キセキの探偵

波崎コウ

文字の大きさ
4 / 10

(4)

しおりを挟む
「あのう……ちょっと」

 私が遠慮がちに話しかけると、キノさんが振り返って答えた。

「ああ、すみません、お食事中なのに少し騒がしかったですか?」

「い、いえ! とんでもない。あの、それよりお二人は猫をお探しなんですか?」

「ええ、まあそうなんですが、朝からこの付近一帯をくまなく探しているというのにまったく見つからなくて」
 と、キノさんが困ったような顔をする。

「そうだ!」
 そこでリクト君んだ。
「キノさん、一応この人にも聞いてみようよ。万が一ってこともあるし」

「ああ、それはいいですね」
 キノさんはそう言うと、小型のタブレットを取り出し私に差し出した。
「度々申し訳ありません。この猫、リリィというメスの子猫なんですが――ここら辺りで見かけませんでしたか?」

 そこには一匹の赤い首輪を付けた愛らしい猫、典型的な茶色の毛のアメリカンショートヘアが映っていた。
 子猫と言ってもたぶん一歳くらいで、ほとんど成猫せいびょう
 毛並みが美しく、いかにも血統書付きと言った感じで、ペットショップ買ったのなら相当値が張っただろう。

「残念ながら……。さっき逃げて行った太った猫ちゃんが私が今日初めて見た猫ですから」

「やっぱそうだよねえ」
 それを聞いて、リクト君が肩を落とす。
「そんなに都合よくいくわけないっか」

「ありがとうございました」
 と、キノさんは写真をしまい、丁寧に頭を下げた。
「では我々これで。――リクト、まだ時間はあります。さあ、今度は向こうの川沿いの遊歩道を手分けして探してみましょうか」

「あ、あの――」
 二人が行ってしまいそうになったので、私は思わず引き留めた。 
「差し出がましいようですが一つアドバイスさせてください。エサで釣るのはともかく、猫を捕まえるのにその網はちょっと……」

「ああ、これですか?」
 キノさんが手に持った網を掲げていた。
「一応動物用のものを急きょ購入したのですが……」

「あのですね、私は子供のころから猫を飼っていたから分かるんですけど、猫って気まぐれ屋さんに見えて実はとっても頭が良くて敏感な動物なんです。そんな網で捕まえるなんてあまりにかわいそうだし、下手すれば網を見ただけであなたを敵とみなしてさっさと逃げちゃいますよ、たぶん」

「なるほど、確かにそうかもしれません」
 と、キノさんが神妙な面持ちになる。
「分かりました、この網を使うのは止めにします。傍から見れば動物虐待とも受け取られかねないですしね」

「それがいいですよ。――あと蛇足ながら、さっきおっしゃっていた「ウサギは捕まえるときは耳を掴む」という知識も誤りです。むしろウサギは耳に神経が集中しているので、なるべく触らないようにしてあげた方がいいんですよ」

「へえーお姉さん、動物にくわしいんだねぇ」
 と、リクト君が感心したように言う。
「別にそういうわけではないんですけど、小学生の時どうぶつ係でウサギの面倒を見て結構たいへんだったことを思い出してしまって。そういえば最近はウサギを飼う学校もだいぶ減っているそうですね――」

 そこまで一気にしゃべって、私はふと我に返った。
 あれ? 知り合ったばかりのこの人たちに、私はいったい何を一方的に語っているのだろう?

「あ……す、すみません。動物のことになるとつい」
 私は少し恥ずかしくなって、言い訳をした。
「お仕事中なのにどうでもいい話をしてしまって……」

「いえいえ、なかなか参考になりましたよ」

 キノさんが穏やかに笑う。
 が、リクト君は真顔で現実的な指摘をした。

「でもさ、それが正論だってのは認めるけど、実際子猫リリィが見つかって逃げようとしたらどうすんの? 捕まえる手段がなくなっちゃうじゃん」

「あ、それはですね――」
 しかし、その点自信があった私はきっぱりと言い切った。
「猫って無理して捕まえようとしなくても、気持ちが通じ合えば案外逃げないで捕まってくれるものなんですよ。警戒心の強いノラ猫ならともかく、飼い猫なら見つかりさえすればまず大丈夫です」

「へえ、そうなの? うーん、でも俺もキノさんも猫のことに関してはさっぱりだからなあ」
 リクト君が一瞬思案顔をし、それから手を打って叫んだ。
「そうだ! あのさ、もしよかったらこれから俺たちと猫探しに付き合ってもらえない? バイト料は出すから!」

「え!? これから……ですか?」
 いきなりそんなお願いをされるとは、さすがに思わなかった。

「うん、キミと一緒ならきっとリリィを見つけられるような気がするんだよね」

 ごく自然な口調で話すリクト君。
 何だかナンパしているよう聞こえなくもないセリフだが、きっと彼は本気からそう思っているのだろう。
 けれど、今度はキノさんが眉をひそめて怒った。

「こらっ、リクト! いくらなんでも調子に乗りすぎです。この方は今大事な就職活動の途中なんじゃないですか。われわれの猫探しに引き込んでそれを邪魔するなんてとんでもないことですよ」

「えーでもさ、キノさん」
 と、リクト君が声高に言う。
「そうは言うけどさ、果たして俺たちだけでリリィを捕まえることができると思う? しかも今日中だよ」

「それは……」
 キノさんが言葉を濁す。
「ほら、キノさんも難しいと思ってんでしょ? だからさ、この人に頼んでみようよ。――あの、そういうわけで今日一日、俺たちの猫探しの助手をしてくれないかな? もちろん無理にとはいわないけど。それともこれから何か予定ある?」
「いえ、午後は空いてますけど……」

 どうしよう。 
 猫好きの身としては協力したいけれど、猫探しは簡単そうで案外難しい。
 その助手なんて、安易に引き受けてよいものだろうか?
 なにより、人見知りの激しいこの私が、短時間とはいえ見ず知らずの男の人二人と、気まずい思いをしないで上手くコミュニケーションを取ることができるのだろうか?

 でも……ここで断ってしまうと、なぜかこれから先、一生後悔し続ける気がする。
 それだけは、どうしても嫌だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

処理中です...