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卒業生も先生たちも、ヒソヒソと何か話し合っていたけど、それも次第に消えていった。
息苦しいほどの静けさが会場に充満する。
だから、戻ってきた兵士の足音がよく聞こえた。
全員、体をこわばらせる。
足音がどんどん近付いてきて──
「お持ちしました!ノエル教諭の器材です!」
兵士が会場へ飛び込んできた。
その手には布袋が握られている。
ルカはニヤリと笑い、壇上を見た。
「校長先生。検分をお願いします」
「お……おお、わかったぞ」
校長先生は、丈の長い上着を羽織り直し、皺だらけの手をヒラヒラさせた。
ご老体がほのかに光を帯びて、神様みたいに宙に浮く。
ルカのそばに降りた先生は、布袋を手に取り、険しい顔で中身を取り出した。
まず、紙に包まれた葉が見えた。
私はそれが何か、すぐにわかった。
アリアの部屋にもあるからだ。
校長先生は首を傾げていたが、すぐに目を見開いた。
「これは……ナペルスの葉じゃ!」
途端にラファエルが声を上げる。
「校長先生!ナペルスは、セリーヌに盛られた毒ではありませんか!」
「ノエル先生、まさか本当に……?」
ミレイユが真っ青になって、ノエル先生を見つめる。
先生は、メガネがずれるほど激しく首を横に振った。
「それは授業で使ったものよ!解剖実習の時、カエルを失神させるために……忘れたの⁉︎」
「解剖実習は半年も前のことですが」
ルカが肩をすくめる。
「それをわざわざ取っておくなんて、人を殺す気満々じゃないですか。それでセリーヌさんの毒殺に失敗したから、ばれる前にアリアを殺そうとしたんですね。濡れ衣を着せて」
「違うわ!そもそも、そんな葉っぱを人に食べさせられるわけがないでしょう⁉︎」
「だから乳鉢で擦ったんですよね?魔法で味や色を変えて。校長先生、いかがです?」
ルカに促されて、校長先生がまた布袋から中身を取り出す。
「乳鉢……白い粉末が付着しておるな」
「魔法痕を調べられますか?」
「うむ」
校長先生がヒラヒラと手を振る。
乳鉢がかすかに光って、手のひら大の魔力痕がぼうっと現れた。
「これは……ノエル、お主のものではないか!」
「そんな!」
ノエル先生が壇上から叫ぶ。
「そんなはずはありません!」
「なぜそう言えるんですか?」
「だって──」
ノエル先生が口を開けた時、ルカはヒラリと手を振った。
会場全体が、かすかに光った気がした。
「毒を使った証拠は、きちんと捨てたんですから!」
ノエル先生の声が、やけに大きく響いた。
また、静けさが満ちる。
今度は凍りつくような無言だ。
ノエル先生は、口元を押さえて固まっている。
亡霊のような青白い顔で。
「い、今のは……何?私、何も……」
「……ノエル先生」
弱々しい声が壇上から聞こえた。
ノエル先生のもとにミレイユが歩いていく。
「先生、私におっしゃいましたわよね……?アリアは、部屋でナペルスを育てているって……」
ミレイユの声がさらに震える。
「だから、セリーヌに毒を盛ったのはアリアだろうって……あれは嘘でしたの……?」
「嘘じゃないわ!アリアは本当にナペルスを育ててるの!」
「そうだよ。ノエル先生が鉢をくれたからね!」
私は、ミレイユに向かって声を張り上げた。
「ノエル先生。その節は、育て方を懇切丁寧にご教授くださり、ありがとうございました」
私がカーテシーをすると、ノエル先生はこちらをギッと睨みつけた。
「余計なこと言うんじゃないわよ!馬鹿のくせにこんな時だけ知恵を回して!」
先生はすばやく私を指した。
いつもの穏やかさは完全に消え失せている。
「校長、こいつがセリーヌを殺そうとしたんです!早く国外追放──いえ、いっそ処刑しましょう!」
「お、落ち着きなさい、ノエル」
「王太子の婚約ですよ!?簡単には破棄できません!だからって、この高慢女を王妃にしちゃいけない!国際関係が破綻しますよ!」
「ほへ……」
校長先生は変な声を漏らして、フリーズしてしまった。
誰もノエル先生を止めない。
壇上の先生たちも、ミレイユやラファエルも、ノエル先生の剣幕に引いている。
「弱みを握るために近づいたけど、本っ当にイライラした!自慢と悪口しか言わないの!最初のうちは私のこと、『成り上がり』『平民』って呼ぶし。身分が大切だから頭は空っぽでも気にしないのねって、言いたくてしょうがなかった!……あ、でも」
怒りで引きつった顔に、今度は歪んだ笑みが浮かぶ。
「『どうしてみんな私の素晴らしさがわからないの』って、地団駄踏んでたのは滑稽だったわね。あっはははは!」
ノエル先生が膝を叩いて大笑いする。
私は呆然とするしかなかった。
唯一、アリアに優しくしてくれた先生。
その本心がショックだった。
そしてそれ以上に、爆発した悪意が怖かった。
ふと、視界の端で何かが動く。
かすかに微笑むルカが、校長先生の肩を叩いていた。
「ひとまず、ノエル先生を王城に突き出すべきでは?」
「お……おお、そうじゃな。警備兵、ノエルを校長室へ!ほかの教職員は、卒業パーティーを進めるのじゃ!」
校長先生はそう言うと、また魔法で宙を飛び、会場を出た。
警備兵に捕えられたノエル先生は、
「私はやってないわ!誰かに嵌められたの!どうやったかは知らないけど、証拠は偽物よ!」
と、喚きながら連れて行かれたのだった。
息苦しいほどの静けさが会場に充満する。
だから、戻ってきた兵士の足音がよく聞こえた。
全員、体をこわばらせる。
足音がどんどん近付いてきて──
「お持ちしました!ノエル教諭の器材です!」
兵士が会場へ飛び込んできた。
その手には布袋が握られている。
ルカはニヤリと笑い、壇上を見た。
「校長先生。検分をお願いします」
「お……おお、わかったぞ」
校長先生は、丈の長い上着を羽織り直し、皺だらけの手をヒラヒラさせた。
ご老体がほのかに光を帯びて、神様みたいに宙に浮く。
ルカのそばに降りた先生は、布袋を手に取り、険しい顔で中身を取り出した。
まず、紙に包まれた葉が見えた。
私はそれが何か、すぐにわかった。
アリアの部屋にもあるからだ。
校長先生は首を傾げていたが、すぐに目を見開いた。
「これは……ナペルスの葉じゃ!」
途端にラファエルが声を上げる。
「校長先生!ナペルスは、セリーヌに盛られた毒ではありませんか!」
「ノエル先生、まさか本当に……?」
ミレイユが真っ青になって、ノエル先生を見つめる。
先生は、メガネがずれるほど激しく首を横に振った。
「それは授業で使ったものよ!解剖実習の時、カエルを失神させるために……忘れたの⁉︎」
「解剖実習は半年も前のことですが」
ルカが肩をすくめる。
「それをわざわざ取っておくなんて、人を殺す気満々じゃないですか。それでセリーヌさんの毒殺に失敗したから、ばれる前にアリアを殺そうとしたんですね。濡れ衣を着せて」
「違うわ!そもそも、そんな葉っぱを人に食べさせられるわけがないでしょう⁉︎」
「だから乳鉢で擦ったんですよね?魔法で味や色を変えて。校長先生、いかがです?」
ルカに促されて、校長先生がまた布袋から中身を取り出す。
「乳鉢……白い粉末が付着しておるな」
「魔法痕を調べられますか?」
「うむ」
校長先生がヒラヒラと手を振る。
乳鉢がかすかに光って、手のひら大の魔力痕がぼうっと現れた。
「これは……ノエル、お主のものではないか!」
「そんな!」
ノエル先生が壇上から叫ぶ。
「そんなはずはありません!」
「なぜそう言えるんですか?」
「だって──」
ノエル先生が口を開けた時、ルカはヒラリと手を振った。
会場全体が、かすかに光った気がした。
「毒を使った証拠は、きちんと捨てたんですから!」
ノエル先生の声が、やけに大きく響いた。
また、静けさが満ちる。
今度は凍りつくような無言だ。
ノエル先生は、口元を押さえて固まっている。
亡霊のような青白い顔で。
「い、今のは……何?私、何も……」
「……ノエル先生」
弱々しい声が壇上から聞こえた。
ノエル先生のもとにミレイユが歩いていく。
「先生、私におっしゃいましたわよね……?アリアは、部屋でナペルスを育てているって……」
ミレイユの声がさらに震える。
「だから、セリーヌに毒を盛ったのはアリアだろうって……あれは嘘でしたの……?」
「嘘じゃないわ!アリアは本当にナペルスを育ててるの!」
「そうだよ。ノエル先生が鉢をくれたからね!」
私は、ミレイユに向かって声を張り上げた。
「ノエル先生。その節は、育て方を懇切丁寧にご教授くださり、ありがとうございました」
私がカーテシーをすると、ノエル先生はこちらをギッと睨みつけた。
「余計なこと言うんじゃないわよ!馬鹿のくせにこんな時だけ知恵を回して!」
先生はすばやく私を指した。
いつもの穏やかさは完全に消え失せている。
「校長、こいつがセリーヌを殺そうとしたんです!早く国外追放──いえ、いっそ処刑しましょう!」
「お、落ち着きなさい、ノエル」
「王太子の婚約ですよ!?簡単には破棄できません!だからって、この高慢女を王妃にしちゃいけない!国際関係が破綻しますよ!」
「ほへ……」
校長先生は変な声を漏らして、フリーズしてしまった。
誰もノエル先生を止めない。
壇上の先生たちも、ミレイユやラファエルも、ノエル先生の剣幕に引いている。
「弱みを握るために近づいたけど、本っ当にイライラした!自慢と悪口しか言わないの!最初のうちは私のこと、『成り上がり』『平民』って呼ぶし。身分が大切だから頭は空っぽでも気にしないのねって、言いたくてしょうがなかった!……あ、でも」
怒りで引きつった顔に、今度は歪んだ笑みが浮かぶ。
「『どうしてみんな私の素晴らしさがわからないの』って、地団駄踏んでたのは滑稽だったわね。あっはははは!」
ノエル先生が膝を叩いて大笑いする。
私は呆然とするしかなかった。
唯一、アリアに優しくしてくれた先生。
その本心がショックだった。
そしてそれ以上に、爆発した悪意が怖かった。
ふと、視界の端で何かが動く。
かすかに微笑むルカが、校長先生の肩を叩いていた。
「ひとまず、ノエル先生を王城に突き出すべきでは?」
「お……おお、そうじゃな。警備兵、ノエルを校長室へ!ほかの教職員は、卒業パーティーを進めるのじゃ!」
校長先生はそう言うと、また魔法で宙を飛び、会場を出た。
警備兵に捕えられたノエル先生は、
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と、喚きながら連れて行かれたのだった。
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