神様になった私、神社をもらいました。 ~田舎の神社で神様スローライフ~

きばあおき

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疑惑のまま

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「わりぃわりぃ、でもうまくいったじゃねえか」

「私のデコイを喰わせるとか、趣味が悪いったら!」

清浄度が増した夜の公園神社。

私と夜刀神はジョッキでビールを呑んでいた。

「ったりめーだ。奴を倒したりしたら大罪だぜ。
結果的にはおまえを助けたことになったってのも結構危ない橋を渡ったんだ。
神罰に介入することはどんな神だって許されねぇ」

「そうなのです。白蛇山大神をお助けすることは夜刀神様の命がかかっておりました。
それがまさかの叙位! どのような理由かはわかりませんが、恐らく夜刀神様のお考えに高天原も賛同されたということなのでしょう」

私達のジョッキにビールを注ぎながらイチは嬉しそうに話している。

「ほんとにねぇ。天下の悪神、夜刀神様が正式な神として認められるなんてねぇ」

「俺様は心を入れ替えたんだ。この場所は他の誰が守れるかってのよ!」

ハレの日にだけ呑むようにしているらしいビールは夜刀神の注文だ。ウチのお金で買ってきた。
祠だとお賽銭収入がまったく入ってこないので貧乏なのは変わらないのでしかたない。

 しかし、ミヅチの神罰は凄まじいものだった。

結局私の両親と佐伯氏の一家は命を落としてしまっていた。

その事実に私は『仕方ない』と感じてしまうのは異常だとも理解している。

人の命が物事の代償に使われてしまうというこちら側の掟。

平和な世界とはかけ離れているようでいて、神々は平和でもある。

 佐伯氏と入れ代わっていたミヅチはかなり前から私を捕捉していたと思う。ネット情報では佐伯氏が神主だった赤岩神社は、十年前に廃神社となったらしい。

佐伯氏の一族に伝わる神鎮かみしずめの儀式も役に立たなかったのだろう。
彼が亡くなった直後には最後の標的、私を追っていたはずだ。
その割にはミヅチが予告状を送ってきたのは十年以上経っている。

ミヅチが言っていた”我の神罰は妨げラレタ”とは、いったい誰に妨げられたのか。私の死因は話に聞いたとおり、怠惰な神の不注意だったのか。

ミヅチに聞いてみたいとは思わない。
ミヅチは白蛇山神社の片隅に新しく置かれた祠に祀られ、また静かな眠りについている。

 原初の神は世界に災いをもたらすものだ。
それなのに危険な神を近くに置くことを私はなんとも思わない。
日本神話の神々だって本質は同じなのだ。

危険だから祀り、鎮める。
今後ミヅチの神罰を受ける人間が出ないようにすることは必要なことだと、私の中の人間が思っている。

私に向けられた神罰に直接関与する事が出来る神の意志ともなれば、ヒルメ、天照大神しかいない。

思うところはあるが、神々の思惑など一切手出しできるものでもなく、天災のようなものだと考えることにした。

「とりあえず、おとうさんとおかあさんに報告したいな」

 亡くなった両親と佐伯氏の墓参りをするため、秋田に行きたいが、飛んで行ったとしても数日はかかってしまう。
移動手段に悩み、拝殿でヒルメに祈ってみた。

「あのぅ、ヒルメ様、秋田に行きたいんですけど、新幹線とかで移動っていうのも難なのでなにか移動手段ありませんか」

――乗り物を貸そう。すぐに向かわせる。

「え? ありがとうございます」

まさかあれじゃないよね。

そのまさかだった。

二・三分後には白蛇山神社の屋根に巨大な物体が舞い降りた。

天の鳥船の神だった。

なんという高待遇。タケミカヅチ様の乗り物じゃなかったのかこれ。

天の鳥船は白鳥から羽を外したように真っ白で流線型のスマートな宇宙船だった。

操縦士の神も乗っていた。

もう隠すつもりもないんだな。ヒルメ様。

神話の乗り物に興奮したのは私だけでは無かった。

真っ先に乗り込もうとした山神と、私を心配したきりも同乗したが、葉介は乗せて貰えなかった。

一瞬で生まれ故郷に着き、両親の墓に手を合わせた。

「おとうさん、おかあさん。私は今、神様やってます。ふたりの仕事も聞きました。神罰の事は覚悟してたのかな。もう心配ないよ。私は大丈夫です」

赤岩神社にも寄って荒れ果てた本殿に入ってみると、天照大神と書かれた祭壇だけは朽ちずにそのまま残っていた。

「ミヅチは私が引き受けました。佐伯さんも安らかに……」
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