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5章 身のうちの悪魔
3月7日 雨
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もう、わけわかんない……なんで上手くいかないの?
みんなの魔術は解けたけど、さらに問題が……とりあえず、順番に書いていこう。
今日は朝からウィルブローズ様の部屋にこもって、あちこち調べ回ってた。アートハル様も、昨日は一旦帰ったけど、すぐにまた来てくれたわ。
「両親とジェフローラ様は、昼まで会議があるんです」ってことだったから、二人で先に捜索を再開した。
探して探して、昼ごろにやっと手がかりを見つけたの。一冊の本に、メモが挟まってた。
そこにはこう書いてあったわ。
「使い魔についての覚え書き」
夜の賢者は翼を広げ
音も立てずに舞い降りる
鉄の娘の待つ場所へ
大勢いてもその実ひとり
一糸乱れず舞い踊るのは
とりどりあふれる色の中
術が解ければ食われてしまう
引けば千切れる細い尾巻いて
清き部屋へと疾く逃げろ
……改めて見ても、まどろっこしいわね。ウィルブローズ様、もっと直接的に書いてくれればいいのに。
アートハル様に「使い魔の3人を、それぞれ所定の場所に連れて行って、正体を言い当てれば魔術は解けます。そのためのヒントでしょう」って言われなきゃ、永遠に謎だったと思う。
ただ、アートハル様はみんなのことを詳しく知らないから、「3人とも、元は何者なんだろう」って首をかしげてた。
だから、ここからが私の出番。
夜の賢者はラウルさんで、正体はフクロウ。
鉄の娘はミュトスの恋人、もとい調理器具を指してるんだろうな。だから厨房に来てもらった。
たくさんいても一人……は、操り人形のことだと思った。これはマリさんね。
色とりどりの場所って言ったら、お庭の花壇しかないわ。
残るはねずみ。もちろんミュトスのこと。
清き部屋はなんだろう、と思ってたら、アートハル様が「クモを飼っている部屋では?」。
そういえば、悪魔を打ち倒す使いだっけ……クモ。
うん……無理。
もう無理。
絶対、無理!
数十匹のクモがひしめいてる小屋なんて、入れるわけないでしょ! 考えるだけで身の毛がよだつわ!
問答無用でアートハル様にミュトスを押しつけて、クモ小屋へ案内した。
アートハル様、中を見てちょっと引いてたわね……。
それでとにかく、魔術は解けたわ。ウィルブローズ様も元に戻った。
なのに……目を覚まさないの。眠ったまま。
声をかけても揺すっても、うんともすんとも言わなかった。
その時は、異常だと思わなかったのよ。次は何をすればいいんだろうって、アートハル様の方を見た。
そうしたら、目の前で天変地異でも起こったみたいに呆然と立ち尽くしてたの。そのうちにどんどん青ざめて、「おかしい」「どういうことだ」って呟き出した。
そこでようやく、大変な想定外が起きてるんだってわかった。「やっぱり悪魔のせいですか⁉︎」って聞いたけど、アートハル様は冷や汗をぬぐって、首を横に振るばっかり。
その時、やっと軍部から応援が来たの。
といっても、うちの前に止まった馬車は2台だけ。ジェフローラ様の馬車と、レリアス家の馬車……お義父さんとお義母さんね。大勢で来たら騒動になるからだろうな。
みんな、すぐにウィルブローズ様の状態を調べて、アートハル様のかいつまんだ説明を聞いて……それからはもう、目が回りそうだったわ。
「ウィルブローズを王城へ!」ってジェフローラ様が叫んだかと思うと、どんどん指示が出されていった。
クロップさんが、ウィルブローズ様の体をレリアス家の馬車に運んで、私はウィルブローズ様の着替えを用意して、さらに「ニニさんも王城へ来てちょうだい」って言われたから、私も泊まる準備をして……全員乗り込んだ瞬間、追い立てられるように馬車が出発した。
振り返ったら、クロップさんが呆然と私たちを見送ってたわ。コック帽をかぶったネズミと、眠そうなフクロウを左右の肩に乗せて。
手にはメイドの糸繰り人形が収まってたっけ。
目的地に着いたら着いたで、これまた慌ただしく出迎えられた。
軍の偉いっぽい人が、ぬうっと馬車を覗いてきたと思ったら、ウィルブローズ様を抱きかかえて、人さらいみたいな勢いでどこかへ連れて行っちゃった。
目を白黒させてたら、私も降りるようにって、ジェフローラ様にうながされた。
外へ出てみたら、どどーんと目の前に城壁がそびえたってた。そのすみっこに、ちょこんとすえつけられた粗末なドア。足元の草は、はびこり放題。
お城って、こんなそっけないもの? って思ったら、裏口だったわ。
本当に大事件なのね……泥棒みたいにこそこそ廊下を移動した。つい、息まで止めちゃった。
それから客室に案内されて、ようやくひと心地ついたんだけど……もう夜だっていうのに、ずっと放置されたまま。これからどうすればいいのか、全然わからない。
メイドさんが、時々様子を見に来てくれたけど。食事もお風呂も済んだけど。あとは部屋にこもりきり。
……どうしよう、不安になってきちゃった。
今、何が起きてるのか知りたい。
でも、偉い人たちは忙しそうだし。
部屋の前にいる警備兵さんには、うかつに質問できないし。ウィルブローズ様がピンチだってこと、教えていい人なのかどうか、わからないんだもの。
ウィルブローズ様、大丈夫だよね?
お城にまで来たんだもん、王様がなんとかしてくれるよね……?
とにかく明日は、状況が落ち着いてるといいんだけど。
今日の嬉しかったことは、何かあるかな。
うーん……昨日のアートハル様もだけど、ジェフローラ様たちが私をひと言も責めないでいてくれたことかしら。
だって私、ウィルブローズ様のすぐそばで寝てたのに、全然異変に気づかなかったんだもの! 責任を感じちゃうわ……。
みんなの魔術は解けたけど、さらに問題が……とりあえず、順番に書いていこう。
今日は朝からウィルブローズ様の部屋にこもって、あちこち調べ回ってた。アートハル様も、昨日は一旦帰ったけど、すぐにまた来てくれたわ。
「両親とジェフローラ様は、昼まで会議があるんです」ってことだったから、二人で先に捜索を再開した。
探して探して、昼ごろにやっと手がかりを見つけたの。一冊の本に、メモが挟まってた。
そこにはこう書いてあったわ。
「使い魔についての覚え書き」
夜の賢者は翼を広げ
音も立てずに舞い降りる
鉄の娘の待つ場所へ
大勢いてもその実ひとり
一糸乱れず舞い踊るのは
とりどりあふれる色の中
術が解ければ食われてしまう
引けば千切れる細い尾巻いて
清き部屋へと疾く逃げろ
……改めて見ても、まどろっこしいわね。ウィルブローズ様、もっと直接的に書いてくれればいいのに。
アートハル様に「使い魔の3人を、それぞれ所定の場所に連れて行って、正体を言い当てれば魔術は解けます。そのためのヒントでしょう」って言われなきゃ、永遠に謎だったと思う。
ただ、アートハル様はみんなのことを詳しく知らないから、「3人とも、元は何者なんだろう」って首をかしげてた。
だから、ここからが私の出番。
夜の賢者はラウルさんで、正体はフクロウ。
鉄の娘はミュトスの恋人、もとい調理器具を指してるんだろうな。だから厨房に来てもらった。
たくさんいても一人……は、操り人形のことだと思った。これはマリさんね。
色とりどりの場所って言ったら、お庭の花壇しかないわ。
残るはねずみ。もちろんミュトスのこと。
清き部屋はなんだろう、と思ってたら、アートハル様が「クモを飼っている部屋では?」。
そういえば、悪魔を打ち倒す使いだっけ……クモ。
うん……無理。
もう無理。
絶対、無理!
数十匹のクモがひしめいてる小屋なんて、入れるわけないでしょ! 考えるだけで身の毛がよだつわ!
問答無用でアートハル様にミュトスを押しつけて、クモ小屋へ案内した。
アートハル様、中を見てちょっと引いてたわね……。
それでとにかく、魔術は解けたわ。ウィルブローズ様も元に戻った。
なのに……目を覚まさないの。眠ったまま。
声をかけても揺すっても、うんともすんとも言わなかった。
その時は、異常だと思わなかったのよ。次は何をすればいいんだろうって、アートハル様の方を見た。
そうしたら、目の前で天変地異でも起こったみたいに呆然と立ち尽くしてたの。そのうちにどんどん青ざめて、「おかしい」「どういうことだ」って呟き出した。
そこでようやく、大変な想定外が起きてるんだってわかった。「やっぱり悪魔のせいですか⁉︎」って聞いたけど、アートハル様は冷や汗をぬぐって、首を横に振るばっかり。
その時、やっと軍部から応援が来たの。
といっても、うちの前に止まった馬車は2台だけ。ジェフローラ様の馬車と、レリアス家の馬車……お義父さんとお義母さんね。大勢で来たら騒動になるからだろうな。
みんな、すぐにウィルブローズ様の状態を調べて、アートハル様のかいつまんだ説明を聞いて……それからはもう、目が回りそうだったわ。
「ウィルブローズを王城へ!」ってジェフローラ様が叫んだかと思うと、どんどん指示が出されていった。
クロップさんが、ウィルブローズ様の体をレリアス家の馬車に運んで、私はウィルブローズ様の着替えを用意して、さらに「ニニさんも王城へ来てちょうだい」って言われたから、私も泊まる準備をして……全員乗り込んだ瞬間、追い立てられるように馬車が出発した。
振り返ったら、クロップさんが呆然と私たちを見送ってたわ。コック帽をかぶったネズミと、眠そうなフクロウを左右の肩に乗せて。
手にはメイドの糸繰り人形が収まってたっけ。
目的地に着いたら着いたで、これまた慌ただしく出迎えられた。
軍の偉いっぽい人が、ぬうっと馬車を覗いてきたと思ったら、ウィルブローズ様を抱きかかえて、人さらいみたいな勢いでどこかへ連れて行っちゃった。
目を白黒させてたら、私も降りるようにって、ジェフローラ様にうながされた。
外へ出てみたら、どどーんと目の前に城壁がそびえたってた。そのすみっこに、ちょこんとすえつけられた粗末なドア。足元の草は、はびこり放題。
お城って、こんなそっけないもの? って思ったら、裏口だったわ。
本当に大事件なのね……泥棒みたいにこそこそ廊下を移動した。つい、息まで止めちゃった。
それから客室に案内されて、ようやくひと心地ついたんだけど……もう夜だっていうのに、ずっと放置されたまま。これからどうすればいいのか、全然わからない。
メイドさんが、時々様子を見に来てくれたけど。食事もお風呂も済んだけど。あとは部屋にこもりきり。
……どうしよう、不安になってきちゃった。
今、何が起きてるのか知りたい。
でも、偉い人たちは忙しそうだし。
部屋の前にいる警備兵さんには、うかつに質問できないし。ウィルブローズ様がピンチだってこと、教えていい人なのかどうか、わからないんだもの。
ウィルブローズ様、大丈夫だよね?
お城にまで来たんだもん、王様がなんとかしてくれるよね……?
とにかく明日は、状況が落ち着いてるといいんだけど。
今日の嬉しかったことは、何かあるかな。
うーん……昨日のアートハル様もだけど、ジェフローラ様たちが私をひと言も責めないでいてくれたことかしら。
だって私、ウィルブローズ様のすぐそばで寝てたのに、全然異変に気づかなかったんだもの! 責任を感じちゃうわ……。
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