35 / 42
国境へ
10 リディの状態
しおりを挟む
―――アルマー商会護衛隊長ブノー視点
定宿コトリ亭のアルメルとリディの宿泊部屋に、俺は来ている。
「じゃあ、リディを呼んでくる」
固い表情のアルメルは、ため息を残し部屋を出ていった。
本来小さなテーブルに二脚の備え付けの椅子のところ、もう一脚増やしている。
リディを連れてきて皆が着席し、アルメルは話を切り出した。
やはりリディは簡易門を使うつもりだった様だ。
王都にいるリディの耳にまで噂が入っていれば、そりゃあ悪用する奴も出てくる。
俺は、二人の話を気をつけながら聞いていた。
本来のものか、令嬢としての訓練の賜物か、リディの表情はわかりにくい。
その表情が、簡易門が使えないと知った時かなり沈んだ。
「リディ、予定がないのなら家に帰った方が良くないかい?衝動的に家を出たのなら、一度連絡をするのはどうだろう。リディの事だから、何か余程の理由があるのかもしれないとは思うよ。どうしても嫌だと言うのなら、どうだろう。もし良かったら、私達にその理由を相談してみては貰えないだろうか。力になれるかどうかは分からないが、出来るだけ手助け出来るように……」
アルメルは、つらつらと言葉を繋げていく。
商談でのやり取りは、腹の探り合いや時には怒鳴り合いでの交渉だ。
平民同士は、表情をあまり隠さずにやり合う事の方が多い。
勝手が違うからなのか、優しく気を使って言おうと意識するあまり、リディからの反応がない事に勘違いをしている。
いつもの様に表情が薄いのではなく、全く反応してないぞ。
俺は急いで、アルメルを止めた。
「おい、アルメルやめろ」
「なんだい、ブノー。こっちは優しく言ってるだろうが?何が不満なんだ」
気を使って話していた分、止めた俺に不機嫌に噛みついた。
「リディが固まってしまって、聞こえてないぞ」
俺は、リディの顔の前で手を振ってみせた。
全く反応しないリディに、アルメルは焦って言い訳をする。
「え?言い方、気をつけたよな。公爵令嬢とも言ってないよな」
アルメルにしては、リディに寄り添う様にかなり気をつけていた。
リディは提案をした最初辺りから、様子がおかしかったのだ。
「……もしかしたら、余程家に帰りたくない?」
「知られずオーリア国に行くつもりの娘に、帰宅を促すのは止めた方がよかったか?」
不安そうに言うアルメルだが、この場合確認しなければならない事だ。
「いや、それは間違っていないと思う。身元が公爵令嬢なら、他国で何かあった場合の酷さもヤバさも跳ね上がるからな」
「せめてオーリア国の知人に会いに行くとか、向こうに知り合いがいれば違ったんだが」
そんな話をしながらも、リディをベッドへ運ぶ。
余程触れたくない内容だったのか、リディは気を失ってしまっていた。
椅子に座らせたままより、寝かせた方がいいだろう。
その後も俺達は相談していたが、その内リディはうなされ始めた。
「…………ぅん……お…父様……お母……様、ぃや……叩かないで……痛い……や……」
このうめき声で、俺はアルメルにこっぴどく睨まれる事になる。
リディが傍に居なければ、怒鳴り散らされていただろう。
俺達の中では、リディと両親との関係にそんな情報はなかった。
俺がアルメルに伝えた情報は、エイヴァリーズ公爵は貴族にしては子煩悩。
双子の娘がいるが、両方共に気を配っている。
これは噂からの判断ではなく、実際に公爵と会っての主観だった。
年中諸外国を飛び回る、この国の外交を司る要人として、騎士時代に護衛に付いた事があったからだ。
今は、次のユーフルディア帝国との会合の最後の詰めで、この国に戻ってこられていると聞いた。
俺はてっきり、その時にでも衝突したのだろうと思っていたのだ。
公爵家の力でいくらでも止められる、巷に流れるリディアーヌ・エイヴァリーズ公爵令嬢の不可解な良くない噂と相まって、俺は何やら薄ら寒いものを感じた。
定宿コトリ亭のアルメルとリディの宿泊部屋に、俺は来ている。
「じゃあ、リディを呼んでくる」
固い表情のアルメルは、ため息を残し部屋を出ていった。
本来小さなテーブルに二脚の備え付けの椅子のところ、もう一脚増やしている。
リディを連れてきて皆が着席し、アルメルは話を切り出した。
やはりリディは簡易門を使うつもりだった様だ。
王都にいるリディの耳にまで噂が入っていれば、そりゃあ悪用する奴も出てくる。
俺は、二人の話を気をつけながら聞いていた。
本来のものか、令嬢としての訓練の賜物か、リディの表情はわかりにくい。
その表情が、簡易門が使えないと知った時かなり沈んだ。
「リディ、予定がないのなら家に帰った方が良くないかい?衝動的に家を出たのなら、一度連絡をするのはどうだろう。リディの事だから、何か余程の理由があるのかもしれないとは思うよ。どうしても嫌だと言うのなら、どうだろう。もし良かったら、私達にその理由を相談してみては貰えないだろうか。力になれるかどうかは分からないが、出来るだけ手助け出来るように……」
アルメルは、つらつらと言葉を繋げていく。
商談でのやり取りは、腹の探り合いや時には怒鳴り合いでの交渉だ。
平民同士は、表情をあまり隠さずにやり合う事の方が多い。
勝手が違うからなのか、優しく気を使って言おうと意識するあまり、リディからの反応がない事に勘違いをしている。
いつもの様に表情が薄いのではなく、全く反応してないぞ。
俺は急いで、アルメルを止めた。
「おい、アルメルやめろ」
「なんだい、ブノー。こっちは優しく言ってるだろうが?何が不満なんだ」
気を使って話していた分、止めた俺に不機嫌に噛みついた。
「リディが固まってしまって、聞こえてないぞ」
俺は、リディの顔の前で手を振ってみせた。
全く反応しないリディに、アルメルは焦って言い訳をする。
「え?言い方、気をつけたよな。公爵令嬢とも言ってないよな」
アルメルにしては、リディに寄り添う様にかなり気をつけていた。
リディは提案をした最初辺りから、様子がおかしかったのだ。
「……もしかしたら、余程家に帰りたくない?」
「知られずオーリア国に行くつもりの娘に、帰宅を促すのは止めた方がよかったか?」
不安そうに言うアルメルだが、この場合確認しなければならない事だ。
「いや、それは間違っていないと思う。身元が公爵令嬢なら、他国で何かあった場合の酷さもヤバさも跳ね上がるからな」
「せめてオーリア国の知人に会いに行くとか、向こうに知り合いがいれば違ったんだが」
そんな話をしながらも、リディをベッドへ運ぶ。
余程触れたくない内容だったのか、リディは気を失ってしまっていた。
椅子に座らせたままより、寝かせた方がいいだろう。
その後も俺達は相談していたが、その内リディはうなされ始めた。
「…………ぅん……お…父様……お母……様、ぃや……叩かないで……痛い……や……」
このうめき声で、俺はアルメルにこっぴどく睨まれる事になる。
リディが傍に居なければ、怒鳴り散らされていただろう。
俺達の中では、リディと両親との関係にそんな情報はなかった。
俺がアルメルに伝えた情報は、エイヴァリーズ公爵は貴族にしては子煩悩。
双子の娘がいるが、両方共に気を配っている。
これは噂からの判断ではなく、実際に公爵と会っての主観だった。
年中諸外国を飛び回る、この国の外交を司る要人として、騎士時代に護衛に付いた事があったからだ。
今は、次のユーフルディア帝国との会合の最後の詰めで、この国に戻ってこられていると聞いた。
俺はてっきり、その時にでも衝突したのだろうと思っていたのだ。
公爵家の力でいくらでも止められる、巷に流れるリディアーヌ・エイヴァリーズ公爵令嬢の不可解な良くない噂と相まって、俺は何やら薄ら寒いものを感じた。
99
あなたにおすすめの小説
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
嘘つきと呼ばれた精霊使いの私
ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】
小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。
これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。
失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。
無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日のこと。
ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。
『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。
そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる