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第六章
僕と一緒においで
しおりを挟むとても凶悪で強いちからを持った何かは、ルイスの形をしていた。美しい金髪を風に靡かせ微笑んでいる。
そして、まるでエミリアンが歩くのに合わせてるように、ゆっくりと正面の門から歩いて来る。
「やあ、ミリアム、いや、今はエミリアンだっけ?初めまして、と言うよりも、ずっと会いたかったよ、かな?」
エミリアンは明らかに今までのルイスとは違う、ルイスの形をしたモノをジロジロと観察した。
あまり好きでない昆虫を観察するように無遠慮に。
見た目だけなら、ルイスだ。スラリとした体躯のたいそう美しい男。けれども溢れる魔力が違う。
彼の持つ力はとても弱かったのに、ここにいる男の魔力は並ではない、あの、アレン様の張っていた結界を破ったのだ。
「とても歪だわ、あなたルイスに何をしたの?やめてあげてよ、彼をそっとしておいて」
「エミリアン、よ―く見てご覧、僕はルイスだよ、君が好きだったこの顔とやさしいまんまのルイスさ。僕はどこも変わっちゃいない、ずっと君を愛しているままだ、君が僕を好きでなくなってもね」
ルイスはもともとたいそう美しい男だったが、今はまたその美貌も凄みを増していた。エミリアンには分からない程の力を持ち、彼の表情自体にも自信が溢れている。
中身が変わればこれ程印象が変わるものかと思う程にルイスの印象が違う。
「いやあね、意味わかんない、ルイスが昔、私を捨てたのじゃない?貴方が先に私を捨てた。だから私も貴方を好きでなくなった。間違わないで、人の心はうつろうもの、お互いの努力なくしてはね」
そんな戯言をエミリアンは相手にしない、いくら美しい者でもこれ程邪悪であれば、近寄ることさえ嫌だ。
「ねえ、エミリアン、僕と一緒に僕の国に行こうよ、ルイスは君を愛してる。ルイスは僕だから、僕は君を大切にするよ、僕も君を愛してる。君が欲しいモノは何でも手に入れてあげるよ、だから僕とおいで」
「いやよ、私は自分の欲しいモノは自分で手に入れる主義なのよ、余計なお世話だわ」
「ああ、そう言うのもそそるよね、いいんだ、君がそうなら全部受け入れてあげるよ、だって僕の愛しい人だもの」
エミリアンは全身に悪寒が走った。話が通じているようで、全く通じていない気持ちの悪さとでも言うのか…
「貴方一体誰なの?どうしてルイスと同化しているの?何故ここにいるの?」
「僕と一緒に来れば教えてあげるよ、さあ、あの男が帰ってくる前に、さあ」
ルイスはエミリアンを引き寄せようとしたが、エミリアンは50メートルばかり後ろに飛んだ。
「本当にエミリアンはおてんばで可愛い」
それなのに、何故か後ろからルイスが彼女を抱きしめている。
『ぎゃー!ぎゅーされてる!!ギューされてるよっ!後ろに下がったはずなのに後ろに居るってどういう事!』
ルイスに抱きしめられてパニックを起こしたエミリアンは自分に水魔法の防御を張りルイスを弾いた。
彼の手の甲に赤い筋が出来る。
「いたたっ、エミリアンはいけない子だな、僕を怒らせたらだめだよ。エミリアンはやわらかくて暖かいね、ほうらおいで、僕は酷くしたりなんかしないから」
すると、手を伸ばしてくるルイスとエミリアンの間に魔法陣が浮かび上がり、今度はルイスが下がる。
「ルイス・セス・ドルモア、これは一体どういう挨拶のやり方なのかな?」
結界を壊された事に気づいたアレンが屋敷に戻って来たのだ。アレンからは怒りのオーラが出ているようだった。
「あれ残念、もう戻って来ちゃったね、ハッサ伯爵、いや、筆頭魔術師殿と呼んだ方が良いのかな?それとも黒の君?」
「そんなものはどうでもいい好きに呼べ、お前は何者だ?お前が私の結界を破壊した者だな。ルイス・セス・ドルモアにはそんな魔力はないはずだ」
ルイスはアレンの言葉にくすくす笑った。
「ルイスは魔力を手に入れたのさ、僕はエミリアンを貰って行くよ、いいでしょ、君は何でも持っているから」
「意味のわからない事を言うな、エミリアンは家の家族だ、何故お前にやらなければならない」
「あはははっ、じゃあ力比べと行こうか、あんたと僕の力比べ、なあっ」
突如として、アレンとルイスの間の空間に裂け目が出来たかのように魔力と魔力のせめぎ合いが始まった。
ガガガガガガッガガ!ガリガリバチバチバチッ!という眩しくて目を開けられない程の光があちこちに飛び交い、耳が痛くなるような轟音に加えて、キキキキキキッ!キュインキュインカンカンガンガンと言う金属と金属の当たるような金属音、更にはドガーン!ドガーン!という爆音、轟々と轟き渡る防風と地面の揺れる振動、腰まであるアレンの黒髪が生き物の様にうねり、バラけて舞った。
アレンはエミリアンを背に庇い、右手で彼女の左手首を掴むと一歩も引かなかった。
エミリアンは自分とアレンを水の膜で防御する位しか出来なかった。ルイスはどういう力を使っているのかよく分からないが、エミリアンの身体にGの様な力がかかっているのではないかと思うほど動きがとれなかった。
ルイスはエミリアンを自分の力で覆い、何処かに連れて行こうとしていた。重く冷たい膜がエミリアンを包み込み闇の空間へと引っ張り込もうとしていた。
「ちぇっ、さっきあんたの結界を破壊するのに力を使い過ぎたかな、でも、エミリアンは貰って行くよ!」
アレンは掴んでいたエミリアンが引っ張られるのを感じた。
『絶対に渡さない、渡すものか!』
「エミリアン!行かせない!」
彼女を自分の空間に引っ張り込もうとしたルイスはそこに一緒に飛び込んで来たアレンの負荷によって、魔力のバランスを崩した。ルイスはアレンとの力のせめぎ合いでギリギリまで力を使っていたのだ。
彼女を飛ばそうとした場所でなく違う場所に、エミリアンとアレンは落ちで行くのを、もはや止める力は残っていなかった。
ルイスの舌打ちが聞こえた。
「くそっ、なんて奴だ、何から何まで邪魔してくれる、本当に気に入らない男だよあんたって奴は!」
身体のあちこちに傷を作り、血を流しながらルイスはギリギリと奥歯を噛みしめる。
「次は必ず…」
暗闇の、どこかわからない場所で、どんどん早く下降して行くスピードに気を失いかけたエミリアンをアレンが抱きしめた。
「大丈夫だ、私がいる、心配ない…」
イケボだった。
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