5 / 10
(5)
しおりを挟む
「私でよければ、猫探しのお手伝いさせてください」
と、私は意を決して言った。
「ホント? ラッキー! 助かった」
リクト君が嬉しそうに叫ぶ。
が、片やキノさんは浮かない顔で言った。
「……しかし、この契約は依頼主と我々キセキの探偵社との間に結んだものですからねえ。勝手に第三者の手を借りるというのはコンプライアンス的にまずい気もしますが……」
「相変わらず固いなあ」
そんなキノさんに、リクト君は飽きれ顔だ。
「浮気調査とかプライバシー重視系の依頼ならともかく、単なる猫探しだよ? 別に誰が手伝ったって問題ないじゃん」
「しかし……」
「あのさ、キノさん。そんな細かいことより、依頼主の人にとっても猫が見つかった方がいいに決まってると思わない? 俺なんか間違ったこと言っている?」
「いいえ、確かにその通りです」
キノさんはうなずいた。
「リクト、あなたには敵いませんね。――分かりました。依頼主には事後承諾を得るとして、是非お願いしましょう」
「あの、本当にそれでいいんでしょうか?」
私は少し心配になって二人に尋ねた。
「大丈夫大丈夫!」
リクト君が安心させるように言う。
「その依頼主の人って、そこのタワマンに住んでるんだけどさ、えらい金持ちのおばさんで心の広そうな人だからまったく問題ないと思うよ」
「リクト! 依頼人のことをベラベラ喋るのも絶対にバツですよ」
キノさんはリクト君をそういって叱ったあと、こちらに向き直って言った。
「ともあれ、私としても是非協力をお願いしたいのですが――ああ、そういえばまだお名前をうかがってませんでしたね」
「椎名《しいな》です。椎名《しいな》葵《あおい》と言います」
「へーめっちゃ綺麗な名前じゃん」
それを聞いて、リクト君がふとつぶやく。
が、名前を褒めてくれたところで、あまり嬉しくはない。
むしろ、私にとって、このいかにも美少女キャラ的な姓名と現実のギャップが、昔からの悩みの種の一つだった。
しかし、しかしだ――
リクト君は、またしてもごく軽い口調で、
「顔もカワイイし、ま、よろしく! 俺たち何だかいい三人組《トリオ》になれそうじゃね?」
と、言ったのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
カワイイ……。
かわいい……。
可愛い……。
私は一人で、ギリギリどぶ川にならずに踏みとどまっている濁った小川に沿って設けられた遊歩道を歩きながら、さっきのリクト君の言葉を、ひたすら草をはむ牛のようにモゴモゴ反芻していた。
もちろんリクト君だって、その場の雰囲気で、冗談半分で軽口を叩いたのだろう。
それは十分わかっている、わかってはいるが――
今まで生きてきて、男の人からかわいいだなんて言われた記憶ほとんどなかったから、どうしても胸の動悸を抑えることできないのだ。
……いけない、いけない。
これではまるで異性を意識し始めたうぶな少女みたいではないか。
私はもう立派な大人。
自分より(たぶん)年下のリクト君の些細な一言で、こんなにも心を大きく揺れ動かされてどうする?
一事が万事というか、こんなことだから就職試験にだって失敗し続けてしまうのだ。
そうだ――
それよりも今は猫探しに全力集中しよう。
キノさんにざっと事情を聞いたところによると、飼い主さんはそれまでずっとリリィを室内飼いしていたらしい。
なのに今から六日前、飼い主さんがふと気まぐれを起こしリリィを抱いて外に散歩に出た際、リリィはするりと腕から抜け出してどこかへ行ってしまい、それきり戻ってこなかったのだ。
愛猫が行方不明になった飼い主さんは当然真っ青になり、すぐさまペット探し専門のいわゆるペット探偵にリリィの捜索を頼んだ。
ところが、その業者は三日経ってもリリィの痕跡すら発見できない。
痺れを切らした飼い主さんは別の業者を探すことにし、リクト君とキノさんの“キセキの探偵社”をネットで検索して、“小さな奇跡を起こす”というキャッチフレーズにひかれ、改めて三日の契約期間内にリリィを探してほしいと依頼してきたそうだ。
そしてまさに今日がその期限の日で、午後八時までになんとかリリィを見つけ出して捕まえないと、契約は打ち切られてしまう。
今は午後の三時、もう時間はあまり残されてない――
ということで、私たち三人は少しでも捜索の効率を上げようと、いったんバラバラに別れ各自リリィを探すことにし、もし誰かがリリィを見つけたらお互い携帯で連絡を取り合い集結することに取り決めたのだった。
と、私は意を決して言った。
「ホント? ラッキー! 助かった」
リクト君が嬉しそうに叫ぶ。
が、片やキノさんは浮かない顔で言った。
「……しかし、この契約は依頼主と我々キセキの探偵社との間に結んだものですからねえ。勝手に第三者の手を借りるというのはコンプライアンス的にまずい気もしますが……」
「相変わらず固いなあ」
そんなキノさんに、リクト君は飽きれ顔だ。
「浮気調査とかプライバシー重視系の依頼ならともかく、単なる猫探しだよ? 別に誰が手伝ったって問題ないじゃん」
「しかし……」
「あのさ、キノさん。そんな細かいことより、依頼主の人にとっても猫が見つかった方がいいに決まってると思わない? 俺なんか間違ったこと言っている?」
「いいえ、確かにその通りです」
キノさんはうなずいた。
「リクト、あなたには敵いませんね。――分かりました。依頼主には事後承諾を得るとして、是非お願いしましょう」
「あの、本当にそれでいいんでしょうか?」
私は少し心配になって二人に尋ねた。
「大丈夫大丈夫!」
リクト君が安心させるように言う。
「その依頼主の人って、そこのタワマンに住んでるんだけどさ、えらい金持ちのおばさんで心の広そうな人だからまったく問題ないと思うよ」
「リクト! 依頼人のことをベラベラ喋るのも絶対にバツですよ」
キノさんはリクト君をそういって叱ったあと、こちらに向き直って言った。
「ともあれ、私としても是非協力をお願いしたいのですが――ああ、そういえばまだお名前をうかがってませんでしたね」
「椎名《しいな》です。椎名《しいな》葵《あおい》と言います」
「へーめっちゃ綺麗な名前じゃん」
それを聞いて、リクト君がふとつぶやく。
が、名前を褒めてくれたところで、あまり嬉しくはない。
むしろ、私にとって、このいかにも美少女キャラ的な姓名と現実のギャップが、昔からの悩みの種の一つだった。
しかし、しかしだ――
リクト君は、またしてもごく軽い口調で、
「顔もカワイイし、ま、よろしく! 俺たち何だかいい三人組《トリオ》になれそうじゃね?」
と、言ったのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
カワイイ……。
かわいい……。
可愛い……。
私は一人で、ギリギリどぶ川にならずに踏みとどまっている濁った小川に沿って設けられた遊歩道を歩きながら、さっきのリクト君の言葉を、ひたすら草をはむ牛のようにモゴモゴ反芻していた。
もちろんリクト君だって、その場の雰囲気で、冗談半分で軽口を叩いたのだろう。
それは十分わかっている、わかってはいるが――
今まで生きてきて、男の人からかわいいだなんて言われた記憶ほとんどなかったから、どうしても胸の動悸を抑えることできないのだ。
……いけない、いけない。
これではまるで異性を意識し始めたうぶな少女みたいではないか。
私はもう立派な大人。
自分より(たぶん)年下のリクト君の些細な一言で、こんなにも心を大きく揺れ動かされてどうする?
一事が万事というか、こんなことだから就職試験にだって失敗し続けてしまうのだ。
そうだ――
それよりも今は猫探しに全力集中しよう。
キノさんにざっと事情を聞いたところによると、飼い主さんはそれまでずっとリリィを室内飼いしていたらしい。
なのに今から六日前、飼い主さんがふと気まぐれを起こしリリィを抱いて外に散歩に出た際、リリィはするりと腕から抜け出してどこかへ行ってしまい、それきり戻ってこなかったのだ。
愛猫が行方不明になった飼い主さんは当然真っ青になり、すぐさまペット探し専門のいわゆるペット探偵にリリィの捜索を頼んだ。
ところが、その業者は三日経ってもリリィの痕跡すら発見できない。
痺れを切らした飼い主さんは別の業者を探すことにし、リクト君とキノさんの“キセキの探偵社”をネットで検索して、“小さな奇跡を起こす”というキャッチフレーズにひかれ、改めて三日の契約期間内にリリィを探してほしいと依頼してきたそうだ。
そしてまさに今日がその期限の日で、午後八時までになんとかリリィを見つけ出して捕まえないと、契約は打ち切られてしまう。
今は午後の三時、もう時間はあまり残されてない――
ということで、私たち三人は少しでも捜索の効率を上げようと、いったんバラバラに別れ各自リリィを探すことにし、もし誰かがリリィを見つけたらお互い携帯で連絡を取り合い集結することに取り決めたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる