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1章 断罪回避
8 毒母
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私は、ぎょっとして振り返った。
ドレス姿の人物がこっちへ走ってくる。
水色の髪を結い上げた女性だ。
その後ろには数人の護衛兵。
一人は紫のローブを着ている。
あれは、状態異常を引き起こす暗黒術師のものだ。
「お母様……」
リリィが目を泳がせる。
群衆は、「マチルダ様だ」と背中を丸めて囁き合う。
リリィの母マチルダは、先代の聖女だ。
そして、代々聖女を輩出するエルディリス家の現当主。
その権力は国王とほぼ同格だ。
原作ではさっきの襲撃で死んでしまうけど、私が群れを吹き飛ばしたから生きているらしい。
ギデオンや兵士はマチルダに服従を示すため、全員膝をついた。
マチルダは、そんな彼らには目もくれない。
リリィだけに微笑みかける。
「ああ、リリィ!急に嵐が来たから心配したのよ。処刑監督、お疲れ様。さあ、一緒に帰っ……あら?」
私に気付いたマチルダは、不愉快そうに顔をしかめた。
「どういうこと?目障りな女が、どうしてまだ生きてるの?」
「……」
私は怒りを抑えるため、奥歯を噛み締めた。
マチルダの言い方も癪に触るが、それだけじゃない。
アナベルの記憶がチリチリと神経を刺激する。
マチルダは、昔からアナベルを見下してきた。
『浅ましいのはお姉様譲りかしら。お姉様も、あなたみたいにペンダントを狙っていたわ。聖女でもないくせに』
アナベルの母は、マチルダの姉だった。
アナベルが赤ん坊の時に亡くなったから、詳しい人柄はわからない。
しかし、マチルダにとっては邪魔な存在だったらしい。
その娘であるアナベルも。
目の前に立つマチルダは、私に向かって舌打ちした。
「本当にしぶとい女ね。斬首じゃなくて馬に乗せるべきかしら。そうしたら、お姉様みたいに落馬死するかもね」
「なっ……!」
不謹慎だと言い返そうとして、私はハッと口をつぐんだ。
(アナベルの母親もペンダントを狙ってた……ってことは、本物の聖女だったの?それならマチルダは偽物?)
一応聖女の血を引いているから、偽物というより劣化版というか。
でも、マチルダはどうやって聖女の座に……
いや、彼女は周りから溺愛されていた。
母親──先々代の聖女にも。
そんな人が「後継者はマチルダ」と主張したら、周囲の人間は何も言えない。
聖女を決定する国王さえも。
マチルダは断らなかったのか。
確実に違和感はあったはずなのに。
それとも、承知の上で聖女の座についたのか。
だとしたら、リリィが聖女に選ばれたのはマチルダのせいでもある。
母が聖女なら娘も聖女──リリィ自身もそう思い込み、逃げられなかったに違いない。
(全部私の妄想だけど……あり得る話だよね)
そう考えると腹が立ってくる。
マチルダの見下すような目が、さらに私を煽る。
苛立ちに任せてマチルダを睨むと、彼女は怯えた顔で後ずさった。
「な、何よ。いつもは幽霊みたいにボーッとしてるくせに」
マチルダはそう言うと、私の隣にいる処刑人へ目を移した。
「ちょっと!早く処刑を済ませなさいよ。それしか能がないんだから。それとも、さっきの嵐で手が震えて剣が持てないの?」
「いいえ」
処刑人は、感情のない声で答えた。
「先程の嵐は、アナベル様が起こしたもの。アナベル様は本物の聖女でしょう」
目線が一切揺れない。
まるで彫像が話しているみたいだ。
「マチルダ様。本当に、この場で斬ってよろしいのですか」
「イザーク、やめろ!マチルダに意見するな!」
レオナルドが青ざめて、処刑人──イザークというらしい──に声をかける。
マチルダはレオナルドを無視して、にやりと笑った。
「この強欲女が聖女?処刑人って、殺すことしか能がないと思ってたけど、頭もおかしいのね。そんなこと、あるわけが……」
マチルダは嘲笑を浮かべ、私の胸元を見る。
途端にその笑みがゆがんだ。
次の瞬間、彼女は私の首にかかるペンダントを引っ張った。
「な、何すんのよ!」
私は反射的に身を引いた。
しかし、すぐに体が痺れて動かなくなった。
(まさか)
マチルダの暗黒術師を見ると、相手も杖を構え、私をじっと見ていた。
麻痺の術をかけられたらしい。
(嘘でしょ……そこまでする⁉︎)
痺れは数秒で消えたけど、ペンダントは奪い取られてしまった。
「ちょっと、返してよ!」
そう叫んだけど、マチルダには届かない。
彼女は必死になって、自分の袖にペンダントを押し込んでいる。
「な、なんで?どうしてこれを、強欲女が……!」
「……私が貸したの」
か細い声が聞こえた。
背中を丸めたリリィが、マチルダのそばに立っていた。
ドレス姿の人物がこっちへ走ってくる。
水色の髪を結い上げた女性だ。
その後ろには数人の護衛兵。
一人は紫のローブを着ている。
あれは、状態異常を引き起こす暗黒術師のものだ。
「お母様……」
リリィが目を泳がせる。
群衆は、「マチルダ様だ」と背中を丸めて囁き合う。
リリィの母マチルダは、先代の聖女だ。
そして、代々聖女を輩出するエルディリス家の現当主。
その権力は国王とほぼ同格だ。
原作ではさっきの襲撃で死んでしまうけど、私が群れを吹き飛ばしたから生きているらしい。
ギデオンや兵士はマチルダに服従を示すため、全員膝をついた。
マチルダは、そんな彼らには目もくれない。
リリィだけに微笑みかける。
「ああ、リリィ!急に嵐が来たから心配したのよ。処刑監督、お疲れ様。さあ、一緒に帰っ……あら?」
私に気付いたマチルダは、不愉快そうに顔をしかめた。
「どういうこと?目障りな女が、どうしてまだ生きてるの?」
「……」
私は怒りを抑えるため、奥歯を噛み締めた。
マチルダの言い方も癪に触るが、それだけじゃない。
アナベルの記憶がチリチリと神経を刺激する。
マチルダは、昔からアナベルを見下してきた。
『浅ましいのはお姉様譲りかしら。お姉様も、あなたみたいにペンダントを狙っていたわ。聖女でもないくせに』
アナベルの母は、マチルダの姉だった。
アナベルが赤ん坊の時に亡くなったから、詳しい人柄はわからない。
しかし、マチルダにとっては邪魔な存在だったらしい。
その娘であるアナベルも。
目の前に立つマチルダは、私に向かって舌打ちした。
「本当にしぶとい女ね。斬首じゃなくて馬に乗せるべきかしら。そうしたら、お姉様みたいに落馬死するかもね」
「なっ……!」
不謹慎だと言い返そうとして、私はハッと口をつぐんだ。
(アナベルの母親もペンダントを狙ってた……ってことは、本物の聖女だったの?それならマチルダは偽物?)
一応聖女の血を引いているから、偽物というより劣化版というか。
でも、マチルダはどうやって聖女の座に……
いや、彼女は周りから溺愛されていた。
母親──先々代の聖女にも。
そんな人が「後継者はマチルダ」と主張したら、周囲の人間は何も言えない。
聖女を決定する国王さえも。
マチルダは断らなかったのか。
確実に違和感はあったはずなのに。
それとも、承知の上で聖女の座についたのか。
だとしたら、リリィが聖女に選ばれたのはマチルダのせいでもある。
母が聖女なら娘も聖女──リリィ自身もそう思い込み、逃げられなかったに違いない。
(全部私の妄想だけど……あり得る話だよね)
そう考えると腹が立ってくる。
マチルダの見下すような目が、さらに私を煽る。
苛立ちに任せてマチルダを睨むと、彼女は怯えた顔で後ずさった。
「な、何よ。いつもは幽霊みたいにボーッとしてるくせに」
マチルダはそう言うと、私の隣にいる処刑人へ目を移した。
「ちょっと!早く処刑を済ませなさいよ。それしか能がないんだから。それとも、さっきの嵐で手が震えて剣が持てないの?」
「いいえ」
処刑人は、感情のない声で答えた。
「先程の嵐は、アナベル様が起こしたもの。アナベル様は本物の聖女でしょう」
目線が一切揺れない。
まるで彫像が話しているみたいだ。
「マチルダ様。本当に、この場で斬ってよろしいのですか」
「イザーク、やめろ!マチルダに意見するな!」
レオナルドが青ざめて、処刑人──イザークというらしい──に声をかける。
マチルダはレオナルドを無視して、にやりと笑った。
「この強欲女が聖女?処刑人って、殺すことしか能がないと思ってたけど、頭もおかしいのね。そんなこと、あるわけが……」
マチルダは嘲笑を浮かべ、私の胸元を見る。
途端にその笑みがゆがんだ。
次の瞬間、彼女は私の首にかかるペンダントを引っ張った。
「な、何すんのよ!」
私は反射的に身を引いた。
しかし、すぐに体が痺れて動かなくなった。
(まさか)
マチルダの暗黒術師を見ると、相手も杖を構え、私をじっと見ていた。
麻痺の術をかけられたらしい。
(嘘でしょ……そこまでする⁉︎)
痺れは数秒で消えたけど、ペンダントは奪い取られてしまった。
「ちょっと、返してよ!」
そう叫んだけど、マチルダには届かない。
彼女は必死になって、自分の袖にペンダントを押し込んでいる。
「な、なんで?どうしてこれを、強欲女が……!」
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背中を丸めたリリィが、マチルダのそばに立っていた。
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