45 / 46
疑惑のまま
しおりを挟む
「わりぃわりぃ、でもうまくいったじゃねえか」
「私のデコイを喰わせるとか、趣味が悪いったら!」
清浄度が増した夜の公園神社。
私と夜刀神はジョッキでビールを呑んでいた。
「ったりめーだ。奴を倒したりしたら大罪だぜ。
結果的にはおまえを助けたことになったってのも結構危ない橋を渡ったんだ。
神罰に介入することはどんな神だって許されねぇ」
「そうなのです。白蛇山大神をお助けすることは夜刀神様の命がかかっておりました。
それがまさかの叙位! どのような理由かはわかりませんが、恐らく夜刀神様のお考えに高天原も賛同されたということなのでしょう」
私達のジョッキにビールを注ぎながらイチは嬉しそうに話している。
「ほんとにねぇ。天下の悪神、夜刀神様が正式な神として認められるなんてねぇ」
「俺様は心を入れ替えたんだ。この場所は他の誰が守れるかってのよ!」
ハレの日にだけ呑むようにしているらしいビールは夜刀神の注文だ。ウチのお金で買ってきた。
祠だとお賽銭収入がまったく入ってこないので貧乏なのは変わらないのでしかたない。
しかし、ミヅチの神罰は凄まじいものだった。
結局私の両親と佐伯氏の一家は命を落としてしまっていた。
その事実に私は『仕方ない』と感じてしまうのは異常だとも理解している。
人の命が物事の代償に使われてしまうというこちら側の掟。
平和な世界とはかけ離れているようでいて、神々は平和でもある。
佐伯氏と入れ代わっていたミヅチはかなり前から私を捕捉していたと思う。ネット情報では佐伯氏が神主だった赤岩神社は、十年前に廃神社となったらしい。
佐伯氏の一族に伝わる神鎮の儀式も役に立たなかったのだろう。
彼が亡くなった直後には最後の標的、私を追っていたはずだ。
その割にはミヅチが予告状を送ってきたのは十年以上経っている。
ミヅチが言っていた”我の神罰は妨げラレタ”とは、いったい誰に妨げられたのか。私の死因は話に聞いたとおり、怠惰な神の不注意だったのか。
ミヅチに聞いてみたいとは思わない。
ミヅチは白蛇山神社の片隅に新しく置かれた祠に祀られ、また静かな眠りについている。
原初の神は世界に災いをもたらすものだ。
それなのに危険な神を近くに置くことを私はなんとも思わない。
日本神話の神々だって本質は同じなのだ。
危険だから祀り、鎮める。
今後ミヅチの神罰を受ける人間が出ないようにすることは必要なことだと、私の中の人間が思っている。
私に向けられた神罰に直接関与する事が出来る神の意志ともなれば、ヒルメ、天照大神しかいない。
思うところはあるが、神々の思惑など一切手出しできるものでもなく、天災のようなものだと考えることにした。
「とりあえず、おとうさんとおかあさんに報告したいな」
亡くなった両親と佐伯氏の墓参りをするため、秋田に行きたいが、飛んで行ったとしても数日はかかってしまう。
移動手段に悩み、拝殿でヒルメに祈ってみた。
「あのぅ、ヒルメ様、秋田に行きたいんですけど、新幹線とかで移動っていうのも難なのでなにか移動手段ありませんか」
――乗り物を貸そう。すぐに向かわせる。
「え? ありがとうございます」
まさかあれじゃないよね。
そのまさかだった。
二・三分後には白蛇山神社の屋根に巨大な物体が舞い降りた。
天の鳥船の神だった。
なんという高待遇。タケミカヅチ様の乗り物じゃなかったのかこれ。
天の鳥船は白鳥から羽を外したように真っ白で流線型のスマートな宇宙船だった。
操縦士の神も乗っていた。
もう隠すつもりもないんだな。ヒルメ様。
神話の乗り物に興奮したのは私だけでは無かった。
真っ先に乗り込もうとした山神と、私を心配したきりも同乗したが、葉介は乗せて貰えなかった。
一瞬で生まれ故郷に着き、両親の墓に手を合わせた。
「おとうさん、おかあさん。私は今、神様やってます。ふたりの仕事も聞きました。神罰の事は覚悟してたのかな。もう心配ないよ。私は大丈夫です」
赤岩神社にも寄って荒れ果てた本殿に入ってみると、天照大神と書かれた祭壇だけは朽ちずにそのまま残っていた。
「ミヅチは私が引き受けました。佐伯さんも安らかに……」
「私のデコイを喰わせるとか、趣味が悪いったら!」
清浄度が増した夜の公園神社。
私と夜刀神はジョッキでビールを呑んでいた。
「ったりめーだ。奴を倒したりしたら大罪だぜ。
結果的にはおまえを助けたことになったってのも結構危ない橋を渡ったんだ。
神罰に介入することはどんな神だって許されねぇ」
「そうなのです。白蛇山大神をお助けすることは夜刀神様の命がかかっておりました。
それがまさかの叙位! どのような理由かはわかりませんが、恐らく夜刀神様のお考えに高天原も賛同されたということなのでしょう」
私達のジョッキにビールを注ぎながらイチは嬉しそうに話している。
「ほんとにねぇ。天下の悪神、夜刀神様が正式な神として認められるなんてねぇ」
「俺様は心を入れ替えたんだ。この場所は他の誰が守れるかってのよ!」
ハレの日にだけ呑むようにしているらしいビールは夜刀神の注文だ。ウチのお金で買ってきた。
祠だとお賽銭収入がまったく入ってこないので貧乏なのは変わらないのでしかたない。
しかし、ミヅチの神罰は凄まじいものだった。
結局私の両親と佐伯氏の一家は命を落としてしまっていた。
その事実に私は『仕方ない』と感じてしまうのは異常だとも理解している。
人の命が物事の代償に使われてしまうというこちら側の掟。
平和な世界とはかけ離れているようでいて、神々は平和でもある。
佐伯氏と入れ代わっていたミヅチはかなり前から私を捕捉していたと思う。ネット情報では佐伯氏が神主だった赤岩神社は、十年前に廃神社となったらしい。
佐伯氏の一族に伝わる神鎮の儀式も役に立たなかったのだろう。
彼が亡くなった直後には最後の標的、私を追っていたはずだ。
その割にはミヅチが予告状を送ってきたのは十年以上経っている。
ミヅチが言っていた”我の神罰は妨げラレタ”とは、いったい誰に妨げられたのか。私の死因は話に聞いたとおり、怠惰な神の不注意だったのか。
ミヅチに聞いてみたいとは思わない。
ミヅチは白蛇山神社の片隅に新しく置かれた祠に祀られ、また静かな眠りについている。
原初の神は世界に災いをもたらすものだ。
それなのに危険な神を近くに置くことを私はなんとも思わない。
日本神話の神々だって本質は同じなのだ。
危険だから祀り、鎮める。
今後ミヅチの神罰を受ける人間が出ないようにすることは必要なことだと、私の中の人間が思っている。
私に向けられた神罰に直接関与する事が出来る神の意志ともなれば、ヒルメ、天照大神しかいない。
思うところはあるが、神々の思惑など一切手出しできるものでもなく、天災のようなものだと考えることにした。
「とりあえず、おとうさんとおかあさんに報告したいな」
亡くなった両親と佐伯氏の墓参りをするため、秋田に行きたいが、飛んで行ったとしても数日はかかってしまう。
移動手段に悩み、拝殿でヒルメに祈ってみた。
「あのぅ、ヒルメ様、秋田に行きたいんですけど、新幹線とかで移動っていうのも難なのでなにか移動手段ありませんか」
――乗り物を貸そう。すぐに向かわせる。
「え? ありがとうございます」
まさかあれじゃないよね。
そのまさかだった。
二・三分後には白蛇山神社の屋根に巨大な物体が舞い降りた。
天の鳥船の神だった。
なんという高待遇。タケミカヅチ様の乗り物じゃなかったのかこれ。
天の鳥船は白鳥から羽を外したように真っ白で流線型のスマートな宇宙船だった。
操縦士の神も乗っていた。
もう隠すつもりもないんだな。ヒルメ様。
神話の乗り物に興奮したのは私だけでは無かった。
真っ先に乗り込もうとした山神と、私を心配したきりも同乗したが、葉介は乗せて貰えなかった。
一瞬で生まれ故郷に着き、両親の墓に手を合わせた。
「おとうさん、おかあさん。私は今、神様やってます。ふたりの仕事も聞きました。神罰の事は覚悟してたのかな。もう心配ないよ。私は大丈夫です」
赤岩神社にも寄って荒れ果てた本殿に入ってみると、天照大神と書かれた祭壇だけは朽ちずにそのまま残っていた。
「ミヅチは私が引き受けました。佐伯さんも安らかに……」
74
あなたにおすすめの小説
勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた
秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。
しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて……
テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。
「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。
夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。
もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。
純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく!
最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!
無能と追放された鑑定士、実は物の情報を書き換える神スキル【神の万年筆】の持ち主だったので、辺境で楽園国家を創ります!
黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――勇者パーティーの【鑑定士】リアムは、戦闘能力の低さを理由に、仲間と婚約者から無一文で追放された。全てを失い、流れ着いたのは寂れた辺境の村。そこで彼は自らのスキルの真価に気づく。物の情報を見るだけの【鑑定】は、実は万物の情報を書き換える神のスキル【神の万年筆】だったのだ!
「ただの石」を「最高品質のパン」に、「痩せた土地」を「豊穣な大地」に。奇跡の力で村を豊かにし、心優しい少女リーシャとの絆を育むリアム。やがて彼の村は一つの国家として世界に名を轟かせる。一方、リアムを失った勇者パーティーは転落の一途をたどっていた。今さら戻ってこいと泣きついても、もう遅い! 無能と蔑まれた青年が、世界を創り変える伝説の王となる、痛快成り上がりファンタジー、ここに開幕!
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる