家族で国家機密──うちの犬がしゃべった、その先で

武者小路参丸

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第9話 初の連携作戦──そして“友達”ができた日

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初任務、初戦闘から3ヶ月が過ぎた。

永井家の皆も、今の状況を受け入れつつも、1日でも早い平穏な毎日を願い、奮闘を続けている。

「・・・了解。unknown複数確認の為、合同作戦開始。林駐屯地にてヘリで現場に急行します。」

ミサオは要請を復唱し、電話を切る。

慣れてきた準備。

素早く親子は車に乗り込み、指示通りに陸上自衛隊横須賀林駐屯地へと向かう。

入り口の門衛に向けて、ミサオは迷いなく胸元を指差す。

そこに輝くのは、H-FORCE(エイチ・フォース)の隊員であることを示す部隊記章だった。

この記章は、陸上自衛隊をはじめとする防衛関連施設に入構する際、身分証明として使用される特殊な意匠を持っている。

普段はただの金属製エンブレムにしか見えないが、光の角度やUV照射により“真の紋章”が浮かび上がる構造だ。

中央には力強く刻まれた「H」の文字。その背後には、放射状に広がる光が描かれ、右下には微細な“星”が打たれている。それは、未だ救済されていない魂たちの象徴とされている。

さらに、通常の光では見えないが、特定の波長を当てることでだけ浮かび上がる“隠された意匠”──  
それは、トイ・プードルを模した犬影のシルエット。くるんと丸まった尾、垂れた耳、そして優しい表情。

この“犬影”こそ、かつてこの国で最初に獣人となり、家族と共に戦ったチームの姿を象徴として描いたもの。  
H-FORCEは、その存在を原点として結成された経緯を持つ。

ミサオはそれを誇りと共に門衛に見せる。すると門衛はすぐに敬礼し、無言のままゲートを開いた。

「・・・行こうか、ジョロ。」

隣に座るコジマルも、ふと胸元に手をやり、自身の記章をそっと撫でた。

クミコも毅然と前を向く。そのまま車は、電話で指示されたヘリの発着場へと向かう。

(ヒュンヒュンヒュンヒュン。)

ヘリのプロペラはもう回っている。

ちなみに永井家は全員、ヘリコプターなど初めて搭乗する。

開かれているヘリのスライドドア。そのまま乗り込むと中の隊員がドアを閉める。

「このヘッドホンを着用して下さい!」

プロペラの大きな音の中、隊員からの指示に従う永井家。しかしコジマルの耳の位置が違う為、見た目は随分と上の位置に浮いている。場面が違えばギャグになってしまうが、さすがに笑う時ではない。

ヘッドホンからはマイクが伸びている。

「このまま神奈川県警のビル屋上に飛びます!そこから現場(げんじょう)であるみなとみらい地区に向かって下さい!」

「了解した!神奈川県警ビル到着後、車両にて現場(げんじょう)へ向かう!」

ミサオが説明を復唱する。

この場所から県警ビルまで直線距離で約40キロ。ヘリ使用で時間にして、15分弱で到着予定。

その後車で約5分の場所。

みなとみらいでも最後の開発地区の高層ビル建設予定地。

そこにunknownが3体同時に出現した模様。

「今回、ウチみたいな家族との初の連携だ!先輩達の邪魔にならんようにしないとな!」

「そうね!でも、ジョロが1番強いわよ!ね?ジョロ!」

「とにかく頑張るよっ!」

皆大声で会話する。

「離陸します!」

ヘリの操縦士からの一言。

ヘリが上昇を開始する。

程なくヘリは目的地に着陸する。屋上にいた警察官の先導にて、地下駐車場の覆面パトカーへ。

赤色灯を回しながらすぐさま目的地まで走る。

「ここは、ホントに近未来感あるよな?」

ミサオがつぶやく。

覆面パトカーの後部座席にクミコとワンコモードのコジマル。  
助手席にミサオという位置。

「これがお出かけなら楽しいんだけどね・・・。」

流れる景色の中でクミコが言う。

車は事案発生現場へと到着する。高層ビル建築中の場所。外に停めたパトカーからも、中での怒声や、何かしらの金属音が聞こえる。

「近藤二尉。状況は?」

車から降りた永井家が、建築現場前を封鎖する警官や自衛隊員の中に見知った顔を見つけ、駆け寄り尋ねる。

「ミサオ二尉!・・・今は、鈴木家と池田家が中でunknownの制圧行動に出ている。ただunknownは3体。制圧までには・・・。」

「状況は確認した。中に入るよ?」

「了解。コジマル二尉も、侵入後、即戦闘モードに移行して下さい。気を付けて。おい!道をあけろ!」

封鎖された入り口に、空間が作られる。

「これより永井家、unknown制圧行動を開始する。」

入り口にて、敬礼してからの侵入。

中に入ると・・・。

「舐めるにゃ!」

「気を付けて!マイヒメ!」

「俺の娘に何すんだ!」

右手で制圧行動に出ている家族。虎の頭の2足歩行unknown。

「今、にゃって言ったよな?猫なのか?それでもにゃって言うのか?」

「パピ!じゃなかったミサオ二尉、発砲許可承認!早く!」

「お、わりぃ、クミコ二尉、発砲許可承認!コジマル二尉、獣人モード移行・・・ヨシ!」

関係者以外の目が無い事を確認し、ミサオがコジマルに声を掛ける。光と共にコジマルが獣人モードへ移行する。

左手に目をやると・・・

「我が断罪の爪、受けてみろ!」

「いけ!あーくん!カバーは任せろっ!」

「あーくん!そいつの羽何とかして!ママ、それじゃ当たらないから!」

「・・・こちらは、鳥さんですか?へ~。相手も・・・頭はワシ?鷹?空中戦は、ウチだとキツいかな・・・。さてもう一体は?」

直置きされた鉄骨の影から光る2つの目。

「アイツ・・・4足歩行タイプか?豹・・・にツノ!マミ!気を付けろ、ヤツ多分足早いっ!動くな!動くと撃つ!」

ミサオの予想通り、瞬時に永井家に飛びかかろうとする豹型unknown。純白の毛に覆われた大きな体躯。おでこの辺りに太く鋭い一本角。迫る角を両手でつかみ、そのまま地面に叩きつけるコジマル。

その叩き付けたunknownにまたがり、両手の拳を交互にぶつけるコジマル。ミサオとクミコは油断無く、拳銃を構えたまま、コジマルの攻撃を見守る。

「これで・・・終わりだ!」

(メキッ!)

角を叩き折った一撃。

「お。・・・この子は、チワワみたいに見えるな。・・・大変だったな?向こうでゆっくり休みな。またどっかで会えるといいな・・・。」

透けた状態の、チワワに似た犬の姿の魂。

遠吠えをあげて光の粒子となり、天へ。

「・・・切ないような、嬉しいような。いや、まだ2体残って・・・お!終わってんじゃん!」

「さすがマイヒメ!お前は器量も技量も世界一だなおい!」

「お父さん、当たり前でしょ?ウチの子なんだから。ね?マイヒメ?」

「にゃっ!父さんも母さんもありがとにゃっ!」

「麗しき家族の絆だなおい!」

ミサオは猫耳獣人家族の会話に思わず突っ込む。

「パパ、ママ。ケガはない?」

「何言ってんだ!お前こそ、引っかかれてたろアイツに。平気なのか?」

「そうよ?パパあそこで撃たないから・・・。」

「いや、空向けては、あーくんに当たりでもしたら危ないだろ?あーくん、ゴメンね?本当に平気かい?お前は大事な息子なんだからな!」

「心配性だな、二人共。」

「・・・結局、何?ここは親馬鹿の集まりか?緊張感失せるわぁこの会話。」

ミサオが肩を落とす。

そこに。

「・・・どうも、永井・・・さん御一家ですか?どうも、鈴木です。」

先程の猫ちゃん家族の父親が挨拶に来る。

「あ、どうもお疲れ様です!鈴木・・・二尉でいらっしゃいますか?自分は・・・。」

「いやいや、そんな堅っ苦しい文言、現場で誰も言ってませんよ?真面目ですね永井さんは。」

「へ?」

「・・・こちらが新戦力の永井家の皆さんですか。息子さん、お強いですね?あ、どうも池田です!この子がウチのあーくん、あと妻のより子です。鈴木さん!相変わらずマイヒメちゃん可愛いですね!」

「それほどでも・・・あーくんも空では敵う者無しですもんね!いや、素晴らしい!」

永井家そっちのけで、両家の褒め合いが始まる。

「・・・えと、部隊の訓練の意味は?一所懸命に小難しい言い回し覚えたのに・・・。」

「今、制圧行動してたのよね?何?このほのぼの子供自慢の空気?」

ミサオもクミコも戸惑ってしまう。

「おい!君がコジマルくんかい?初めまして!私の名はアスカ。池田アスカ。一応セキセイインコになる。宜しく。」

「あ、初めまして!僕は永井コジマル!トイ・プードルだよ!で、君は?」

「にゃっ!アタシは鈴木マイヒメ!スコティッシュフィールドにゃ!アスカもアタシもコジマルより先輩だから、何でも聞くにゃっ!」

「うん!わからない事教えてね!それじゃあねぇ、戦闘の時・・・。」

「マミ?ジョロにお友達出来たのかな?猫ちゃんとセキセイインコくん・・・このカオスな状況何?」

「ん~~。ジョロが笑顔ならヨシ!」

「ヨシじゃねぇって!ダメだこれ、近藤二尉!近藤さ~ん!何とかしてよこれ!」

この日、永井家初の他家族との共同作戦は、無事完了となる。

コジマルに新しい友達が出来るというおまけつきで。

ーーーーーーーーーーーー

あとがき

初の共同作戦──そして、ジョロに「友達」ができた日。

それは、戦場であっても“家族”が中心であり、そこに笑顔と会話があるという、H-FORCEならではの在り方が見える一日でもありました。

ミサオたちにとっては緊張の連続だった初任務から3ヶ月。  
ついに他家族との連携という、新たな段階に踏み出すこととなります。

それぞれの家族が、それぞれのかたちでunknownと向き合い、  
親として、子として、互いを思い合いながら共に闘う。  
そこには、「任務」や「任官」といった言葉では測れない温もりがあります。

今回登場した“マイヒメ”や“アスカ”といった獣人の子どもたちは、  
コジマルにとって同じ立場にある“仲間”であり、初めての“戦友”であり、そして“友達”。

ジョロがその笑顔で、仲間と共に笑い合える日常を少しずつ取り戻していく。  
その歩みの一歩目が、今日のこの物語だったのかもしれません。

日常の中に、非日常がある。  
戦場の中に、友情と家族の物語がある。  
それが、H-FORCEであり、この永井家の戦い方なのだと感じます。

この先の物語でも、“家族”であることの意味と温もりを、丁寧に紡いでいければと思います。
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