ドラゴンさんの現代転生

家具屋ふふみに

文字の大きさ
65 / 197

65話

しおりを挟む
 次の日の朝。瑠華達は【柊】を出て駅へと向かっていた。ただ瑠華だけで引率するには少々人数が多いので、前日に決めた班ごとにリーダーを割り当て、それぞれ引率してもらう形を取っている。

「楽しみだね瑠華ちゃん」

「そうじゃのぅ」

 実際のところ、奏や瑠華も遊園地に行くのは初めての経験である。瑠華は【柊】の管理があるし、奏は瑠華無しで行く気が無かったのだから当然なのだが。

 ワクワクした気持ちを胸に秘めつつ、駅で切符を購入し電車に乗車。ここから凡そ一時間の旅路だ。

「面白い乗り物ですね」

「紫乃にとってはどれも面白く写るのであろうな」

「否定出来ませんねぇ」

 その言葉に紫乃がクスリと笑う。

「ねぇねぇ紫乃ちゃん」

「はい? 何でしょうか」

「ちょっと気になったんだけど、一番驚いた事って何なの?」

「一番驚いた事、ですか…」

 紫乃が思わずチラリと瑠華に眼差しを向ける。それを辿って奏も瑠華を見るが、何に驚いたのか分からず首を傾げるしかなかった。

「…やはり電化製品でしょうか」

「あー…成程」

 示された物に酷く納得したと言わんばかりに、奏が訳知り顔で頷く。
 紫乃にとって魔力を利用せず動く電化製品は未知の物体であり、瑠華によって【柊】を案内された時には随分と驚きを顕にしていた。

「であれば遊園地のアトラクションも驚く物じゃろうな」

「あれも電気で動く乗り物だもんね。まぁ私だって動画で見たくらいで、実物は見た事無いんだけど」

「そうなのですか? もしや瑠華様も同じですか?」

「うむ、妾も実際に見た事は無いぞ」

「瑠華ちゃん普段から仕事いっぱいだもんね。今日は瑠華ちゃんにとって休暇に近いものになるのかな?」

「全く仕事が無い訳では無いがの」

【柊】の子達の引率は瑠華の大事な仕事だ。万が一の為に木札を渡しているが、それは気を配らなくていい理由にはならないのである。

 ◆ ◆ ◆

 電車に揺られる事一時間と少し。途中で乗り換えを挟んだ際に数名行方不明になりながらも、無事予定していた時間に目的地へと到着する事が出来た。

「ほれ。チケットを配るから並ぶのじゃ」

「はーい」

 元々団体で申し込みを行っていたので、チケットの購入は比較的簡単に済んだ。各々無くさぬよう厳命し、キラキラとした笑顔を浮かべて入っていく子達を見守る。

「元気だねぇ」

「…奏。妾と共に居ては班を分けた意味がないじゃろう」

「だってぇ…」

「茜。奏を頼むぞ」

「分かった! ほらかーねぇ行くよっ!」

 ズルズルと茜に引き摺られる形で遊園地のゲートをくぐった奏に瑠華が苦笑を零した。

「では妾達も行くかの」

「はい」

「楽しみ」

 普段はあまり感情が分かりにくい凪沙が、見るからに上機嫌な様子でゲートへ向かう。アトラクションに乗る事は楽しみではあるが、やはり一番は瑠華と共に回れるという事が嬉しかった。

 ゲートを抜けると、夏休みという事もあり多くの人で賑わっていた。その光景を見て班を少人数にしたのは正解だったなと安堵する。

「基本は凪沙の意見を尊重するが良いか?」

「勿論それで構いません。私は何があるのかも、何をする物なのかも分かりませんので……」

「瑠華お姉ちゃん行きたい所ないの?」

「無いのぅ。凪沙に任せるのじゃ」

「ん……じゃあアレ」

 少し思案した様子を見せた後、凪沙が指差した先にあったのはコーヒーカップだった。

「紫乃お姉ちゃんも居るから、軽いのがいいかなって」

「……まぁ確かに軽くはあるがのぅ」

 だが目の前で凄い速さで回転しているカップを見れば、その言葉の真偽は怪しいものになった。

「紫乃、良いか?」

「? はい、構いませんよ」

 心配そうに尋ねる瑠華に紫乃が首を傾げた。どうやら爆転しているコーヒーカップには気付いていなかったようだ。
 紫乃のその様子に悪い笑みを浮かべた凪沙には気付かないフリをして、コーヒーカップの列に並ぶ。元々回転が早いアトラクションである為、順番はすぐに回ってきた。

「これはどういうアトラクションなのですか?」

「これは真ん中のハンドルでカップを回転させるっていうアトラクションなの。紫乃お姉ちゃんやってみる?」

「で、では…」

「思いっきり回してね」

 何ともいい笑顔でそう言う凪沙に、瑠華が呆れ顔を浮かべた。
 そして音楽と共にカップが動き出し―――――




「――――おぇぇ……」

 見事に酔った。……凪沙が。

「これは中々楽しいものですね!」

 対して紫乃は何とも無かったかのように平然とした様子で、嬉々とした眼差しをコーヒーカップに注いでいた。

(……予想通りの結果じゃな)

 凪沙の自業自得ではあるものの、流石に辛そうにベンチに座っているのを放置する程瑠華も鬼では無い。

「ほれ凪沙」

「んぇ…?」

 瑠華が隣りに座ってポンポンと太腿を叩く。気持ち悪さで頭が回らなかった為に何を示しているのか理解出来なかった凪沙だったが、瑠華に頭を引き寄せられた事で漸くその意図に気付いた。

「んっ…」

 柔らかな感触と優しく頭を撫でる手の体温で、凪沙の顔色が少しずつ回復していく。

「紫乃、すまんが何か飲み物を買って来てくれるかの?」

「かしこまりました」

 紫乃が離れ、瑠華が一つ息を吐く。

「凪沙の自業自得じゃぞ、全く…」

「……だってあんな回すなんて思わなかったんだもん」

 具体的にはカメラで撮ったら止まっている様に見えるくらい回っていた。流石に凪沙もそれは予想外である。
 ぷくぅ…っと凪沙が不満げに頬を膨らませるのを見て、瑠華がクスクスと笑った。

「暫くは休むべきじゃな。それまでは妾の手慰みに付き合って貰おうかの」

「……ん」

 瑠華が優しく頭を撫でると、凪沙が大人しく目を閉じて口の端を緩ませた。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

こうしてある日、村は滅んだ

東稔 雨紗霧
ファンタジー
地図の上からある村が一夜にして滅んだ。 これは如何にして村が滅ぶに至ったのかを語る話だ。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

処理中です...