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街の外
9 女神のスキルが発動したようです
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周りは炎に囲まれ始め、私達の逃げ場が見つからない。
「くそっ、どうする?火の手の薄い所を強行突破するか?」
「どこよそれ?」
そんな事を言い合っている間にも炎の勢いは増し、逃げられる範囲は狭まっていく。
「水魔法、水魔法、水魔法~」
私の手から出てくるのは、やっぱりちょろちょろとした水だった。
連続で唱えて、やっと緩い水鉄砲の様に前に飛んだ。
「こんなの何の役にもたたない……」
苦し紛れに放つ魔法を続けながら、私はパニックに陥っていた。
ベンも小刀を振り回して、火のついた細い枝を切り落としている。
木の本体が燃えているから、殆ど意味なんてないだろう。
二人して無意味な事をしながらも、この状況を打破したい気持ちだけで動いていた。
熱が煽り、煙と相まって喉が痛い。
息はしづらく、頭は朦朧としてくる。
「火が消えるならなんでもいい。水があるならなんでもいい。もうなんでもいいから消えて~~~」
私は叫んでいた。
何を言っているのか、自分でも分かっていない。
ただ死にたくなかったから、心の底からその思いだけが言葉に宿る。
そして、私の中からごっそりと何かが抜け出ていく様な感じがした。
その後、景色が一変した。
「なんだこれ?」
ベンの言葉を聞きながら、私も変わっていく風景に魅入っていた。
それは本当に不思議な光景だった。
火を纏いながら、周りの木々が一目で分かる程に成長していく。
まるで早送りされた植物観察を見ているみたいだった。
花が咲き、たわわに実がなり熟し、そしてその実が落ちる。
果実の皮がかなり薄いのか、それとも火に弱いのか、他の木に触れると弾けて中の果汁が飛んだ。
それはまるでお互いの火を消し合う様だった。
それ程大きくない果実でも、量が多い。
どこもかしこも飛び交う果実と果汁が、炎を一気に鎮火していく。
それが終わると、まるで木の命を使い果たしたかの如く、サラサラと木が砕け砂の様に散った。
いつしか火の粉は全て木の粉に変わり、風に吹かれて消えていった。
残ったのは、高い物は何もない見晴らしの良い大地だけだった。
まるでその一画のみ、最初から木などなかったかのような広場になっていた。
私は果汁が跳ねたであろう、ベタつく手を無意識に口に当てていた。
「…………甘い?」
「本当だ。すげー甘い」
甘い香りが鼻腔をくすぐり、舌に残るのはふくよかな甘味。
ベンも濡れた腕を舐めていた。
前方には呆然としているクルトさんとレーナ、ヨハンがいた。
クルトさんの前には、水が溜まっていた。
火を消そうとしてくれたんだ……。
そう思ったのが最後で、私は力尽きたのか崩れ落ちた。
ただ、目の片隅に【スキル、完熟豊穣が発動しました】というのがチラリと見えた。
「くそっ、どうする?火の手の薄い所を強行突破するか?」
「どこよそれ?」
そんな事を言い合っている間にも炎の勢いは増し、逃げられる範囲は狭まっていく。
「水魔法、水魔法、水魔法~」
私の手から出てくるのは、やっぱりちょろちょろとした水だった。
連続で唱えて、やっと緩い水鉄砲の様に前に飛んだ。
「こんなの何の役にもたたない……」
苦し紛れに放つ魔法を続けながら、私はパニックに陥っていた。
ベンも小刀を振り回して、火のついた細い枝を切り落としている。
木の本体が燃えているから、殆ど意味なんてないだろう。
二人して無意味な事をしながらも、この状況を打破したい気持ちだけで動いていた。
熱が煽り、煙と相まって喉が痛い。
息はしづらく、頭は朦朧としてくる。
「火が消えるならなんでもいい。水があるならなんでもいい。もうなんでもいいから消えて~~~」
私は叫んでいた。
何を言っているのか、自分でも分かっていない。
ただ死にたくなかったから、心の底からその思いだけが言葉に宿る。
そして、私の中からごっそりと何かが抜け出ていく様な感じがした。
その後、景色が一変した。
「なんだこれ?」
ベンの言葉を聞きながら、私も変わっていく風景に魅入っていた。
それは本当に不思議な光景だった。
火を纏いながら、周りの木々が一目で分かる程に成長していく。
まるで早送りされた植物観察を見ているみたいだった。
花が咲き、たわわに実がなり熟し、そしてその実が落ちる。
果実の皮がかなり薄いのか、それとも火に弱いのか、他の木に触れると弾けて中の果汁が飛んだ。
それはまるでお互いの火を消し合う様だった。
それ程大きくない果実でも、量が多い。
どこもかしこも飛び交う果実と果汁が、炎を一気に鎮火していく。
それが終わると、まるで木の命を使い果たしたかの如く、サラサラと木が砕け砂の様に散った。
いつしか火の粉は全て木の粉に変わり、風に吹かれて消えていった。
残ったのは、高い物は何もない見晴らしの良い大地だけだった。
まるでその一画のみ、最初から木などなかったかのような広場になっていた。
私は果汁が跳ねたであろう、ベタつく手を無意識に口に当てていた。
「…………甘い?」
「本当だ。すげー甘い」
甘い香りが鼻腔をくすぐり、舌に残るのはふくよかな甘味。
ベンも濡れた腕を舐めていた。
前方には呆然としているクルトさんとレーナ、ヨハンがいた。
クルトさんの前には、水が溜まっていた。
火を消そうとしてくれたんだ……。
そう思ったのが最後で、私は力尽きたのか崩れ落ちた。
ただ、目の片隅に【スキル、完熟豊穣が発動しました】というのがチラリと見えた。
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