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国境へ
11 決意
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私は、何故かベッドにいた。
「あぁ、起きたのかい?随分うなされていたから心配したよ」
そう言って、アルメルさんはコップを差し出してくれた。
余程喉が乾いていたのか、ゴクゴクと飲み干す。
うなされただなんて、私は変な事を言わなかっただろうか?
不安でアルメルさんとブノーさんを見るが、二人に変わった様子はなかった。
だったら、この異様な喉の乾きは?
私が物思いに耽る前に、アルメルさんが話を切り出した。
「リディは、話の途中で気を失ってしまったんだよ。余程簡易門が使えない事がショックだったんだね。どうする?今度の事もあるし、話を終えてしまった方がいいと思うが、気分が悪ければ後回しにするか?」
あぁ、そう思われたんだと、私は少し安心した。
この二人には悪いけれど、まだ私が公爵令嬢だった事は打ち明けられない。
それに家に帰る事を、何よりも恐れているなんて知られたくない。
話を後回しにして、何かが変わるのだろうか?
私は頭を振った。
「アルメルさん、話を中断してごめんなさい。続けてください」
今度は何を言われても大丈夫と心に刻み、アルメルさんの話を聞いた。
アルメルさんは、まず簡易門で出る予定だった私の理由を聞いてきた。
「家に知られたくないのです。帰るつもりもありません!」
これは二人に、伝えてしまっていいのだろうか?
でも……と強い意志で決意して、私は言い放った。
私は伝える前に、深呼吸が二回ほど必要だったけれど。
「……そうか、理由を聞かせてくれる事は出来る?」
アルメルさんのその言葉に、私は何度も首を横に振った。
言いたくないという気持ちと、言ったら私の事が分かってしまうと気持ちがあった。
今なら私は、幼いただの世間知らずの家出少女。
実際には家から追放されていても、探されているのならそんなものは関係ないのだろう。
頑なに理由を言わない私に、アルメルさんとブノーさんは痛ましそうに私を見て、オーリア国への入国について話始めた。
「確実なのは、オーリア国の権威ある方からの招待状を貰う事だな。これなら、通常の国境でも水晶なしで通れる時間帯がある。閉門間近の時間帯のギリギリなら、対応が大雑把になる人がいるんだ。これ秘密な」
それは、職務怠慢というのではないだろうか?
それとも、袖の下だろうか?
それは何だか嫌だなと、選択肢もないのに思ってしまう。
「この国の元王宮魔術師長が、オーリア国に招かれ魔術の特別指導をしている。私の息子も指導してもらいに行く。国境では何人もそういうのがいるから、その中の一人としてなら目立たないんじゃないかな?」
「私は魔力が少ないから……」
魔術の勉強だけなら興味あるけれど、実技が入ると無理だろう。
「オーリア国はこの国と違って、高魔力の持ち主は少ない。その中で実力を付けれる様に指導していると聞いている。平民相手だから、皆それ程魔力は多くないはずだよ。まぁ、学んでから当分は、オーリア国の為に働かないといけないみたいだけど」
「アルメルさんは、隣国のオーリア国の事に随分詳しいのですね」
「そりゃあ、商人だからな。この国とオーリア国を行き来して商売をしていると自然と情報は入ってくるもんだ」
これは、一見素敵な提案に思えた。
でも、パレテヌミーユ侯爵家の現当主は今陛下の片腕だ。
元王宮魔術師長がオーリア国に行かれた経緯が分からない以上、そこから私の情報が流れないかしら。
それに、オーリア国の為に働くのも私の立場では難しいだろう。
下手をすると、両国の問題まで発展しないとも限らない。
私は真剣に悩んでいると、不意に気になる言葉が耳に入った。
「なぁに、令嬢だったら元王宮魔術師長だって喜んで教えるさ。もしかして、王都ででも知らず会っているかもしれないよ」
とても労りを込めた言葉だった。
優しい言葉だった。
世間知らずな私は、どこかの令嬢だと思われたかも知れない。
でも王都から来たとは、一言も言っていない。
一つだけなら偶然だろうと思えた。
でも二つだったらどうだろうか……。
私はアルメルさんとブノーさんを見た。
アルメルさんは、自分の言った言葉に全く気づいていない。
ブノーさんは…………あぁ、知っているんだ、私の事。
一瞬ブノーさんが顔を歪め、アルメルさんを凝視した瞬間に私はそう思った。
私の事を最初から知っていたのか、それとも私が寝言で洩らしてしまったのかは分からない。
でも、知った上で提案して貰った事は、とても数日前に出会ったばかりの者にする事じゃない。
私はこの話し合いでは、答えを曖昧にして終わらせた。
私は、日が昇る前にこっそりと宿を抜け出し、二頭の馬を連れ馬車の修理屋に訪れた。
「嬢ちゃん、どうした?早すぎやしないか。こっちは徹夜で、今修理が終わったところだから起きてたがな」
「ごめんなさい、急に予定が変わったんです。修理が完了していて助かりました。ありがとうございます」
少し強引だったが引き取って、そのままこの街を出た。
「あぁ、起きたのかい?随分うなされていたから心配したよ」
そう言って、アルメルさんはコップを差し出してくれた。
余程喉が乾いていたのか、ゴクゴクと飲み干す。
うなされただなんて、私は変な事を言わなかっただろうか?
不安でアルメルさんとブノーさんを見るが、二人に変わった様子はなかった。
だったら、この異様な喉の乾きは?
私が物思いに耽る前に、アルメルさんが話を切り出した。
「リディは、話の途中で気を失ってしまったんだよ。余程簡易門が使えない事がショックだったんだね。どうする?今度の事もあるし、話を終えてしまった方がいいと思うが、気分が悪ければ後回しにするか?」
あぁ、そう思われたんだと、私は少し安心した。
この二人には悪いけれど、まだ私が公爵令嬢だった事は打ち明けられない。
それに家に帰る事を、何よりも恐れているなんて知られたくない。
話を後回しにして、何かが変わるのだろうか?
私は頭を振った。
「アルメルさん、話を中断してごめんなさい。続けてください」
今度は何を言われても大丈夫と心に刻み、アルメルさんの話を聞いた。
アルメルさんは、まず簡易門で出る予定だった私の理由を聞いてきた。
「家に知られたくないのです。帰るつもりもありません!」
これは二人に、伝えてしまっていいのだろうか?
でも……と強い意志で決意して、私は言い放った。
私は伝える前に、深呼吸が二回ほど必要だったけれど。
「……そうか、理由を聞かせてくれる事は出来る?」
アルメルさんのその言葉に、私は何度も首を横に振った。
言いたくないという気持ちと、言ったら私の事が分かってしまうと気持ちがあった。
今なら私は、幼いただの世間知らずの家出少女。
実際には家から追放されていても、探されているのならそんなものは関係ないのだろう。
頑なに理由を言わない私に、アルメルさんとブノーさんは痛ましそうに私を見て、オーリア国への入国について話始めた。
「確実なのは、オーリア国の権威ある方からの招待状を貰う事だな。これなら、通常の国境でも水晶なしで通れる時間帯がある。閉門間近の時間帯のギリギリなら、対応が大雑把になる人がいるんだ。これ秘密な」
それは、職務怠慢というのではないだろうか?
それとも、袖の下だろうか?
それは何だか嫌だなと、選択肢もないのに思ってしまう。
「この国の元王宮魔術師長が、オーリア国に招かれ魔術の特別指導をしている。私の息子も指導してもらいに行く。国境では何人もそういうのがいるから、その中の一人としてなら目立たないんじゃないかな?」
「私は魔力が少ないから……」
魔術の勉強だけなら興味あるけれど、実技が入ると無理だろう。
「オーリア国はこの国と違って、高魔力の持ち主は少ない。その中で実力を付けれる様に指導していると聞いている。平民相手だから、皆それ程魔力は多くないはずだよ。まぁ、学んでから当分は、オーリア国の為に働かないといけないみたいだけど」
「アルメルさんは、隣国のオーリア国の事に随分詳しいのですね」
「そりゃあ、商人だからな。この国とオーリア国を行き来して商売をしていると自然と情報は入ってくるもんだ」
これは、一見素敵な提案に思えた。
でも、パレテヌミーユ侯爵家の現当主は今陛下の片腕だ。
元王宮魔術師長がオーリア国に行かれた経緯が分からない以上、そこから私の情報が流れないかしら。
それに、オーリア国の為に働くのも私の立場では難しいだろう。
下手をすると、両国の問題まで発展しないとも限らない。
私は真剣に悩んでいると、不意に気になる言葉が耳に入った。
「なぁに、令嬢だったら元王宮魔術師長だって喜んで教えるさ。もしかして、王都ででも知らず会っているかもしれないよ」
とても労りを込めた言葉だった。
優しい言葉だった。
世間知らずな私は、どこかの令嬢だと思われたかも知れない。
でも王都から来たとは、一言も言っていない。
一つだけなら偶然だろうと思えた。
でも二つだったらどうだろうか……。
私はアルメルさんとブノーさんを見た。
アルメルさんは、自分の言った言葉に全く気づいていない。
ブノーさんは…………あぁ、知っているんだ、私の事。
一瞬ブノーさんが顔を歪め、アルメルさんを凝視した瞬間に私はそう思った。
私の事を最初から知っていたのか、それとも私が寝言で洩らしてしまったのかは分からない。
でも、知った上で提案して貰った事は、とても数日前に出会ったばかりの者にする事じゃない。
私はこの話し合いでは、答えを曖昧にして終わらせた。
私は、日が昇る前にこっそりと宿を抜け出し、二頭の馬を連れ馬車の修理屋に訪れた。
「嬢ちゃん、どうした?早すぎやしないか。こっちは徹夜で、今修理が終わったところだから起きてたがな」
「ごめんなさい、急に予定が変わったんです。修理が完了していて助かりました。ありがとうございます」
少し強引だったが引き取って、そのままこの街を出た。
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