無能とされた双子の姉は、妹から逃げようと思う~追放はこれまでで一番素敵な贈り物

ゆうぎり

文字の大きさ
29 / 42
国境へ

4 事故

しおりを挟む
 私はオーリア国に繋がる街道を選び、馬車で駆けていた。
 追われる可能性は考えていたが、本当にそうなっていた。
 変装しているといっても、髪の色を少し変えただけだから油断出来ない。
 出来るだけ早く国から出たいと思った。
 戻りたくないと、心も体も叫んでいた。

 友好国とはいえ小国であるオーリア国の街道は、今までの街道と違い馬車の往来が少ない。
 その分私のような小柄な娘が、箱型の馬車を操っているのは目立つ。

 馬車の窓は閉めてあるが、誰が乗っているのかと好奇な視線を浴びる時があった。

 すれ違う幌馬車からならいいが、明らかに巡回中と分かる兵からの視線は怖かった。
 どこかでこの馬車を幌馬車と交換していれば良かったと思ったが、そんな宛はなかったのだから仕方がない。

 私はただただ焦りのあまり、知らず馬達を急がせていた。
 慣れていない私の操作に応えてくれていた馬達が、私の心を分かっているように徐々に早く駆ける。
 平坦な風景は自分の出している速度を感じさせず、気付けば休憩もそこそこに進んでいた。

 夜休む際には魔力はあまり使いたくなかったが、感知の魔道具を作動させた。
 人気のない場所の獣や盗賊を知る為だ。

 魔力を使うと魔術で探知される可能性が増す。
 徹夜に慣れているはずが、気付けば寝入っている事もあり、朝の光を感じて焦って起きた。
 
 そんな道程など、続けられるはずもなく……。

 周りは見渡す限りの田園の街道を、馬車を駆けていた時だった。
 えっ、と思った時には遅く馬が倒れ馬車が横転した。

「……痛っ。はっ、馬は?馬車は?」

 私は少し前に飛ばされた様で、後ろを振り向けば倒れた馬車があった。
 馬は二頭とも口横に泡を出し、息も切れ切れに喘いで倒れており、内一頭の脚の形がおかしかった。

「とにかく、馬車から外さなきゃ」

 重い箱部分が邪魔と感じながら、何とか馬具を外した。
 横転した馬車を開けるのも一苦労だった。

 中から二つカバンを取り出すも一つが濡れている。

「大変、ポーションどうなったの?」

 取り出したポーションは、五本全ての容器にヒビが入っていた。
 急いでコップに入れたが、残っていたのは三本弱位だろうか。
 それを持って馬の所に行った。

「ごめんね、無理させたんだよね」

 馬は大きいし、人用のポーションが効くかは分からない。
 ただ私は祈りながら、二頭にポーションを飲ませた。

「ブブブブッ」

 優しい馬の鳴き声にほっとしていると、一頭にぺろりと頬を舐められた。

「いっ……あぁ、ありがとう」

 傷に染みる痛みが一瞬したが、すっと引いていった。
 馬の舌に付いていたポーションが作用したのだろう。
 そこで私は、自分も怪我をしていた事に気付いた。

「痛みに慣れているのも考えものね」

 苦笑混じりに呟くと、少し残っていたポーションを飲んだ。
 傷と一緒に疲れも焦りも飛んでいった気がした。

 横転した馬車をどうしようかと考えたが、力が足りない。
 とりあえず点検してみたが、車軸が少し歪んでいるだろうか。

 そのまま放置も出来ないし、馬達を見ると凄くのんびりしていた。
 そんな場合ではないけれど、私もゆっくりしようかなと考えていた所に遠くから複数の馬車の音が聞こえてきた。

 私の馬車が道を塞いでいたので、複数の馬車の主だろう人が声を掛けてくれた。

「こんな平坦なところで横転なんて、よっぽど下手なのかね。どれ、お前達手伝ってあげなさい」

 その人はそう言って、護衛の人達に命じてくれた。



しおりを挟む
感想 206

あなたにおすすめの小説

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

処理中です...