断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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1章 断罪回避

34 爆速逆転

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 トカゲや蛇の魔物は、水属性に弱かったはず。

「ミゾレ、お願い!」

 私は両手で器を作り、目の前を浮遊する水色うさぎをすくった。
 ミゾレは私の手にちょこんと収まり、小さな鼻をヒクヒクさせる。

「はぁい、全部氷漬けにします……」

 ミゾレの体が、ぼうっと光る。
 その周りに雪の結晶が生まれていく。

「なるべく急いで──あ、イザークは凍らせないでよ⁉︎」

「大丈夫ですよー……」

 本当だろうか。
 この子、ヒナと一緒に森を更地にしてたけど。

 私はイザークの無事を祈りつつ、壁越しに彼を見た。

 直後、イザークの周りに氷の棘がいくつも生える。
 その一つひとつが、キン!と甲高い音を立て、瞬きの間に外側へ伸びた。

 花のような形の氷に、魔物たちはすべて閉じ込められた。
 アートみたい、と眺める間もなく、それらはサラサラと雪の粉になり、風にさらわれてしまった。

 あとに残ったのは、膝をつくイザークだけだ。

「ミゾレ、すごい……!」

「聖女様の力のおかげです……」

 ミゾレは私の腕をよじ登り、肩の上で「ぴっ」と鳴いた。
 その時、後方でどよめきが湧いた。

「なんと、本当に一掃するとは……」

「ほ、ほら!リリィの力はすごいでしょう?」

 そうだ、マチルダたちの防壁も作らなくちゃいけないんだ。

(ついでに私たちの壁も広げよう)

 頭でイメージすると、コハクが私の腕の中に収まり、モフモフッと震えた。
 その体が光ると同時に、後方に岩の筒が現れる。

「リリィ、何をするの⁉︎」

 予想通りの喚き声が飛んでくる。

「可愛いあなたが見えないわ!早くこの囲いを消してちょうだい!」

「マチルダ、落ち着いてくれ。これは安全のためなんだ!」

 なだめているのはレオナルドだろう。
 王様、頑張れ。

 心の中で祈りながら、私とリリィを囲む壁を、それぞれ三倍に広げた。
 閉塞感がなくなって、少しホッとする。

 ささやかな安らぎもつかの間、すぐに地鳴りのような音が響いてきた。

 魔物の群れが、大聖堂の奥から湧いてくる。
 今度はコウモリやつたの魔物もいる。

 戦いの音や血の匂いで、人間がいると気付いたらしい。

「イザーク!早く、こっちへ!」

 イザークは剣を鞘に収め、少し足を引きずりながら、私の方へ走ってきた。
 岩の壁を飛び越え、私の隣に立つ。

 それを待つ間に、私は次の行動を考えていた。

「蔦は火、コウモリは風で攻撃して……あ、トカゲもいるから水も使わなくちゃ」

 ひとりごとを言っていると、コハクが手足をピコピコと動かす。

「聖女さま、下からもくるよ!」

「そういえばモグラっぽい魔物もいたっけ。モグラは地属性に弱いから……もう、全員でドーンとやっちゃって!」

「わっかりました、聖女様ー!」

 ヒナが翼を羽ばたかせる。
 四匹の精霊たちが、強烈な光を放つ。

「眩しっ!」

 私は耐えられずに目を閉じた。
 一瞬の静寂のあと、轟音と爆風、熱と揺れ……あらゆるものが目以外の感覚器官を直撃する。

 どこで何が起きているのやら、訳がわからない。
 風と揺れが治まってきたところで、私は肩を叩かれた。

「アナベル様、終わったようです」

 イザークに言われて、目を開ける。
 魔物は一匹もいなかった。

「よし!」

 拳を握ると、指先に痛みが走る。
 爪の先が削れて、一部はひび割れている。

(いてて……そうだった。私たち、ズタボロなんだ)

 痛みを堪えて、魔物に襲われまくっていたイザークを見た。

「うわっ!」

 思わず声を上げてしまった。
 今のイザークは、茨の森に突撃した人みたいだ。

 腕にも脚にも、噛み傷と引っかき傷。
 服が破れたところには血がにじんでいる。

 特に左手の甲はひどい。
 ただ、噛み傷でも切り傷でもない。

 きっと、わざと剣で切ったんだろう。
 血で魔物を引きつけるために。

「イザーク、大丈夫⁉︎」
 
「はい。それよりアナベル様、予定より時間がかかっていましたね。問題が起きたのですか?」

「そんなことより、まずは怪我だよ!早く治さないと……ああ、傷薬をもらっておくんだった」

「そうですね、アナベル様を治さなくては。手が傷だらけです。なぜこんなことに?」

「私のはどうでもいい!イザークの方が明らかに痛々しいよ!リリィも弱ってるし……あああ、どうしよう」

 あたふたしていると、ナギがスーッと目の前に下りてきた。

「聖女様のお力があれば、肉体を修復できますが」

「本当⁉︎」

 精霊ってすごい。
 何でもありだ。

「じゃあイザークとリリィと、ついでに私の手も治せる?」

「魔力は回復できませんが……お任せください」

 四匹の精霊が、ふわっと優しく光り出す。
 その光は私とイザーク、それからリリィの方へと動き、傷にまとわりついた。
 
 ほのかな温みの中、どんどん痛みが消えていく。
 温泉に浸かっているみたいで気持ちいい。

 光がなくなると、私の手もイザークの傷も、何事もなかったように治っていた。
 
 イザークの服も元通りだ。
 私のローブの土汚れも綺麗になった。

 おまけで直してくれたらしい。

「わあ、ありがとう!」

「聖女様のお力があれば、容易いことです」

「ボクたちもスッキリ~」

「うん、わかる……」

 精霊たちが私の頬にすり寄ってくる。
 顔の周りがモフモフ天国だ。

 少しして、四匹は満足そうにペンダントへ戻った。
 リリィの方をチラッと覗くと、自身の体を不思議そうに触っているところだった。

 昨夜の傷も癒えたのだろう。
 よかった……

 私は一息ついて、イザークを見た。

「イザーク、痛いところはある?」

「いいえ。それどころか、ずいぶんと体調がいいのです。ありがとうございました」

「そっか。じゃ、こっちを向いてくれるかな?」

「はい」

 イザークは、素直に私に向き直った。
 彼は何も気付いていないのだろう。
 そのことが余計に腹立たしい。

 私は、お姫様がお辞儀する時みたいに、ローブの裾を持ち上げた。
 それからちょっと膝を曲げて、思い切りジャンプする。

 狙い通り、頭がイザークのあごにクリーンヒットした。
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