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第四章
ゼノディクスの魔法師団
しおりを挟むエミリアンは毒殺騒ぎのあった日の翌日は大事をとって休み、次の日から城に出る事になった。
結局あの二つの家の令嬢方は捕まり、両家とも謀反の疑いありとされ取り調べ中である。
ファウンズ伯爵令嬢の方は、猛毒の液を入れた小瓶を持っていたので、言い逃れは出来ない。
もともとこの二つの家はベルダのクーデター騒ぎを起こしたゼノディクス王国の貴族の残党で、証拠不十分で捕まえられなかったが、ずっと疑われていたらしい。
ベルダは小国だが、大国ゼノディクス王国の友好国なので他の国からは手が出したくても出せない。
だが、小国でも旨味は十分ある国で、金の鉱山を持ち、紅茶の名産地だ。ここは精霊の加護のある国なので、特別な紅茶葉が採れる。紅茶はどこの国の貴族にもはなくてはならない嗜好品だ。
そこに目を付けたのがゼノディクスの欲の皮の突っ張った腐った貴族の一派だ。
ベルダの王弟に唆されてクーデター騒ぎに手を貸したのだ。皇太子妃はベルダの王女だ。放っている草から国内の貴族の怪しい動きと、ベルダからは王弟の不振な動きの連絡を受けていたのでクーデターが始まったと同時に筆頭魔術師が魔術師団を連れて鎮圧に乗り出し、最後の詰めで王弟の隠れていた魔術師塔の結界をアレンが破壊する時、死に物狂いで反撃した王弟のトラップにはまったらしい。
破壊と同時に呪いと攻撃を受け、魔術師団はあちこちに飛ばされ、筆頭魔術師は偶々出来た空間の狭間に吸い寄せられ、離れた街に飛ばされた。
時空の狭間でなくて幸いだったとしか言いようがない。
そこで、アレンは大怪我をして動けなくなってしまった。
治癒魔法の使い手を残った魔力を使い探すと、宿屋と思しき建物から、唯一治癒師の気が見えたのだ。鳥に変化してなんとかそこまで辿り着くと、顔を見せたのは小娘だった。愛らしいと思った。
だが、この小娘そうとう強い魔力を持っている。鳥の姿になったままで人間の言葉を話す事も出来るが、鳥のままの方が警戒されないだろうと思った。
小娘はあっさりと治癒魔法を使ってアレンを治してくれた。アレンも疲れていたので、鳥の姿のまま寝てしまった。
本来ならば、話をして去りたかったが、自分も急いでいたし、寝ている小娘を起こすのも可哀そうに思った。
若い娘の寝ている部屋に人の男の姿で急に現れるのもはばかられ、結局そのままケレスを後にした。
その後探し出すのにあれ程苦労するとは思わなかったが。
魔術師の塔に連れて行かれる日は、エミリアンは男装一択だった。
その上に、アレンの用意してくれた黒のローブを羽織ると、魔術師の塔では全く目立たなくなった。
その日も朝から何度もアレンに体調を気にされたのだが、その度に大丈夫だと言うのに疲れた。
シャルルも付いて来ていた。何処に行くにもさりげなく近くにいるので、なかなか高度なスキルを持っているなと思った。あれもギフトなんだろうか?
魔術師の塔は4塔ありそれぞれの属性ごとの研究棟だと言われた。つまり、巨大な建物の四隅に塔が突き出ている感じだと言った方がわかりやすいかも知れない。
アレンに付いて魔法塔を移動していると、緊急呼び出しらしくアレンが呼び出しされた。
アレンはこのままシャルルと好きな所を回ってみていて良いと言い残し城の方に移動していった。
城内の移動には魔法陣を使っている。これは魔力量の多い者しか使わないそうだ。
シャルルと塔の中を見て回っていると、二人の前に一人の男が立ちはだかった。
「こんにちは、お嬢さん、私はこの魔術師団の団長のカルド・リケです。よろしくお見知りおきを」
「こんにちは、筆頭魔術師の専属治癒師のエミリアン・ガブリエル・ハッサです」
「お嬢さんはご存知かどうかわからないのですがね、魔術師というのは実力主義でして、私も筆頭の傍にいる者として、お嬢さんの実力を見せていただきたいのです」
「…と言いますと?」
エミリアンは内心また、面倒くさいのが出てきたと思っていた。そう言えば、よく考えれば魔術師団に来たのだから、まずは魔術師団長に紹介すれば良いものを、アレンは無視して、というか、初めから頭になかったのだろうが、そのままエミリアンを連れて魔術師塔を案内していたのだ。
魔術師って、面倒くさい。
「お嬢さんの得意な魔法で良いですから、私に実力を見せて貰いたいのです」
「カルド師団長、そう言う事は、筆頭が帰って来られてからにしていただけませんか?」
シャルルがカルドとエミリアンの間に身体を入れてきた。彼はエミリアンの護衛なので当然と言えば当然だが、直後、二人の間で、バチバチと火花が上がり驚いた。
「シャルル・エシャル、私に命令出来る立場ですか?」
「私は、エミリアン様の護衛です!」
ますます、火花が散り始めこれ以上大きな力が働けば被害が出そうだ。
「ちょっと、二人とも屋内でやめてくださいよ」
思わず、エミリアンは声を上げた。
「では、屋外へ出ましょう」
急に、目の前の景色が変わり屋外へ連れ出されたのが分かった。
この師団長、短絡的すぎる。魔力がいくら多くてもこれではダメだろう。手合わせしたいだけじゃないか?
横を見るとシャルルが眉を寄せていた。
「師団長、エミリアン様にちょっかいを出せば悪くて首ですよ、よろしいんですか?」
「大丈夫ですよ、無茶はしませんちょっと実力を確認するだけです」
なんかこの人えらそう、上から目線、いやな奴。
「それでは、私から行きますよ、まず私の攻撃を防いでください」
一方的に、師団長は右手から炎の柱を上げエミリアンに向けて放った。
シャルルはそれを防ごうとエミリアンの前に出ようとした。
「シャルル、大丈夫どいて!」
すばらしい反応でシャルルが避けると、エミリアンは反撃した。
カルド師団長の足元から突如として物凄い水流の渦が沸き上がり、カルド師団長を飲み込んだ。そのまま洗濯機の中の洗濯物のように身体の一部が見え隠れしながらぐるぐる回される。
多分、カルド自身は、ごめんなさいもうしません、止めて下さいと言いたかったんだと思う。
でもあまりの水流の凄さと、遠心力の凄さに身体の保護をするのが精一杯で、こんな渦攻撃を受けたこともない師団長はなすすべもなかった。
異変を察知した、アレンが現れるまで回し続けられ、止められた時は立ち上がる事も出来ず、担架で運ばれていった。まあ、あのくらいであのおじさんは死にはしないだろう。
この魔法のイメージはやっぱり洗濯機だ、あと鳴門の渦もイメージに浮かんだ。
シャルルは驚いていたが、「エミリアン様は見たこともない技を使われますね」と感心していた。
「すまない、カルドは悪い奴ではないのだ、魔力も強いし、ただ少しバカなだけで…」
とアレンが言ったので。
「いくら、バカと刃物は使いようって言ったってあれじゃ話にならないし、ちゃんと人間教育してくださいよ、あんなのが師団長じゃ先が知れてるわ」
とエミリアンにボロクソに言われ、ガックリ来ていた。
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