今から断罪回避します、残り時間は30分です

山河 枝

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「……結婚?」

「そう、結婚」

 ルカはおざなりにそう言うと、また本を読み始めた。

「嫌でしょ? じゃ、さよなら──」

「喜んで!」

 私は拳を握って叫んだ。
 ルカがめくろうとしていたページが、指から離れてペラッと戻る。

 ルカはしばらく硬直したあと、呆然と私を見上げた。

「……今、なんて言った?」

「喜んで!」

「何が、喜んで?」

「だからルカと結婚……あ、違った?」

 聞き間違いだったら恥ずかしすぎる。
 うつむいてスカートを握りしめていると、ルカは怪訝そうに呟いた。

「でも、君って王太子の婚約者じゃなかったっけ?」

「えっ、知ってるの?」

「ラファエル殿下が図書室に来た時、ギャンギャンうるさかっただろ。ほかの女子まで引き連れてさ」

 それは、あれだ。
 「私という婚約者がありながら、なぜセリーヌと親しくするのですか!」とか文句を言ってたやつだ。

「うぅ、陳謝いたします……もう騒ぎません」

 この一ヶ月は、そもそも騒ぎらしい騒ぎは起きていないのだが。
 取り巻きの女子が、アリアを見限って離れていったから。

 肩を縮こめていると、スカートを握る私の手に、ルカの手が触れた。

「君、急に雰囲気変わったね。頭でも打った?」

 言いながらルカは、探るような上目遣いで私を見つめる。
 かっこいい。あと、手が意外と温かい。

「ま、まあ、そんな感じ」

 私はさりげなくスカートから手を離し、ルカの手を軽く握った。
 思っていたより骨張っている。

「ふうん。頭を打ったから、僕を好きになったって?」

「ううん、ルカのことは前から可愛いと思ってたよ!」

 うっかり大声を出してしまい、慌てて両手で口を塞いだ。
 騒がないと約束したばかりなのに、ルカに怒られる。

 そう思ったけど、彼はアーモンド型の目をただ大きく開いていた。
 
「えっと……ルカのどの辺が可愛いか、言おうか?」

「……いらない」

 ルカは困ったように目を泳がせている。
 
 というか、いらないのか。
 いくらでも語れるんだけど。

 だけど今は時間がないし、語るのは断罪回避してからだ。
 私は拝むように手を合わせた。

「とりあえず結婚してください。あと、ついでに助けて……!」

「いや、優先順位が逆でしょ。というか王太子との婚約はどうするつもり?」

「あ、それは大丈夫。今日破棄されるから」

「なんでそんなことがわかるんだよ」

 ルカは怪訝そうに眉を寄せたが、すぐに「待てよ」と呟いた。
 
「生徒会のセリーヌと王太子、恋人同士だって噂だよね。それで捨てられると思ったの?」

「……うん、そう!」

 そういうことにしておこう。

「止めればいいじゃないか。そうしたら君も国外追放されないでしょ。なんで追放されるのか、よくわからないけど」

「うーん……頭を打った時、殿下がどうでもよくなったというか」

 ルカを推し始めてからというもの、ほかの攻略対象がかすんでしまった。

「むしろルカが結婚してくれるなら、こっちから婚約破棄したい」

「……そこまで?」

「そこまでだよ!信じられないなら、ルカの好きなところ、言おうか?フワフワの癖毛でしょ? 重そうなメガネでしょ? あ、メガネをつけてる時も可愛いけど、外した時のクールな感じも好き──」

「だからいいってば!ああもう、仕方ないな」

 ルカは少し頬を赤らめて、椅子から立ち上がった。

「そんなこと言われたら見捨てられないじゃないか。面倒くさいけどお助けしますよ、お嬢様」

 ルカは私の手を取り、苦笑いを浮かべ、口付けた。



 ルカが。



 私の手に。



 キスした!



「うわあぁ……!」

 体が震えて涙が出てきた。
 私を茶化すためでもいい。
 画面の向こうにいた推しがキスしてくれた。
 感激が止まらない。

 私が目をこすっていると、ルカは私の手を離した。
 彼の頬の赤が、さらに濃くなっている。

「こんなことで泣かないでよ。それより、僕は何をすればいいわけ?」
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