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犯人はおまえか夜刀神
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「夜刀神様、こんばんは。お酒持ってきましたよ~」
「酒か、待ってたぜ! あ゛? ゆかりも酒に付いてきたのか」
小さい蛇姿で現れると思って祠の前にしゃがんで声を掛けた私は、突然飛び出してきた黒い影に尻餅をつく。
真っ黒い影は、忍者のように黒い和服を纏った人姿の夜刀神だ。
頭には鬼のように赤いツノが三本生えている。
「びっくりしたなーもぅ。私はお酒の添え物じゃありません。良いお酒が手に入ったので一本お裾分けですよ」
「おぉ、ありがてぇ。あ? おまえも呑むのか」
私は持ってきたカップを二つ並べていた。呑むに決まってるだろ。
「私がお注ぎしますよ。これは私の故郷、秋田県の米で作られたお酒なんです。きりっとしてて私、大好きなんですよ」
「へぇ、秋田ってあぎたの事か? 遠いところからわざわざなぁ、早く注いでくれ」
「はいはい、どうぞ」
公園の遊具はペンキが塗り替えられ、祠の周りには掃き掃除の跡がありいつも綺麗にしてあることがわかる。
すっかり公園を神社空間に変えてしまったようだ。
地面に直接置いたコップもまったく気にならなかった。
「ゆかりよ、酒を呑むためだけに来たわけじゃ無いだろう」
ぐびりとコップ酒を半分まで呑んでから夜刀神が言う。
なんでわかったんだ。
「えっと、夜刀神様の分霊っていますか?」
「いねぇよ。めんどくさい」
「ですよねぇ、じゃあ、秋田で夜刀神を名乗る神って知っていますか?」
美味そうに酒を呑んでいた夜刀神の手が止まる。
「……知っている」
「えええーっ、ホントですかっ! どんな神様なんですか?」
こいつが犯人かと疑っていたが、同名の神がいた事に驚きを隠せない。
「あいつは神なんかじゃねぇ。螭だ。まぁ、俺も同じようなもんだが。
奴の方がめんどくせえ。神代の頃には退治されたって聞いてたがなぁ」
「妖怪ミヅチの事ですか。本当にいたんだ。でも退治されていたのなら違うのかな」
「まあ、神として祀ったりしなけりゃ復活はせんよ」
「あー、復活してますね。祠に祀られていたらしいです。それでその祠を捨てちゃって私の両親が祟られたみたい」
「……それは気の毒だったな」
彼らしくもない諦めたような顔で慰めの言葉を貰った。
「お気遣いありがとうございます。昔のことだからもう吹っ切れてますけど。あぁ、一緒に神罰を受けた神主さんから聞いたのですけど、罰を与えている神様の名前を占ったら、夜刀神って言う名前が出たらしいんですよ。それで倒しに来たってのが今日の目的で」
「おまえなぁ……。まぁいいけどよ。怖い神って言えば夜刀神って呼ばれていた頃があったんだ。俺の力がよほど強大だったかが判るだろ」
「そーゆーことですか」
「それより神罰ならおまえにもかかっていただろう。血縁すべてに及ぶからな」
「たぶんそのせいで私に鳥居がぶつかってきたんだと思うのですけれど。まだ神罰は終わってないみたいなんですよ。いゃあ、まいったなぁ」
「……そうか。よしっ。ならばいいものをやる」
夜刀神は頭頂から生えていた一番大きな赤いツノをつまみ、ボキッと折った。
「うわぁあああ、大丈夫なんですかそれ、痛そう……」
「これは酒の礼だからな。神罰とは関係ねぇ。危なくなったらこれを投げろ。守りぐらいにはなるはずだ」
平然とした顔で手渡されたツノをぎゅっと握り、私は夜刀神に深く頭を下げた。
夜刀神でも直接私の神罰に干渉することはできないはずだ。それでも禁を破って身を削ったお守りをくれたのだ。私はその気持ちがありがたく、彼のカップに酒をなみなみと注いだのだった。
「酒か、待ってたぜ! あ゛? ゆかりも酒に付いてきたのか」
小さい蛇姿で現れると思って祠の前にしゃがんで声を掛けた私は、突然飛び出してきた黒い影に尻餅をつく。
真っ黒い影は、忍者のように黒い和服を纏った人姿の夜刀神だ。
頭には鬼のように赤いツノが三本生えている。
「びっくりしたなーもぅ。私はお酒の添え物じゃありません。良いお酒が手に入ったので一本お裾分けですよ」
「おぉ、ありがてぇ。あ? おまえも呑むのか」
私は持ってきたカップを二つ並べていた。呑むに決まってるだろ。
「私がお注ぎしますよ。これは私の故郷、秋田県の米で作られたお酒なんです。きりっとしてて私、大好きなんですよ」
「へぇ、秋田ってあぎたの事か? 遠いところからわざわざなぁ、早く注いでくれ」
「はいはい、どうぞ」
公園の遊具はペンキが塗り替えられ、祠の周りには掃き掃除の跡がありいつも綺麗にしてあることがわかる。
すっかり公園を神社空間に変えてしまったようだ。
地面に直接置いたコップもまったく気にならなかった。
「ゆかりよ、酒を呑むためだけに来たわけじゃ無いだろう」
ぐびりとコップ酒を半分まで呑んでから夜刀神が言う。
なんでわかったんだ。
「えっと、夜刀神様の分霊っていますか?」
「いねぇよ。めんどくさい」
「ですよねぇ、じゃあ、秋田で夜刀神を名乗る神って知っていますか?」
美味そうに酒を呑んでいた夜刀神の手が止まる。
「……知っている」
「えええーっ、ホントですかっ! どんな神様なんですか?」
こいつが犯人かと疑っていたが、同名の神がいた事に驚きを隠せない。
「あいつは神なんかじゃねぇ。螭だ。まぁ、俺も同じようなもんだが。
奴の方がめんどくせえ。神代の頃には退治されたって聞いてたがなぁ」
「妖怪ミヅチの事ですか。本当にいたんだ。でも退治されていたのなら違うのかな」
「まあ、神として祀ったりしなけりゃ復活はせんよ」
「あー、復活してますね。祠に祀られていたらしいです。それでその祠を捨てちゃって私の両親が祟られたみたい」
「……それは気の毒だったな」
彼らしくもない諦めたような顔で慰めの言葉を貰った。
「お気遣いありがとうございます。昔のことだからもう吹っ切れてますけど。あぁ、一緒に神罰を受けた神主さんから聞いたのですけど、罰を与えている神様の名前を占ったら、夜刀神って言う名前が出たらしいんですよ。それで倒しに来たってのが今日の目的で」
「おまえなぁ……。まぁいいけどよ。怖い神って言えば夜刀神って呼ばれていた頃があったんだ。俺の力がよほど強大だったかが判るだろ」
「そーゆーことですか」
「それより神罰ならおまえにもかかっていただろう。血縁すべてに及ぶからな」
「たぶんそのせいで私に鳥居がぶつかってきたんだと思うのですけれど。まだ神罰は終わってないみたいなんですよ。いゃあ、まいったなぁ」
「……そうか。よしっ。ならばいいものをやる」
夜刀神は頭頂から生えていた一番大きな赤いツノをつまみ、ボキッと折った。
「うわぁあああ、大丈夫なんですかそれ、痛そう……」
「これは酒の礼だからな。神罰とは関係ねぇ。危なくなったらこれを投げろ。守りぐらいにはなるはずだ」
平然とした顔で手渡されたツノをぎゅっと握り、私は夜刀神に深く頭を下げた。
夜刀神でも直接私の神罰に干渉することはできないはずだ。それでも禁を破って身を削ったお守りをくれたのだ。私はその気持ちがありがたく、彼のカップに酒をなみなみと注いだのだった。
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