捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋

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第一章

商業ギルドの販売者登録

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 朝ごはんを食べ終えると、女将さんにギルドに行って来ると言ったら、商業ギルドはまだ良いが、冒険者ギルドには乱暴な者も居るので気をつける様に言われた。

  人と言う生き物は落ちぶれて生活に困る様になると、平気で他人を傷つけても欲しいと思うお金や物を奪うのだと言われた。

  うん、女将さん分かっているよ、人間ってそうだよね、前の世界でも人間が一番始末の悪い生き物だった。生活苦から1000円の為でも強盗して人を殺す人だっていたし、自分が不幸だと幸せそうに見えると言うだけで、その他人が許せなくて、車でひき殺す人だって居た。

  この世界でも同じって事だよね。

  「あんた身につけている物がとても良いものだからね、見る者が見れば立ち振る舞いとかでも良いところの子供だろうと分かってしまうよ、靴や服も普通に見せているけれど、どう見てもお金のかかった質の良いものだから、そう言うのを見て身ぐるみ剥がそうって奴だって居るからね、気をつけて動くんだよ」

 「はい、女将さん分かりました。気をつけます」

  小柄だから子供に見える様だが、もう成人なのだけれど、心配してもらう事自体が嬉しくてニコニコしてしまう。

  そんな私を見て、困ったもんだねえと女将さんは頭を撫でた。

   そうか、やっぱり身につけている物は、兄の上質なお古なので、一般庶民じゃあ通らないって事か、まあ仕方ないよね、今更馴染みの悪い靴などを買って履くと言う気にはならない。
  
  靴は自分に合った良いものを履かなければ、足を痛めてしまうからだ。特に、まだ今から長い距離の移動が待っている。

  先ずは商業ギルドで、売ろうと思っていた服飾小物を見せた。
お試しで、前世でのスキルを使い、図案や刺繍の刺し方も全て前世風にしている。

鑑定専門の職員が出てきて、絹ハンカチや綿ハンカチに可愛い小鳥や花のモチーフを縁飾りやワンポイント、全体の刺繍と、色々に施した物を丁寧な手つきで刺繍や縫製を確認した。

  「これは、とても手の込んだ物ですね、それに刺繍一つにしても、モチーフがこの国の昔からある鳥や花とは全く違う新しい物だし、この国でこの様に、宝石の散りばめられたアクセサリーに、小鳥や蔦が絡むと言う様な刺繍の図案は見た事がない。これはどなたの考えられた図案ですか?」

 「ああ、これは姉の考えた図案です、今日持ってきた物に関しての商品の売買は私の判断で売る様に言付かっています」

  と適当な事を言っておく。

  「もし、この図案ごと売って頂けるなら、一つの図案毎に、金貨50枚お支払い致します」

  と、思っても見なかった事を提案された。とても法外な報酬に思えるが、つまりはこの刺繍製品で其れ以上の収入が見込めると言う事だ。つまりこのデザインの販売権ごと欲しいと言う事だ。金貨50枚と言うと、50万円と言うことになる。

  その後は、商業ギルドの別室での契約の話になった。

  もっと価格を釣り上げる事も出来そうだったが、自分の持っている刺繍に関する図案の種類は限りなく湧いて来るものだ。

  チマチマ刺繍を刺した物を売るよりは、ここでいくらか今後の蓄えを増やす方が賢いだろう。そう思い、持っていたハンカチ10枚を図案ごと売り、金貨500枚を手に入れた。

  その後、布小物のこれも前世の裁縫スキルで作ったパッチワークのポシェットタイプの物だが、同じ様にデザインごと買い上げて貰い、5種類、合計金貨250枚が追加された。

 そのお金は全部ギルドカードに入れて貰った。暫くは働く必要もなさそうだが、アリとキリギリスなら勿論アリ体質なので、老後のゆとりの生活の為に、金稼ぎは続けるつもりだ。

 ギルドカードは魔法の指紋認証システムなので、他人にカードを盗まれても引き出される心配はないし、再発行も可能である。

  バングル伯爵領の商業ギルドで、販売主の証明をカードの記録に追加して貰った。
そうすれば、この記録が何処のギルドでも確認され、今後の商売をするにあたって、実績にも信用にもなる。

  カードの性別は女性で、けれども変装で男装している事に関しては、何も言われる事は無かった。

  ギルドで作ったカードでの認証機能には間違いが無く、それでも外見や性別が違って見えると言う事は、変装か魔法によるものだと言う認識が浸透している様だった。
 


  次にもう一つ別の通りにある冒険者ギルドに立ち寄る為、路地を曲がり、歩いて行く。
宿の女将さんに言われていたので、身体強化をかけて動いていたので直ぐに気付いたのだが、商業ギルドで別室に呼ばれた時から目を付けられていたのかも知れない。

  不自然な動きをする者が付いて来ている、三人程だ。
  まあ、仕置きする事も(物理)簡単だが、騒ぎを起こすのも、目立つのも考え物だよねと思い、どうしようかなと考えていると、その三人とは別に後ろから走って来た大柄な人物が声をかけて来た。

  「おーい坊主、ちょっと待ってくれ、商業ギルドのモルトさんから伝言だ」

  振り返って見ると、どこから見ても冒険者の風態の熊みたいな男が立っている。

  すると、その後ろにいた三人組の男達が舌打ちして踵を返したのが分かった。

  「はい、私ですか?」

  「うん、最近ガラの悪いのが商業ギルドにも出入りしているから、坊主を宿屋まで送ってくれと言われたんだ」

  「ああ、ありがとうございます。でも私は今から冒険者ギルドにも寄る予定何ですけど、良いんですか?」

  「ちゃんと契約してやってる仕事だから大丈夫だぞ」

  「良かった、助かります」

    それで、二人で世間話しながら、冒険者ギルドまで歩いて行った。






  






  
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