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黒い霧のとなり
しおりを挟む※読む人によってはホラー気味
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輪郭の薄い「なにか」が隣で笑っている。
テレビでは、一昔前に流行したコメディドラマの再放送が流れていた。
こうして文章にすると、少しホラーめいて聞こえるかもしれない。
でもこの「なにか」は、私のイマジナリーフレンドの残骸だ。
今ではもう鮮明に見ることはできず、
その姿は、黒い靄のような、淡い影がそこに“いる”だけ。
それでも、動きや空気で、何をしているかはちゃんとわかる。
元はどんな存在だったかもう思い出せない。
昔好きだった美少女戦士の姿かもしれないし、一から考えた人でも動物でもない存在かもしれない。
黒い霞は相変わらず私のそばでリラックスしている。
私はもう今年で30になる。
こんないい歳の女にまだイマジナリーフレンドがいるだなんて周りに知れたら、と思うとゾッとするので、この存在を誰かに話したことはない。
この「なにか」が危ないことをしたことは1度もない。
ただ、隣にいて好き勝手にすごしているだけだ。もう見えないほうがいいのだろうけど、ただ今のように過ごしたり、子供のようにはしゃいだりするだけで何も困ることは無い。だから私はこうして放置している。
「なにか」は「昔これ好きだったよねー」とのんきに話しかけてくる。私はテーブルにある缶ビールを1口飲んだ。
※
少し私の話をしよう。わたしはどこにでもいる、両親がまあまあ不仲で、友達作りも下手なよくいる「教室のすみで本を読んでいる子」だった。
本を読んでいるからと言って決して頭はいい方ではなく、よく空想をしては1人でにやついていたから少しだけ変だったかもしれない。
たぶんそんな時に「なにか」は産まれたのだろう。寂しさを和らげるような、そんな存在を欲していたのだ。
感傷に浸りそうになった頭を冷ますため、残ったビールを一気飲みする。隣のやつはそれに感心したように頷いた。
※
この隣の人(便宜上人と呼ぶ)の黒い霞は年々薄くなっている。
私が中学生の頃はもう少し鮮明に見えたかもしれない。この歳になるとその頃の思い出はぼやけているから、詳しいことは分からない。
私に友達ができて、恋人ができて別れたり、そうしているうちに淡くなっていった気がしないでもない。
昔のことを思い出し、少し憂鬱になっていると、となりの霞はおどけたように踊って見せた。たぶん、私を元気づけようとしているのだろう。
滑稽な踊りを見ているうちにいつのまにか憂鬱さは消えていた。それはそうだ、私のイマジナリーフレンドなのだから自分のツボをついているに決まってる。決まっているのに、私はいつの間にか泣いていた。
大人になってまでこういう存在に助けられているのが情けないのか、それとも嬉しいのかわからない。
でもこうして心配をしてくれる、という事実はどうしようもなく心をあたたかくしてくれた。
もしもこのままこの人が消えてしまったらと思うと正直に話せばとても怖い。でも、いつかは消えるのだろう。
それでも私は、心を守ってくれた黒い霞のことを一生忘れないだろう。ビールをもうひと缶取るために冷蔵庫へと向かった。
隣で笑う霞は「飲みすぎちゃダメだよ」と心配そうについてくる。冷えたビールの味が、さっきより胸に残った。
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