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ある少女の物語。

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 これは、ある少女の物語。
 小さく、静かに。けれども永遠に語り継がれる、物語。


 ある所に、ローブを着てフードを被った少女がいた。
 その少女はある村を訪れた。
 その村は、決して大きいとは言えない村だった。
 畑は荒れ、村を囲う柵もボロボロ。
 そんな状態の村だった。

「おや。お客さんとは珍しい。大層なことは出来ないが、歓迎するよ」

 村の1人の老人が、そう少女に声をかけた。

「……ありがとう、ございます」

 小さくそう答え、少女は村の中へと足を踏み入れた。

「……」

 家は有り合わせの材料で造られおり、少しでも強い風が吹けばバラバラになりそうだった。
 少女はそんな村の様子を見ながら、荒れ果てた畑でその足を止めた。

「………"恵みよ"」

 小さく、少女がそう呟く。すると、僅かに畑の土が光ったように見えた。
 少女はそれを見届けると、畑を去った。

「おやまぁこんな小さな子まで……は嫌だねぇ」

 村の1人が、少女を見てそう呟いた。
 少女の顔はフードで見えない。……だが、その手は固く、握られていた。



「少しだけだが、食べてくれ」

 その夜。その言葉と共に、少女に1杯のスープが渡された。

「あの…わたし」
「小さいのが遠慮するんじゃないよ。食べな」
「……はい」

 少女がスプーンでスープを掬い、口に運ぶ。口に広がったのは、僅かな塩気と、野菜の味。だだ、それだけ。それでも、少女に不満そうな様子はなかった。
 村の人々は、そんな少女の様子に安堵しつつ、少女よりも少ないスープを口へと運んだ。




「………ごめんなさい」

 村の全員が寝静まったころ。小さな少女の謝罪が、夜の闇に溶けていく。

「……"強化"」

 家の一つ一つに手を当て、そう口にする。すると、畑の土と同じように家が少し光ったように見えた。

「……これで、いい」

 最後にそう呟き、少女は夜の闇へと消え去った。





 その後少女が去ったその村では、どんなことがあろうとも家が壊れることはなく、畑からは数多くの作物が収穫され、皆が飢えから解放された。
 村の人々は、ある日突然村に現れ、消えた少女の仕業だと疑わなかった。




 
 

 ………そして、村の人々は少女をこう呼んだ。









 ─────白の女神、と。



 
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