断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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1章 断罪回避

47 死刑取り消しの条件

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「何よ、提案って。絞首刑か斬首刑か選ばせてやろう、とか?」

「だから違うんだって……『処刑は延期するが、条件付きで取り消してはどうか』って言ったんだよ」

「条件付き?どんな?」

「それは保留だ」

 何だ、その中途半端な提案は──と眉をひそめる私へ、

「表向きはね」

 と、レオナルドは言った。

「議会のあと、公爵が僕に耳打ちしたんだ。『内密にアナベルに決めさせてやってほしい』って。」

「……なんで、私に?」

「アナベルが本物の聖女だから、だそうだ」

 予想外の言葉に、ぽかんと口を開けてしまった。
 レオナルドは苦笑し、話を続ける。
 
 聖女の力を最大限に発揮すれば、伝説レベルの功績を立てられる。
 そうすれば民はお祭りモードに。
 リリィ偽物疑惑を忘れるだろう。

 それに紛れて、成果に対する恩赦として私の死刑を取り消そう、ということらしい。

 ただ、聖女の力の限界は、一貴族には想像できない。
 しかし、本人なら自分の力を理解しているだろう。
 
 だから、死刑取り消しの条件はアナベルに決めさせたい。
 父はそう話したそうだ。
 
「何よ、それ……」

 私は自然と目を伏せていた。
 なぜ、という思いが心を占めていた。

 アナベルが見つめても、無視した父親。
 王妃教育は問題ないか、とアナベルではなく教師に尋ねた父親。

 なぜ、アナベルが本物の聖女だと信じたのか。
 それだけで、なぜこんなに態度が変わったのか。

(そういえば、大聖堂で『本物の聖女はマーガレット』って言いかけてたっけ。だから、娘のアナベルも聖女だろうって考えたの?でも、それだけでここまで態度が変わる……?)

 あんなにアナベルに冷たかったのに。
 ちっとも興味を示さなかったのに。

 他人である私ですら釈然としない。

「……あ。その前に、二人で聖女ってことになってるけど。私がドーンとすごいことをしたら、リリィにも何かあげたりするの?」

「いや。貴族の中では、聖女はアナベルだっていう認識みたいだ」

「えっ!なんで?いつの間に?」

「ほら、大聖堂で、イザークが色々暴露しちゃったから……」

 そういえばそうだった。
 私とレオナルドは、二人して小さくため息をついた。

「でも、幅を利かせてたマチルダはいなくなったし、リリィはかなり頑張ってたから。見て見ぬふりって感じだった」

「そっか……じゃあ、あとはもう私が頑張るだけなんだね」

「そうなんだ。どうする?アナベル」
 
 レオナルドが不安そうに尋ねてくる。

「処刑取り消しの条件。相当な難事にしないといけないって、公爵は言ってたけど」

「条件は……」

 私は強い。
 魔物が何千匹と襲ってきても、瞬きのうちに殲滅できる。
 それなら“奴”も倒せるはずだ。

 でも、その前に保険をかけておかないと。
 私はレオナルドを見つめて、口を開いた。

「ねえ、レオナルド。『聖女のペンダント強奪は未遂でも死刑』っていう法律、あるでしょ?あそこに文言を追加してほしいんだけど。『聖女並みの力で国を救った場合は、判決を取り消す』って」

「つ、追加?いきなりそんなこと言われても……」

「でもさ、私がどんなにすごいことをやっても、あとから文句を言う人はいると思うんだよね。その時、法律を盾にできたら強いじゃない?」

 それに、マチルダのような偽聖女がまた現れるかもしれない。
 後世で本物の聖女が殺されないために、逃げ道を作ってあげたいのだ。

「すごいことって……君、何をするつもり?」

「魔王を倒すつもり」

「魔王を⁉︎」

 レオナルドは目を丸くして叫んだ。

 不可能じゃない。

 私はゲームプレイ時に魔王を倒した。
 弱点や攻撃パターンは覚えている。

 それに──

「これまでの戦いで、自分の力量は把握したからね。私なら魔王を倒せるよ、絶対に」

 賭けではない。現実的な計画だ。
 まだ硬直したままのレオナルドに、私は続ける。

「そんな条件、私以外に満たせる人なんて、ほぼいないでしょ?」

 形骸化前提の改正なら、議員たちも警戒しないはずだ。
 そう言って、レオナルドをじっと見すえる。

 レオナルドは何度か瞬きをして、ようやく口を開いた。

「わかった……たしかに今の君なら、入念に準備すれば大丈夫かもしれないな。ただ、法改正するためには、議員の三分の二が賛成しないといけないんだけど……」

「じゃ、『法律が変わらないならアナベルは魔王討伐に行かないらしい』って伝えといて」

 私が胸を張ると、レオナルドは目を丸くした。
 そして数秒後、彼は吹き出した。

「何?私、変なこと言った?」

「ううん、頼もしいよ。僕も強気に出る練習をしなくちゃな」

「そうだよ。今ならそんなに心配することないでしょ?マチルダが死んで、貴族にまとまりがないだろうし」

「まったくだ。しかも、これまで議員は何も考えずにマチルダに追従してたからね」

 苦笑するレオナルドに、私も苦笑を返すしかなかった。

 言い方は悪いが、今の議員たちに考える頭はないだろう。
 エルディリス家を残すか潰すか、という点では結託できても、それ以外では烏合の衆状態。

 というか、議員はここまでの話を理解できるんだろうか?
 停止した頭は、すぐには回らないだろうし。
 この国が心配だ。
 
 逆に言えば、こっちの好きなように国を変えるチャンスでもあるんだけど。

「じゃあ……レオナルド。さっきの、追加できるかな?」

「ああ。細かい部分は変えることになるだろうけど。またヘイルフォード公爵と相談して、議員が納得するものを提出するよ」 

 と、一段落したところで、レオナルドは躊躇いがちに「それで」と言った。

「その公爵が……アナベルはもう脅威じゃないから、『週に一度、仮釈放してもいいんじゃないか』って言ったんだ。君が希望するなら、今日からでも」

「本当⁉︎」

 純粋に嬉しい。
 ずっと部屋に籠っていると息が詰まってしまう。

 それに、イザークの様子を見に行きたい。
 怪我の具合がわからないから心配だ。

「どこへ行ってもいいの?」

「王都内限定で、監視付きだけどね。それで……」

 レオナルドが口をモゴモゴさせる。
 さっきから何なのだろう。 
 
「その……公爵が、まずは家へ帰ってこいって……」
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