「君とは契りを結ばない」と言った夫は、悲しい秘密を持っていた

山河 枝

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3 夢の少年①

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「お姉ちゃん、誰?」

 黒髪の男の子が、夏空みたいな色の目でこっちを見ている。

 よかった、人間だ。しかも、7つか8つくらいの子。
 ホッと息をつく私へ、男の子はまた尋ねてきた。

「ねえ、お姉ちゃんは誰? おれ、アレンっていうんだ」
「えっと……私はアリスよ」
「母さんのお友だち?」
「う、ううん、違うわ」

 そう言うと、アレンは不思議そうに私を見つめた。

「じゃあ、どうしてここにいるの?」
「それは……」

 夢の住人に「夢を見ているの」と言ったところで、信じてくれるのだろうか。
 どう答えようか悩んでいると、アレンは突然、

「ひっ!」

 と、叫んで毛布の中に戻ってしまった。

「どうしたの? アレン」
「い、今、窓のところに何かいなかった……?」

 私は、木製扉の窓を見た。閉まった窓には、特に変わったところはない。割れているところから外が見えたけれど、人の姿はない。

「何もいないわ」

 何もないどころか、塗り潰したかのように真っ暗だ。それに、こうもりの羽音もフクロウの声も、葉ずれの音さえ聞こえない。
 夢だとわかっていても、ゾッとしてしまう。

「でも、窓のところでカタカタって音がしたよ」

 アレンに言われて耳をすませると、窓が小さく軋んでいるのがわかった。
 これだけ隙間風が入ってくるのだから、外もそれなりに風が吹いているのだろう。

 毛布のふくらみに近付き、しゃがみ込む。そして、安心させるようにアレンへ声をかけた。

「窓が風で揺れてるだけよ」

 それから、毛布をかぶった小さな頭をよしよしとなでた。

 ずっと昔、雷を怖がるローラにもこうしてあげた。けれどあの時も妹は、私に姉としての自信を持たせようとしていたのだろう。
 その証拠に、寝室を別にしてからは、ローラの雷恐怖症はぴたりと止んだ。

「本当に風? 何もいない?」

 しばらくするとまた、青い瞳が毛布の陰から覗いた。
 この子はローラと違って、本気で怯えているらしい。

「ええ、何もいないわ」
「そっか、よかった……だけど、それなら今のうちに早くここを出た方がいいよ」
「どうして?」
「だって……」

 アレンは慎重にあたりを見回し、口元に手を添え、声をひそめた。

「さっき名前を呼んでたじゃない。どこかにいるんでしょ? あいつが。知らないみたいだから、教えてあげるけど……オスカーには近付かない方がいいよ」
「え?」

 すうっと背筋が寒くなる。オスカーとは、私の夫のことだろうか。

「ねえ、それって……」

 どういう意味なの、と言いかけた時、強烈な眠気が襲ってきた。
 ぐらりと傾いた体が、闇に沈んで──。

 気が付いた時には、私はベッドの上にいた。
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