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第三章
舞い降りた天使
しおりを挟む綺麗で愛らしい子供の事を、天使の様だと褒め言葉に使うけれど、この子はまさしく天使だと思ったのは、私だけでは無いだろう。
それを証明するのが、店をそっちのけで何かとかまいたがるこの、じいじ、ばあば、ならぬ銀の小鳩亭の夫婦二人だ。この夫婦には息子が二人居る。一人は店を継ぐためこの食堂で今修行中である。
もう一人の息子はべつの街の役所で公務員をしている。王都の採用枠には受からなかったそうだ。
息子が手伝って居るのを良いことに、交互に店を抜けては子供の様子を見に来るのだ。
出産は、王都の治療院で、スルッと超安産で済ますことが出来た。若さも有るけど、自分の魔力で痛みを和らげ、子宮口を魔力でやんわりと広げ、押し出すイメージで自分の出産を補助出来たからだ。最初に陣痛が来てから一時間もしないうちに出産が終わり、付き添いで来てくれていた女将さんも、あまりの超安産に驚いていた。
もちろん、後産も全部終わってから元に戻しておきました。
そして、その後3ケ月経った。
お産も軽く、身体も元気ハツラツで予後も良く、今は産後も身体の線を整える運動を頑張っている。
「もう、ミリアムちゃん蚊トンボみたいに細いのに、そこまでする必要あるのかねえ」
天使の眠る揺かごの横で絨毯に転がり妖しげなポーズをとるミリアムを呆れて見ながら女将さんのメリルさんは言った。
この世界にヨーガは無いので、前世の記憶にのっとり様々なポーズを取るミリアムは、とても変である。
一応、生まれた街で流行っていた民間療法による健康運動と適当な事を言っておいた。
生まれた子供は男の子で、髪は父親似の輝く金髪に、瞳はミリアム似の水色の瞳を貰っていて、 その零れ落ちそうな程大きな愛らしい水色の瞳は縁だけがコバルトブルーでとても神秘的だ。それは輝く巻き毛の金髪と相まって、もう極上の天使だった。
民間の医療院なので、魔力を測ったりしないのだが、生まれた時、ミリアムにはこの子の持つ魔力は自分とよく似ていて、そして強いことを感じた。
大きくなったら、ミリアムと同じ様に治癒魔法も使える様になるかも知れない。
名前は『アンドレア』にした。余りにも天使過ぎるので、男らしくなる様に願いを込めた。
王都の役所で、庶民として住民登録をした。3年以上王都に住んでいると証明する人が3人居れば出来るのだ。
役所の役人は、ミリアムの貴族然とした容姿を見て不思議そうでは有ったが、何も言わずに登録してくれた。
前世では子供を持つどころか、お一人様生活だったが、今度は親になる事が出来た。まあ、相手がアレだったけれど、後悔はしていない。
子供は相手無しでは作れないものだから、寧ろ、いいタネありがと~う!とでも思っておこう。ただし、ただの提供者である。親権はやらん。
早くも私はアンドレアの今後の子育ての予定を思い浮かべていた。
ルイスは、結局なんの連絡もよこさず、ゼスクアさんはとてもがっかりしていたが、あの状態で連絡寄越せるならば、その前に手を打っているだろう。
何というか、あの王都で二人で過ごしていた時のまま、何もなければやさしい旦那で、きっと良い父親になり、良い家庭を築けたのだと思うのだ。
けれども、人生の分岐点で、他の誰でもなく自分がきちんと考え、最良の道を選ぶ努力をしなければ、甘い考えのままズルズルと人任せに楽な方へと流されて行く人間は、一たび人生が狂い始めるとそれを自分で止める事が出来なくなる。
これは、自前の持論だが、何事も必ず最悪の事態を考えてその上での計画を立てていなければ、上手く行かなかった時に人は動けないものなのだと言う事だ。
それを考えると、私はいつも最悪の事を考えているので、この状況にいたってもダメージが少なくて済んでいる。
ルイスと一緒に住み始めた時点で、もしも、突然事故でルイスが亡くなった場合、子供がいても自分は生活していけるのか自問自答した。
出来ると思った。その上で同棲しはじめたのだから、半分は自分に責任があると思っているし、彼がいなくなっても自分が働いて稼ぎ、生活していける。
取りあえずは、ここで子供を育て、学校へ通わせ、親子二人で仲良く暮らしていけたら良いと思っている。銀の小鳩亭のガルドさんやメリルさんも居てくれるし、心強い。
お金の事は、今の所ある程度はまとまった現金を手元に持っているのでギルドに出しに行く必要もない。
ルイスと一緒になってからは、生活費はすべてルイスが出していたので、有るもので生活をする癖のついているミリアムは贅沢はしなくても生活出来た。
今はまったりと子供の事だけ考えて生活に専念出来る。
アンドレアと蜜月を過ごすのだ。
だけど、ふと、もう叶うことは無いまぼろしの、優しい旦那様との生活が頭をよぎり、心の奥がツン…とした。
ただ、ただ、満ち足りて幸せだった頃に思いをはせ、そして、今からのきっと楽しい生活を思い描いた。
守る者がある女は強いんだよ…
アンドレアのスヤスヤ眠る顔を眺めて、ミリアムは微笑んだ。
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