さらうぞコラ!ヤクザの息子、異世界で魔法とギルドを創る

武者小路参丸

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第27話 影犬、見透かされる──語られぬ想いと、問いかけられた未来

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帰りの道行きも結局襲撃を受けたヨコースカ伯爵一行。

何とか怪我も無くチュウオーまでたどり着く事が出来、裏の護衛任務も解放されたミサオ達であったがそもそも。

狙った者達の目的。

そこにミサオ達はたどり着いていない。

襲撃者への対処のみでその先は私兵や衛兵達に丸投げしていたのだから仕方がない。

ミサオはチュウオーから一度ヤヨイとクミコを転移で自宅まで送り、馬車のそばで待たせていたクリスを連れてエチゴ商会へと向かう。報告する為だ。

「クリスはどこまで聞いてる?」

「私か?ミサオに万事任せておけば大抵何とかなるとしか・・・。」

「・・・そりゃ大抵はな?でもそれどちらかと言うと荒事関係だよな?・・・情報や連絡は根回ししておいて欲しいんだけど・・・。信用なのか投げっぱなしなのか判断苦しいとこだけどな。ま、ご領主様とこれから顔出すエチゴのおっちゃんの仲だ。それなりに何とかなるだろ?お!クリス!ここだ。皇都の大店にも引け取らないだろ?町の人達にも店頭販売もやってる店。働いてる人達もみんな仲間だからさ?奥に置物みたいなおっちゃんいるから顔出すよ?」

ミサオの言葉に誘われクリスも後をついて行く。

「おっちゃん!疲れた~!移送よりも襲撃の方がかったるかったわ~!」

「これ!店の中で大声出すな!いくら仲間ばかりと言っても少しは気を使わんか。」

ミサオの言葉をたしなめるエチゴ氏。

「・・・こちらの女性は?」

エチゴが優しい顔で聞く。

「・・・ご領主様から鳩は飛んできているだろうが改めて。クリス嬢。俺の・・・同僚だってさ?ご領主様的には。」

「クリス・マツダイラです。ヨコースカ伯爵様の雇用により、こちらでお世話になるように仰せ付けられております。」

クリスが頭を下げる。

「・・・では、ここでは何ですので、話しやすい場所へと移りますかな。」

エチゴが後ろの棚に手を伸ばす。

細工をいじり後ろの棚が壁の奥へと開く。

3人は階段から地下へ。

テーブルへ座った3人に、部屋にいた他の裏の手の者が冷たいお茶を用意する。

「・・・してクリス殿。ご領主様から大体の話は伺っておる。そなたの剣と体術についてもな。そなたにはミサオと組んでの行動。・・・表も裏も。それがクリス殿への指示じゃ。裏では白百合じゃったかな?」

「・・・このおっちゃん、表じゃ子供に好かれる顔してるのにえげつない情報収集能力持ってるからさ?クリスも気をつけろよ?ヘタすれば下着の寸法までもう抑えてるぜ?」

「ば、馬鹿者!ワシとてそこいらの事は自重するわ!」

珍しく慌てるエチゴ。

「エチゴ殿は中々の切れ者と伯爵様には聞いている。世話をかけるがよろしくご指導ご鞭撻お願い申し上げる。」

再び座ったまま一礼。

「で、ミサオ。・・・どうせ派手にやらかしたのじゃろ?」

今度は顔の向きを変えてミサオに話を持ってゆく。

「いや、そうでも無いと思うよ?ほら、なんてったっておれ、影じゃん?ツラは割れてないし、根回しも上手くやったし。上出来だと思うけどな?」

軽い口調で答えるミサオ。

「・・・都合4度か。1度目はあの(夜の領主)の残党。その後は手練れの刺客達。それを処理したのは確かに上出来。残した者からの自白待ちになっておるからいずれご領主の命を狙った者も割れるであろう。しかしじゃな?同行の者にあの予備の覆面まとわせて魔法バカスカ使わせるとは聞いておらん!結果だけ見れば上出来。じゃが途中経過!こちらの方が派手だと言っておる!裏なんじゃぞ?同行の女性達もこれで縁が出来てしもうた。このまま放って置くわけにもいかんじゃろう?・・・一度ワシの所に連れて来い。全てとは言わぬが、裏の事情も話さねばな。」

「流石おっちゃん!ご領主様と二人三脚で町の人々を影で支える立役者!この生きる招き猫!」

「まねきねこ?・・・おだてても粗茶位しか出ぬぞ?・・・じゃがミサオ。今回のお主の行動。結果的には実働部隊が増えたのと同じ事。ならその2人もこちらの手の者として動いて貰う事も考えていかねばとワシは思うのじゃが、お主はどう考えておる?」

エチゴはやはり色々と考えている。

秘密の漏洩。関わってしまった者への先々の脅威。

「それ、俺も考えてるんだけどさ。2人は普通の暮らししてるのを、こちらの押し付けで裏に引っ張り込むのは違うかなって。裏なんて必要最小限の人数でいいわけじゃん?血を見るのは俺だけで沢山なんだよ本当は。」

ミサオ自身は考えている。過去、現代世界の記憶をそのまま持っているミサオは決して品行方正な生き方をしていない。

家庭環境がその要因ではあるが、死ぬまでの人生はハッキリ言ってアウトロー寄り。見たくないもの。普通のサラリーマンなどとは違う切った張ったがある世界で生きていた。

だからこそ、矛盾はあるがヤヨイとクミコを裏の役目に関わらせる事に躊躇する。

今回の同行はミサオからすれば何かあった時の為の自衛の術を教える事がメイン。

自分が裏に居て、2人は日の当たる場所で生きて欲しい。

そんな想いもどこかに持っている。

「それはヤヨイとクミコに確認したのか?」

突然クリスが会話に加わる。

「え?確認?・・・いや、それ聞くこと自体、圧かけるみたいだからしとらんよ?」

いきなりの言葉に戸惑うミサオ。

「今の話はミサオだけの気持ち。すでに2人は巻き込まれている。なら、考えている事は確認するのが道理。私はそう思うのだが?」

クリスの表情は真剣である。

「クリス?お前さんの言ってる事はわかる。でもさ?荒事に巻き込むのはちょっと気後れするぜ?俺にしてみれば気の置けない同居人。いずれはそれぞれの人生に生きていく訳だろ?線を引いて置かないとさ?」

「それもミサオの理屈だけ。違うか?」

クリスの舌鋒は鋭い。

ミサオは黙ってしまう。

「私は数日しかミサオ達と過ごしてはおらぬ。だがクミコとヤヨイ。2人と寝食を共にしてわかった事がある。・・・少なくともあの2人は、ミサオに隠し事をして欲しくはなく、もっと相談して欲しいらしいと感じた。ミサオ。お主はおちゃらけで全てごまかそうとしておるまいか?」

正論である。

「私はナカクーでの襲撃。あの夜のお主の助勢を忘れはせぬ。ミサオ。お主笑顔の下にどれほどの苦悩を隠しておる?笑顔で事を収める御人程怖い者は無いと聞く。無理に誘う事もなかろうが、全てお主の心の内で答えを出さなくても良いのではないか?」

クリスの言葉がミサオに刺さる。

「・・・ミサオ。お主がやっておる事、クリス殿に見透かされておるのではないか?たかが数日で。影犬も形無しじゃの?」

ほくそ笑むエチゴ。

「うるせいやい。・・・もしかしてあの2人。その、何か俺の事で愚痴とかこぼしてたか?使えないとか、元々ヒモみたいなもんだったとかさ?」

急に不安に駆られるミサオ。

「ヒモ?それは知らぬが一応私も同性である故な。読める事もある。言葉は無くてもな。ミサオ。どうする?このまま2人に言葉をかけぬのか?選ぶ事さえ2人にさせぬのか?」

答えを迫るクリス。

「クリス。お前さん幾つよ?」

「おま!女性に年齢を尋ねるなど、不謹慎にも程がある!」

いきなりの言葉に憤慨するクリス。

「あ~ごめん。本当に年齢尋ねてるわけじゃないよ。見た目より精神的に大人だなって事さ。見た目は俺より若いのに。俺の方がガキじゃねぇか。・・・おっちゃん。俺、聞いてみるわ。断られたら今まで通り。それでいいかな?」

エチゴに向かって言うミサオ。

「そこはミサオに任せる。こちらに属さないまでもいずれもめ事は出て来るじゃろう。その時にまた考えれば良い。それよりミサオ。新しい同僚は、厳しそうじゃの?」

ここでまたエチゴ氏の意地悪そうな笑顔。

「あまり真面目すぎるのも困るんだよなぁ。・・・あ!そう言えばおっちゃん!クリスの寝泊まり!どうすんだ?俺聞いてねぇよ?てかクリスは聞いてんのか?」

「言ったはずだ。ミサオに万事任せておけば良いと聞いている。」

クリスは答えに変化がない。

「おっちゃん?」

助け舟をエチゴに求めるミサオ。

「ミサオに万事任せておけば良いと聞いている。」

「復唱すな!丸投げじゃねーか!何で俺のまわりの大人達は毎回毎回・・・。」

頭を抱えるミサオ。

「行け!影犬!同僚の困り事を解決するのじゃ!」

椅子から立ち上がり、地上への階段を指差すエチゴ。

「それもうお約束じゃねーか!こすりすぎなんだよいい加減!」

「なんだかわからんが、頼む影犬!」

クリスもエチゴと同じ事をする。

「は?お前もかよクリス!何毒されてんだよ!」

「いいから動け影犬!お前の家、部屋余ってるのは調べておる!」

エチゴは毅然と言い放つ。

「やっぱ俺頼みじゃねーかジジィ!」

「世話をかける影犬!」

「クリスはしなくていいから!もうわかったから!ウチ泊まれ!2人も文句言わんから!このジジィほっとくとこればっかになるから行くぞ!」

「しっかり面倒見ろ影犬!」

「うっせーわダボ!クリス、階段早く登れ!案内するから!」

かくして追い立てられる様にミサオは店を後にして、クリスを3人の家へと連れて行く事となった。

ーーーーーーーーーーーー

あとがき

今回は、裏の任務から戻ったミサオたちの“その後”を描いた回です。

表面上は軽口を叩きながらも、心の奥では「2人を巻き込むこと」に対して葛藤していたミサオ。  
それを見透かし、正面から問いを投げかけたのはクリスでした。

彼女の言葉は、時に鋭く、しかし同時に温かく、  
ミサオの“優しさからくる一人相撲”に気づき、止めてくれたのだと思います。

エチゴとのやりとりでは、いつもの調子も戻ってきて、  
ラストではすっかり“お約束”の影犬劇場に突入。

ですがその裏では、少しずつ「人との関係性」が深まり、  
ミサオの「家族」や「仲間」に対する価値観にも変化が生まれ始めています。

次回は、ミサオがヤヨイとクミコに“言葉”を届ける番です。
どうぞ、お楽しみに。
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