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第1話 虹の橋で動き出す永井家の運命
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それは、異世界へと家族で移住した永井家の、別れた家族の思い。
遠い、遠い場所。
暖かくて、少しだけ切ない光に包まれた世界。
そこは、「虹の橋」と呼ばれる場所だった。
その橋のたもとで。
命を全うした者たちが、絆で結ばれた者と共に、次の旅立ちを待つ静かな世界。
ムサシ。
コジロー。
サンシロー。
現代世界で役目を終えた、シー・ズーと言う種族の三つの小さな魂が、そこに寄り添うように過ごしていた。
彼らは、ずっと見守っていた。そして待ち続けていた。
ミサオ。
クミコ。
そして、コジ丸・・・ジョロ。
愛する「家族」を。
ムサシは、静かに目を細めた。
「今日も・・・パピ、頑張ってるな。
あの人は、昔からそうだ。どんな時も、家族の為に。」
コジローは、ふんわりと笑いながら続ける。
「マミも、すっごく元気そうだなぁ。
パピの傍ににいれば、きっと、どんな困難も乗り越えられるよ。」
サンシローは、くるくると宙を回りながら、無邪気に言った。
「ジョロ、すっかり大きくなってさ!
あんなに元気だと、心配する暇もないよな~!」
そこに居ないのに。
触れられないのに。
それでも、心はいつも、家族と繋がっていた。
彼らにはわかっていた。
永井家が、違う世界で新しい道を歩み始めたことを。
そして気付いてもいた。
その道には、強大な闇が確かに潜んでいることも。
「・・・放っておけないな。」
ムサシが、そっと呟いた。
「うん。放っておけるわけ、ないよなぁ。」
コジローも真剣な顔で頷く。
「だって、俺達、パピとマミとジョロの家族だもん。」
サンシローが、声を強めた。
「待ってる場合じゃない。・・・だから、もう一度会いたい!
パピ達の元に。もう一度、家族でみんなで!」
ムサシは、強い言葉を終えるとそっと微笑んだ。
コジローは、目を細めた。
サンシローは、両前足に力を込めた。。
その瞬間。
三匹の願いが聞き届けられたのか、空が、柔らかい光で満たされた。
三匹の小さな身体が、ふわりと光に包まれる。
「パピ、マミ、ジョロ・・・。」
「待っててなぁ!」
「すぐ、そっちに行くから!」
「コジョと、サンくんと・・・。今度はもっと、もっと・・・。俺達3人、みんなを守るから!」
祈るように、叫ぶように。
三つの魂は光となって、虹の橋を渡る事無く暖かな場所から姿を消した。
愛する家族の元へ、再び巡り会うために。
そして。
これから始まる新たな物語の中で。
誰よりも強く、誰よりも優しく、家族を護る存在になるために。
彼らの旅立ちが、今、静かに始まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
タクシードライバーだったミサオ。
主婦のクミコ。
そして、元々トイ・プードルで今は獣人のジョロ。
ひっそりと現代日本で暮らしていた家族は、
今は異世界イグナシアで、新たな(日常)を築き始めている。
ミサオは最初、異世界での日々をこなすのだけで精いっぱいだった。
けれど、闇憑きと呼ばれる魔物たちとの戦いの中で、 気づけば(専任S級冒険者)へと成長していた。
今現在は、家族みんなで異世界生活。
元タクシードライバーが、異世界で強者になるなんて・・・
誰が想像できただろうか。
それでも、永井家は変わらない。
食卓には笑い声があって、
ジョロは相変わらず元気で、
ミサオとクミコは肩を並べて歩いている。
ただ、この世界には知らないことが多すぎる。
まだ見ぬ存在達。
まだ出会っていない家族達。
この時、誰も気づいていなかった。
イグナシアの運命が、永井家の運命と重なり始めていることを。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「向こうでの生活も一区切りついた事だし、いよいよだな!」
テリオスの町にある、店舗兼住居(ジョロの宝箱)の二階プライベートスペース。
ミサオ・クミコ・ジョロの三人は、ミサオの専任S級冒険者としての初仕事の朝、食卓を囲んでいる。
テーブルには、三人分のしっかりとした和食。変則的な事態に備え、栄養補給に励む。
今の所、IHヒーター・冷蔵庫・炊飯器などをを課長(カ=チオ)さん肝いりのネット通販で取り寄せ、ついでにミサオは課長(カ=チオ)さんに無理を言って、異世界で使用できるように改造して貰って使っている。
チート全開である。
「・・・今ここに、ムッちょん・コジョ・サンくんが居たら、もっと楽しかったろうけどなぁ。」
「・・・そうねぇ、六人分の食事、賑やかだけど、作るの大変でしょうねぇ。やっぱり、電子レンジも必要になってくるわよね?」
しんみりするミサオと、天然クミコ。
「サンくん、強かったもんね! 会ったことないけど、ムッちょんにーにーとコジョにーにーも、強くて優しかったんだよね! ジョロもがんばる!」
ご飯茶碗と箸を持ったまま、コジ丸・・・ジョロがつぶやく。
「そうだな。いつもお兄ちゃん達とは心で繋がってるし、見守っていてくれている。だから俺達も、できることを精一杯、笑顔で頑張ろう! でも、マミちゃんとジョロは、無理無茶厳禁で!」
気を取り直し、宣言するミサオ。
前日までに、ジョロの宝箱の店長リュミア、ピピン、ポポンとの引き継ぎも済ませ、ギルドからの報告ももらっている。この地のギルドマスター・ハイネスと、今後の動きも打ち合わせ済み。
「昨日の予定通り、まずはこの町が所属する国、トリニダス王国の王都トリニダス! 冒険者ギルド本部に行くぞ!」
「おーっ!」
「オーッ!」
ミサオが右手の拳を上に突き上げると、クミコ、ジョロもそれにならう。
出発である。
と言っても長旅ではない。
ミサオのスマホに入っている、ミサオ専用の異世界サポートアプリ(イセ・ゲート)を軽くワンタップすれば任意の場所に転移出来るのだから。
早速ポチッと王都トリニダス近くに転移した永井家。
「やっぱでけぇな・・・。ここからでも全景わかんねえ。」
「あの真ん中の建物、お城よね!やっぱり庭園とかもあって、メイドさんとかいっぱいいるのかしら!」
「ここなら、美味しいもの、たくさんありそうだよね!パピ、マミ、後でぜぇったい食べようね!」
三者三様ではあるが、それなりに感動している。
(さて、アプリのマップだと、正門から入って石畳の道を直進、右側の服屋を目印に右折、左側にギルド入り口か。)
確認を終え、ギルドに向かう永井家。門の衛兵達にミサオの首に掛けていた銀のペンダント、並びに家族の同行者証を出し入国の許可を貰う。今回ミサオの専任S級冒険者就任に伴う特別処置にて、クミコ・ジョロの同行許可証も発行済である。入り口でのチェックも済み、トラブルもなく中に入る。
ミサオの首に掛けていたペンダント・・・冒険者ギルド公認の、この異世界イグナシア唯一無二のS級冒険者を示す証を門番達は感心していたのだが。
一路ギルド本部に向かう一行。すぐに目的の建物にたどり着くが、これもデカい。三階建てだが横に広い。地下には訓練場も何個かあるとテリオスの町で聞いていた。
「さ、建物に気後れしてる場合じゃない。マミ、ジョロ、これからが本番だ。」
ミサオの言葉に頷く2人。
中に入り、テリオスの冒険者ギルドの倍以上ある受付の中から比較的空いていた所に並び、直ぐに順番が来る。
「依頼ですか?達成報告ですか?それとも・・・?」
受付嬢の笑顔に、ミサオはにこやかに答えた。
「いや、コレの件で、出来れば話のわかる偉い人いたらお願いします。」
首に掛けていたペンダントを見せ、軽く笑うミサオ。
ペンダントを一目見た受付嬢は、目を見開く。
さっきまでの笑顔を引き締め、その場で立ち上がって深々と永井家一同に頭を下げた。
「ミサオ様ですね。長旅ご苦労様です。話は伺っておりますので、このままお待ち下さい。しかるべき者と協議を行える様、直ぐに準備致します。」
受付嬢が手早く回答し、奥へと駆けていった。
ミサオは、隣で待つクミコとジョロを振り返り、優しく微笑む。
(さて、いよいよだな。俺たちの新しいステージが・・・始まる。)
胸の奥に、静かな決意が灯るミサオである。
程無く永井家一行は受付嬢に促され、大きな会議室へと案内された。
そこには・・・。
ミサオから見て左右両側に、手前から奥へと見るからに厳つそうな者達がずらりと並び、こちらを注視している。
そして一番奥、正面にはこちらを真っ直ぐ見つめる1人の男。
家族皆でその場で一礼し、用意されていたであろう席・・・真ん中にドンと置かれた大きな長テーブルの右列一番奥に3人で座る。
その様子を見ていた中央の男が立ち上がって声を上げる。
「前もって通達した通りだ。闇憑きの増加に対する特別処置、専任S級冒険者との初会合となる。
内容は前回取り決めた通り、今回の事案に対処していくものとする。
なお、たった今入室してきた3名が、専任S級冒険者のミサオ・ナガイと、その同行者2名。
妻のクミコ・ナガイ、息子のコジマル・ナガイ・・・で、良かったよな?」
声の主は、スキンヘッドに黒い眼帯、右頬に斜めの刃物傷。
ガタイも良く、この会合に集う中でも1・2を争うコワモテだが、最初の演説口調とは裏腹に親しみやすい笑顔を見せてきた。
(イ、イケボでイケオジ、モテ要素強っ!)
妙なところに感心しているミサオだが、まだまだ会合は始まったばかり。
頷くミサオに、男が豪快に声をかける。
「改めて自己紹介といこうか。俺は、各地ギルドを統括するギルド本部、ここトリニダスの総責任者。
グランド・マスターをしているセルジオ・トリニダスだ!今日から、よろしくな!」
(グラマスきた~!って、トリニダスってファミリーネーム?)
首をひねるミサオに、セルジオは苦笑しながら続ける。
「一応な、王族の末席って奴らしい。
でも妾腹でな、上にはわんさか兄弟が詰まってる。
オフクロも早くに亡くなっちまって、その後はオフクロの実家がそれなりの商家だったんで、そっちで育った。
本来なら貴族籍だとか、そういう話もあったが・・・全部お断りだ。
好き勝手やった結果、今ここだ。」
実力で今の地位まで登りつめた男なのだとミサオは改めて感心する。
そんなセルジオが、真っすぐな目で問いかける。
「単刀直入に聞く。どっから攻める?」
(話が早いな……嫌いじゃない。)
ミサオもまっすぐセルジオの目を見返し、セルジオの背後に貼られていた大きな地図の一点を指差し、迷いなく答えた。
「首都トリニダス南東、ヘリオス山です!」
2人の視線がぶつかり、静かな闘志がそこに生まれた。
「理由は?」
お互いに椅子に腰掛け直して、話を続ける。
「理由は3つ。第一に、ヘリオス山近くの村の狩人たちによる目撃情報。
いままで単独行動が基本だったはずの闇憑きが、複数の魔物と集団で行動しているという証言が私の耳に届いています。
これが気になります。」
静かに語るミサオに、セルジオは真剣な眼差しを向ける。
「第二に、山の周囲で発見されている複数の闇憑き変死体。
どれも、押し潰されたような痕跡があるという噂です。
第一の話と関連があるかは不明ですが、異様な現象には違いありません。」
一度言葉を切り、ミサオは続けた。
「そして第三に・・・この場所から王都までの距離です。
馬車で三日の距離ですが、本気を出した魔物ならもっと早く到達できるかもしれない。
この王都周辺は人口密集地帯。万一に備え、早急な調査と対処が必要と判断しました。」
ミサオの言葉に、セルジオは力強く頷いた。
「お前さん、本当に最近までC級か?・・・上出来だ。みんな聞いたな!」
セルジオが一喝すると、会議室内に緊張が走る。
「これより本件を最優先事項とする!
各地のギルマスは、自分のエリアで少しでも異変があれば、必ず本部に報告を上げろ!
総員、検討を祈る!解散!」
ギルドマスターたちは慌ただしく席を立ち、それぞれの拠点へと戻っていく。
その中には、見慣れた顔・・・テリオス冒険者ギルドのギルドマスターであるハイネスの姿もあった。
部屋を出る直前、ハイネスはミサオに笑顔でウインクしてみせる。
グランドマスターに軽く会釈をし、永井家も部屋を後にした。
「パピ、この後の行動は?」
クミコが真顔で確認する。
「どうせ俺等は動くのも一瞬だからさ。早速探り入れてみようや。な!ジョロ!」
「ん!パピ」
ギルド本部を出た永井家は、人目に付かない路地裏から、スマホアプリ(イセ・ゲート)でヘリオス山の麓にある村近くまで転移。
村の入り口で止められたが、ミサオが首から提げた銀のペンダントを見せると、村人たちの態度は一変。すぐさま村長の家へと案内された。
(ギルドの力、地方でもすごい影響力なんだな・・・。)
感心しつつ、皆で案内された村長宅へ。
年配の優しげな村長が、あたたかいお茶でもてなしてくれた。
「実はな、この辺りでは最近、妙な噂が立っておりましてな・・・。」
村長は低い声で語り始める。
何者かに襲われた魔物や闇憑き達が、ぐしゃりと押し潰された状態で発見される事件が続いているという。しかもその現場では、必ずと言っていいほど、(白犬の衆)と呼ばれる集団の姿が目撃されていたのだ。
「……白犬の衆?」
「ええ。リーダーらしき者が、白い毛並みを持つ獣人だったそうで。最初に見た村の子供がそう呼び出したんです。それ以来、皆がそう呼ぶようになりました。」
ミサオは眉をひそめた。
(闇憑きを押し潰せる?・・・並の奴らじゃないな。最低でも、Cランク以上クラスが数人は居る?)
謎の集団に警戒しつつも話が通じるなら、是非協力してほしいと思うミサオ。
村長から、白犬の衆が最後に目撃された場所を聞き出し、永井家一行は山道を歩き出す。
「まぁ・・・なんだ?気楽に、ハイキングがてらって感じで少し運動しようよみんなでさ!」
転移を使えば現場はすぐだが、現地までの痕跡を辿るため、敢えてミサオ達は徒歩で向かうのだった。
果たして、白犬の衆とは何者達なのか?
ミサオの疑問にまだ答えは無い。
山登りなんて、何十年ぶりだろうかとミサオは考える。
力仕事もせずに過ごしてきたクミコもそうだろう。
(はい、舐めてました!やらかしたわ。)
ジョロだけは鼻歌混じりでご機嫌である。元々課長(カ=チオ)さんのありがたい霊的ナノマシン(?)に身体強化もして貰っているのだが、思った以上に急峻な場所もあり結構辛い。
同じ身体能力向上の恩恵を受けた筈のクミコも同様。
それでもなんとか、中腹近くの木々の隙間までたどり着く。
「はあっ、はあっ、や、やっぱり歳って残酷よねぇ・・・。」
「はあっ、はあっ、いやいや、マ、マミは、ずっと可愛いスィートなハニーだって!」
「マミもパピも、はぁはぁ言ってるけど、どしたの?」
結局ミサオ、ヘリオス山中の中腹近くの少し開けた場所にて張り込む事をクミコとジョロに提案し、了承を得る。そして何の準備もしていない為、町の店舗兼自宅にすぐ転移して、お店のメンバーに声を掛ける事は遠慮しつつ元の場所に再転移する。お泊りセットを持ってきたのだ。
広げればすぐ使える簡易テント・カセットボンベを使うコンロに鍋・簡単なアルミの食器類・LEDランタン・虫除けのスプレー、そしてレトルト食品。まるっきり、初心者のキャンプである。
「・・・さすがに木をこすり合わせての火起こしとか、無理だったわぁ。」
ミサオが嘆く。
それを見たクミコがランタンを灯しながら、苦笑いする。
「それでもキャンプっぽいし、ジョロは楽しそうだし、いいんじゃない?私達には文明の利器、ライターがありますから!」
クミコが胸を張る。
「・・・マミ、元の日本の生活よりも何か神経図太くなってない?それに、怒る事も少なくなってきた様な・・・。」
「当たり前でしょ?女は今を軽やかに生きるのよ!」
2人の会話にジョロが飛び込む。
「ジョロ、初めてのお泊りキャンプ!わくわくだよ!」
(家族でお泊りなんて、現代世界じゃ出来なかったもんな。まぁ本来の目的とはズレてるけど、笑顔が見れてるから良しとしようか!)
ジョロの言葉に微笑むミサオである。
遠い、遠い場所。
暖かくて、少しだけ切ない光に包まれた世界。
そこは、「虹の橋」と呼ばれる場所だった。
その橋のたもとで。
命を全うした者たちが、絆で結ばれた者と共に、次の旅立ちを待つ静かな世界。
ムサシ。
コジロー。
サンシロー。
現代世界で役目を終えた、シー・ズーと言う種族の三つの小さな魂が、そこに寄り添うように過ごしていた。
彼らは、ずっと見守っていた。そして待ち続けていた。
ミサオ。
クミコ。
そして、コジ丸・・・ジョロ。
愛する「家族」を。
ムサシは、静かに目を細めた。
「今日も・・・パピ、頑張ってるな。
あの人は、昔からそうだ。どんな時も、家族の為に。」
コジローは、ふんわりと笑いながら続ける。
「マミも、すっごく元気そうだなぁ。
パピの傍ににいれば、きっと、どんな困難も乗り越えられるよ。」
サンシローは、くるくると宙を回りながら、無邪気に言った。
「ジョロ、すっかり大きくなってさ!
あんなに元気だと、心配する暇もないよな~!」
そこに居ないのに。
触れられないのに。
それでも、心はいつも、家族と繋がっていた。
彼らにはわかっていた。
永井家が、違う世界で新しい道を歩み始めたことを。
そして気付いてもいた。
その道には、強大な闇が確かに潜んでいることも。
「・・・放っておけないな。」
ムサシが、そっと呟いた。
「うん。放っておけるわけ、ないよなぁ。」
コジローも真剣な顔で頷く。
「だって、俺達、パピとマミとジョロの家族だもん。」
サンシローが、声を強めた。
「待ってる場合じゃない。・・・だから、もう一度会いたい!
パピ達の元に。もう一度、家族でみんなで!」
ムサシは、強い言葉を終えるとそっと微笑んだ。
コジローは、目を細めた。
サンシローは、両前足に力を込めた。。
その瞬間。
三匹の願いが聞き届けられたのか、空が、柔らかい光で満たされた。
三匹の小さな身体が、ふわりと光に包まれる。
「パピ、マミ、ジョロ・・・。」
「待っててなぁ!」
「すぐ、そっちに行くから!」
「コジョと、サンくんと・・・。今度はもっと、もっと・・・。俺達3人、みんなを守るから!」
祈るように、叫ぶように。
三つの魂は光となって、虹の橋を渡る事無く暖かな場所から姿を消した。
愛する家族の元へ、再び巡り会うために。
そして。
これから始まる新たな物語の中で。
誰よりも強く、誰よりも優しく、家族を護る存在になるために。
彼らの旅立ちが、今、静かに始まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
タクシードライバーだったミサオ。
主婦のクミコ。
そして、元々トイ・プードルで今は獣人のジョロ。
ひっそりと現代日本で暮らしていた家族は、
今は異世界イグナシアで、新たな(日常)を築き始めている。
ミサオは最初、異世界での日々をこなすのだけで精いっぱいだった。
けれど、闇憑きと呼ばれる魔物たちとの戦いの中で、 気づけば(専任S級冒険者)へと成長していた。
今現在は、家族みんなで異世界生活。
元タクシードライバーが、異世界で強者になるなんて・・・
誰が想像できただろうか。
それでも、永井家は変わらない。
食卓には笑い声があって、
ジョロは相変わらず元気で、
ミサオとクミコは肩を並べて歩いている。
ただ、この世界には知らないことが多すぎる。
まだ見ぬ存在達。
まだ出会っていない家族達。
この時、誰も気づいていなかった。
イグナシアの運命が、永井家の運命と重なり始めていることを。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「向こうでの生活も一区切りついた事だし、いよいよだな!」
テリオスの町にある、店舗兼住居(ジョロの宝箱)の二階プライベートスペース。
ミサオ・クミコ・ジョロの三人は、ミサオの専任S級冒険者としての初仕事の朝、食卓を囲んでいる。
テーブルには、三人分のしっかりとした和食。変則的な事態に備え、栄養補給に励む。
今の所、IHヒーター・冷蔵庫・炊飯器などをを課長(カ=チオ)さん肝いりのネット通販で取り寄せ、ついでにミサオは課長(カ=チオ)さんに無理を言って、異世界で使用できるように改造して貰って使っている。
チート全開である。
「・・・今ここに、ムッちょん・コジョ・サンくんが居たら、もっと楽しかったろうけどなぁ。」
「・・・そうねぇ、六人分の食事、賑やかだけど、作るの大変でしょうねぇ。やっぱり、電子レンジも必要になってくるわよね?」
しんみりするミサオと、天然クミコ。
「サンくん、強かったもんね! 会ったことないけど、ムッちょんにーにーとコジョにーにーも、強くて優しかったんだよね! ジョロもがんばる!」
ご飯茶碗と箸を持ったまま、コジ丸・・・ジョロがつぶやく。
「そうだな。いつもお兄ちゃん達とは心で繋がってるし、見守っていてくれている。だから俺達も、できることを精一杯、笑顔で頑張ろう! でも、マミちゃんとジョロは、無理無茶厳禁で!」
気を取り直し、宣言するミサオ。
前日までに、ジョロの宝箱の店長リュミア、ピピン、ポポンとの引き継ぎも済ませ、ギルドからの報告ももらっている。この地のギルドマスター・ハイネスと、今後の動きも打ち合わせ済み。
「昨日の予定通り、まずはこの町が所属する国、トリニダス王国の王都トリニダス! 冒険者ギルド本部に行くぞ!」
「おーっ!」
「オーッ!」
ミサオが右手の拳を上に突き上げると、クミコ、ジョロもそれにならう。
出発である。
と言っても長旅ではない。
ミサオのスマホに入っている、ミサオ専用の異世界サポートアプリ(イセ・ゲート)を軽くワンタップすれば任意の場所に転移出来るのだから。
早速ポチッと王都トリニダス近くに転移した永井家。
「やっぱでけぇな・・・。ここからでも全景わかんねえ。」
「あの真ん中の建物、お城よね!やっぱり庭園とかもあって、メイドさんとかいっぱいいるのかしら!」
「ここなら、美味しいもの、たくさんありそうだよね!パピ、マミ、後でぜぇったい食べようね!」
三者三様ではあるが、それなりに感動している。
(さて、アプリのマップだと、正門から入って石畳の道を直進、右側の服屋を目印に右折、左側にギルド入り口か。)
確認を終え、ギルドに向かう永井家。門の衛兵達にミサオの首に掛けていた銀のペンダント、並びに家族の同行者証を出し入国の許可を貰う。今回ミサオの専任S級冒険者就任に伴う特別処置にて、クミコ・ジョロの同行許可証も発行済である。入り口でのチェックも済み、トラブルもなく中に入る。
ミサオの首に掛けていたペンダント・・・冒険者ギルド公認の、この異世界イグナシア唯一無二のS級冒険者を示す証を門番達は感心していたのだが。
一路ギルド本部に向かう一行。すぐに目的の建物にたどり着くが、これもデカい。三階建てだが横に広い。地下には訓練場も何個かあるとテリオスの町で聞いていた。
「さ、建物に気後れしてる場合じゃない。マミ、ジョロ、これからが本番だ。」
ミサオの言葉に頷く2人。
中に入り、テリオスの冒険者ギルドの倍以上ある受付の中から比較的空いていた所に並び、直ぐに順番が来る。
「依頼ですか?達成報告ですか?それとも・・・?」
受付嬢の笑顔に、ミサオはにこやかに答えた。
「いや、コレの件で、出来れば話のわかる偉い人いたらお願いします。」
首に掛けていたペンダントを見せ、軽く笑うミサオ。
ペンダントを一目見た受付嬢は、目を見開く。
さっきまでの笑顔を引き締め、その場で立ち上がって深々と永井家一同に頭を下げた。
「ミサオ様ですね。長旅ご苦労様です。話は伺っておりますので、このままお待ち下さい。しかるべき者と協議を行える様、直ぐに準備致します。」
受付嬢が手早く回答し、奥へと駆けていった。
ミサオは、隣で待つクミコとジョロを振り返り、優しく微笑む。
(さて、いよいよだな。俺たちの新しいステージが・・・始まる。)
胸の奥に、静かな決意が灯るミサオである。
程無く永井家一行は受付嬢に促され、大きな会議室へと案内された。
そこには・・・。
ミサオから見て左右両側に、手前から奥へと見るからに厳つそうな者達がずらりと並び、こちらを注視している。
そして一番奥、正面にはこちらを真っ直ぐ見つめる1人の男。
家族皆でその場で一礼し、用意されていたであろう席・・・真ん中にドンと置かれた大きな長テーブルの右列一番奥に3人で座る。
その様子を見ていた中央の男が立ち上がって声を上げる。
「前もって通達した通りだ。闇憑きの増加に対する特別処置、専任S級冒険者との初会合となる。
内容は前回取り決めた通り、今回の事案に対処していくものとする。
なお、たった今入室してきた3名が、専任S級冒険者のミサオ・ナガイと、その同行者2名。
妻のクミコ・ナガイ、息子のコジマル・ナガイ・・・で、良かったよな?」
声の主は、スキンヘッドに黒い眼帯、右頬に斜めの刃物傷。
ガタイも良く、この会合に集う中でも1・2を争うコワモテだが、最初の演説口調とは裏腹に親しみやすい笑顔を見せてきた。
(イ、イケボでイケオジ、モテ要素強っ!)
妙なところに感心しているミサオだが、まだまだ会合は始まったばかり。
頷くミサオに、男が豪快に声をかける。
「改めて自己紹介といこうか。俺は、各地ギルドを統括するギルド本部、ここトリニダスの総責任者。
グランド・マスターをしているセルジオ・トリニダスだ!今日から、よろしくな!」
(グラマスきた~!って、トリニダスってファミリーネーム?)
首をひねるミサオに、セルジオは苦笑しながら続ける。
「一応な、王族の末席って奴らしい。
でも妾腹でな、上にはわんさか兄弟が詰まってる。
オフクロも早くに亡くなっちまって、その後はオフクロの実家がそれなりの商家だったんで、そっちで育った。
本来なら貴族籍だとか、そういう話もあったが・・・全部お断りだ。
好き勝手やった結果、今ここだ。」
実力で今の地位まで登りつめた男なのだとミサオは改めて感心する。
そんなセルジオが、真っすぐな目で問いかける。
「単刀直入に聞く。どっから攻める?」
(話が早いな……嫌いじゃない。)
ミサオもまっすぐセルジオの目を見返し、セルジオの背後に貼られていた大きな地図の一点を指差し、迷いなく答えた。
「首都トリニダス南東、ヘリオス山です!」
2人の視線がぶつかり、静かな闘志がそこに生まれた。
「理由は?」
お互いに椅子に腰掛け直して、話を続ける。
「理由は3つ。第一に、ヘリオス山近くの村の狩人たちによる目撃情報。
いままで単独行動が基本だったはずの闇憑きが、複数の魔物と集団で行動しているという証言が私の耳に届いています。
これが気になります。」
静かに語るミサオに、セルジオは真剣な眼差しを向ける。
「第二に、山の周囲で発見されている複数の闇憑き変死体。
どれも、押し潰されたような痕跡があるという噂です。
第一の話と関連があるかは不明ですが、異様な現象には違いありません。」
一度言葉を切り、ミサオは続けた。
「そして第三に・・・この場所から王都までの距離です。
馬車で三日の距離ですが、本気を出した魔物ならもっと早く到達できるかもしれない。
この王都周辺は人口密集地帯。万一に備え、早急な調査と対処が必要と判断しました。」
ミサオの言葉に、セルジオは力強く頷いた。
「お前さん、本当に最近までC級か?・・・上出来だ。みんな聞いたな!」
セルジオが一喝すると、会議室内に緊張が走る。
「これより本件を最優先事項とする!
各地のギルマスは、自分のエリアで少しでも異変があれば、必ず本部に報告を上げろ!
総員、検討を祈る!解散!」
ギルドマスターたちは慌ただしく席を立ち、それぞれの拠点へと戻っていく。
その中には、見慣れた顔・・・テリオス冒険者ギルドのギルドマスターであるハイネスの姿もあった。
部屋を出る直前、ハイネスはミサオに笑顔でウインクしてみせる。
グランドマスターに軽く会釈をし、永井家も部屋を後にした。
「パピ、この後の行動は?」
クミコが真顔で確認する。
「どうせ俺等は動くのも一瞬だからさ。早速探り入れてみようや。な!ジョロ!」
「ん!パピ」
ギルド本部を出た永井家は、人目に付かない路地裏から、スマホアプリ(イセ・ゲート)でヘリオス山の麓にある村近くまで転移。
村の入り口で止められたが、ミサオが首から提げた銀のペンダントを見せると、村人たちの態度は一変。すぐさま村長の家へと案内された。
(ギルドの力、地方でもすごい影響力なんだな・・・。)
感心しつつ、皆で案内された村長宅へ。
年配の優しげな村長が、あたたかいお茶でもてなしてくれた。
「実はな、この辺りでは最近、妙な噂が立っておりましてな・・・。」
村長は低い声で語り始める。
何者かに襲われた魔物や闇憑き達が、ぐしゃりと押し潰された状態で発見される事件が続いているという。しかもその現場では、必ずと言っていいほど、(白犬の衆)と呼ばれる集団の姿が目撃されていたのだ。
「……白犬の衆?」
「ええ。リーダーらしき者が、白い毛並みを持つ獣人だったそうで。最初に見た村の子供がそう呼び出したんです。それ以来、皆がそう呼ぶようになりました。」
ミサオは眉をひそめた。
(闇憑きを押し潰せる?・・・並の奴らじゃないな。最低でも、Cランク以上クラスが数人は居る?)
謎の集団に警戒しつつも話が通じるなら、是非協力してほしいと思うミサオ。
村長から、白犬の衆が最後に目撃された場所を聞き出し、永井家一行は山道を歩き出す。
「まぁ・・・なんだ?気楽に、ハイキングがてらって感じで少し運動しようよみんなでさ!」
転移を使えば現場はすぐだが、現地までの痕跡を辿るため、敢えてミサオ達は徒歩で向かうのだった。
果たして、白犬の衆とは何者達なのか?
ミサオの疑問にまだ答えは無い。
山登りなんて、何十年ぶりだろうかとミサオは考える。
力仕事もせずに過ごしてきたクミコもそうだろう。
(はい、舐めてました!やらかしたわ。)
ジョロだけは鼻歌混じりでご機嫌である。元々課長(カ=チオ)さんのありがたい霊的ナノマシン(?)に身体強化もして貰っているのだが、思った以上に急峻な場所もあり結構辛い。
同じ身体能力向上の恩恵を受けた筈のクミコも同様。
それでもなんとか、中腹近くの木々の隙間までたどり着く。
「はあっ、はあっ、や、やっぱり歳って残酷よねぇ・・・。」
「はあっ、はあっ、いやいや、マ、マミは、ずっと可愛いスィートなハニーだって!」
「マミもパピも、はぁはぁ言ってるけど、どしたの?」
結局ミサオ、ヘリオス山中の中腹近くの少し開けた場所にて張り込む事をクミコとジョロに提案し、了承を得る。そして何の準備もしていない為、町の店舗兼自宅にすぐ転移して、お店のメンバーに声を掛ける事は遠慮しつつ元の場所に再転移する。お泊りセットを持ってきたのだ。
広げればすぐ使える簡易テント・カセットボンベを使うコンロに鍋・簡単なアルミの食器類・LEDランタン・虫除けのスプレー、そしてレトルト食品。まるっきり、初心者のキャンプである。
「・・・さすがに木をこすり合わせての火起こしとか、無理だったわぁ。」
ミサオが嘆く。
それを見たクミコがランタンを灯しながら、苦笑いする。
「それでもキャンプっぽいし、ジョロは楽しそうだし、いいんじゃない?私達には文明の利器、ライターがありますから!」
クミコが胸を張る。
「・・・マミ、元の日本の生活よりも何か神経図太くなってない?それに、怒る事も少なくなってきた様な・・・。」
「当たり前でしょ?女は今を軽やかに生きるのよ!」
2人の会話にジョロが飛び込む。
「ジョロ、初めてのお泊りキャンプ!わくわくだよ!」
(家族でお泊りなんて、現代世界じゃ出来なかったもんな。まぁ本来の目的とはズレてるけど、笑顔が見れてるから良しとしようか!)
ジョロの言葉に微笑むミサオである。
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