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国境へ
3 進路
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この大きな街はクローディル国の王都と国境の丁度中間地点に位置し、かなり賑わっていた。
理由の一つとして、貿易の交差路を拠点として発展した街だから。
このまま真っ直ぐ街道を進むと、魔道具が有名な魔術大国ユーフルディア帝国にたどり着く。
斜めにある街道を進むと、この国の一番の友好国オーリア国になる。
他にも色々な国に繋がる街道がひらけていた。
私は最初帝国へ行くつもりだった。
「魔力の少ない私が、帝国へ行くなんて考えないと思うしね」
オルレンブルグ先生からの手紙もあり、頼る事も出来るだろうと思ったから。
「時期が悪すぎる……なぁ」
ため息混じりに呟く。
今、馬車置き場で馬の飼い葉と水を与えていたのだが、聞こえてくる話が私には不都合な事が多かった。
「帝国から来た商人に聞いたけどさ、国境審査厳しくなったって」
「あぁ、俺も聞いた。元々厳しいのにもう一段厳守になったんだろ?」
「今揉め事を起こせないとかでな。お偉いさん達がピリピリしてるってよ」
馬丁や馭者達は情報交換や噂話で盛り上がっていた。
「もう少し大丈夫だと思ったのにね」
馬をなでながら、思案にくれた。
後一月もしない内に、帝国の皇太子や次世代を支える貴族達がこの国にやってくる。
今は両国のどちらが今後主導権を取るか、探りあっている状態だ。
私も資料作成をさせられていたが、提出前に王都を出てきてしまった。
下書きをする用紙も貰えず、いつも頭の中でまとめ上げて一気に書き上げていた。
「でも、大丈夫よね。いつも 『本当は出来るが、わざわざ試してやっているのだ。俺達がこの様に時間を使ってやっている、ありがたく思え』って、元家庭教師達が言っていたもの」
例え私の課題で宮廷官吏になっていても、やれば出来るのでしょう。
そんな事を考えながら馬の世話をしていると、後ろから突然緊張した声が聞こえた。
「これは騎士様。こちらにお越しとは珍しいですね」
「すまぬな、他の部隊とかち合って馬の飲み場が足りぬ。ここを借りるぞ」
「それは結構ですが、どうなさったのですか?」
「王都から王太子の部隊がやってきたんだ。まあ、今回の帝国の事もあるが、極秘で探している令嬢がいるとかでな。かなりの大所帯が動いているらしいぞ」
背中がヒヤリとした。
私はそっと聞き耳をたてる。
「王太子が令嬢をですかい?婚約者とは仲がいいと評判じゃないですか」
「とても仲が良好だとか。それなのに、どっかで見初められた令嬢でも現れたんで?」
「かなり文武両道優秀な王太子と聞くのになぁ。英雄色を好むか」
……市井では、その方が面白いのだろう。
騎士の方をちらりと見ると苦笑いしていた。
「それだとまぁ、我々も気が楽なんだがな。王太子の婚約者の身内がいなくなったそうだ。誘拐か家出か分からないらしい。だから内々で探すらしいぞ。お前達も怪しい者を見つけたら騎士宿舎へ知らせろよな」
気軽な感じに告げる騎士に、全然極秘ではないと思いながら続く言葉に身を縮ませた。
「特徴は、金髪碧眼十五歳の深窓の令嬢だ」
「騎士様、貴族のお血筋に一番多い特徴ではないですか。お忍びの方々を知らせたら、こっちが危ない」
呆れながら口々に「もっと詳しい特徴じゃなきゃな」と言い合っていた。
そのうち令嬢の行先について話は移っていった。
「その令嬢所有の魔道具がごっそりなくなっていたとかでな。半分以上が帝国へ向かうらしいぞ。残りが各国境へだと言ってたな」
「この辺りも魔道具売買が盛んだから、立ち寄るかもしれないんですね」
「それで大所帯でこられて、こっちは大変なのさ」
「それにこれから、帝国行きが益々大変になりますな」
良かった、まだここで魔道具は売っていない。
先に薬師の所に行って、本当に良かったと安堵した。
騎士が去り、私もそっとここを離れる準備をしていると声をかけられた。
「嬢ちゃん、びっくりしただろ。ずっと固まっていたぞ」
「は、はい。驚きました」
「こいつな、昔騎士宿舎で働いていてその流れでまたーに騎士様がここを使いに来るんだ」
じゃあ、身内感覚での会話だったんだ。
私にとっての貴重な情報でありがたかった。
「そうだったんですね。あっ、この桶ここでいいですか?」
「おう、またここに来たら立ち寄ってくれよな」
「はい、本当に助かりました。ありがとうございました」
「大袈裟だなぁ。操縦頑張れよ」
馬車置き場の方達に見送られながら出発した。
「なぁ、あの子さっきの探し人なんじゃ?」
「どう見ても違うだろう。歳は十一、二歳位だろうし。碧眼だが髪は赤毛混じりの金髪だしな」
私は薬草で表面をうっすら赤くした髪をなびかせ、馬車を走らせた。
姿を変える方法は魔術だけではないもの。
理由の一つとして、貿易の交差路を拠点として発展した街だから。
このまま真っ直ぐ街道を進むと、魔道具が有名な魔術大国ユーフルディア帝国にたどり着く。
斜めにある街道を進むと、この国の一番の友好国オーリア国になる。
他にも色々な国に繋がる街道がひらけていた。
私は最初帝国へ行くつもりだった。
「魔力の少ない私が、帝国へ行くなんて考えないと思うしね」
オルレンブルグ先生からの手紙もあり、頼る事も出来るだろうと思ったから。
「時期が悪すぎる……なぁ」
ため息混じりに呟く。
今、馬車置き場で馬の飼い葉と水を与えていたのだが、聞こえてくる話が私には不都合な事が多かった。
「帝国から来た商人に聞いたけどさ、国境審査厳しくなったって」
「あぁ、俺も聞いた。元々厳しいのにもう一段厳守になったんだろ?」
「今揉め事を起こせないとかでな。お偉いさん達がピリピリしてるってよ」
馬丁や馭者達は情報交換や噂話で盛り上がっていた。
「もう少し大丈夫だと思ったのにね」
馬をなでながら、思案にくれた。
後一月もしない内に、帝国の皇太子や次世代を支える貴族達がこの国にやってくる。
今は両国のどちらが今後主導権を取るか、探りあっている状態だ。
私も資料作成をさせられていたが、提出前に王都を出てきてしまった。
下書きをする用紙も貰えず、いつも頭の中でまとめ上げて一気に書き上げていた。
「でも、大丈夫よね。いつも 『本当は出来るが、わざわざ試してやっているのだ。俺達がこの様に時間を使ってやっている、ありがたく思え』って、元家庭教師達が言っていたもの」
例え私の課題で宮廷官吏になっていても、やれば出来るのでしょう。
そんな事を考えながら馬の世話をしていると、後ろから突然緊張した声が聞こえた。
「これは騎士様。こちらにお越しとは珍しいですね」
「すまぬな、他の部隊とかち合って馬の飲み場が足りぬ。ここを借りるぞ」
「それは結構ですが、どうなさったのですか?」
「王都から王太子の部隊がやってきたんだ。まあ、今回の帝国の事もあるが、極秘で探している令嬢がいるとかでな。かなりの大所帯が動いているらしいぞ」
背中がヒヤリとした。
私はそっと聞き耳をたてる。
「王太子が令嬢をですかい?婚約者とは仲がいいと評判じゃないですか」
「とても仲が良好だとか。それなのに、どっかで見初められた令嬢でも現れたんで?」
「かなり文武両道優秀な王太子と聞くのになぁ。英雄色を好むか」
……市井では、その方が面白いのだろう。
騎士の方をちらりと見ると苦笑いしていた。
「それだとまぁ、我々も気が楽なんだがな。王太子の婚約者の身内がいなくなったそうだ。誘拐か家出か分からないらしい。だから内々で探すらしいぞ。お前達も怪しい者を見つけたら騎士宿舎へ知らせろよな」
気軽な感じに告げる騎士に、全然極秘ではないと思いながら続く言葉に身を縮ませた。
「特徴は、金髪碧眼十五歳の深窓の令嬢だ」
「騎士様、貴族のお血筋に一番多い特徴ではないですか。お忍びの方々を知らせたら、こっちが危ない」
呆れながら口々に「もっと詳しい特徴じゃなきゃな」と言い合っていた。
そのうち令嬢の行先について話は移っていった。
「その令嬢所有の魔道具がごっそりなくなっていたとかでな。半分以上が帝国へ向かうらしいぞ。残りが各国境へだと言ってたな」
「この辺りも魔道具売買が盛んだから、立ち寄るかもしれないんですね」
「それで大所帯でこられて、こっちは大変なのさ」
「それにこれから、帝国行きが益々大変になりますな」
良かった、まだここで魔道具は売っていない。
先に薬師の所に行って、本当に良かったと安堵した。
騎士が去り、私もそっとここを離れる準備をしていると声をかけられた。
「嬢ちゃん、びっくりしただろ。ずっと固まっていたぞ」
「は、はい。驚きました」
「こいつな、昔騎士宿舎で働いていてその流れでまたーに騎士様がここを使いに来るんだ」
じゃあ、身内感覚での会話だったんだ。
私にとっての貴重な情報でありがたかった。
「そうだったんですね。あっ、この桶ここでいいですか?」
「おう、またここに来たら立ち寄ってくれよな」
「はい、本当に助かりました。ありがとうございました」
「大袈裟だなぁ。操縦頑張れよ」
馬車置き場の方達に見送られながら出発した。
「なぁ、あの子さっきの探し人なんじゃ?」
「どう見ても違うだろう。歳は十一、二歳位だろうし。碧眼だが髪は赤毛混じりの金髪だしな」
私は薬草で表面をうっすら赤くした髪をなびかせ、馬車を走らせた。
姿を変える方法は魔術だけではないもの。
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