傲慢な超幸運王子はある意味最強

東間

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家庭教師

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『素晴らしい!流石恩恵者だ!では次の実験に移るぞ!』

白衣を着た老魔法使いは高らかに笑った。

一人の少年が実験台の上にいる。
両手首、両足は鎖で端に繋がれ、身動きが出来ない様にされていた。

『おいこれを食べろ!はははは!これが神の恩恵者の力か!』

少年は何かの肉を必死に食べる。
2ヶ月ぶりの食事だからだ。

『うっ!』

少年は嘔吐した。
体が受け付けなかったのだ。

『ふむ。魔物の肉は駄目か…次!』

『エディオルゴ様…まだ子供ではないですか…もう少し…』

白髪の青年がカルテを抱え込み白衣…エディオルゴに辞めるように呼び掛ける。

『うるさい!これは皇帝陛下の命令なのだ!混血種は黙っていろ!!』

『こ、ていへ、か?』

少年は何故自身がこの様な目に遭っているのか、そしてそれが誰の仕業なのかを理解した。

『メーダヤ皇帝陛下はこの様な命令をするお方では御座いません!』

『このっ!』

エディオルゴは白髪の青年を殴った。蹴った。
罵倒を浴びせた。

『獣人の血が入ったゲテモノがっ!高貴な私に逆らうなっ!!』

†††

『ごめんね』

白髪の青年は日に日にボロボロになっていった。

『か、さん、と…さん、は?』

少年は優しかった両親の行方を聞く。

『そ、それは……』

白髪の青年は真っ青になり、黙り込んでしまった。

『明日、皇帝陛下に君の釈放を懇願する。その時に…話すよ』

†††

少年は爆発音で目を覚ました。
目先には白髪の青年がいた。

『迎えに来たよ』

そう言うと白髪の青年は少年を抱え込み、地下通路へ向かった。

『僕には君ぐらいの弟がいてね。もう、耐えられなかったんだ。
今の皇帝陛下は完全に狂ってしまった。
今思えば聖女が降臨されてから…この国は狂っていった。』

白髪の青年は少年に教えた。

昔の皇帝陛下が誰にでも優しかった事。
聖女が降臨された事。
そして皇帝陛下や大臣達が妄言を言う様になった事。

そして…聖女が少年の血縁者である事。

『けえ、しゃ?』

『聖女が言うには姪の位置にあたるらしいよ。
君達家族に虐められたと、君が神の恩恵者だと、色々話していた。
そこでかねてより恩恵者の実験をしていたエディオルゴが皇帝陛下に進言してしまったんだ。
『聖女の心を傷付けた者達へ天罰を』、とね』

白髪の青年は地下通路から出て森を走った。

『見つけたぞ!反逆者だ』

兵士達が白髪の青年に向かって叫んだ。

『……』

白髪の青年は白い尻尾を出すと孟スピードで兵士達から離れていく。

『ここで暫く待っていて。仲間が迎えに来るから』

『あ、なた、は?いっしょ、に』

白髪の青年は洞窟の様な場所の一番奥、少し狭い場所に少年を下ろした。

『弟が人質になっているんだ。逃げられない。』

『と、さんた、どこ?』

白髪の青年は悲しそうに笑うと首につけていた十字架を少年に握らせた。

『君の両親は安全な所へ行ったよ。』

『……』

少年は涙を流した。その意味を理解してしまったから。
 
『神は存在するのに。世界は残酷だね』

白髪の青年はそう言って立った。

『な、まえ』

『ん?』

『な、まえは?』

少年は二度と会えないであろう青年に向かって聞いた。

白髪の青年は微笑む。

『僕の名前はティル。神獣の血を引いた半獣人さ』

†††

半日が経過した。
だがティルの仲間は来なかった。

そして…

ドォォォォン!!ガラガラガラ!

と、爆発音と共に洞窟が崩れてしまった。

『な、で』

舞う土煙に少年は咳き込む。

『で、な』

急いで脱出しようとする少年。
だが少年の体は酷な実験により、思う様に動かなかった。

『あ、あぁ…』

地獄の様な人体実験を経験し、唯一の希望だった両親の死も知ってしまった少年。
そして頼れる人間が誰もいない、孤独な空間。

『あぁぁぁ!』

幼い少年の心は、壊れてしまった。

†††

「あちらこちらでヒソヒソ~♪お前ら暇かよ言いたいよ~♪貴族の必須♪虚言癖~♪治療は難関♪泥中の蓮は消え去った~♪」

「王子!ですからやめてくださいってば!」

スノーヴァをステラが追いかける。

だがステラは安堵していた。


二時間前

スノーヴァの部屋につくとスノーヴァは何時もの様に寝ていた。
呆れたステラは起こそうとスノーヴァを揺らす。

『ああああ!』

スノーヴァは叫びながら起床した。
額に汗を浮かべ、過呼吸を起こしていた。

『王子!』

ステラがスノーヴァを呼びながら背中を擦る。

『昨日間違えて個室に入ってしまってな…』

スノーヴァはそう言うと何時もの笑顔になり、何時も通りの行動をした。

それがステラには悲しく思えた。


「で、今日は何の教科だ?」

「今日は数学ですよ」

利益の為にスノーヴァの教師になったステラ。
だがステラはこの傲慢王子をいつの間にか幼い頃の自分に重ねていた。

どんなに苦しくても、悲しくても、耐えて耐えて笑った幼いステラ。

「おい、なぜ止まる?僕の数秒は高い値段がつくぞ?」

「申し訳御座いません」


ステラは白髪の長髪を揺らし、走った。

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