断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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1章 断罪回避

4 チャンス到来

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 レオナルドの叫びに続いて、リリィたちも同じ方を見やる。

 遠くの青空が、黒く染まっていく。
 それほどに大きな群れが、この王都へ押し寄せてきたのだ。

 あの方角から来るなら、処刑場が真っ先に狙われるだろう。

「に、逃げろ!」

 群衆が我先にと走り出す。
 その中で、私はやる気満々で空を睨みつけた。

 あいつらを一網打尽にすれば、私が本物の聖女だと証明できる。
 処刑は取り消されて、精霊も助けられる──はずだ。

(よし、まずは……って、ん?)

 あまりに静かで気づかなかった。
 処刑人が、逃げずに剣を構えている。

 どさくさに紛れて任務を遂行するつもりだろうか。
 私はとっさに首を縮こめた。

 しかし、彼は私の方を見ようとしない。
 黒に侵されていく空を、ただ仰いでいる。

 その体勢のまま、彼は口を開いた。

「アナベル様、逃げないのですか」

「へ?私が?」

「今、兵士は民への避難指示に手を取られています。混乱に乗じて逃げられるのでは?」

 ……何を言ってるんだ、この人は。
 私は後ろ手に縛られているのに。

 兵士の輪から出た瞬間、転んで群衆に踏み殺される。

「あっ!むしろ『そうやって死ね』って意味?」

「……はい?」

 だとしたら嫌味にもほどがある。
 やる気満々の勢いもあって、私は噛みつくように言い返した。

「逃げないよ! 魔物を倒すんだから!」

 アナベルならそれができるはずだ。
 信用されなさすぎて、ちょっと自信がなくなってきたけど。

「……わかりました」

 処刑人はそう答えると、魔物たちの方へ一歩踏み出した。
 魔物退治をも担う彼は、処刑は後回しでいいと判断したらしい。

(あれ?もしかして嫌味じゃなくて、私が逃げないか確認しただけ?ずいぶん冷静な人だな……)

 って、今はそんなことを考えている場合じゃない。

 私は、リリィへと視線を移した。
 両肩を抱きしめて震える彼女へ、喉が痛くなるほど叫ぶ。

「リリィ、ペンダントを貸して!」

 リリィがハッとして、ペンダントを握りしめる。
 澄んだ水色の瞳が、怯えるように揺れた。

「そ、そんなこと、できるわけないわ。みんなを──」

 息を吸い込んだリリィの目の中で、怯えがひときわ濃くなった。

「お母様を、裏切るなんて!」

「していいんだよ、怖いんでしょ⁉︎」

 縛られた両手の代わりに、私は必死で口を動かした。

「うまく力が使えなくて、『役立たず』って責められて……!」

 その最たる者がアナベルだったわけだが、昔は昔。今は今だ。

「でも本当は、リリィが魔物と戦う必要はなかったんだよ!私、思い出したの。自分が本物だって……だから私に任せて!」

 お願い、と祈りを込めてリリィを見つめる。
 私自身も助かりたいけど、彼女も助けたい。

 そう願わずにいられないほど、このイベントは悲惨なのだ。

 まず、王都の三割が壊滅する。
 老人は壊れた家の前でくずおれ、子どもは母親の死体にすがりつく。

 行き場のない絶望は、王都を守るべきだった者──リリィへと向かう。
 彼女は人々に責め立てられる。
 リリィも、母親を魔物に食われたというのに。

 あとでレオナルドたちに励まされるけど、すぐ立ち直れるはずがない。
 あの光景が現実になるなんて、絶対に御免だ。

 リリィだって、このままでは大勢が死ぬと予想しているはずだ。
 ゲーム中でもモノローグが出ていた。

 ──もう駄目だ。でもやらなくちゃ。一人でも助けないと。私は聖女なんだから。逃げられないんだから──

 ギデオンは、そんなリリィに賛同すべきか迷っているのだろう。
 張りのない声で、どもりながら私に言った。

「ア、アナベル様。もう、いい加減に──」

「待って!」

 リリィが強く叫んだ。
 それから私を見つめてくる。

 警戒してはいるけど、それだけじゃない。
 責任を負わずに済むなら、死刑囚にでもすがりたい──そんな気持ちが伝わってくる。

 私は、痛ましい気持ちで彼女を見つめ返した。

(リリィ、知ってるよ。ずっと大変だったよね。もう頑張らなくていいよ)

 その思いが通じたのだろうか。
 リリィの顔にあった怯えと警戒が、ゆっくりと薄れていく。
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