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山河 枝

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2章 魔王討伐

2-16 王都へ

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「まだ、少しずつ姿を現している段階ですが……攻撃を仕掛けてくるのは時間の問題かと!」

 兵士の大声が、頭にガンガンと響く。
 その痛みに負けないよう、お腹に力を入れる。

「わかった。王都へ行こう。魔王を……」

 話しながら、体がよろめいてしまった。

「アナベル!」

 レオナルドが慌てて立ち上がり、私の腕を取る。
 しかし力の入れ方に遠慮があって、二人でふらついてしまった。

 するとリリィが駆け寄ってきて、私の体を支えてくれる。

「アナベルの予想、当たっちゃった……」

 不安そうなリリィの呟きに、私は「そうだね」と返した。 

 二度目の戦闘時、魔王はあっさりと倒れた。
 きっと、余力を残して姿を消したんだろう。

 私たちが穢れを払っている間、王都へ移動するために。

 レオナルドもリリィも、気遣わしそうに私を見る。
 でもそれだけだ。

 休めと言いたいが言えない、という空気が漂う。
 行かなくてはいけないと、みんなわかっているんだろう。

 しかしやはりと言うべきか、空気を読まない人物が一名いた。

「なりません」

 イザークが淡々と告げる。

「そのお体では、まともに力を使えないでしょう」

「無理矢理頑張れば、魔王ぐらい何とかなるって。それに魔力が減るだけだから、死なないよ」

「今のアナベル様には、不可能です」

「……」
 
 このままイザークを相手にしても意味がない。
 私はレオナルドを横目で見た。

「レオナルド、出発命令を出して」

「それは……」

「あんたの民を見殺しにするの?

 レオナルドを始め、リリィたちの顔がこわばった。
 劇薬みたいな一言だとわかっていたけど、このくらい言わないと決断できないだろう。

「……わかった。みんな、王都へ出発する。準備をしてくれ」

 各々おのおの、唇を噛みながら、拳を握りしめながら、しかし行動は早かった。
 その中で、イザークは睨みつけるように私を見ている。
 私も彼を睨み返して、口を開いた。

「イザーク、馬を連れてきて。国王の命令が聞こえなかった?」

 イザークは答えない。
 でも“命令”には従うはずだ。

 そう思って待っていたら、彼は立ち去るのではなく、私を抱きかかえた。
 
「いやいや、馬を連れてきてって言ったんだけど!」

「その間にまた気絶なさりそうですので」
 
 反論できなかった。
 実際、地面へ降りるための力もない。

 大人しく馬に乗せられた私に、イザークはため息をつく。

「こんなことになるなら、私は王都で待つべきでした」

 私の胸がズキンと痛んだ。
 やっぱり、振り回されるのに疲れてたんだ。

「ごめん、頼ってばっかりで……」

「頼っていただけるのは光栄です。私ごときでよろしければ、いくらでもお使いください。ただ、私の補佐をあてにしてアナベル様が無理をされるのなら、初めから来なければよかった、と思ったのです」

 イザークは苦々しげに言うと、馬を歩かせた。
 レオナルドたちが集まっている場所へ行くと、ギデオンが近づいてくる。

「おい、イザーク。大丈夫か?ずっと二人乗りをしているだろう。俺が代わるぞ」

 声に棘がない。
 今度は本当に心配しているらしい。

 イザークもそれがわかったのか、穏やかに「いいえ」と言った。

「アナベル様は、道中で気を失われるかもしれません。私はそのような相手を支える訓練も受けています。ギデオン様はいかがですか?」

「……いや、そこまでは」

「では、やはり私が。ご安心ください。アナベル様は……死んでもお守りします」

 最後の一言に妙な凄みがあって、私たちは息をのんだ。
 その空気感が変わる前に、イザークはレオナルドへ声をかけた。
 
「陛下、ご指示を」

「あ……わ、わかった。王都へ出発する!」

 一斉に馬が走り出す。
 私は大きく揺られながら、やめてよ、と内心でイザークに文句を言った。
 
 死んでも守るなんて、そんなことされても嬉しくない。
 何回も頼んだのに忘れているんだろうか。
 「とにかく死ぬな」って。
 魔王を倒したら、また言い含めておかないと。
 
 そこで暗闇が下りてきて、私の思考は中断された。
 何度も意識を失ったので、まただ、とわかる。
 
 ──それからどのくらい時間が経ったのか。

 次に気付いた時、王都はまだ見えなかった。
 しかし、真っ黒な塊が森の向こうに盛り上がっているのが見えた。
 魔王が地下から地上へ出てきているらしい。
  
「あっ!」

 隣を走るリリィが、突然叫んだ。
 一瞬、馬から落ちそうになっていた。

「リリィ、大丈夫!?」

「それより、アナベル。あれ!」

 リリィの白い手が、黒い塊の上を指す。
 黒い塊から、何かがゆっくりと、空へ向かって伸びていく。
 
「あれは……手?」

 エリオットの言葉に、私は「やばい」と心で叫んだ。

 魔王は手から全体攻撃を放つ。
 早くしないと、王都が火の海になる。

 私は周囲に向かって叫んだ。

「ねえ、あれってどっちの手!?」

「え?え?どっちって?」

 オロオロするルークに、私はまた声を張り上げる。 

「右か、左か!」

「えっと、み、右?」

「私も右だと思うわ!」

 聞こえてくる声はすべて「右」。
 私もそう思う。
 頭が痛くて集中できないから、断言はできないけど。
 
「わかった、ありがとう!」

 右手なら風属性に弱い。
 私は下を向き、ペンダントに話しかけた。
 
「ナギ。あの手、吹っ飛ばせる?」

 ペンダントから、ナギがすうっと現れた。
 どことなく元気がないように見える。

「問題ありません」

「本当?辛かったら……」

「いえ。聖女様のお望みを叶えることができるのなら、辛くはございません。今の私では、飛ばせるのは肘までですが」

「十分だよ、お願い!」

 私が言い終わる前に、ナギは王都へまっしぐらに飛んでいった。
 数秒後、ドオッと音がして、魔王の右手は肘まで吹っ飛んだ。

「よし!」

 穢れはもう浄化し切った。 
 魔王は回復しないはず。
 
 そう思って森へ入り、また草原を出た時──私たちは目を疑った。

 魔王の腕がまた伸びている。
 あれは、地下から地上へ出てきたんじゃない。
 再生しているのだ。

「穢れが残っていたのか!?」

 レオナルドの叫びに、報告に来た兵士が答える。

「いいえ!ヘイルフォード公爵の指示通り、手の空いた兵士がアルデリアを見回りました。穢れはすべて浄化されたはずです!」

「じゃあ、どうして……」

 なぜ魔王は回復しているのか。
 王都について、その答えがわかった。
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