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34 放牧場での睨み合い
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私は通行税の清算を終え、タリ・タスチーヌ侯爵の屋敷からの帰路につきました。
今、途中にある放牧場に立ち寄っています。
ここは元タリ・タスチーヌ侯爵領の有名な馬の名産地でした。
この国に戦がなくなり平和となった時から、『またいずれ必要となる』と随分無理なテコ入れをしてしまい、負債を増やし結果手放した領地ですわ。
時勢を見てゆっくり馬を育てれば、こんな事にはならなかったでしょう。
とても広範囲に馬を養い、環境も良いのですから。
今は主に現役を退いた馬が多いでしょうか。
隣にある建物からは木を叩く音がしております。
「セバス、馬車は順調に出来上がっているかしら」
「はい、マリナリアお嬢様。ご希望の通りに造らせております」
私は婚姻の際に王都へ行く為の馬車を造らせております。
これなら職人が何人居ても変ではないでしょう。
「それはよかったわ。途中の様子も見たいのだけど準備してもらえるかしら」
「それはおやめになった方が宜しいかと。職人の気が散り、失敗に繋がりかねません」
確かに職人は、貴族に慣れていないでしょう。
「そう、残念だけど仕方がないわね。職人には仕上がりを楽しみにしています、と伝えて貰いましょう」
この様なやり取りをしている最中でしたわ。
前方から馬が駆けてきました。
アークアラ公爵家の先駆けで、私への訪問を希望していました。
「マリナリア嬢、こんな所にいらっしゃるとは思いませんでしたよ」
「アークアラ公爵、ご無沙汰しております。私もこの様なところでお会いするとは思いませんでしたわ。それと私はタリ・テスイールの爵位を継いでおりますのでそちらで呼んで頂きたいですわね」
「それは申し訳なかったな、マリナリア嬢」
アークアラ公爵との視線がぶつかり合い一瞬火花が飛ぶ様に感じました。
「それでどの様なご用向きでしょうか」
「おお、そうだった。一言苦言を呈したくてな」
「苦言、ですか?」
「随分とロンドリオ殿下とタリ・タスチーヌ侯爵家に酷い仕打ちをしているそうだな。卑しい血筋が出ているぞ」
卑しい血筋と云うのは、陰で言われている当家への侮辱です。
テスイールの婚姻政策は他家と少し変わっています。
血筋よりも知的判断能力が優秀で、当主と相性が良い方を選んできました。
その弊害というのでしょうか。
下位貴族から娶る事も度々あったのです。
血筋に重きを置く公爵には、考えられない事なのでしょうね。
「私は正当な主張しかしておりませんわよ」
「正当だろうとロンドリオ殿下を困らせているだろう」
「ロンドリオ元殿下です。アークアラ公爵」
「何を言う。この国でロンドリオ殿下以外正しき方はいない。実際隣国では正妃の子が正当な王位継承者なのだ」
また隣国を持ち出すのですね。
「この国と隣国は違いますわよ」
「そのような物知らぬ。とにかく今の通行税の取り決めを撤廃し、軽減しろ」
「領地間の事に他家の者が口を挟まないで頂きましょう。これ以上口を挟むのならアークアラ公爵領との条約も変えましょうか」
睨みあっておりましたが、先に折れたのはアークアラ公爵でした。
「ふん、小娘の戯言め」
「聞こえておりますわよ」
吐き捨ててアークアラ公爵は去っていきました。
アークアラ公爵に、知られたのならもう良いでしょう。
そう心の中で思いながら、私は長い馬車の列を無言で見送りました。
今、途中にある放牧場に立ち寄っています。
ここは元タリ・タスチーヌ侯爵領の有名な馬の名産地でした。
この国に戦がなくなり平和となった時から、『またいずれ必要となる』と随分無理なテコ入れをしてしまい、負債を増やし結果手放した領地ですわ。
時勢を見てゆっくり馬を育てれば、こんな事にはならなかったでしょう。
とても広範囲に馬を養い、環境も良いのですから。
今は主に現役を退いた馬が多いでしょうか。
隣にある建物からは木を叩く音がしております。
「セバス、馬車は順調に出来上がっているかしら」
「はい、マリナリアお嬢様。ご希望の通りに造らせております」
私は婚姻の際に王都へ行く為の馬車を造らせております。
これなら職人が何人居ても変ではないでしょう。
「それはよかったわ。途中の様子も見たいのだけど準備してもらえるかしら」
「それはおやめになった方が宜しいかと。職人の気が散り、失敗に繋がりかねません」
確かに職人は、貴族に慣れていないでしょう。
「そう、残念だけど仕方がないわね。職人には仕上がりを楽しみにしています、と伝えて貰いましょう」
この様なやり取りをしている最中でしたわ。
前方から馬が駆けてきました。
アークアラ公爵家の先駆けで、私への訪問を希望していました。
「マリナリア嬢、こんな所にいらっしゃるとは思いませんでしたよ」
「アークアラ公爵、ご無沙汰しております。私もこの様なところでお会いするとは思いませんでしたわ。それと私はタリ・テスイールの爵位を継いでおりますのでそちらで呼んで頂きたいですわね」
「それは申し訳なかったな、マリナリア嬢」
アークアラ公爵との視線がぶつかり合い一瞬火花が飛ぶ様に感じました。
「それでどの様なご用向きでしょうか」
「おお、そうだった。一言苦言を呈したくてな」
「苦言、ですか?」
「随分とロンドリオ殿下とタリ・タスチーヌ侯爵家に酷い仕打ちをしているそうだな。卑しい血筋が出ているぞ」
卑しい血筋と云うのは、陰で言われている当家への侮辱です。
テスイールの婚姻政策は他家と少し変わっています。
血筋よりも知的判断能力が優秀で、当主と相性が良い方を選んできました。
その弊害というのでしょうか。
下位貴族から娶る事も度々あったのです。
血筋に重きを置く公爵には、考えられない事なのでしょうね。
「私は正当な主張しかしておりませんわよ」
「正当だろうとロンドリオ殿下を困らせているだろう」
「ロンドリオ元殿下です。アークアラ公爵」
「何を言う。この国でロンドリオ殿下以外正しき方はいない。実際隣国では正妃の子が正当な王位継承者なのだ」
また隣国を持ち出すのですね。
「この国と隣国は違いますわよ」
「そのような物知らぬ。とにかく今の通行税の取り決めを撤廃し、軽減しろ」
「領地間の事に他家の者が口を挟まないで頂きましょう。これ以上口を挟むのならアークアラ公爵領との条約も変えましょうか」
睨みあっておりましたが、先に折れたのはアークアラ公爵でした。
「ふん、小娘の戯言め」
「聞こえておりますわよ」
吐き捨ててアークアラ公爵は去っていきました。
アークアラ公爵に、知られたのならもう良いでしょう。
そう心の中で思いながら、私は長い馬車の列を無言で見送りました。
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