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「……結婚?」
「そう、結婚」
ルカはおざなりにそう言うと、また本を読み始めた。
「嫌でしょ? じゃ、さよなら──」
「喜んで!」
私は拳を握って叫んだ。
ルカがめくろうとしていたページが、指から離れてペラッと戻る。
ルカはしばらく硬直したあと、呆然と私を見上げた。
「……今、なんて言った?」
「喜んで!」
「何が、喜んで?」
「だからルカと結婚……あ、違った?」
聞き間違いだったら恥ずかしすぎる。
うつむいてスカートを握りしめていると、ルカは怪訝そうに呟いた。
「でも、君って王太子の婚約者じゃなかったっけ?」
「えっ、知ってるの?」
「ラファエル殿下が図書室に来た時、ギャンギャンうるさかっただろ。ほかの女子まで引き連れてさ」
それは、あれだ。
「私という婚約者がありながら、なぜセリーヌと親しくするのですか!」とか文句を言ってたやつだ。
「うぅ、陳謝いたします……もう騒ぎません」
この一ヶ月は、そもそも騒ぎらしい騒ぎは起きていないのだが。
取り巻きの女子が、アリアを見限って離れていったから。
肩を縮こめていると、スカートを握る私の手に、ルカの手が触れた。
「君、急に雰囲気変わったね。頭でも打った?」
言いながらルカは、探るような上目遣いで私を見つめる。
かっこいい。あと、手が意外と温かい。
「ま、まあ、そんな感じ」
私はさりげなくスカートから手を離し、ルカの手を軽く握った。
思っていたより骨張っている。
「ふうん。頭を打ったから、僕を好きになったって?」
「ううん、ルカのことは前から可愛いと思ってたよ!」
うっかり大声を出してしまい、慌てて両手で口を塞いだ。
騒がないと約束したばかりなのに、ルカに怒られる。
そう思ったけど、彼はアーモンド型の目をただ大きく開いていた。
「えっと……ルカのどの辺が可愛いか、言おうか?」
「……いらない」
ルカは困ったように目を泳がせている。
というか、いらないのか。
いくらでも語れるんだけど。
だけど今は時間がないし、語るのは断罪回避してからだ。
私は拝むように手を合わせた。
「とりあえず結婚してください。あと、ついでに助けて……!」
「いや、優先順位が逆でしょ。というか王太子との婚約はどうするつもり?」
「あ、それは大丈夫。今日破棄されるから」
「なんでそんなことがわかるんだよ」
ルカは怪訝そうに眉を寄せたが、すぐに「待てよ」と呟いた。
「生徒会のセリーヌと王太子、恋人同士だって噂だよね。それで捨てられると思ったの?」
「……うん、そう!」
そういうことにしておこう。
「止めればいいじゃないか。そうしたら君も国外追放されないでしょ。なんで追放されるのか、よくわからないけど」
「うーん……頭を打った時、殿下がどうでもよくなったというか」
ルカを推し始めてからというもの、ほかの攻略対象がかすんでしまった。
「むしろルカが結婚してくれるなら、こっちから婚約破棄したい」
「……そこまで?」
「そこまでだよ!信じられないなら、ルカの好きなところ、言おうか?フワフワの癖毛でしょ? 重そうなメガネでしょ? あ、メガネをつけてる時も可愛いけど、外した時のクールな感じも好き──」
「だからいいってば!ああもう、仕方ないな」
ルカは少し頬を赤らめて、椅子から立ち上がった。
「そんなこと言われたら見捨てられないじゃないか。面倒くさいけどお助けしますよ、お嬢様」
ルカは私の手を取り、苦笑いを浮かべ、口付けた。
ルカが。
私の手に。
キスした!
「うわあぁ……!」
体が震えて涙が出てきた。
私を茶化すためでもいい。
画面の向こうにいた推しがキスしてくれた。
感激が止まらない。
私が目をこすっていると、ルカは私の手を離した。
彼の頬の赤が、さらに濃くなっている。
「こんなことで泣かないでよ。それより、僕は何をすればいいわけ?」
「そう、結婚」
ルカはおざなりにそう言うと、また本を読み始めた。
「嫌でしょ? じゃ、さよなら──」
「喜んで!」
私は拳を握って叫んだ。
ルカがめくろうとしていたページが、指から離れてペラッと戻る。
ルカはしばらく硬直したあと、呆然と私を見上げた。
「……今、なんて言った?」
「喜んで!」
「何が、喜んで?」
「だからルカと結婚……あ、違った?」
聞き間違いだったら恥ずかしすぎる。
うつむいてスカートを握りしめていると、ルカは怪訝そうに呟いた。
「でも、君って王太子の婚約者じゃなかったっけ?」
「えっ、知ってるの?」
「ラファエル殿下が図書室に来た時、ギャンギャンうるさかっただろ。ほかの女子まで引き連れてさ」
それは、あれだ。
「私という婚約者がありながら、なぜセリーヌと親しくするのですか!」とか文句を言ってたやつだ。
「うぅ、陳謝いたします……もう騒ぎません」
この一ヶ月は、そもそも騒ぎらしい騒ぎは起きていないのだが。
取り巻きの女子が、アリアを見限って離れていったから。
肩を縮こめていると、スカートを握る私の手に、ルカの手が触れた。
「君、急に雰囲気変わったね。頭でも打った?」
言いながらルカは、探るような上目遣いで私を見つめる。
かっこいい。あと、手が意外と温かい。
「ま、まあ、そんな感じ」
私はさりげなくスカートから手を離し、ルカの手を軽く握った。
思っていたより骨張っている。
「ふうん。頭を打ったから、僕を好きになったって?」
「ううん、ルカのことは前から可愛いと思ってたよ!」
うっかり大声を出してしまい、慌てて両手で口を塞いだ。
騒がないと約束したばかりなのに、ルカに怒られる。
そう思ったけど、彼はアーモンド型の目をただ大きく開いていた。
「えっと……ルカのどの辺が可愛いか、言おうか?」
「……いらない」
ルカは困ったように目を泳がせている。
というか、いらないのか。
いくらでも語れるんだけど。
だけど今は時間がないし、語るのは断罪回避してからだ。
私は拝むように手を合わせた。
「とりあえず結婚してください。あと、ついでに助けて……!」
「いや、優先順位が逆でしょ。というか王太子との婚約はどうするつもり?」
「あ、それは大丈夫。今日破棄されるから」
「なんでそんなことがわかるんだよ」
ルカは怪訝そうに眉を寄せたが、すぐに「待てよ」と呟いた。
「生徒会のセリーヌと王太子、恋人同士だって噂だよね。それで捨てられると思ったの?」
「……うん、そう!」
そういうことにしておこう。
「止めればいいじゃないか。そうしたら君も国外追放されないでしょ。なんで追放されるのか、よくわからないけど」
「うーん……頭を打った時、殿下がどうでもよくなったというか」
ルカを推し始めてからというもの、ほかの攻略対象がかすんでしまった。
「むしろルカが結婚してくれるなら、こっちから婚約破棄したい」
「……そこまで?」
「そこまでだよ!信じられないなら、ルカの好きなところ、言おうか?フワフワの癖毛でしょ? 重そうなメガネでしょ? あ、メガネをつけてる時も可愛いけど、外した時のクールな感じも好き──」
「だからいいってば!ああもう、仕方ないな」
ルカは少し頬を赤らめて、椅子から立ち上がった。
「そんなこと言われたら見捨てられないじゃないか。面倒くさいけどお助けしますよ、お嬢様」
ルカは私の手を取り、苦笑いを浮かべ、口付けた。
ルカが。
私の手に。
キスした!
「うわあぁ……!」
体が震えて涙が出てきた。
私を茶化すためでもいい。
画面の向こうにいた推しがキスしてくれた。
感激が止まらない。
私が目をこすっていると、ルカは私の手を離した。
彼の頬の赤が、さらに濃くなっている。
「こんなことで泣かないでよ。それより、僕は何をすればいいわけ?」
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