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1章 断罪回避
3 処刑人の介入
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空を飛ぶ魔物が、大挙して押し寄せるイベント。
アナベルが処刑されてすぐ、それが起きる。
ラスボスである魔王は、棲家から出ない代わりに、魔物の群れを無限に操る。
そして村や町を襲わせるのだ。
家は破壊され、民は嬲られる。
そのことを、リリィは嫌というほど知っている。
だから、彼女はもうすぐ絶望するはずだ。
空を埋め尽くす魔物たちを見て、「倒せるわけがない」と戦慄する。
そのタイミングでなら説得できるかもしれない。
ペンダントを貸してほしい、と。
(そうと決まれば魔物は……って、まだ偵察役すら見えないんだけど!)
何とか時間を稼がないと。
そう考えた時、ギデオンが私に一歩近づいた。
「アナベル様、諦めましたか。最初からそうしていればいいものを。おい、処刑人。早く首を──」
「ちょ、ちょっと待った!諦めてないから!皆さん、聞いてください!」
私は群衆に向かってまくし立てた。
モタモタしていたら殺される。
「私は本当に聖女なんです!私が死んだら大損ですよ!魔物の群れを一掃できるのに!」
人々が、顔を見合わせて騒つく。
無理もない。
だってリリィは、史上最弱と呼ばれる聖女。
全体攻撃ができないのだ。
そのせいで貴族の皆様は、
『繊細なリリィ様のおかげで、今日も死人が出た』
『丁寧に戦ってくれたから、王都の壁が崩落した』
と、ムカつく嫌味をくださった。
心からリリィを信頼するのは、ほんの数人。
その一人であるレオナルドは、忙しなく周囲を見回しながら、
「落ち着け!これは、その……違うんだ!」
と、全然落ち着けていない。
リリィは彼の後ろで、「私だって頑張っているのに」と涙目に。
処刑人だけは混乱せず、私の言葉を吟味しているらしい。
剣を収めてはいないけど、腕は下ろしてくれている。
焦って手を滑らせる人じゃなくて、本当によかった。
このまま時間が過ぎるのを待って──という目論見は外れた。
こめかみに青筋を立てるギデオンが、私の前に立ちはだかった。
私の全身から、サッと血の気が引く。
「あ、あのね、これは悪あがきとかじゃなくて」
「でたらめはやめろ!」
彼は私の髪を鷲づかみ、力ずくで頭を下げさせた。
「いっ……!やめて!やめてってば!」
「あなたが聖女だと?どこにそんな証拠が──おい、何をする⁉︎」
髪をつかむ力が、フッと消えた。
私は急いで顔を上げた。
処刑人がギデオンの手首をひねり上げている。
「罪人を私的に痛めつけることは、禁止されています」
淡々と告げる処刑人に対し、ギデオンは目を吊り上げて歯ぎしりをする。
「それがどうした、処刑人風情が!お前がさっさと仕事をしないから、アナベル様が民を惑わすんだろう!」
助かった。
でも……この状況はまずい。
この国の処刑人は、一撃で罪人の首を落とせる剣豪だ。
そして、「処刑を邪魔する者は斬っても良い」とされている。
ギデオンのレベルは今、三か四くらいのはず。
処刑人は目をつぶっていてもギデオンに勝てるだろう。
ギデオンの首が落ちる前に、二人を止めなくちゃ。
私は声を張り上げた。
「私が本物だって、信じられないのはわかるよ!でも、リリィを見て思わない?間違って聖女に選ばれたんだって!」
この続きを叫んだら、確実にリリィを傷つける。
だけど精霊を助けるため、自分が生きるためだから──と、息を吸い込んだ時。
群衆の中から呟きが聞こえてきた。
「たしかに……妙だよな」
「リリィ様と精霊様、全然仲良くないし」
「それに、しばらく風の精霊様しか見てないわよね」
「全部で四柱のはずなのに……まさか、ほかの精霊様は逃げた?」
そう、ゲーム内で精霊たちはリリィに冷たかった。
「リリィはボクの聖女じゃない」と言わんばかりに、逃げ回る精霊もいた。
(周りの人、言ってくれてありがたいけど……)
私は、恐る恐るリリィを見た。
案の定、死人のように青ざめている。
誰に言うでもない呟きが、小さな唇から漏れる。
「し、仕方ないじゃない。どうして精霊様の力を引き出せないのか、わからないんだもの!お母様も、『いつか成長するから』って、そればかりで……!」
ああ……罪悪感で吐きそう。
だけど時間は稼げそうだ。
さすがのギデオンも、民相手に剣は抜けないらしい。
「やめろ」と控えめに言うだけだ。
処刑人は指示待ちらしく、レオナルドとリリィを無表情で見つめている。
(今だ、来い!早く来い、魔物!)
頭の血管が切れそうなほど祈る。
それが通じたのだろうか。
静まり返った空に、重い羽音とカラスのような声が響き始めた。
まず、レオナルドが怪訝そうに遠くを眺める。
途端に、幼さの残る顔が恐怖で引きつった。
「魔物だ!数百……いや、数千はいるぞ!」
アナベルが処刑されてすぐ、それが起きる。
ラスボスである魔王は、棲家から出ない代わりに、魔物の群れを無限に操る。
そして村や町を襲わせるのだ。
家は破壊され、民は嬲られる。
そのことを、リリィは嫌というほど知っている。
だから、彼女はもうすぐ絶望するはずだ。
空を埋め尽くす魔物たちを見て、「倒せるわけがない」と戦慄する。
そのタイミングでなら説得できるかもしれない。
ペンダントを貸してほしい、と。
(そうと決まれば魔物は……って、まだ偵察役すら見えないんだけど!)
何とか時間を稼がないと。
そう考えた時、ギデオンが私に一歩近づいた。
「アナベル様、諦めましたか。最初からそうしていればいいものを。おい、処刑人。早く首を──」
「ちょ、ちょっと待った!諦めてないから!皆さん、聞いてください!」
私は群衆に向かってまくし立てた。
モタモタしていたら殺される。
「私は本当に聖女なんです!私が死んだら大損ですよ!魔物の群れを一掃できるのに!」
人々が、顔を見合わせて騒つく。
無理もない。
だってリリィは、史上最弱と呼ばれる聖女。
全体攻撃ができないのだ。
そのせいで貴族の皆様は、
『繊細なリリィ様のおかげで、今日も死人が出た』
『丁寧に戦ってくれたから、王都の壁が崩落した』
と、ムカつく嫌味をくださった。
心からリリィを信頼するのは、ほんの数人。
その一人であるレオナルドは、忙しなく周囲を見回しながら、
「落ち着け!これは、その……違うんだ!」
と、全然落ち着けていない。
リリィは彼の後ろで、「私だって頑張っているのに」と涙目に。
処刑人だけは混乱せず、私の言葉を吟味しているらしい。
剣を収めてはいないけど、腕は下ろしてくれている。
焦って手を滑らせる人じゃなくて、本当によかった。
このまま時間が過ぎるのを待って──という目論見は外れた。
こめかみに青筋を立てるギデオンが、私の前に立ちはだかった。
私の全身から、サッと血の気が引く。
「あ、あのね、これは悪あがきとかじゃなくて」
「でたらめはやめろ!」
彼は私の髪を鷲づかみ、力ずくで頭を下げさせた。
「いっ……!やめて!やめてってば!」
「あなたが聖女だと?どこにそんな証拠が──おい、何をする⁉︎」
髪をつかむ力が、フッと消えた。
私は急いで顔を上げた。
処刑人がギデオンの手首をひねり上げている。
「罪人を私的に痛めつけることは、禁止されています」
淡々と告げる処刑人に対し、ギデオンは目を吊り上げて歯ぎしりをする。
「それがどうした、処刑人風情が!お前がさっさと仕事をしないから、アナベル様が民を惑わすんだろう!」
助かった。
でも……この状況はまずい。
この国の処刑人は、一撃で罪人の首を落とせる剣豪だ。
そして、「処刑を邪魔する者は斬っても良い」とされている。
ギデオンのレベルは今、三か四くらいのはず。
処刑人は目をつぶっていてもギデオンに勝てるだろう。
ギデオンの首が落ちる前に、二人を止めなくちゃ。
私は声を張り上げた。
「私が本物だって、信じられないのはわかるよ!でも、リリィを見て思わない?間違って聖女に選ばれたんだって!」
この続きを叫んだら、確実にリリィを傷つける。
だけど精霊を助けるため、自分が生きるためだから──と、息を吸い込んだ時。
群衆の中から呟きが聞こえてきた。
「たしかに……妙だよな」
「リリィ様と精霊様、全然仲良くないし」
「それに、しばらく風の精霊様しか見てないわよね」
「全部で四柱のはずなのに……まさか、ほかの精霊様は逃げた?」
そう、ゲーム内で精霊たちはリリィに冷たかった。
「リリィはボクの聖女じゃない」と言わんばかりに、逃げ回る精霊もいた。
(周りの人、言ってくれてありがたいけど……)
私は、恐る恐るリリィを見た。
案の定、死人のように青ざめている。
誰に言うでもない呟きが、小さな唇から漏れる。
「し、仕方ないじゃない。どうして精霊様の力を引き出せないのか、わからないんだもの!お母様も、『いつか成長するから』って、そればかりで……!」
ああ……罪悪感で吐きそう。
だけど時間は稼げそうだ。
さすがのギデオンも、民相手に剣は抜けないらしい。
「やめろ」と控えめに言うだけだ。
処刑人は指示待ちらしく、レオナルドとリリィを無表情で見つめている。
(今だ、来い!早く来い、魔物!)
頭の血管が切れそうなほど祈る。
それが通じたのだろうか。
静まり返った空に、重い羽音とカラスのような声が響き始めた。
まず、レオナルドが怪訝そうに遠くを眺める。
途端に、幼さの残る顔が恐怖で引きつった。
「魔物だ!数百……いや、数千はいるぞ!」
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