8 / 8
第一章 異世界に降り立つ!
08発目 異世界の大国 アッティア
しおりを挟む
朝を迎えた俺たちは、軽い身支度を済ませてから、キーシャ村を後にした。
隣を歩くエレーヌはあの後も泣きっぱなしだったのか、腫れた目を隠しきれていない。
「天気が良くて助かりましたねー!」
「そうだね」
しかし、無理にでも元気な様子を俺に見せてくれている以上、俺の方が変に意識しても仕方がないだろう。
それと言葉遣いなのだが、俺は敬語じゃなくても良いって言ったものの、なんだか少し落ち着かないとのことらしく、気がついたらこんな風に戻っていた。
「それで、ここからどうするつもり? このあたりに何があるのか、何も知らないんだけど……」
こう言ってはなんだが、エレーヌは田舎の村娘、彼女も恐らくあまり色々と広い世界を知っているようには思えないのだが……
「それなら、心配しなくても大丈夫ですよ!」
「……?」
「ほらコレ!」
そう言ってエレーヌは両手で何かを広げて、こちらに見せてくる。
これは地図だろうか?
「実はこの地図、村長がいつか村を出るときのためにって、私と妹のために用意してくれてたんです!」
この世界について知るためにも、地図なんかは最初に探さなければいけないと考えていたため、ここでそれを手に入れられるのはかなりデカい。
「大陸全土を示した地図なんて、珍しくて高価なモノなのに、村に行商人がやって来た時に買ってくれてたみたいなんですよ」
皮で作られたこの地図が高価だと言っているあたり、この世界は製紙技術や印刷技術といった部分は発達していないんだろう。
技術的には前の世界と比べて相応に低いと考えるべきか。
「村長さん、良い人だったんだね」
「はい……」
何気なく呟いたのだが、その言葉にエレーヌの表情が少し曇るのがわかる。
「ダメダメ、暗くなっちゃった! そうじゃなくって、これがあれば少なくても道に迷ったりすることはないんで安心していいってことですよ!」
「別に、私の前でも、少しぐらいは落ち込んだっていいんだよ」
そこまで気を使われると、こちらとしても少し申し訳なってしまうし、落ち込むところは落ち込んでくれて構わないのに。
「そうはいきませんよ。せっかく私は生き残れたっていうのに、いつまでも落ち込んだままだと、死んでしまった皆んなに逆に申し訳がたたないんです!」
そう思って言ったのだが、やっぱりこの子は優しくて、そして強い子だ。
ともかく、俺が心配しすぎるのもそれはそれで逆効果な気がするので、今は別の重要なことについて考えよう。
「なら、これからどこに行くか決めないとね」
「はい、そのことなんですけど、私としてはこの村から西の方角、シナの森からもっと進んだところにある、アッティア王国に行ってみるのが良いと思うんです」
そう言って彼女が指さすアッティアという国を見てみると、そこはシナの森から少し進んだところにあるのがわかる。
「確かに、そこがここから一番近い都市みたいだね」
「はい、本当だったらシナの森を迂回していかないといけないので、時間がかかるんですけど、今なら森のあったところを通り抜けられますし、歩きでも半日もかからないうちに着きますよ」
「この距離なら、確かにそれぐらいか」
「けど実は、私がそこが良いって言ったのはそれだけじゃないんです!」
「うん?」
それだけじゃないって言うと、何か他に行くといいことでもあるのだろうか?
「この国は、資源も豊かで経済も軍事も何もかもが発展した大国なんです!」
「大国…… 確かになんだか凄そうだね」
「そうでしょう? それに来るものを拒まない大らかな国柄だと言いますし、小さい頃から行ってみたかった場所でもあるんですって!」
村で育ったエレーヌの夢の一つでもあり、俺にとっても色々と情報を得られそうな場所。
となれば……
「決まりだね」
「はい!」
---
時間は過ぎて夕暮れ時。
半日近くほとんど同じ景色を歩き続けて、体力よりも、精神的な疲れが誤魔化しきれなくなりだした頃。
「着きましたね、アッティア!」
俺たちは、目指していたアッティア王国に到着した。
「この壁…… 凄い高さだ」
「魔族や魔獣から国を守るために、こうやって壁を建てて守りを固めているそうですよ」
「けど、どこから入ったらいいんだろう?」
まさか今からこの何十メートルもありそうな壁をよじ登れ、なんて言わないよな?
「地図を見るに、このあたりに東門があるはずなんですけど…… あ、あそこから入れますかね?」
「わからないけど、誰か立ってるから聞いてみようか」
エレーヌの指さす方向を見ると、そこには小さな門の前で、鎧を身につけて槍を持つ、まさにRPGで見たことのあるような兵士が一人。
「あのー」
「なんだお前らは?」
「中に入りたいんですけど、大丈夫ですかね?」
その兵士に声をかけてみたのだが、聞いてた話より歓迎ムードではなさそうな……
エレーヌはああ言ってたけど、本当に大丈夫か?
「中に入りたい? それなら通行証を見せな」
「通行証……?」
「……?」
エレーヌの方を見ても、なんのことだかわかってなさそうだ……
俺はまだこっちに来て数日だって言うのに、そんなもん持ってる訳がない。
「商会連合や冒険者ギルドに所属しているのなら 、そちらの登録証でも構わんが」
「ああ、登録証、登録証ね……」
「そうだ」
まあしかし、ないと入れないといのであれば、やるしかあるまい。
未成年が酒やタバコ買おうとするときに、よくやるあれ
「すみません、持ってくるの忘れたみたいで……」
必殺、俺は成人だけど、免許証今日は家に忘れちゃいました作戦!
「お前ら、元々持ってないんだろう!」
「す、すみません!」
この作戦が、通じないだと……
いやまあ、前の世界でも通じたことないけど
「まったく、牢屋にぶち込まれたくなかったら、さっさとこっから引き返しな」
「ちょっと待ってください! この国は豊かな資源と経済力で、来るもの拒まずの国だと聞いてきたんですが、こういう検問は普段からしてるんですか?」
「そうです、私達ここから東にあるキーシャ村ってところから来て、ここ以外だともう日が暮れるまでに歩いて行ける国がないんですよ!」
俺たちは必死に訴えかけるが、エレーヌの言葉に兵士が微妙な面持ちになる。
「東の村から来ただって?」
「はい、そうですけど、それが何か?」
「お前達、知らんのか? 数日前に、ここから西の平地を抜けた先に広がるシナの森、小さい森だとは言え、それが何らかの力で一瞬にして消し飛ばされたということを」
「シ、シラナイデスネ」
例のごとく、俺には心当たりしかないのだが……
「えっと、その頃には私達はもう村にはいなかったので気がつきませんでした……」
「アレに気が付かんとは、おかしな奴らだな」
まあエレーヌが上手く取り繕ってくれたので良しとしよう。
「ともかく、それを魔族による何らかの攻撃、ないし威嚇行動として事態を重く見た国王陛下は、現在国内外からの人の行き来を制限しておられるのだ」
魔族による攻撃…… 威嚇行動……
アッティアまでの道中でエレーヌに、魔族や人間と魔族の関係についてある程度は聞いていた。
そのため、魔族があまり良いものでもなく、それと人間の関係性が良好なものでないということはわかっていたが、まさかそれと俺のやらかしが上手く作用して、こんな形で足止めを喰らってしまうとは……
しかし、ここを通れなければ、俺たちは無駄足を踏んだばかりか、何があるかもわからない寒空の下で野宿するはめになるので、何としてでもそれは回避したい。
「そんなこと言わずに通してくださいよ!」
「そうですよ、私達、ここ以外に行くあてがないんです!」
「そう言われても規則は規則なんだ。諦めて他を当たりな」
この石頭め……!
こうなったらスキル使ってでも無理やり……
「そんな女の子二人ぐらい通してやっても良いんじゃないか、衛兵殿」
「駄目駄目、これは国王陛下自らのーー」
なんて思っていると、突然聞こえてくる声と共に、2メートル近くあるであろう体躯の、甲冑を纏い背中に巨大な剣を帯びた騎士が現れる。
その騎士は、甘い顔立ちに、曇りのない銀の髪を揺らしながら、こちらの方を見つめている。
「って、エリオット様!? 魔族の討伐遠征から帰られるのは、早くとも来週の予定では……!」
「いやそれが、奴らを指揮していた魔族が途中でいなくなってね。思ってたよりアッサリ終わったから、予定よりも早くに帰ってこられたんだよ」
「それにしても、なんでこんな何もないところに……」
「それは秘密さ」
そいつに対して衛兵はやけに焦っているが、一体何者なんだろうか?
「ってバカ、お前達も頭を下げろ! このお方は…… エリオット様は、我が国が誇る最強の騎士団の長であるぞ!」
「ほえー」
「そうなんですねー」
騎士団の長って言われても、ぶっちゃけあんまりピンとこない。
それは返事を聞くにエレーヌも同じ様子だ。
「お前ら……!」
「別に構わないよ。それより、その二人を通してやったらいいじゃないか」
「いやしかし、これは国王陛下の勅令であって、如何にエリオット様がそう言われようとも……」
「まあそう堅いことを言わないでくれよ。陛下には、僕から直接言っておくからさ」
この問答を聞いている限り、このエリオットとやらは、まあ凄い人なんだろう。
「ですが……」
「それに、仮にもしその二人が魔族の手先であったとして、衛兵殿はこの僕が不覚をとると、そうお思いかな?」
そんな風に呑気に考えていた矢先に、エリオットと呼ばれる男が兵士に放った言葉。
別に俺は訓練された兵士でもなんでもないが、それでも、その言葉が異様なまでの重圧を孕んでいることは理解できる。
「い、いえ、決してそんなことは」
「だろう? ほら、通してやりな」
「わかりました……」
渋々と言った感じで、兵士は下がり、大声を張り上げる。
「東壁、開門!」
その声と共に、閉ざされていた扉が開かれた。
---
あの後、俺たちは軽い手荷物の検査だけ受け、中に入ることができたが……
「やっ! 入れてよかったね」
「さっきは、ありがとうございました!」
「どうも……」
検査を終えて外に出た俺たちに、一人の男…… エリオットが気楽な様子で声をかけ近づいてくる。
助けてもらったのは間違いないので一応軽く感謝ぐらいはしておくが、人を脅すようなあのやり方には少し嫌な印象が残るし、何よりあのときの威圧感……
まあ、スキルでどうにかしようとしていた俺が言えたことではないか
「あの、私エレーヌって言います! もしよければ、何か助けていただいたお礼でも……」
「ご丁寧にどうも、エレーヌさん」
感謝の言葉を告げるエレーヌの言葉を遮り、エリオットは彼女の頬に手を当て……
「だけど、お礼なんて大丈夫。君のように可憐な少女を助けるのは、騎士である僕の役目だから……」
歯が浮きそうな、そんなキザな台詞を呟いた。
こいつ、俺だって自分からエレーヌに触れたことはないのに、なんてことしやがる……!
なんて思って睨んでいると、不意に目が合ってしまった。
「おや失礼、既に先約がいたようで」
「よくおわかりのようで……!」
「シャルさん?」
しかし、引き下がるわけにもいかないので、そう言ってエレーヌをエリオットから引き離す。
「それで、君の名前は?」
「……シャルロッテです」
こいつの、いかにも地位があってイケメンで、生まれてこの方苦労してませんって雰囲気は、どうも好きにはなれない。
しかしそれでも助けてもらったという事実は変わらないので、それぐらいは素直に答えようと思ったのだが……
「シャルロッテ、ね……」
俺の名前を聞いたエリオットは、どこか嫌な視線を向けてくる……
「どうしました? 二人とも」
「いや、なんでもないないよ。それより僕は、このあと騎士団での用事があるから、そろそろ失礼させてもらおうかな」
「そうなんですね」
「ああ、ただーー」
言葉を言い終えるその直前
エリオットが俺の耳元へと顔を近づけ、囁いた。
「君には話がある。日が沈んだら広場に来てくれよ……」
「……!」
これはつまり、対価として俺にそう言った類のことをしろって言いたい訳か……?
男に迫られるのは、実は前の世界でも何度かあったために多少慣れてはいるが、それでもやはり背筋が震える。
「ではまたね、二人とも」
「はい!また機会があれば是非!」
「はは……」
言い終えたエリオットは背を向けて去って行くが、これはどうしたものか……
「いい人でしたね、エリオットさん!
けど、最後に何か言われたんですか?」
「いや、何も言われてないよ……」
ともかく今は、あまり考えたくはない。
「そうですか……?」
「うん、ただちょっと気分が悪いから、早く宿を探して今日はもうゆっくりしよっか……」
そう言って、宿屋探しに街へと足を踏み入れた。
隣を歩くエレーヌはあの後も泣きっぱなしだったのか、腫れた目を隠しきれていない。
「天気が良くて助かりましたねー!」
「そうだね」
しかし、無理にでも元気な様子を俺に見せてくれている以上、俺の方が変に意識しても仕方がないだろう。
それと言葉遣いなのだが、俺は敬語じゃなくても良いって言ったものの、なんだか少し落ち着かないとのことらしく、気がついたらこんな風に戻っていた。
「それで、ここからどうするつもり? このあたりに何があるのか、何も知らないんだけど……」
こう言ってはなんだが、エレーヌは田舎の村娘、彼女も恐らくあまり色々と広い世界を知っているようには思えないのだが……
「それなら、心配しなくても大丈夫ですよ!」
「……?」
「ほらコレ!」
そう言ってエレーヌは両手で何かを広げて、こちらに見せてくる。
これは地図だろうか?
「実はこの地図、村長がいつか村を出るときのためにって、私と妹のために用意してくれてたんです!」
この世界について知るためにも、地図なんかは最初に探さなければいけないと考えていたため、ここでそれを手に入れられるのはかなりデカい。
「大陸全土を示した地図なんて、珍しくて高価なモノなのに、村に行商人がやって来た時に買ってくれてたみたいなんですよ」
皮で作られたこの地図が高価だと言っているあたり、この世界は製紙技術や印刷技術といった部分は発達していないんだろう。
技術的には前の世界と比べて相応に低いと考えるべきか。
「村長さん、良い人だったんだね」
「はい……」
何気なく呟いたのだが、その言葉にエレーヌの表情が少し曇るのがわかる。
「ダメダメ、暗くなっちゃった! そうじゃなくって、これがあれば少なくても道に迷ったりすることはないんで安心していいってことですよ!」
「別に、私の前でも、少しぐらいは落ち込んだっていいんだよ」
そこまで気を使われると、こちらとしても少し申し訳なってしまうし、落ち込むところは落ち込んでくれて構わないのに。
「そうはいきませんよ。せっかく私は生き残れたっていうのに、いつまでも落ち込んだままだと、死んでしまった皆んなに逆に申し訳がたたないんです!」
そう思って言ったのだが、やっぱりこの子は優しくて、そして強い子だ。
ともかく、俺が心配しすぎるのもそれはそれで逆効果な気がするので、今は別の重要なことについて考えよう。
「なら、これからどこに行くか決めないとね」
「はい、そのことなんですけど、私としてはこの村から西の方角、シナの森からもっと進んだところにある、アッティア王国に行ってみるのが良いと思うんです」
そう言って彼女が指さすアッティアという国を見てみると、そこはシナの森から少し進んだところにあるのがわかる。
「確かに、そこがここから一番近い都市みたいだね」
「はい、本当だったらシナの森を迂回していかないといけないので、時間がかかるんですけど、今なら森のあったところを通り抜けられますし、歩きでも半日もかからないうちに着きますよ」
「この距離なら、確かにそれぐらいか」
「けど実は、私がそこが良いって言ったのはそれだけじゃないんです!」
「うん?」
それだけじゃないって言うと、何か他に行くといいことでもあるのだろうか?
「この国は、資源も豊かで経済も軍事も何もかもが発展した大国なんです!」
「大国…… 確かになんだか凄そうだね」
「そうでしょう? それに来るものを拒まない大らかな国柄だと言いますし、小さい頃から行ってみたかった場所でもあるんですって!」
村で育ったエレーヌの夢の一つでもあり、俺にとっても色々と情報を得られそうな場所。
となれば……
「決まりだね」
「はい!」
---
時間は過ぎて夕暮れ時。
半日近くほとんど同じ景色を歩き続けて、体力よりも、精神的な疲れが誤魔化しきれなくなりだした頃。
「着きましたね、アッティア!」
俺たちは、目指していたアッティア王国に到着した。
「この壁…… 凄い高さだ」
「魔族や魔獣から国を守るために、こうやって壁を建てて守りを固めているそうですよ」
「けど、どこから入ったらいいんだろう?」
まさか今からこの何十メートルもありそうな壁をよじ登れ、なんて言わないよな?
「地図を見るに、このあたりに東門があるはずなんですけど…… あ、あそこから入れますかね?」
「わからないけど、誰か立ってるから聞いてみようか」
エレーヌの指さす方向を見ると、そこには小さな門の前で、鎧を身につけて槍を持つ、まさにRPGで見たことのあるような兵士が一人。
「あのー」
「なんだお前らは?」
「中に入りたいんですけど、大丈夫ですかね?」
その兵士に声をかけてみたのだが、聞いてた話より歓迎ムードではなさそうな……
エレーヌはああ言ってたけど、本当に大丈夫か?
「中に入りたい? それなら通行証を見せな」
「通行証……?」
「……?」
エレーヌの方を見ても、なんのことだかわかってなさそうだ……
俺はまだこっちに来て数日だって言うのに、そんなもん持ってる訳がない。
「商会連合や冒険者ギルドに所属しているのなら 、そちらの登録証でも構わんが」
「ああ、登録証、登録証ね……」
「そうだ」
まあしかし、ないと入れないといのであれば、やるしかあるまい。
未成年が酒やタバコ買おうとするときに、よくやるあれ
「すみません、持ってくるの忘れたみたいで……」
必殺、俺は成人だけど、免許証今日は家に忘れちゃいました作戦!
「お前ら、元々持ってないんだろう!」
「す、すみません!」
この作戦が、通じないだと……
いやまあ、前の世界でも通じたことないけど
「まったく、牢屋にぶち込まれたくなかったら、さっさとこっから引き返しな」
「ちょっと待ってください! この国は豊かな資源と経済力で、来るもの拒まずの国だと聞いてきたんですが、こういう検問は普段からしてるんですか?」
「そうです、私達ここから東にあるキーシャ村ってところから来て、ここ以外だともう日が暮れるまでに歩いて行ける国がないんですよ!」
俺たちは必死に訴えかけるが、エレーヌの言葉に兵士が微妙な面持ちになる。
「東の村から来ただって?」
「はい、そうですけど、それが何か?」
「お前達、知らんのか? 数日前に、ここから西の平地を抜けた先に広がるシナの森、小さい森だとは言え、それが何らかの力で一瞬にして消し飛ばされたということを」
「シ、シラナイデスネ」
例のごとく、俺には心当たりしかないのだが……
「えっと、その頃には私達はもう村にはいなかったので気がつきませんでした……」
「アレに気が付かんとは、おかしな奴らだな」
まあエレーヌが上手く取り繕ってくれたので良しとしよう。
「ともかく、それを魔族による何らかの攻撃、ないし威嚇行動として事態を重く見た国王陛下は、現在国内外からの人の行き来を制限しておられるのだ」
魔族による攻撃…… 威嚇行動……
アッティアまでの道中でエレーヌに、魔族や人間と魔族の関係についてある程度は聞いていた。
そのため、魔族があまり良いものでもなく、それと人間の関係性が良好なものでないということはわかっていたが、まさかそれと俺のやらかしが上手く作用して、こんな形で足止めを喰らってしまうとは……
しかし、ここを通れなければ、俺たちは無駄足を踏んだばかりか、何があるかもわからない寒空の下で野宿するはめになるので、何としてでもそれは回避したい。
「そんなこと言わずに通してくださいよ!」
「そうですよ、私達、ここ以外に行くあてがないんです!」
「そう言われても規則は規則なんだ。諦めて他を当たりな」
この石頭め……!
こうなったらスキル使ってでも無理やり……
「そんな女の子二人ぐらい通してやっても良いんじゃないか、衛兵殿」
「駄目駄目、これは国王陛下自らのーー」
なんて思っていると、突然聞こえてくる声と共に、2メートル近くあるであろう体躯の、甲冑を纏い背中に巨大な剣を帯びた騎士が現れる。
その騎士は、甘い顔立ちに、曇りのない銀の髪を揺らしながら、こちらの方を見つめている。
「って、エリオット様!? 魔族の討伐遠征から帰られるのは、早くとも来週の予定では……!」
「いやそれが、奴らを指揮していた魔族が途中でいなくなってね。思ってたよりアッサリ終わったから、予定よりも早くに帰ってこられたんだよ」
「それにしても、なんでこんな何もないところに……」
「それは秘密さ」
そいつに対して衛兵はやけに焦っているが、一体何者なんだろうか?
「ってバカ、お前達も頭を下げろ! このお方は…… エリオット様は、我が国が誇る最強の騎士団の長であるぞ!」
「ほえー」
「そうなんですねー」
騎士団の長って言われても、ぶっちゃけあんまりピンとこない。
それは返事を聞くにエレーヌも同じ様子だ。
「お前ら……!」
「別に構わないよ。それより、その二人を通してやったらいいじゃないか」
「いやしかし、これは国王陛下の勅令であって、如何にエリオット様がそう言われようとも……」
「まあそう堅いことを言わないでくれよ。陛下には、僕から直接言っておくからさ」
この問答を聞いている限り、このエリオットとやらは、まあ凄い人なんだろう。
「ですが……」
「それに、仮にもしその二人が魔族の手先であったとして、衛兵殿はこの僕が不覚をとると、そうお思いかな?」
そんな風に呑気に考えていた矢先に、エリオットと呼ばれる男が兵士に放った言葉。
別に俺は訓練された兵士でもなんでもないが、それでも、その言葉が異様なまでの重圧を孕んでいることは理解できる。
「い、いえ、決してそんなことは」
「だろう? ほら、通してやりな」
「わかりました……」
渋々と言った感じで、兵士は下がり、大声を張り上げる。
「東壁、開門!」
その声と共に、閉ざされていた扉が開かれた。
---
あの後、俺たちは軽い手荷物の検査だけ受け、中に入ることができたが……
「やっ! 入れてよかったね」
「さっきは、ありがとうございました!」
「どうも……」
検査を終えて外に出た俺たちに、一人の男…… エリオットが気楽な様子で声をかけ近づいてくる。
助けてもらったのは間違いないので一応軽く感謝ぐらいはしておくが、人を脅すようなあのやり方には少し嫌な印象が残るし、何よりあのときの威圧感……
まあ、スキルでどうにかしようとしていた俺が言えたことではないか
「あの、私エレーヌって言います! もしよければ、何か助けていただいたお礼でも……」
「ご丁寧にどうも、エレーヌさん」
感謝の言葉を告げるエレーヌの言葉を遮り、エリオットは彼女の頬に手を当て……
「だけど、お礼なんて大丈夫。君のように可憐な少女を助けるのは、騎士である僕の役目だから……」
歯が浮きそうな、そんなキザな台詞を呟いた。
こいつ、俺だって自分からエレーヌに触れたことはないのに、なんてことしやがる……!
なんて思って睨んでいると、不意に目が合ってしまった。
「おや失礼、既に先約がいたようで」
「よくおわかりのようで……!」
「シャルさん?」
しかし、引き下がるわけにもいかないので、そう言ってエレーヌをエリオットから引き離す。
「それで、君の名前は?」
「……シャルロッテです」
こいつの、いかにも地位があってイケメンで、生まれてこの方苦労してませんって雰囲気は、どうも好きにはなれない。
しかしそれでも助けてもらったという事実は変わらないので、それぐらいは素直に答えようと思ったのだが……
「シャルロッテ、ね……」
俺の名前を聞いたエリオットは、どこか嫌な視線を向けてくる……
「どうしました? 二人とも」
「いや、なんでもないないよ。それより僕は、このあと騎士団での用事があるから、そろそろ失礼させてもらおうかな」
「そうなんですね」
「ああ、ただーー」
言葉を言い終えるその直前
エリオットが俺の耳元へと顔を近づけ、囁いた。
「君には話がある。日が沈んだら広場に来てくれよ……」
「……!」
これはつまり、対価として俺にそう言った類のことをしろって言いたい訳か……?
男に迫られるのは、実は前の世界でも何度かあったために多少慣れてはいるが、それでもやはり背筋が震える。
「ではまたね、二人とも」
「はい!また機会があれば是非!」
「はは……」
言い終えたエリオットは背を向けて去って行くが、これはどうしたものか……
「いい人でしたね、エリオットさん!
けど、最後に何か言われたんですか?」
「いや、何も言われてないよ……」
ともかく今は、あまり考えたくはない。
「そうですか……?」
「うん、ただちょっと気分が悪いから、早く宿を探して今日はもうゆっくりしよっか……」
そう言って、宿屋探しに街へと足を踏み入れた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる