異世界転移は定員オーバーらしいです

家具屋ふふみに

文字の大きさ
77 / 130
第4章

サーニャ、怒る

しおりを挟む
「きゃぁぁぁ!」

「どうし…うぉ!?誰だ!?いやそもそも大丈夫か!?」

 うるさいなぁ……なんでみんな朝から騒いでるんだろう。私は昨日のあれでもうちょっと寝たいのに……。

「……マリーナ様、起きてください」

 ゆさゆさと体を揺らされる。この声は……。薄らと目を開けると、やはり予想通りサーニャさんがいた。

「……おはようございます?」

「なんで疑問なんですか…というか早く起きてください。なんか騒ぎになってるんですよ」

 あぁ……さっきから聞こえる声か。
 私は仕方なくベットから体を起こし、ふぁーっと欠伸をしながら体を上に伸ばした。

「……その服…」

「え?……あぁ、ちょっと切れちゃったんですよ」

 伸びた拍子に、昨日の出来事で切れてしまった箇所が見えてしまったようだ。私は内心の焦りを出さないよう、ただそれだけを答える。

「いつです?少なくとも昨日そんな切り傷なかったですよね?」

 ……案外よく見てるんだなぁ。  

「うーん……よく分からないです」

 敢えて誤魔化す。おそらくサーニャさんは自分を責めてしまうから。

「そう、ですか……あ、昨日はありがとうございます。ベットまで運んでもらって…」

「気にしないでください。ただのお節介ですからね」

 ヒラヒラと手を振る。私が気になっただけだ。感謝される筋合いはない。

「……分かりました。じゃあ行きましょう。この騒ぎがなんなのか知りたいですし」

「そうですね」

 全くなんの騒ぎなんだか……

「あっ!あなた達大丈夫だった!?」

 部屋からでると、宿のお姉さんがそう言って駆け寄ってきた。はて?なんの事?

「どうしたんです?」

「朝起きたらお客さんが騒いでてね。それで上に上がってみたら……」

 お姉さんの目線の先を追う。そこには壁で死んだように折り重なる男3人……あ。

「へ、へぇー…あ、あの人たちは?」

「分からないのよねぇ。私は下の食堂で食べてるのは見たけど、そもそも泊まっている人じゃないのよね」

 ほう。ただ食事をしていただけだったんだね。

「だから強盗かなぁーって思ったんだけど…まぁ通報はしたから、もうちょっとしたら衛兵がくるはずよ」

 それなら良かったよ。

「………マリーナ様、ちょっといいですか?」

「へ!?あ、は、はい…」

 サーニャさんから聞いたことないほどの低い声が聞こえ、思わず吃ってしまった。思わずサーニャさんを見ると……目が据わっていた。あ、あれぇー?

 とりあえず部屋へと戻る。ついでにベットの脇で眠ったままだったプレナを起こした。

「……あの男3人、もしかして、いや、間違いなくマリーナ様の仕業ですよね?」

「な、なんの事だか…」

「とぼけないでください。これでも私はエルフです。魔力の残滓を感知するのは得意です。あの男達……いや、微かですがこの宿自体からマリーナ様の魔力の残滓があります」

 ま、魔力の残滓……そういえば拡散するの面倒でやってなかったな…気付くことないだろって思ってたんだけどなぁ…。

「どうなんです?」

 じーーっとサーニャさんに見つめられる。うぅ……

「……はい。私がやりました」

 正直に自白すると、サーニャさんは深いため息をついた。

「はぁ……まぁ状況は想像できますし、やりすぎだとも思いません。ただ……ちゃんと言ってください。黙らないでください。隠さないでください。もし今度何も言わずにこんなことがあったら……」

「あ、あったら…?」

 ゴクリと唾を飲み込む。

「………泣きます」

「……へ?」

 思わず素っ頓狂な声が出た。な、泣く?

「…マリーナ様に何かあったらどうするんですか!心配する私の身にもなってください!」

「は、はいっ!」

 そっか……朝服が切れていることに気付いたことといい、サーニャさんは本気で私のことを心配してくれているんだね。ちょっと嬉しい、かな。

「聞いてますかっ!」

「き、聞いてますっ!」

 心配してくれることが嬉しくて、少し微笑んでいたのが聞いていないと思われたらしい。泣きながらサーニャさんが詰め寄ってくる。そ、そこまで心配してくれてるんだ……。

「わ、分かりましたから!ちゃんと言います。今度から」

「……ほんとですか?」

 疑うような視線が私を射抜く。

「ほんとです」

「……なら、いいです」

 サーニャさんが離れる。見ると涙は無くなっていた。……嘘泣きですか。はぁ…。サーニャさん、恐ろしい子!

「今日はどうします?」

「……なら、冒険者ギルドで話を聞いてもいいですか?」

 なん為に……あぁ。

ですか」

「はい。私が聞いたところから、可能性があるので」

 ふむ。それはそうだろうな。あれはその場に留まらないだろう。寧ろ、今の状態なら尚更。

「じゃあ食べてから、冒険者ギルドへと寄りましょうか」

「はいっ!」

「プレナもいくよ」

 《ふぁー…はーい》

 起こしたはいいけど、私たちの会話について行く気がないのか途中から眠ってたのよね。
 プレナを肩にのせて、下へと降りる。男3人はもう既に運ばれた後だったようだ。

「あ、おはよう!今日は朝からごめんね?」

「いえ。お姉さんのせいじゃないですから謝らないでください」

「(…マリーナ様のせいですからね)」

 それ言わないで……。

「朝食はいつでもいいわよ?部屋で食べる?」

「いえ。ここでいいですよ」

 カウンター席にサーニャさんと2人座る。

「じゃあ待っててね。あら、その子は従魔?」

 お姉さんがプレナを見ながらそういう。昨日は気づかなかったのかな。

「はい」

「かわいいのね。その子の分はいる?」

 《私はいらないよっ!》

「いらないみたいです」

「そう。なら、すぐ2人分持ってくるわね」

 お姉さんが去ると、近くの席にいた人が話しかけてきた。

「今日は災難だったね。怖かったんじゃないかい?」

「いえ。誰かがやっつけてくれたみたいなので、怖くなかったですよ」

「そうか。まぁ宿に泊まってるやつが倒したとは限らんだろうがな。しっかしあいつらをあそこまでコテンパンにするなんてな。顔が原型とどめてなくて一瞬気付かなかったぜ」

 あぁ……うん。顔思いっきり腫れてたからね。ちょっと強すぎたか…

「そんなにあの3人有名なんですか?」

「有名、まぁ、有名だな。素行が悪い冒険者として」

 あ、あの3人冒険者だったんだ。

「まぁランクはDだが、そこそこ強かったからな。倒したやつに会ってみたいぜ。多分男だろうな。大柄な」

 すいません。倒したやつ、今あなたの目の前にいます。少女です。男じゃないです。小柄です。

「男…大柄…ぷぷ…」

 隣りからサーニャさんの笑い声が聞こえた。そこ笑うとこじゃないでしょ!?じーっと睨むと、サーニャさんは直ぐに澄まし顔に戻った。全く……いいんだい!この街でたら姿変えるんだから!


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

処理中です...