断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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1章 断罪回避

7 超絶イケメンになで回される

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「え、ええっ⁉︎ ちょっ、待っ、ちょまっ……!」

 慌てすぎて言葉が総崩れだ。

 対して、処刑人は口の端すら動かさない。
 彼は、黙々と私を地面に立たせた。
 
「崇拝が不要でしたら、体を痛めていないか調べましょう」

「そこまでしなくていいって!というか、私を処刑するんじゃないの⁉︎」

「そう命じられていましたが、今なら保護対象に切り替わるかもしれません。丁重に扱って当然です」

「それは処刑人さんがすることじゃないってば!体も調べなくていいから!」

「いいえ。あなたは精霊様が聖女と認めた、唯一無二の存在。念には念を入れるべきです」

 処刑人が、私の肩を押さえつけてきた。

「まだ命令が下りませんので、縄は外せませんが。ひとまず怪我の有無を確認します。動かずにいてください」

「……はい」

 美形の真顔は圧が強い。
 つい頷いてしまった。

 硬直する私の頭や首を、処刑人が丹念に触ってくる。
 言動はロボットみたいなのに、手のひらは温かい。

 意識しちゃ駄目だ、恥ずかしくなる。
 そう考えてみても、くすぐったいところをなでられると、肩がビクッと跳ねてしまう。

「痛みますか?」

「全然!」

「そうですか。では、続きを」

 ……痛いって言えばよかった。
 いや、言ったら余計になで回されるか。

 肩が凝り、息苦しくなってきた頃、ようやく彼は手を止めた。

「今のところ、異常はないようですね」

「そ、そう……」

 力を抜いた瞬間、足がふらついた。
 ドキドキしすぎて体力を消耗した。

 即座に処刑人が尋ねてくる。

「めまいですか?やはり異常が」

「大丈夫!元気です!」

 私は定規みたいにビシッと背筋を伸ばした。
 魔物を倒したのに、全然気が抜けない。

 ため息をついた時、周りが騒ついてきたことに気付いた。

「魔物が消えた……」

「夢じゃ、ないよな……?」

 群衆の間から、呟きが聞こえてくる。
 リリィとギデオンは呆然と立ち尽くしている。

 レオナルドは、ショックを受けたような顔でこちらを見つめている。
 私はワンピースの砂を払って、彼に向き直った。

「レオナルド。私が本物の聖女だって、わかってくれた?」

 わかってくれたら、処刑命令を取り消してほしい。
 そうしたら精霊と一緒にいてあげられる。

 リリィたちも戦わなくて済むし。
 これ以上のハッピーエンドはない。

 そんな思いとは裏腹に、レオナルドは泣きそうな顔でリリィを見るだけ。
 彼の視線に気付いたリリィは、涙目でうつむいた。
 ギデオンも下を向き、押し黙っている。

(これじゃあ話が進まないよ……気持ちはわかるけど)

 アナベルは本物の聖女でした!処刑やめまーす!なんて、この場で言ったら大混乱が起きる。
 それを収める力を、若い彼らに求めるのは酷だ。

 二十二のギデオンには、そもそも権力がないし。
 リリィは聖女だけどまだ十六歳。

 レオナルドは国王だけど十八だ。
 しかも、交渉や統率の実践経験がほとんどない。

 十年前、魔王が国境上に突然現れたせいだ。
 国じゅうが混乱に陥り、王太子教育どころではなかったらしい。

 だからだろう、多くの貴族はレオナルドを見下している。
 そして、隙あらば賠償金や補助金、特権を要求してくる。

 今、レオナルドが独断で動いたら、また貴族が難癖をつけてくるに違いない。
 彼にとっての最善は“無言”なのだ。
 
 仕方ない。
 ここは、(中身が)最年長者の私が頑張ろう。
 
「みんな! まだ私を疑ってるの?魔物の群れを消したのに?」

 レオナルドとリリィが、弾けるように顔を上げる。
 その目には、かすかな期待の光が灯っている。

「私を生かしてくれたら、聖女としてこの国を守るよ!だからお願い、処刑しないで!」
 
 国民たちの顔に迷いがにじむ。
 その時だった。

「リリィ!私のリリィはどこ⁉︎あの子は無事なんでしょうね⁉︎」

 ヒステリックな金切り声が、後ろから飛んできた。
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