオが標的の「兄貴」と子爵の悪事を暴き、屋根裏から監視、潜入、そして制裁までを一気に仕上げる姿が描かれました。
名乗らされた「影犬」という呼び名が、町に噂として広がり、ミサオの存在が少しずつ町に刻まれていきます。
一方で、彼自身はまだその重大さに気付かず、いつもの朝を迎える姿が、彼らしいですね。
シリーズ本編『家族で異世界冒険譚(ターン)!第2部 ~永井家異世界東奔西走~』も完結しておりますので、ぜひそちらも併せてお楽しみください。
店の灯りがふと消える。
(遅ぇよまったく。・・・結局他の客の出入り何て無かったし。そりゃ、あんなヤバそうなとこ、知ってる人間は近寄らねぇか。散々おイタした報いは受けて貰うが・・・お?)
店から先程の輩達が出て来る。
「・・・テメェら、小遣い入ったからと言って、羽目外しすぎて衛兵に持ってかれたりすんなよ!目ぇ付けられてんのはわかってんだろ?」
「わかってますよ!なぁ?」
「アタシ、明日ドレス見たい~!」
「それにしてもあの馬鹿親父、今頃宿でガックリだな?30万も持ち歩いてるヤツなんてそんなに居ねぇぞ?」
「そのおかげで俺達ゃ懐ホクホクよ!みんな!今日は綺麗なお姉ちゃん達はべらせて酒盛りだ!そのまま朝まで・・・グッシッシ!」
(あ~あ。良かったな、チンピラ共。いい思い出来て。・・・今だけの夢、楽しんどけ。後はお仕置き待ってるからよ。)
ミサオは落とし前はキッチリつけるつもりである。
「んじゃ、俺は上に収めてくるから、お前らもこっから早く消えろ!さっきの親父が衛兵やら護衛やら引き連れて戻ってくる事も考えてな。ほら、早く散れ!」
「おいオメェら!兄貴のありがてぇ忠告だ!行くぞ!」
「そうだそうだ!俺なんかもうムラムラしちまってら!」
「アンタは頭ん中、桃色一色かい!ヤダヤダ馬鹿は!」
「うるせいやい!ならお前が付き合えよ!」
「アタシゃ、兄貴一筋!あんたらみたいな馬鹿はお断り!ね?ア~ニキ?」
「・・・後で俺も合流する。そん時ゃ、ゆっくり相手してやるよ。いい子で待っとけよ?」
「いや~ん!早く戻ってね?それじゃ行くよ、バカタレ共!」
「何でお前が仕切ってんだよ?」
ワイワイ夜中に大声をあげながら別れていく輩(やから)達。
(ここでも迷惑野郎のやってるこたぁ変わんねぇな。さぞ美味い酒飲めるだろうよ。末期の酒にならなきゃいいがな・・・。さて、ターゲットは・・・1人ガードにつけてやがるか。そこまで馬鹿じゃねぇ。が、俺には関係ない。んと、浮遊。)
ミサオはその場で中に浮かぶ。
ミサオの存在はとんでもないイレギュラー。
現代世界で知ったファンタジー作品からの流用知識がたまたまハマっただけの事だが、魔法使いなんてこの世界にはこれまで居なかった。
逆にミサオのせいで少しづつ魔法が現実になってきている。
村の人々や同居人などは既に魔法を実際に使えている。
これがどういう未来につながるのか、ミサオも深く考えてはいない。
それはさておき。
ミサオは空中からターゲットの動きを観察し、行方を静かに追う。
(ほぅ・・・。一応尾行を気にしてんじゃん。わざと意味なく曲がって同じ道に出てみたり、Uターンしたりして。やはり機能的に動いてやがんな。ま、空までは想定外だわな。楽でいい。)
男2人は時間をかけて、結局町の中へと戻り、入った建物。
「へ?店の隣?あれだけ歩いて?・・・こりゃ、俺も考えてなかったわ!手間かけてやがんな!盲点だわな!んじゃ、あのチンピラ達もアジト知らんのか・・・。隣だとは思わんな普通。衛兵も目ぇくらまされる訳だ。」
ミサオは裏の領主の組織的な動きに感心する。
「外観の作りからすると・・・商売やってる気配でも無く。家って感じでもねぇな。空き家?そのくらいは衛兵達も調べてんべな。怪しくねぇから放置プレイなんだんべ?なんか裏あんだろ。」
ミサオは輩達が入っていった建物の裏へまわり、静かに着地する。
裏の木戸に耳をつけて物音に注意をはらう。
(・・・下には人の気配は無し。鍵は・・・やっぱかかってやがる。どうすんべ?)
ミサオは侵入方法を考える。
(針金持って来たけど、そう都合よく開けられる訳ねぇよな・・・。俺空き巣とかした事ねぇし。なんかねぇかやり方・・・。ん?ファンタジーの話に出てきたよな?シーフだっけ?宝箱開けたり、罠解除したりするヤツ!あれ、作品で変わるんだよな設定。手先使うなら無理だけど、魔法でいけるなら・・・いけるか?解錠!)
ミサオが心の中で唱える。
(カチャッ。)
「いかん。これはダメ。あまりにチート。どこでも入れんじゃん!・・・針金持って来た俺、バカみてぇじゃんか!・・・ま、結果的にラッキースケベ、いやいやスケベじゃねぇわ。んじゃ、お邪魔しやすよ~。」
見事魔法で鍵を開けたミサオが裏からスルリと建物に忍び込む。
予想通り下には人はいない。
上へと続く階段の方に灯りが漏れている。
(上か・・・。上手く話聞けりゃいいけど。)
ミサオは静かに階段へと向かう。そして階段に足を一歩乗せた時。
(ギイッ。)
「誰だ!」
(ドタドタ・・・。)
(わ!マジ?来ちゃうわ!えと、アレ、隠蔽!)
二階の廊下に立っていたのであろう、店から兄貴と呼ばれた男についていたヤツが、カンテラの様な灯りと短刀の様な物を手にして階段の踊り場まで駆け下りて来る。
「・・・誰か居るのか!出てこい!・・・ねずみ?猫?・・・鍵は閉めてある筈だからな。人間ならわかるか・・・。」
首をひねりながら上へと戻る男。
(・・・っぶね!階段の作り古っ!こりゃ、浮いた方が安全だな?一応顔も布で隠しとく方が万一の時に誤魔化せるか。)
隠蔽。
自らの姿をまわりの風景に同化させる魔法。
ミサオの姿は誰にも見えて居ない。
(・・・ツラの偽装完了!んで浮遊!・・・あれ?さっきみたいに浮かばない?ていうか、狭いとこ上手く移動が・・・音立てたらマズイ。えと、こうか?こうしたら・・・うわ!こうなるか・・・隠蔽解除したら恥ずいぞ?これ人に見られたら絶対恥ずい!・・・カッコ悪い絶対。)
狭いとこでの浮遊。普通に階段を少し浮いて歩ければ良かったのだが、その微調整がミサオにはまだ出来なかった。アレコレやったあげく決まった移動方法。
ヒーローがやってる空飛ぶ姿。
それを低い、かなり低い高さでやっている。平地なら、現代世界の漫画、アラ○ちゃんのスッパ○ンである。
(言ってる場合じゃねぇけど、カッコ悪ぃよ~!目線低いしよ!我慢しろミサオ、階段だけ!今だけ!もう少し・・・ほら平地!お!ドアの前で見張り。やっぱアイツ邪魔だよな・・・。)
ミサオは隠蔽と浮遊の魔法を解かないまま、ドアの前に立つ男のそばへ。呼吸音を聞かれない様に息を止めた状態で男の前へと浮かぶ。
「グッ!・・・。」
突然見えない腕に首元を絞められた男が白目を剥いて意識を失う。倒れ込もうとする男の身体を支え、静かに横たえるミサオ。
(・・・こちとら柔道やってんだ。絞め技くらい出来んだよ。殺さねぇだけマシだと思ってくんな。)
ミサオは部屋のドアに耳をつけて内部をうかがう。
「・・・その様な馬鹿者がおったか。物見遊山で遊びに出て、そなたらみたいな輩に脅かされては、その男も散々じゃのう。」
「へぃ。ケガなどは負わせませんでしたが、さぞ肝が冷えた事でしょう。で、子爵様。例の・・・。」
「わかっておる。貴様らが色々動いてくれておるから、伯爵も頭を悩ませておる。このまま後手に回っておれば、いずれ上の方の耳に入りおろう。そうなれば領地の管理不行き届き。」
「子爵様への陞爵(しょうしゃく)並びに領地の下賜(かし)。その際には我々もおこぼれを・・・。」
「忘れてはおらん。・・伯爵の統治の仕方は甘いと言わざるをえん。民の為とは言いながら、税も法も民に寄り添いすぎておる。我に任せればこの地からより富を生み出せよう。」
「・・・もっと厳しく。そん時ゃ俺らが現場で動きますよ。」
「・・・やり過ぎるなよ?生かさず殺さず。それが統治の秘訣じゃ。殺してしまったら税があがらん。」
「それはごもっとも。せいぜい美味しい汁、吸わせて貰います。」
「互いにな?ハーッハッハッハッハ~!」
(・・・チンピラの集まりどころか子爵?なんだよこれ。ヨコースカさん追い落として、テメェが頭張る絵図描いてんじゃねえか!これデケェ話だぞ?・・・子爵だかなんだか知らねぇが、潰さなきゃダメだわこれ。)
ミサオは浮遊と隠蔽を解いて、部屋のドアを蹴り飛ばして開ける。
(ドガッ!)
「話は聞かせて貰ったわ。裏の領主の親玉さんよ?お前さんの言ってた内容って、それもうクーデターに近いよな?内乱の罪で死罪か?」
「テ、テメェ何者だ!」
店で見た兄貴分が刃物を片手にいきり立つ。
「な、何でこの場に侵入者が。後は付けられておらんと言ったろうが!」
小綺麗な飾りが色々ついた高そうな、いわゆる貴族が着て居そうな服で兄貴分を叱り飛ばす子爵っぽい男。
「いや、確かにつけられちゃおりませんて!・・・俺に恥かかせやがって。死ぬ覚悟は出来てんだろうな?」
威嚇する兄貴分。
「は?死ぬ覚悟?お前その言葉、ブーメランだぞ?」
「ぶうめ?」
兄貴分の顔が一瞬悩む。
「そこじゃねぇ!テメェの言ったセリフそのまま返してやるって事だわ!説明させんな!こっ恥ずかしいわこっちが!」
「意味わからん事ほざきやがって・・・。子爵様。この場が血で汚れますが、何卒・・・。」
「構わぬ!この狼藉者を始末せい!」
「いやいや、何テメェら勝つ気満々でいる訳?廊下のヤツの事とか考えないの?」
「貴様!ヤツの息の根を!」
「殺しちゃいねえよボケ!テメェらみてぇにすぐ殺して解決しねぇんだよ普通は!ま、お前さん達はわからんけどな?」
覆面の見えてる部分。
ミサオの両目が鋭く細くなる。
「死ねや!」
ミサオに兄貴分が突っ込んで来る。
「はい単細胞~。」
ミサオが身体を半身にずらして、兄貴分の刃物を持った手首を手刀で叩き、刃物が落とされる。
「グアッ!・・・クゥ・・・。」
「あれ?おかしいな?どこにも刺さってねぇぞ、なあ?」
あおるミサオ。
「・・・やり過ぎた?そんなに痛い?まさかそんなひ弱だと思わんかった。」
言いたい放題。
ミサオは部屋に乗り込んだ際に、自らに身体強化の魔法をかけている。
その状態での手首への手刀打ち。
男の手首はしっかり骨折している。痛いのも当たり前である。
「お前は邪魔!」
(ドグァッ!)
ミサオが兄貴分を蹴り飛ばし、部屋の隅へとどかす。
「・・・え~っと、子爵さんだっけ?どうすんのこの不始末。」
「き、貴様一体・・・。は、伯爵殿の手の者か?我の計画をどこまで・・・。」
「は?伯爵?知らんがな!チンピラ共が町の人達にとって迷惑だったから喧嘩売りに来たら、アンタがたまたまいやがった。まさかこんな大物絡んでるとは、俺もビックリだわ!」
半分は本心である。
「・・・それだけの度胸があるのなら、ど、どうだ?わ、我の配下とならんか?金ならやろう!我が偉くなれば爵位も考えようぞ!どうだ!悪い話ではなかろ?」
(もっと面白い条件出してみろよまったく。悪役テンプレまんまじゃねぇか!ま、俺もノリでやってる部分あるけどな?)
「クソだなアンタ。俺は権力とかに興味ねぇの!毎日笑って、美味い飯食って気の良い仲間と暮らせれば。ヘコヘコお偉いさんに気ぃ使っての生活なんか、肩凝って死んじまうわ!・・・んでアンタ。ここまでの事やらかしたんだ。覚悟、してるんだよな?当然。」
ミサオがゆっくり子爵と呼ばれた男に近付いてゆく。
「くっ!もはやこれまでか・・・。ならばせめて、せめて貴様の名を教えよ。敵の名すらわからぬままと言うのもモヤモヤする。」
(え?面倒くせぇなぁ・・・。大体貴族でもねぇのに名乗るヤツおらんだろ!)
「・・・げいぬ。」
小さく、少し恥ずかしそうに言うミサオ。
「何?今何と申した?」
「か~げ~い~ぬ!影犬だ!子爵様よ?俺にこっ恥ずかしい名前名乗らせたんだ。おたくも同じ思いしてもらうぜ?な?」
「き、貴様何を考えておる?何を笑っておる?や、やめろ!触るな!脱がそうとするな!やめ、やめろ!やめてくれ~!」
子爵の絶叫。
翌日。
町の中に噂が駆け巡る。
例の問題であったあやしげ亭の隣の建物に2人の男が二階の窓から吊るされていたらしい。2人とも下着姿。1人はズタボロ。もう1人はずっと叫んでいた様子。深夜の騒ぎだったが、大勢の衛兵達によって男2人はそのまま詰所に引っ立てられたらしい。詳しく知る者は居ないが、領主自らが詰所まで出張った姿を見た者がおり、2人が余程大物なのではないかと話が膨らむ。今チュウオーの町で一番ホットな話題。
さてその渦中の謎の男と言えば・・・。
「ミサオ!昨日は遅かったじゃん?仕事、残業かい?」
味噌汁を作るミサオの肩をヤヨイが軽く叩く。
「ふぁ~あ!おはよ。まさか初日から夜ふかしするとは俺も思わんかったわ。眠ぃよまだ。」
「おはようございます。・・・ミサオさん、また朝食作ってる!・・・で、昨日の仕事、大丈夫だったんですか?」
クミコが問いかける。
「ん?あぁ、大した事無く終わったよ。・・・でも報告はしてないんだよな。夜遅かったし。ま、特にデカい内容だとも思えないし。未然に防いだんだから褒めてもらえんでしょ。」
ミサオの計算は甘い。
いつもの皆での朝食の後には、しっかり町でお小言が待ち構えている。
ミサオは寝不足のまま、いつもの通りの食事を取る。
自らの行動がとんでもない事だという自覚もないままに。
ーーーーーーーーーーーー
あとがき
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
第17話では、ミサオが標的の「兄貴」と子爵の悪事を暴き、屋根裏から監視、潜入、そして制裁までを一気に仕上げる姿が描かれました。
名乗らされた「影犬」という呼び名が、町に噂として広がり、ミサオの存在が少しずつ町に刻まれていきます。
一方で、彼自身はまだその重大さに気付かず、いつもの朝を迎える姿が、彼らしいですね。
シリーズ本編『家族で異世界冒険譚(ターン)!第2部 ~永井家異世界東奔西走~』も完結しておりますので、ぜひそちらも併せてお楽しみください。
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さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~
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主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
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こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
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旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
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【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
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