捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋

文字の大きさ
14 / 43
第三章

舞い降りた天使

しおりを挟む
  


   綺麗で愛らしい子供の事を、天使の様だと褒め言葉に使うけれど、この子はまさしく天使だと思ったのは、私だけでは無いだろう。

   それを証明するのが、店をそっちのけで何かとかまいたがるこの、じいじ、ばあば、ならぬ銀の小鳩亭の夫婦二人だ。この夫婦には息子が二人居る。一人は店を継ぐためこの食堂で今修行中である。

   もう一人の息子はべつの街の役所で公務員をしている。王都の採用枠には受からなかったそうだ。

息子が手伝って居るのを良いことに、交互に店を抜けては子供の様子を見に来るのだ。

  出産は、王都の治療院で、スルッと超安産で済ますことが出来た。若さも有るけど、自分の魔力で痛みを和らげ、子宮口を魔力でやんわりと広げ、押し出すイメージで自分の出産を補助出来たからだ。最初に陣痛が来てから一時間もしないうちに出産が終わり、付き添いで来てくれていた女将さんも、あまりの超安産に驚いていた。

 もちろん、後産も全部終わってから元に戻しておきました。

 そして、その後3ケ月経った。



  お産も軽く、身体も元気ハツラツで予後も良く、今は産後も身体の線を整える運動を頑張っている。

「もう、ミリアムちゃん蚊トンボみたいに細いのに、そこまでする必要あるのかねえ」

   天使の眠る揺かごの横で絨毯に転がり妖しげなポーズをとるミリアムを呆れて見ながら女将さんのメリルさんは言った。

   この世界にヨーガは無いので、前世の記憶にのっとり様々なポーズを取るミリアムは、とても変である。

   一応、生まれた街で流行っていた民間療法による健康運動と適当な事を言っておいた。


   生まれた子供は男の子で、髪は父親似の輝く金髪に、瞳はミリアム似の水色の瞳を貰っていて、 その零れ落ちそうな程大きな愛らしい水色の瞳は縁だけがコバルトブルーでとても神秘的だ。それは輝く巻き毛の金髪と相まって、もう極上の天使だった。

   民間の医療院なので、魔力を測ったりしないのだが、生まれた時、ミリアムにはこの子の持つ魔力は自分とよく似ていて、そして強いことを感じた。

大きくなったら、ミリアムと同じ様に治癒魔法も使える様になるかも知れない。

   名前は『アンドレア』にした。余りにも天使過ぎるので、男らしくなる様に願いを込めた。

   王都の役所で、庶民として住民登録をした。3年以上王都に住んでいると証明する人が3人居れば出来るのだ。
役所の役人は、ミリアムの貴族然とした容姿を見て不思議そうでは有ったが、何も言わずに登録してくれた。

   前世では子供を持つどころか、お一人様生活だったが、今度は親になる事が出来た。まあ、相手がアレだったけれど、後悔はしていない。

   子供は相手無しでは作れないものだから、寧ろ、いいタネありがと~う!とでも思っておこう。ただし、ただの提供者である。親権はやらん。


 早くも私はアンドレアの今後の子育ての予定を思い浮かべていた。

 ルイスは、結局なんの連絡もよこさず、ゼスクアさんはとてもがっかりしていたが、あの状態で連絡寄越せるならば、その前に手を打っているだろう。


 何というか、あの王都で二人で過ごしていた時のまま、何もなければやさしい旦那で、きっと良い父親になり、良い家庭を築けたのだと思うのだ。


 けれども、人生の分岐点で、他の誰でもなく自分がきちんと考え、最良の道を選ぶ努力をしなければ、甘い考えのままズルズルと人任せに楽な方へと流されて行く人間は、一たび人生が狂い始めるとそれを自分で止める事が出来なくなる。


 これは、自前の持論だが、何事も必ず最悪の事態を考えてその上での計画を立てていなければ、上手く行かなかった時に人は動けないものなのだと言う事だ。


 それを考えると、私はいつも最悪の事を考えているので、この状況にいたってもダメージが少なくて済んでいる。

 ルイスと一緒に住み始めた時点で、もしも、突然事故でルイスが亡くなった場合、子供がいても自分は生活していけるのか自問自答した。

出来ると思った。その上で同棲しはじめたのだから、半分は自分に責任があると思っているし、彼がいなくなっても自分が働いて稼ぎ、生活していける。


 取りあえずは、ここで子供を育て、学校へ通わせ、親子二人で仲良く暮らしていけたら良いと思っている。銀の小鳩亭のガルドさんやメリルさんも居てくれるし、心強い。

 お金の事は、今の所ある程度はまとまった現金を手元に持っているのでギルドに出しに行く必要もない。
ルイスと一緒になってからは、生活費はすべてルイスが出していたので、有るもので生活をする癖のついているミリアムは贅沢はしなくても生活出来た。

 今はまったりと子供の事だけ考えて生活に専念出来る。

アンドレアと蜜月を過ごすのだ。

  

  だけど、ふと、もう叶うことは無いまぼろしの、優しい旦那様との生活が頭をよぎり、心の奥がツン…とした。

   ただ、ただ、満ち足りて幸せだった頃に思いをはせ、そして、今からのきっと楽しい生活を思い描いた。

   守る者がある女は強いんだよ…

   アンドレアのスヤスヤ眠る顔を眺めて、ミリアムは微笑んだ。






   

   

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……

藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」 大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが…… ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。 「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」 エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。 エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話) 全44話で完結になります。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。 無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。 彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。 ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。 居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。 こんな旦那様、いりません! 誰か、私の旦那様を貰って下さい……。

処理中です...