Magical Science

天網 慶

文字の大きさ
11 / 12

第11話 歴史

しおりを挟む
(ここはどこだ?)ワットはふと気が付くと、見知らぬ場所にいた。

(暗いな…。)そう思って魔法を使おうとするが、魔力を込められない。喋ることもできない。

「あなた、そろそろ配給の時間ですよ。」どこかから声がする。

「分かった。」男はそう言って、ランプに火をつけた。

 ワットはふと思い出した。自分が記憶の液体を飲んだことを。ここは最初の6人の誰かの記憶の世界だった。(とするとここは500年前の世界か…。)ワットは2人をしばらく見守ることにした。

 男と女がこちらに近づいてくる。ワットは避けようとしたが、2人はワットを通り抜けてどこかに行ってしまった。どうやらこの世界の住人はワットに干渉できないようだ。

(それにしても今は夜か?やけに暗いな…。)2人はどっかに行ってしまったので、ワットはそう思いながら辺りを探索することにした。すると図書室のような場所にたどり着いた。本を手に取ることはできないが、背表紙のタイトルを見る限り歴史の本ばかりだった。ワットたちは500年前以前の歴史は一切教えられていない。その500年以上前の出来事がここに書いてあるのかと思うと、ワットは気分が高揚した。

 本を読むことはできないので、ワットはさらに探索を続けることにした。探索を続ける内にワットはたくさんの子ども、老人、大人に出会った。ここは住人ひとりひとりにほら穴のような部屋が与えられていた。(随分と変な共同住宅だな…。)と考えながら、適当に1つの部屋に入ってみた。するとそこには、寝たきりの老人がいた。まだ息はあるようだが、かなり衰弱している。俺は触れることはできないと分かっていたが、老人があまりにもかわいそうで手を触れてみた。

 すると、ワットは途端に老人に吸い込まれていく。(な、なんだ!?)ワットは気が付くと、老人の肉体を手に入れていた。(急いででないと。)ワットがそう思った途端、ワットはまた霊体に戻っていた。

 それからワットはいくつか実験をした。その結果、記憶の世界ではこちらからなら体を乗っ取るという形で干渉できるようだ。ただ、その人の人生に関わる重大な場面では、強制的に体から追い出されるようだ。ワットは急に別人になってもバレないような、常に1人でいる男に乗り移ることにした。

 そしてワットは急いでさっきの図書室に向かい、本を読み始めた。

 人間はもともと猿人という生物で、石器や火を使い始めたことから王政が行われていたり、市民革命により民主主義が誕生したことなどが書いてあった。だがワットは、戦争ばかりしていたことにショックを受けた。魔法文明が始まってからは戦争など世界のどこでも起きていなかったからだ。

 ワットはどんどん読み進める。すると、2030年のページにたどり着いた。前書きによると、どうやら2030年に起こったことが世界を変えたらしい。2030年の歴史を学び、ワットは先ほどよりもはるかに大きなショックを受けた。この本によると、2030年にとある国が核兵器を発射させたことを発端に世界核戦争が起こったそうだ。当時の核兵器保有国のすべてが例外なく核兵器を発射し、地球の表面は放射線濃度が、1万マイクロシーベルトを超えたそうだ。核戦争が始まる前に地下シェルターが作られており、生き残った人たちは全員そこに非難した。だが、被ばくをした人も大勢いた。生き残った人でもがんや白血病になり、バタバタと死んでいった。

 それから地下シェルターでの生活は2500年までの500年間続いた。この500間で人間は魔法が使えるように進化していた。本来ならば500年で進化するなど滅多にないのだが、放射線の影響なのではないかとこの時代の学者は考えていた。

 たった1回の核戦争で地下で500年も過ごさなくてはならなくなった。地下シェルターでは人類存続のため、被ばくをしていない者同士で無理やり子作りをさせらるような「生命の部屋〈いのちのへや〉」なるものもできていた。また被ばくをしている人でも、少しでも人口を増やすために、異性からのアプローチは断ってはいけないというルールも出来ていた。

 もし自分に愛する異性がいたとしても、その異性がアプローチを受けたら、自分はその異性がどこの誰かも分からない他人と交わるのに目を瞑らなければならない。たった1回の核戦争のせいで人々はプライバシーも自由恋愛もできないような生活を強いられている。しかも人々が望んでこうなったわけではなく、時の為政者の勝手な都合でこのような生活になったかと思うと、ワットは当時の政治家たちに腹を立てていた。

 ワットはこの世界をもっとよく知るために探索を続けた。壁を通り抜けられるため、霊体のまま探索をした。すると会議室のような場所に出くわした。そこでは6人の人たちが何やら話し合いをしていた。ワットは確証はなかったが、直観で最初の6人だと感じた。6人はそろそろ地上に出てもいいんじゃないかと話していた。

 6人は地上に出ることにした。ワットも後ろからついていった。地上では既に放射線濃度が十分下がっていた。

 もう二度と人類は同じ過ちを繰り返してはならない。最初の6人はそう言って、500年前の残骸をすべて破壊し始めた。歴史的価値のある建造物もボロボロに崩れたマンションも例外なくすべてを破壊した。ここから新しい歴史を始めよう。今までの間違った歴史はなかったことにして、平和な魔法文明を築いていくのだ。6人はそう意気込んで世界中のすべての痕跡を破壊し、世界を4つの地域と1つの中央政治区間に分けた。そして人々が二度と戦争を起こさぬように、全人類を監視・管理し始めた。

 こうして人々は地下の生活から解放された。初めて見る太陽にみんな感動していた。家族で一緒に住む者や誰にも邪魔されないように愛し合う者同士でひっそり暮らす者もいた。人々は、徹底的な監視の下で、不当に自由やプライバシーが制限されることはなくなった。愛し合う者が奪われそうになったら、法律でその者を罰することができるようになった。人々からは争いが消えることはなく、幸せな日々を送っていった。

 そんな中、最初の6人は再び地下に戻っていた。地下には今までの歴史がすべて記された本がある。過去の過ちをなかったことにするため、6人は本を次々と燃やしていった。しかし途中でふと考える。人類が発明した核兵器をまた発明する人が出てくるのではないかと。そこで6人はそうなった時のために、電気と核兵器を独占することにした。そこで設立されたのがHUOだった。6人は「核兵器」に関する書物とそれの発射装置の原動力である「電気」に関する書物以外はすべて燃やした。そしてその2つとこの記憶は、『大いなる宝』としてHUOが秘密裏に独占するという誓いを立てた。

 こうして魔法文明が始まった。人類の新しい歴史が始まった。人類の平和のための監視、いわゆる公共の福祉のための監視と不当な自由の制限を両天秤にかけ、人々は公共の福祉のための監視を選んだ。平和のために監視を拒む人はいなかった。こうして今ワットたちが生きる魔法社会は誕生したのであった。

ー To be continued ー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

処理中です...