無能とされた双子の姉は、妹から逃げようと思う~追放はこれまでで一番素敵な贈り物

ゆうぎり

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国境へ

6 商隊と街へ

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 商隊との旅の印象は、とにかく賑やかだった。
 ゆっくりと進む商隊の休憩になると、護衛の皆さんが私を構ってくれた。

「リディちゃん、これ食べた事ある?前の街の名物なんだけど」
「おい、それかみさんにと言ってなかったか?」

「な~に、ウチのかみさんは優しいんだよ。こんな綺麗で小さな子が、折れそうで細っこいなんて、どんどん食べさせたくなるだろ」

「いやいや、このままでも良くない?だから、こっちの飴の方がいいぞ」
「おま……抜け駆けするな」

 そんな護衛達のわいわいとした掛け合いは、アルメルさんの一声で静まり返る。

「この野郎共、うるさいんだよ!リディにはちゃーんと私がたんまりと与えている最中なんだ。邪魔すんじゃないよ」

 はい、馬車の中で色々といただいております、もぐもぐ。
 今も口の中に噛みきれない、下町のおやつが入っています。

「えー、かしら独り占めはずるいですよ」
「そうだそうだ!」

「うるさい!リディに触れ合いたいなら、もう少し小綺麗にしやがれ」

 護衛達はお互いを見あい、「街で勝負だ」と気合いを入れていた。
 何の勝負事があるのでしょうか?
 私が首を傾げていると、アルメルさんは笑いながら言った。

「リディは気にしなくていいよ。でもいつまでそれ噛んでいるんだい?全く今までどんな物を食べてきたのやら」
「でもアルメルさん。これは噛めば噛むほど味が出ません?とても不思議です」

「この一帯の子供のおやつだよ。甘みのある植物の茎を煮詰めて干したものさ。手軽で保存が効くから長旅にはよいよ。なんなら街に着いたら買えばいいさ」
「でも、噛みきれないのが難点です」
「まぁ噛む力がつくとその内大丈夫になるもんさ」

 こんな調子で、まるでこの商隊は別世界かと思う程の対応をされ、戸惑いながらも心がホカホカとしていた。
 そんな私を、アルメルさんはずっと笑顔で見ていた。

 馬車はゆっくりとだが、確実に進み野営を挟みながらも大きな街に着いた。
 この街は、国境の街がある辺境伯の領地の一歩手前。
 隣接する領地の街だった。

 ここで馬車を詳しく見てもらう事になる。
 アルメルさんと馬車の修理屋に訪れたが、今日中には難しく明日になると言われた。

「……あの、ここで……」

 私は凄く残念な気持ちを抑えながら、ここで別れるつもりで挨拶をしようとした。
 あまりにも優しい時間に囲まれていたから、私が追われている事を忘れそうになる。
 これではいけないと、思ったのだが。

 背中からバシッと音がした。

「な~に、水臭い事言っているんだ。こっちも商談やらなんやらで何泊かする予定だったのさ。さぁ、一旦宿屋に行こうか」

 早めに商隊の定宿に行き、そこで昼食を皆で取った。
 アルメルさんは用があると、護衛を何人か引き連れ出ていった。

「ブノー、リディを頼んだ」
「あっ、隊長だけずるい」
「お前はこっち、来るんだよ」

 引きずられる護衛を見て、隊長のブノーさんは呆れていた。
 残った他の人達はいつもの事だな、と言いながら各々のやるべき事に向かっていく。

「ブノーさん、アルメルさんから何か言われているのですか?」
「リディを街に連れて行くようにと。買い物や観光だ」

 護衛隊長のブノーさんは、いつも若い護衛達が騒ぐのを一歩引いて見守っている様な人だった。
 私はまだあまり話した事はない。

 私がどうしたらいいのか困っていると、大きな手が伸びてきた。

「さぁ、行こうか。外は人が多い。子供ははぐれるからな」

 淑女ではなく子供扱いされているのに、何だかくすぐったくておずおずと手を重ねた。

 街は活気があり、店の呼び込みが私達に声をかける。

「そこのお父さん、嬢ちゃんにこれなんてどうだい?美味いぞ」

 ブノーさんは渋い顔で、私は吹き出しそうになった。
 その美味しいという、細長いパンの様な物を買った。
 それはパンよりもサクサクとした歯触りで、私はとても気に入った。

 色々と買い、ついでに街を見て周り宿屋へ帰る。
 今日あった事を皆が知りたがったので話すと、細いパンのくだりで爆笑が起きた。



 いつまでもいつまでも、こんな優しい時間が流れていたらいいなと思いながら、眠りについた。

 アルメルさんとブノーさんが、どんな思いを抱えているのかも知らずに……。



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