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第二十六章 デュロワの包囲戦
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「さ、ユウト様。その子をこちらに」
と、手を差し伸べるリゼット。
やや不安ではあるが、いつまでもセフィーゼのことばかりかまっていられない。
あとで時間が空いたら様子を見に行くとして、今はリゼットにお願いするしかないだろう。
「それでは私はこれで。地下までこの娘を運んでいきますわね」
リゼットはひょいとセフィーゼを抱きかかえ、そのままスキップするような軽い足取りで執務室を出て行った。
しかしその直後、僕は大事なことを思い出し、つい叫んでしまった。
「あ、そういえばっ! 男爵様、うっかりしていました」
「何よユウちゃん、突然大きな声出して」
「あの、セフィーゼの魔法のことです! 彼女が目覚める前にの風魔法を封じておかないとまずいと思うんです。僕に対してはセフィーゼは一応従順でしたが、この先万が一ということがありますから――」
「ああ、それならユウちゃん安心して。あのね、こういう時のために地下牢は囚人が簡単に魔法が使えないよう対策がちゃんと施してあるから」
「本当ですか? ああ、よかった」
と、僕は胸を撫でおろして言った。
「さすがは男爵様ですね」
「お世辞はいいから。常識よ常識。――で、そんなことよりさ」
と、男爵は突然頭に手をやり、髪をくしゃくしゃっとした。
「この先のことを考えると頭痛が止まらないの。事態は予想以上に深刻!」
「はあ……。それはそうかもしれませんが、しかし希望はあるのではないでしょうか? しばらくの間、王都から援軍が来るまでこの城にこもってひたすら耐えればいいのですから」
「ええ、それはその通り。――でもね、問題は兵站なのよ、兵站! 前にも言ったかもしれないけど、なにしろ普段は百人そこらだった兵士の数が一気に二十倍以上に膨れ上がてしまったでしょう? 食料の消費量が半端なくて――そうねえ、このままだとお城に備蓄した食料はあと二日と持たないわ」
腹が減っては戦はできぬということか。
確かにそれはまずいかもしれない。
「戦争の勝敗を決めるのは補給にあるといっても過言ではないのに大ピンチよ。そこをおろそかにするなんて、アタシとしたことが一生の不覚!」
「ですが男爵様、それは致し方ないと思います。まさかロードラントの最果ての地にあるこの城が敵に囲まれるなんて誰にも予測できませんよ」
「ユウちゃん、それじゃ駄目なのよ。戦争ってそんなことでは絶対に勝てないから。――とはいえ、なぐさめてくれてありがとう。大丈夫、補給に関してはアタシが何とかするからそれ以上心配しないで。それよりあなたに頼みたいのは、これから出るであろう負傷者の治療のことよ。城の一角を急きょ野戦病院に作り替えるから、そこを仕切ってほしいの」
「え、僕がですか?」
「そうよ。でもあなた一人に大変な役目を押し付ける気はないわ。――あら?」
と、その時、誰かが廊下から執務室のドアをノックした。
「グッドタイミングね。いいわ、中に入って、シスターマリアさん」
「失礼いたします」
そこに現れたのは、ずっと女騎士ティルファに付き添っていた、紫の髪を持つ美しきシスター、マリアだった。
と、手を差し伸べるリゼット。
やや不安ではあるが、いつまでもセフィーゼのことばかりかまっていられない。
あとで時間が空いたら様子を見に行くとして、今はリゼットにお願いするしかないだろう。
「それでは私はこれで。地下までこの娘を運んでいきますわね」
リゼットはひょいとセフィーゼを抱きかかえ、そのままスキップするような軽い足取りで執務室を出て行った。
しかしその直後、僕は大事なことを思い出し、つい叫んでしまった。
「あ、そういえばっ! 男爵様、うっかりしていました」
「何よユウちゃん、突然大きな声出して」
「あの、セフィーゼの魔法のことです! 彼女が目覚める前にの風魔法を封じておかないとまずいと思うんです。僕に対してはセフィーゼは一応従順でしたが、この先万が一ということがありますから――」
「ああ、それならユウちゃん安心して。あのね、こういう時のために地下牢は囚人が簡単に魔法が使えないよう対策がちゃんと施してあるから」
「本当ですか? ああ、よかった」
と、僕は胸を撫でおろして言った。
「さすがは男爵様ですね」
「お世辞はいいから。常識よ常識。――で、そんなことよりさ」
と、男爵は突然頭に手をやり、髪をくしゃくしゃっとした。
「この先のことを考えると頭痛が止まらないの。事態は予想以上に深刻!」
「はあ……。それはそうかもしれませんが、しかし希望はあるのではないでしょうか? しばらくの間、王都から援軍が来るまでこの城にこもってひたすら耐えればいいのですから」
「ええ、それはその通り。――でもね、問題は兵站なのよ、兵站! 前にも言ったかもしれないけど、なにしろ普段は百人そこらだった兵士の数が一気に二十倍以上に膨れ上がてしまったでしょう? 食料の消費量が半端なくて――そうねえ、このままだとお城に備蓄した食料はあと二日と持たないわ」
腹が減っては戦はできぬということか。
確かにそれはまずいかもしれない。
「戦争の勝敗を決めるのは補給にあるといっても過言ではないのに大ピンチよ。そこをおろそかにするなんて、アタシとしたことが一生の不覚!」
「ですが男爵様、それは致し方ないと思います。まさかロードラントの最果ての地にあるこの城が敵に囲まれるなんて誰にも予測できませんよ」
「ユウちゃん、それじゃ駄目なのよ。戦争ってそんなことでは絶対に勝てないから。――とはいえ、なぐさめてくれてありがとう。大丈夫、補給に関してはアタシが何とかするからそれ以上心配しないで。それよりあなたに頼みたいのは、これから出るであろう負傷者の治療のことよ。城の一角を急きょ野戦病院に作り替えるから、そこを仕切ってほしいの」
「え、僕がですか?」
「そうよ。でもあなた一人に大変な役目を押し付ける気はないわ。――あら?」
と、その時、誰かが廊下から執務室のドアをノックした。
「グッドタイミングね。いいわ、中に入って、シスターマリアさん」
「失礼いたします」
そこに現れたのは、ずっと女騎士ティルファに付き添っていた、紫の髪を持つ美しきシスター、マリアだった。
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