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第25話 皇との謁見──4人の旧友と、異邦の男
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異世界での初めての寿司を満喫したミサオ・クミコ・ヤヨイの3人。
次の日もご領主様の都合によって完全オフである。昨日の夜市の場所より遠出してあちこち散策する予定らしい。
そしてその領主であるヨコースカ伯爵。
様々な思惑を抱えたヨコースカは、この日皇であるタロウとの謁見を申し込んでいる。
朝から自らの皇都別邸から身の回りの世話を行う者を呼びつけている。
服装などに失礼があってはならない。
「今日もお似合いでございます。ご当主様。」
「妻でも居れば、こちらの屋敷も使う頻度が増えるのだがな。さみしい思いをさせるな。ゴンザ。」
「何をおっしゃいますやら。こちらの屋敷の者達、皆仲良く館の管理をしておりますゆえ、お気になさらず。」
ゴンザと呼ばれた別邸の家令は皇都でのヨコースカの身の回り全般を取り仕切っている人物。
居ない間の根回し等もお手の物。この日はヨコースカの指示もあり、侍女などは連れて来ていない。
「・・・謁見となりますと、やはり例の・・・。」
「言わねばなるまい。損得だけなら黙っておく事もしよう。しかし国を想えばその様な利己的な思考ではいかぬわ。国。それは民あってのもの。その民が利する内容となれば、言わずにはおけぬ。」
「・・・左様でございますか。ご当主様はそこまで民を想っておられると言うのに、他の貴族様方は、なんと私利私欲に走られている事か。嘆かわしゅうございます。」
「そう言うなゴンザ。人というものは善であり悪。そこに様々な思惑が絡むとどちらかに天秤が傾くだけの事。かつては善良な者が、家族や領民、金銭や愛憎、色々な事で悪事に手を染める。又、その逆も然り。ままならぬものよ。」
淡々と進む主従の会話。
(コンコン。)
「失礼致します!皇のご準備が整われた様にございます!伯爵様におかれましては、先にお待ちの内政卿・外政卿の両名様と共に歓談室にてお待ち下さいませ!」
「承知。・・・案内を頼む。ゴンザ。行ってくる。」
「ご当主様の想いが伝わる事を祈りつつお待ち申し上げます。」
ゴンザが部屋のドアを開けて腰を折る。
ドアを叩いた近衛の兵に先導され、ヨコースカは城内の歓談室へと向かう。
人々へのお披露目などは謁見の間。
大勢の者達で論を交わすのが貴賓室。
そして・・・密談に近い内容や身内だけで集まる場所が歓談室。
これだけでヨコースカの話の中身が知れる。
内政卿は国内の取り仕切りのトップ。
外政卿は外交と・・・戦時のトップ。内と外。両名の国のトップもこの場に揃っている。
「ヨコースカ伯爵!お見えになられました!」
歓談室のドアが静かに開く。
城内である。
決して狭くはないその室内。
円形のテーブルと椅子が幾つも並べられている。中央のテーブルに男性が2人座っている。
1人は白。もう1人は黒。それぞれ礼服である。
内政卿・外政卿共に爵位は公爵。
つまり皇の親戚縁者である。
だが、その能力にはどちらも定評がある。決して皇族に連なる者という立場にあぐらをかいては居ない。
「ヨコースカ卿。久しぶりだな?」
内政卿、シンノスケ・トクーダが声をかける。
「トクーダ公爵におかれましては、本日も凛々しいお姿を拝見して、私も安堵する次第にございます。」
「おいおい!歓談室だぞ?他の目も無いんだ!昔の口調にもどせよ!」
外政卿、タダチカ・キシューが2人の会話に茶々を入れる。
この国の皇タロウと2人の実務トップ。そしてヨコースカの4人は幼少の折、騎士学校で同じ釜の飯を食った仲。同期の間柄なのである。
「キシュー卿。その様な訳には・・・。」
「良い良い!のう?シンノスケ!」
「このいとこは堅苦しいのが苦手な様で。クニチカ。構わんだろ?」
2人の学友に言われてはヨコースカも仕方ない。
「シンノスケもタダチカも、国の政(まつりごと)を預かる身だと言うのに若い事よ!」
「よく言うわクニチカ!貴様ものんびり田舎で独り身、悠々自適の暮らしじゃろ?代わって欲しい所よ!なぁタダチカ?」
「確かにそれは一考の価値有り。どうだクニチカ。我と代わらぬか?」
「2人は冗談ばかり!皇に叱られますぞ?」
「何を言う!おぬしこそ侯爵の進めも固持して今の爵位に留まりおって!それこそ叱られる所業じゃわ!」
「皇がお見えになられましたー!」
近衛の声に3人が立ち上がる。
白と黒。そしてヨコースカの赤い礼服。
ドアが開かれ、皇、タロウが入室する。
3人はその場に跪(ひざまず)いて臣下の礼を取る。
「・・・表を上げよ。・・・皆息災そうで何より。・・・さて、人の目も無い。いつもの様に話すか。シンノスケ、タダチカ、クニチカ。久しいな?この4名で揃うのは。してクニチカ。内々の相談と聞いた。何事だ?」
皇であるタロウ。この国の象徴である皇族は、皇になると同時に名字が無くなる。その妻も。
皇子や皇女には名字が残る。
ちなみにタロウの皇子時代はタロウ・オワーリ。
従って子供達も名字はオワーリとなっている。
つまり他の3人とはタロウ・オワーリ時代からの学友である。
「・・・実は、とんでもない人物が現れました。この国だけでなく、多分他国にも噂でも聞いた事が無い話になろうかと。」
「クニチカ。中々面白そうな話じゃな?それはこの国の為になる人物であろう者か?」
タロウの興味を引いた様である。
「今は我の下で領民の為に働いて貰っておりますがはてさて・・・。この先は読めませぬ。何せその男。この世界の者ではありませぬ故。」
「何!この世界の者じゃねぇだと?どういう事だ!他国の者と間違えてはいないのか?」
外政卿であるシンノスケの口調が変わる。
「落ち着けシンノスケ。クニチカは嘘など言わぬ。それははお主も知っておろう?してそれを信ずる証はあるのか?」
タダチカが先の話をほどこす。
「最初に会った時の面妖な服装。持ち物も材質がこの国に無き物。・・・何よりその男。奇っ怪な術を操る手練れ。」
「奇っ怪な術?それは一体なんじゃ?」
タロウも想像がつかない様である。
「おとぎ話に聞く魔法。それを彼の者は使用しておりました。我の目の前で。何も無い所で火を起こし、水を生み出し、風や土を自由に操りまする。その上此奴は・・・空さえも飛び回れました。全て私のこの目の前で。」
「冗談・・・では無いのだな?クニチカ。」
この時のタロウの目は細くなっている。
目まぐるしく思考が回転しているのだろう。
「はい。この男。今はこの国のあれやこれやを生活の中でまだ学んでる段階ではございますが、知識を広げ、経験を積んだ後に、どの様な行動に出るのかは読めませぬ。根は善良なのでしょうが、暮らしてきた世界が違うせいなのか、たまにこの国の民との生活習慣のずれなども見受けられます。しかし今は私の裏の腕と成りて悪人共の成敗を行っておりますれば、真摯な導きによってこの国の民に益する事が有るのではないかと愚考し、奏上申し上げた次第にございまする。」
一息に告げる伯爵ヨコースカ。
「・・・その様な力を持つ者が果たして縛られるのを是とするものか?その力を持ってすれば、小国の王になるのも夢ではなかろう!」
シンノスケが熱く語る。
「我もその様な考えにも至りましたが、見ている中ではその様な野心も見受けられませぬ。しかもその魔法。この国の民の一部に、伝授されている模様にござりまする。」
「・・・それらが全て本当の話なら、放置する内容ではない。敵に回せば兵をどれだけ用意しなければならないのか見当もつかぬ。」
眉間にシワを寄せるタダチカ。
「一部の民に伝授されたと申したな?それはどれくらいの人数なのじゃ?男か女か。年寄りか子供か。何か伝授の秘密が有るのか?」
タロウがクニチカに問う。
「その男。ミサオ・ナガイが居を共にする女性2人と、その女性達の出身の村の者達が、未熟ながらも魔法を操れる様になった様子にございます。・・・尚、今回の移送に、その男と同居の女性、都合3名は我の裏の護衛として付き従わせておりまする。その際、女性の方も度重なる襲撃撃退に貢献しておりまする。」
「・・・攻撃。防衛。それをおなごが行ったと申すのか・・・。」
「皇よ。どの様にお考えになりまするか?」
「・・・流石に目にせぬ者をいかようにも出来はすまい。しかし城の手の者に詳しい人となりを調べさせねばならぬ。クニチカ。そちの帰りに帯同させる事は出来ぬか?それからでなければ判断が危ぶまれる。国の民を益する為には、間違っても敵にまわす訳にはいかぬ。みだりに兵を動かすのも下策。クニチカ。もう少しそのままその男を、裏の手の者として動かしておいてもらえぬか。」
「皇の御心のままに。」
「明日のそなたの出立までにはこちらの者の人選も済ませよう。なるべくならそのミサオなる者の観察が出来る様に差配してくれ。」
「御意。ならばその者も戻り次第我の手の者に組み入れる名目で差配致しましょう。」
「やれやれ。旧交を温める話にはならんようだの?」
外政卿がため息をつく。
「時間はまだありますよシンノスケ。たまには皇に楽しい昔話でも奏じあげてみては?初恋の話など。」
内政卿が場を和ます様に言う。
「あの、茶屋で珍しく文など渡して、後に断られた話か!あれは今でも傑作じゃ!良い!もう一度聴かせてもらおう!」
「皇よ!そんなにいじめて下さいますな!」
「・・・結局こうなりますか。・・・たまにはよろしいですな?シンノスケ。我もあの場には帯同した。文の内容は我が説明しよう。」
「クニチカ!それはやめろ!まだ2人には言っておらんのだ!」
歓談室での密談は、いつしか学友の昔語りとなった様である。
ーーーーーーーーーーーー
あとがき
このエピソードには、ヨコースカ伯爵の政治的動きと皇族・実務トップとの関係性、そしてミサオの存在がいかに国政に影響を及ぼす可能性を秘めているかが描かれています。次話以降で、城の密命を帯びた観察者との接触や、さらなる波紋が広がることが予想されます。
次回をお楽しみに!
次の日もご領主様の都合によって完全オフである。昨日の夜市の場所より遠出してあちこち散策する予定らしい。
そしてその領主であるヨコースカ伯爵。
様々な思惑を抱えたヨコースカは、この日皇であるタロウとの謁見を申し込んでいる。
朝から自らの皇都別邸から身の回りの世話を行う者を呼びつけている。
服装などに失礼があってはならない。
「今日もお似合いでございます。ご当主様。」
「妻でも居れば、こちらの屋敷も使う頻度が増えるのだがな。さみしい思いをさせるな。ゴンザ。」
「何をおっしゃいますやら。こちらの屋敷の者達、皆仲良く館の管理をしておりますゆえ、お気になさらず。」
ゴンザと呼ばれた別邸の家令は皇都でのヨコースカの身の回り全般を取り仕切っている人物。
居ない間の根回し等もお手の物。この日はヨコースカの指示もあり、侍女などは連れて来ていない。
「・・・謁見となりますと、やはり例の・・・。」
「言わねばなるまい。損得だけなら黙っておく事もしよう。しかし国を想えばその様な利己的な思考ではいかぬわ。国。それは民あってのもの。その民が利する内容となれば、言わずにはおけぬ。」
「・・・左様でございますか。ご当主様はそこまで民を想っておられると言うのに、他の貴族様方は、なんと私利私欲に走られている事か。嘆かわしゅうございます。」
「そう言うなゴンザ。人というものは善であり悪。そこに様々な思惑が絡むとどちらかに天秤が傾くだけの事。かつては善良な者が、家族や領民、金銭や愛憎、色々な事で悪事に手を染める。又、その逆も然り。ままならぬものよ。」
淡々と進む主従の会話。
(コンコン。)
「失礼致します!皇のご準備が整われた様にございます!伯爵様におかれましては、先にお待ちの内政卿・外政卿の両名様と共に歓談室にてお待ち下さいませ!」
「承知。・・・案内を頼む。ゴンザ。行ってくる。」
「ご当主様の想いが伝わる事を祈りつつお待ち申し上げます。」
ゴンザが部屋のドアを開けて腰を折る。
ドアを叩いた近衛の兵に先導され、ヨコースカは城内の歓談室へと向かう。
人々へのお披露目などは謁見の間。
大勢の者達で論を交わすのが貴賓室。
そして・・・密談に近い内容や身内だけで集まる場所が歓談室。
これだけでヨコースカの話の中身が知れる。
内政卿は国内の取り仕切りのトップ。
外政卿は外交と・・・戦時のトップ。内と外。両名の国のトップもこの場に揃っている。
「ヨコースカ伯爵!お見えになられました!」
歓談室のドアが静かに開く。
城内である。
決して狭くはないその室内。
円形のテーブルと椅子が幾つも並べられている。中央のテーブルに男性が2人座っている。
1人は白。もう1人は黒。それぞれ礼服である。
内政卿・外政卿共に爵位は公爵。
つまり皇の親戚縁者である。
だが、その能力にはどちらも定評がある。決して皇族に連なる者という立場にあぐらをかいては居ない。
「ヨコースカ卿。久しぶりだな?」
内政卿、シンノスケ・トクーダが声をかける。
「トクーダ公爵におかれましては、本日も凛々しいお姿を拝見して、私も安堵する次第にございます。」
「おいおい!歓談室だぞ?他の目も無いんだ!昔の口調にもどせよ!」
外政卿、タダチカ・キシューが2人の会話に茶々を入れる。
この国の皇タロウと2人の実務トップ。そしてヨコースカの4人は幼少の折、騎士学校で同じ釜の飯を食った仲。同期の間柄なのである。
「キシュー卿。その様な訳には・・・。」
「良い良い!のう?シンノスケ!」
「このいとこは堅苦しいのが苦手な様で。クニチカ。構わんだろ?」
2人の学友に言われてはヨコースカも仕方ない。
「シンノスケもタダチカも、国の政(まつりごと)を預かる身だと言うのに若い事よ!」
「よく言うわクニチカ!貴様ものんびり田舎で独り身、悠々自適の暮らしじゃろ?代わって欲しい所よ!なぁタダチカ?」
「確かにそれは一考の価値有り。どうだクニチカ。我と代わらぬか?」
「2人は冗談ばかり!皇に叱られますぞ?」
「何を言う!おぬしこそ侯爵の進めも固持して今の爵位に留まりおって!それこそ叱られる所業じゃわ!」
「皇がお見えになられましたー!」
近衛の声に3人が立ち上がる。
白と黒。そしてヨコースカの赤い礼服。
ドアが開かれ、皇、タロウが入室する。
3人はその場に跪(ひざまず)いて臣下の礼を取る。
「・・・表を上げよ。・・・皆息災そうで何より。・・・さて、人の目も無い。いつもの様に話すか。シンノスケ、タダチカ、クニチカ。久しいな?この4名で揃うのは。してクニチカ。内々の相談と聞いた。何事だ?」
皇であるタロウ。この国の象徴である皇族は、皇になると同時に名字が無くなる。その妻も。
皇子や皇女には名字が残る。
ちなみにタロウの皇子時代はタロウ・オワーリ。
従って子供達も名字はオワーリとなっている。
つまり他の3人とはタロウ・オワーリ時代からの学友である。
「・・・実は、とんでもない人物が現れました。この国だけでなく、多分他国にも噂でも聞いた事が無い話になろうかと。」
「クニチカ。中々面白そうな話じゃな?それはこの国の為になる人物であろう者か?」
タロウの興味を引いた様である。
「今は我の下で領民の為に働いて貰っておりますがはてさて・・・。この先は読めませぬ。何せその男。この世界の者ではありませぬ故。」
「何!この世界の者じゃねぇだと?どういう事だ!他国の者と間違えてはいないのか?」
外政卿であるシンノスケの口調が変わる。
「落ち着けシンノスケ。クニチカは嘘など言わぬ。それははお主も知っておろう?してそれを信ずる証はあるのか?」
タダチカが先の話をほどこす。
「最初に会った時の面妖な服装。持ち物も材質がこの国に無き物。・・・何よりその男。奇っ怪な術を操る手練れ。」
「奇っ怪な術?それは一体なんじゃ?」
タロウも想像がつかない様である。
「おとぎ話に聞く魔法。それを彼の者は使用しておりました。我の目の前で。何も無い所で火を起こし、水を生み出し、風や土を自由に操りまする。その上此奴は・・・空さえも飛び回れました。全て私のこの目の前で。」
「冗談・・・では無いのだな?クニチカ。」
この時のタロウの目は細くなっている。
目まぐるしく思考が回転しているのだろう。
「はい。この男。今はこの国のあれやこれやを生活の中でまだ学んでる段階ではございますが、知識を広げ、経験を積んだ後に、どの様な行動に出るのかは読めませぬ。根は善良なのでしょうが、暮らしてきた世界が違うせいなのか、たまにこの国の民との生活習慣のずれなども見受けられます。しかし今は私の裏の腕と成りて悪人共の成敗を行っておりますれば、真摯な導きによってこの国の民に益する事が有るのではないかと愚考し、奏上申し上げた次第にございまする。」
一息に告げる伯爵ヨコースカ。
「・・・その様な力を持つ者が果たして縛られるのを是とするものか?その力を持ってすれば、小国の王になるのも夢ではなかろう!」
シンノスケが熱く語る。
「我もその様な考えにも至りましたが、見ている中ではその様な野心も見受けられませぬ。しかもその魔法。この国の民の一部に、伝授されている模様にござりまする。」
「・・・それらが全て本当の話なら、放置する内容ではない。敵に回せば兵をどれだけ用意しなければならないのか見当もつかぬ。」
眉間にシワを寄せるタダチカ。
「一部の民に伝授されたと申したな?それはどれくらいの人数なのじゃ?男か女か。年寄りか子供か。何か伝授の秘密が有るのか?」
タロウがクニチカに問う。
「その男。ミサオ・ナガイが居を共にする女性2人と、その女性達の出身の村の者達が、未熟ながらも魔法を操れる様になった様子にございます。・・・尚、今回の移送に、その男と同居の女性、都合3名は我の裏の護衛として付き従わせておりまする。その際、女性の方も度重なる襲撃撃退に貢献しておりまする。」
「・・・攻撃。防衛。それをおなごが行ったと申すのか・・・。」
「皇よ。どの様にお考えになりまするか?」
「・・・流石に目にせぬ者をいかようにも出来はすまい。しかし城の手の者に詳しい人となりを調べさせねばならぬ。クニチカ。そちの帰りに帯同させる事は出来ぬか?それからでなければ判断が危ぶまれる。国の民を益する為には、間違っても敵にまわす訳にはいかぬ。みだりに兵を動かすのも下策。クニチカ。もう少しそのままその男を、裏の手の者として動かしておいてもらえぬか。」
「皇の御心のままに。」
「明日のそなたの出立までにはこちらの者の人選も済ませよう。なるべくならそのミサオなる者の観察が出来る様に差配してくれ。」
「御意。ならばその者も戻り次第我の手の者に組み入れる名目で差配致しましょう。」
「やれやれ。旧交を温める話にはならんようだの?」
外政卿がため息をつく。
「時間はまだありますよシンノスケ。たまには皇に楽しい昔話でも奏じあげてみては?初恋の話など。」
内政卿が場を和ます様に言う。
「あの、茶屋で珍しく文など渡して、後に断られた話か!あれは今でも傑作じゃ!良い!もう一度聴かせてもらおう!」
「皇よ!そんなにいじめて下さいますな!」
「・・・結局こうなりますか。・・・たまにはよろしいですな?シンノスケ。我もあの場には帯同した。文の内容は我が説明しよう。」
「クニチカ!それはやめろ!まだ2人には言っておらんのだ!」
歓談室での密談は、いつしか学友の昔語りとなった様である。
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あとがき
このエピソードには、ヨコースカ伯爵の政治的動きと皇族・実務トップとの関係性、そしてミサオの存在がいかに国政に影響を及ぼす可能性を秘めているかが描かれています。次話以降で、城の密命を帯びた観察者との接触や、さらなる波紋が広がることが予想されます。
次回をお楽しみに!
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