家族で異世界冒険譚(ターン)!第2部 ~永井家異世界東奔西走~ 改定版

武者小路参丸

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24話 騎獣と単車と、異世界物流革命の狼煙

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トニーを始めとした例のはぐれ者達が、正式に盃を交わしてミサオの舎弟となり、新しい村作りにも加わった事もあって、村の建造物も大分形が見えてきている。

その間もミサオと息子達はこの世界の各地を飛び回り、闇憑きや魔物の討伐による資金稼ぎや、現代世界との往復による品物の仕入れと販売などを、各地の出店レベルで細かく行なっていた。

そろそろ既存の商会との連携か、はたまた自分達での商会立ち上げかと本格的に悩やみだすミサオである。

そんな状態の中、仮住居の中で頭を痛めるミサオの元に、1人の男が飛び込んで来る。

「あ、兄貴!村の入り口に、得体の知れない奴らが!」

舎弟頭(仮)のグレンである。

最近は廃村内も、移住者各自で食事も取れる様になり、朝からの炊き出しも徐々に減らすフェーズになっている。テント生活だった者も居なくなり、家族単位でのパーソナルスペースも保たれる様に変化が見えている。永井家一同も、家族単位でそうそう皆の前に出なくなってきた頃に、又きな臭い話が舞い込んで来た。

「・・・前にも似たような事あったよな?せっかくたまの骨休めの日だってのに。で?そいつ等何か言ってきたのか?」

ミサオがグレンに問い質す。

「へぃ!・・・この場所の長(おさ)と会いてぇと。」

「お前達来た時のまんまじゃねえか!・・・俺は資金調達忙しいってのによ?マミ~ッ、俺めんどくさい!」

揉め事は沢山だと、クミコに愚痴るミサオ。

「そんな事言っても仕方無いでしょ?パピは責任者なんだから。ふざけてばかり居ないで、ちゃんと役目は果たさないとね?」

クミコはミサオを甘やかす事はしない。・・・たまにしか。

「兄貴!・・・どうしやす?」

対応を急かすグレン。

「ん~。ま、会うしかねぇか。それとグレンさ。・・・その口調何とかならない?昔の任侠映画じゃ無いんだからさ?」

「え?にんきょ?え~が?」

「・・・いや、言った俺が悪かった。ただ、人前での言葉遣い、少し覚えような?」

「へぃ!合点でさ!」

「・・・あ~頭痛え。坊主達。マミと待機で頼むわ。」

現代知識の無いグレンに、意味を伝える努力を諦めたミサオは、頭を振りながらグレンと共に村の入り口へと向かう。

遠目から見ると、頭数グレン達の時と同じ20人前後がたむろっている。ただ、空の荷馬車の数が目立つ。10はあるだろうか?

そして荷馬車の馬を繋ぐ部分に、違和感をいだくミサオ。

普通なら馬の固定されている部分に、見慣れない生き物がつながれている。

徐々に見えてくる不思議な生き物が気になりながらも、ミサオとグレンは集団の前へと立つ。

「俺がこの場所の責任者、ミサオ・ナガイだ。隣のコイツは舎弟・・・部下のグレン。何かここに用事か?」

淡々と目の前の集団に告げるミサオ。

「・・・ここが新しく出来る村だよな?噂は広まっている。ただ、こんな辺鄙(へんぴ)な場所じゃ、外との交易やらも苦労するだろう?だから来てやったのさ。」

集団の中から現れた男が、さも手助けにやってきたかのような笑顔を見せるが、その目の奥に、獰猛な光を宿していた事をミサオは見逃さない。

「ありがたい申し出だが、お前さん達は、ただ働きで済ませてくれるって手合いじゃあるめぇ?」

ミサオは相手の申し出にも、裏を読んで警戒する。

「そりゃ俺達も聖人様とはいかねぇよ!条件はこうだ。・・・俺達がこの村を取り仕切る事だ。なぁに、うるせぇ事は言わねえ。毎月決められた税金を俺等に納めりゃな!」

短く切られた頭髪に、もみあげからあごまでつながった短いひげ。

ガタイは荷物を運ぶせいか、がっちりとしている。

服も半袖に、こちらでは、あまり見ない七分丈のズボン。

この集団のリーダー格の男がいやらしい笑みを浮かべる。

「いきなり人んとこのシマに来て、この場所仕切るってか?お前、兄貴の事バカにしてんのか?兄貴のツラ、ベロンかコラッ!」

グレンが相手の言葉に激昂し、相手のリーダー格めがけて腰の剣を抜こうとする。

「異世界でも、舐めてるって事ベロンなんて言うんだ・・・いやいや、グレン。熱くなるなよ。」

変な所に感心しつつも、ミサオはグレンをなだめて、集団達のリーダー格に向き直る。

「そんな話、ハイそうですがと聞くバカいねぇよな普通?初対面でよく言えたなぁお前。」

ミサオはあくまで冷静に話を進める。言葉は上品とは言えないが。

「へっ!考えてもみろ!こんなド田舎、メリット無くて常駐する荷運びの人員揃わねぇだろ?俺等も生活かかってるんだ。それなりの対価ってもんがないとな?そうだろ?お前達!」

(オ~ッ!)

リーダー格の言葉に後ろの集団が雄叫びをあげる。

それに対してのミサオの返答は、素っ気ないものである。

「・・・この場所は、はっきり言って安売り出来る場所じゃねえよ。それに、得体の知れない奴らにウロウロされたくもねえしな。・・・ぶっちゃけ帰ってくんない?」

グレンに合図し、ミサオは2人で集団に背を向けて歩き出そうとする。

「待て!俺達もここまで来て、ただ帰る訳にはいかねぇ。・・・帰る場所もねぇがな。」

(帰る場所もねぇ?)

この相手の言葉がミサオは引っかかった。ミサオの心に、子供の頃に家出した際のひもじさがよみがえる。

思わず立ち止まって振り返るミサオ。

「なら、俺と勝負するか?」

「勝負だと?お前、自分の得意に持ち込んで、俺達を追っ払うつもりか?」

ミサオの申し出に目を釣り上げるリーダー格の男。

「いや、そんな事はするつもりねぇよ。ただな。・・・そういやお前さん達、荷馬車につないでるアレ、相当自慢なんだろ?」

話題を変えて、荷馬車につながれた生き物を指差すミサオ。

「ほぅ。ウチの騎獣に目ぇつけたか。この辺じゃ拝めない、ラプトラスって生き物だ。馬より賢くて何しろ早い。体力も段違いだ。その辺の馬車には負けねぇよ!その上背中に人を乗せても天下一品だ。・・・もしかしてお前さん、コイツに挑もうってか?」

せせら笑うリーダー格の男。

「俺も元々いた場所じゃ、乗り物関係の仕事してたもんでな。ちなみに勝負に使う乗り物は、何でも構わんのか?」

最初から勝負内容を決めてた訳ではないが、ミサオにも昔取った杵柄から火が付く。

「構わんぞ!空飛ぶ乗り物じゃなければ何でも用意すればいいさ。・・・勝てるもんならな!」

男達は、負ける事を想像すらしていない様子を見せる。

「よし!それじゃあ準備もあるから勝負は3日後!その間の飯と泊まるとこ、騎獣とやらの飼料はこちらで用意してやる。お前さんの条件はこの場所で頭張る事。俺の方は・・・。」

ミサオが条件を考えていると。

「兄貴の子分になれっ!」

グレンが相手の男に叫ぶ。

「グレンおま何・・・。」

慌てるミサオ。

「てめぇ等みてぇな性根腐ったの、兄貴の爪のアカでも煎じて飲みやがれ!大体名乗りもしねぇその態度が気に入らねえ!」

顔を真っ赤にして怒鳴るグレン。

「・・・確かにお前の言う事も一理ある。遅くなったが俺の名前はトニー。訳あってのこの集団だ。情をかけてぇ所だが、勝負の手は抜けねぇ。俺達も必死なんだ。いいかそれで。」

「おぅ!お情けで3日間は置いてやるがな?兄貴の凄さ見て、目ん玉飛び出るくらい驚きやがれっ!」

勝手にグレンとトニーに条件を決められてしまったミサオ。

「何でお前がイキるの、グレン・・・?」

廃村の中にトニー達を連れていき、寝泊まり出来るあばら家と、騎獣を休ませる東屋へと案内するミサオ。クミコに頭を下げつつ、トニー達の食事の差配を取り付け、時間毎に食事を取りに来るようにトニーに伝えるミサオ。


段取りが終わって、ミサオは勝負についての事を、仮住居のテーブルの前で、改めて考える。3日間の猶予の間に、どう動くべきなのか。

普通の馬を用意した所で、あの不思議な生き物には多分勝てはしないとミサオは確信している。

トニー達のあの余裕は、決して嘘を言っている様には、ミサオは見えなかった。

(だからと言って、グラマス辺りにわがまま言って、あいつらと同じ騎獣とやらを用意しても、乗りこなす自信無いしなぁ。あの恐竜みたいな見た目。目ん玉は優しそうだけど、噛まれたらざっくり肉持ってかれそうなんだよな。)

悩むミサオではあったが、ここでミサオは過去の自分の生活からヒントを見出す。

そして、どうせならこの勝負を機に、異世界での物流の大きな変革もと頭の中の構想が形になってゆく。

構想の第一歩に、この勝負を利用しようとミサオは考えた。

そしてその為に必要な物を手に入れる為、ミサオはクミコのそばへと駆け出し、両手でクミコを拝み出す。

「マミ!渡世の義理で、また勝負する羽目になっちまった!で、ちと金使う!」

「パピ、話はしょり過ぎ!ちゃんと説明して。」

そこから、さっきまでのトニー達とのやり取りをミサオから聞いて、クミコも不承不承ではあるが了承する。

「中古で仕入れるからさ!・・・これからの事もあるし、な?」

「・・・これからの村の為。それはわかるんだけど平気?この村だけ発展早すぎるんじゃないのそれ?」

ミサオの構想に了承したものの、クミコが心配そうに言う。

「課長さんには前に承認貰ってるよ。・・・ふっふっふ。腕が鳴るぜぇ。どうせなら向こうで少し慣らして、勘取り戻すか。じゃ、早速買い物走るとするか!あ、ATMで日本円おろさないと!100位おろして、残り戻せばいいかな?こっちでもまだまだ金かかるしなぁ。・・・ま、今回は先行投資だな。お、ウダウダしてたら日が暮れちまう!じゃあマミ、行ってくるわ。ポチッとな!」

ブツブツ言いながら、ミサオはクミコに一声かけて、光と共に消えていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

現代世界で約3日間の時を過ごし、必要な物を揃えてイグナシアへと戻ったミサオ。

ミサオ視点から見れば約3日だが、その間イグナシアの時は止まる。

逆に言えば、イグナシアに残る側からすれば、ミサオはほんの一瞬で戻ってくる体感。

同じ世界の中での移動と世界を超えるのとでは違うのである。

「ふい~。何とか揃えてきたけど、1人で間に合うか?・・・グレンや息子達にもこの際見せとくか。」

仮住居そばの、何かあった時用に空けておいた倉庫代わりの場所。そこに、現代世界で揃えた物を隠したミサオは、仮住居に戻ってクミコや息子達にも声を掛ける。勉強に通うジョロと家の事全般をまかなうクミコ以外は、交代でミサオの手伝いに入る事が決定される。途中グレンや他の舎弟達も参加して色々いじくる事となった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ふぃ~っ。間に合ったか・・・。」

しゃがみこんだ姿で、額の汗を首に巻いたタオルでぬぐうミサオ。顔には黒い汚れがあちこち付いている。現代世界で仕入れた灰色のツナギを着て、軍手とスパナを手に持ち、その足元には六角や十字の様々なレンチが散らばっている。

「兄貴。・・・これ、乗り物なんスよね?」

グレンがミサオの目の前に鎮座している物を見て、改めて口をポカンと開けている。

「おぉよ。これがこの世界の物流を・・・荷運びを変える最初の一手だ。今回レースで使う奴はこの左側の方。んで、商売で使う目的なのは俺の目の前のこいつ。本格的な物流革命の先兵だ。」

現代世界では見慣れた物だが、この異世界イグナシアにはどこにも無かった代物。

いよいよミサオの乗り物チートがスタートしようとしている。

「パピ、僕も乗りたい!」

ジョロが乗り物を見てウズウズするのはミサオも理解している。

「ジョロ、レースが終わってからな?」

レース後には、どうせ家族を始め、様々な人達を乗せようとミサオは考えている。

「いや、俺も!両方乗りたい!」

「・・・ある意味、懐かしいかなぁ。向こうでワンコだった時はよく、パピに後ろに乗せて貰ってたし。俺もお願い!」

「サンくんもコジョも慌てるなって!」

興奮する息子達をなだめるミサオ。

「あの。・・・私も、乗りたいのですが・・・。」

右手を上げて、控えめに言うムサシ。

「バカだなぁ。レースが終わればお前が最初に乗るんだよ!運転覚えて指導役してもらわにゃいかんのだからさ。俺の動き、よく見とけよ長男坊!」

「わかりました!」
ミサオの言葉に喜色満面のムサシ。

「兄貴・・・俺は?」

グレンが寂しそうに聞く。

「あのな?こっちのタイプはいずれ仕事で使う物だぞ?飽きるほど乗れると思うがな?・・・お前さんには目の前の白い方の扱い方教えてやるから、後で皆に教えてやってくれ。」

「合点!こりゃ、面白くなって来やがったぜ!」

ミサオの発言に盛り上がるグレン。

「グレン・・・お前江戸っ子か?てやんでぇべらぼうめ!とか言うのか?」

皆でワイワイ騒ぎながらも、何とか勝負前日までに準備を終えたミサオ。

明けてレース当日。

「準備は出来たのかい?ミサオさんよ。」

「おはようさんトニー。・・・まあ、見てのお楽しみってやつかな?で、どうする?内容は。」

「そうさな・・・森を抜けて、その先に見えるあの山。んで、山のてっぺんで採れる労わり草ってやつを採取して、この廃村の入り口に先に入った方が勝ちって事で良いな?俺の持ってるこの草は、あそこでしか採れねぇもんだから証拠になる。これ、採取する時の目安にお前さんに渡すから、こいつを数に入れないで10本採取。分かりやすいだろ?」

ミサオにその労わり草を渡して笑う、トニーと取り巻き達。

勝ちを確信している余裕だろうとミサオには見える。

「で、いつ始める?俺等は何時でも良いが?」

「わかった。乗り物引っ張って来るから、その間だけ待ってくれ。」

ミサオはトニー達と見物に集まった移住者達を残し、倉庫代わりの場所へと走る。

そして・・・。

(ヴォン!ヴォン!ヴォンォンォンォンォン!キイッ!ボボボボ・・・。)

「待たせたな。」

異世界では初お目見えの乗り物から降りて、トニーのそばへと歩いてゆくミサオ。いつの間にか、この異世界では異様な真っ黒な上下の服に身を包み、頭には鉢巻、足元はブーツという出で立ちに変わっている。

上着の背中には、この世界の人々には読めない文字が大きく刺繍されている。

(異世界上等!)

鉢巻にも、漢字で違う文字が書かれている。

(永井家最強!)

現代世界で、夜のお茶目な一部の若者が着ていた、昔のヤンキーのドレスコード。

特攻服を、ミサオはその身にまとっていた。

「・・・その珍妙な格好は何だ?それに乗り物も。・・・馬も騎獣もつないでねぇ。しかも2つの車輪だけ。それも見た事ねぇ材質だな?・・・生きてるのか?そいつは。」

その場に居た初見の人全てが驚いている。

「やっぱりそうなるわな!こりゃあ、兄貴の故郷の乗り物、バイクってんだ!それと兄貴が着てる服!ありゃ、バイクに乗る時の正式礼装、特攻服ってやつだ!聞いて驚け、見ておののけ!」

「いやグレン、それの説明、俺にさせてくれよ?しかも、特攻服は礼装じゃねえよ?気分の問題よ?昔思い出しただけよ?」

煽るグレンの姿を見て、少しだけ自分のやってしまった事を後悔するミサオ。

黒の上下のあちこちに刺繍された日本語の漢字。

袖やポケットにも、異世界制覇や夜露死苦などという文言がしっかり入っている。

完全にミサオの悪ノリである。

「お前さんに先に言われたら逆に小っ恥ずかしいわ!・・・このバイクってぇ乗り物は、俺の新しい相棒。XTP400イグナシアスペシャル。ロケットカウルにショート3段のシート着けて。ハンドルは絞り気味にして、ブレーキもバレンボ組み込んだ。燃料系統は、課長さん仕込みの魔物の魔石でエンジン回る仕様に換装済み。タイヤもメスラン。オイルはコストロ。・・・負けねぇよ?」

ミサオはバイクをトニーの乗る騎獣の隣に並べる。

「それじゃ、ここはあっしが仕切りやす。どちらさんも・・・始めっ!」

グレンの合図に勢いよく飛び出るトニーの騎獣。

対してミサオは、悠々とエンジンのスタートボタンを押し、サイドスタンドを左足で解除して、アクセルをその場で吹かし出す。

(ヴォンヴォンヴォン!

ヴォンヴォンヴォン!

ヴォンヴォンヴォヴォンヴォヴォンヴォンヴォン!)

「兄貴!もうアイツ行きやしたよ?」

「あ?・・・久々にコールかましてたんだよ!いやぁ、まだ手首が覚えてやがるぜ。・・・さて、行くぜ!相棒!」

(ヴォン!ヴォ~~オン、ヴォ~~オン!ヴォ~~~。)

ゆっくりとギアチェンジの感触を確かめながら、ミサオは走ってゆく。

「あれ、乗り物なのよね?」

「シスター見たこと無いですもんね?アレ、本当は燃料・・・燃える特殊な油で動く、私達の故郷の乗り物なんですけど。あの乗り物はパピの趣味ですからね?・・・パピったら、あんな風にしちゃって、子供達が憧れたら教育上悪いじゃないの!まったく・・・。」

バイクを見送るマリアに、クミコが嘆く。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(グェ~~ッ!)

「体調も良さそうだな!俺の騎獣はこの世界一よ!大口叩いた所で、コイツに勝てるや・・・は?」

自らが背に乗って操るラプトラスの調子が好調なのを確認し、早くも勝利を確信しそうになった瞬間、トニーの耳に、この世界で聞いた事のない音が迫ってくる。

(フォ~~ン・フォン・フォ~~ン・フォン・ブォ~~~・・・。)

「・・・夜明け前の、(公道の野良犬)と言われたこの俺の、運転スキルをとくと味わいやがれ!」

ミサオのバイクがじわじわとトニーのラプトラスに迫る。

「何だよこいつは!・・・いや、所詮はただの作り物。気持ちの通う騎獣とは訳が違う!人獣一体の妙技、目にモノ見せ・・・え?あれ?」

気付けば、ゆっくりとトニーの横にミサオが並走する形になっている。

「・・・作り物?確かにそうさ。だがな、コイツには部品から削り出し、その部品を組み上げ、ユーザーの手へと送り出した販売店の想いが込められている。そいつに今度は自分だけのカスタム加えて、唯一の乗り物にするんだ。そんな色んな想いが詰まったコイツには、魂があんだよ。しゃべれねぇけど、可愛がればその分応えてくれる。俺がコイツの力を引き出しさえすれば、コイツはどこまでも連れて行ってくれるのさ。お前さんの騎獣もそうじゃねぇのかい?・・・さあ、もういっちょ、かますぜ!」

ミサオは左手のクラッチを握り、左足のギヤをつま先であげる。

一速上げたギヤに呼応し、アクセルを開くと同時にバイクは更に加速する。

「いや、こちとら騎獣だぞ?世界で一・二を争うラプトラスなのに、なんで抜かれんだよ!まだ山にも着いてねぇのに・・・。」

ミサオとトニーの差は詰まるどころか、更に開いてゆく。

そして・・・。

(ブォ~ン!ブォン!ブォ~ン・・・。)

「あの音・・・パピだっ!」

村の入り口からかすかに見える姿と、マフラーからの爆音にジョロが気付く。右に左に車体をローリングしながら、ミサオは余裕を持ってゴールし、バイクのシートの下から労わり草を10本取り出す。

「いや~久しぶりにあの頃に戻ったわ!舗装されてねぇ道に合うバイクじゃねぇのはわかってたから、タイヤとダンパーとサスいじっといたけど、上手く噛み合った見てぇで助かったぜ。・・・やっぱ単車は良いわな!」

ほっと胸をなで下ろすミサオ。

「お疲れ様、パピ。・・・勝ったのはいいけど、そのバイクと服装。何なの?・・・あの頃って盛り上がるのは1人の時にしてもらえる?子供達が真似したらどうするの?夜明け前の公道の野良犬でしたっけ?それって車来たらねられて死ぬやつよ?」

「あ!・・・言葉のマジックってやつか!俺、語感だけで胸張って宣言しちまったよトニーに・・・。」

クミコの指摘に今更恥じ入るミサオ。そんな会話をしていても、まだトニーは戻らない。

ミサオがゴールしたものの、クミコのお説教が止まらない現場からは、見物していた人々も、1人、また1人と消えてゆく。

「早く戻れよトニー!このままだとずっと・・・。」

「パピ!聞いてるの!」

「はいっ!ちゃんとマミの話は聞いてますとも!」

(もう、勝ち負けどうでも良いから、トニー帰ってこいよっ!その前にグレン!ここはお前が間に入る場面だろうが!あ、目ぇそらしやがった。・・・弟分は、兄貴の盾になるんだぞ?普通・・・。)

トニーが敗戦を受け入れ、集団全てがミサオの舎弟になるまでクミコの説教は続くのであった。


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